アラフォーおっさんの美少女異世界転生ライフ

るさんちまん

文字の大きさ
2 / 81
クーベルタン市編Ⅰ 転生の章

2 そして異世界へ

しおりを挟む
 きっかけなんて大したことじゃない。
 言ってみれば単なる勢いだ。
 その日、俺は十五年間勤めた会社に辞表を叩きつけていた。
 理由は人間関係の詰まらないトラブル。よくある話だが、でもそれが社長相手となれば簡単には済まされない。
 例え地方の小さなイベント会社だとしてもね。
 結局、俺はそこに居られなくなった。無理して居座ろうと思えばそうもできただろうが、当然窓際に追いやられることは目に見えていた。
 そんな扱いはこっちから願い下げだ。
 先行きに当てがあるわけじゃない。いや、むしろ、不安だらけだ。
 幸いなことに──と言うべきか、この歳まで独身だ。別れた女房も、養わなきゃならない子供も、ついでに言うなら付き合っている恋人もいない。
 淋しいことこの上ないが、今の状況を考えると却って良かったと言える。ひと月前に俺を振った経理部のマユミに感謝だ。
 多少の預貯金ならあると言ってもたかが知れている。最悪、田舎の実家暮らしに戻るしかないか、そんな風に考えていた。
 再来年には四十歳になるアラフォーのおっさんとしては、年老いた両親の面倒になるのは心苦しいばかりだが、少しの間くらいなら許してくれるだろう。
 そんな風に肩を落として(たぶんそう見えたに違いない)歩いていた時のことだ。
 いつもの駅へ向かう通い慣れた通勤経路。
 普段、こんな時間に通ることはないから珍しく近くの女子高の下校時刻にぶつかってしまった。
 前から歩いて来る色とりどりの女子高生の集団。
 四十近いおっさんでも逃れられない悲しい男の性か、不躾にならない程度にチラリと顔を窺う。
 その中に目を見張るほどの美少女がいたのには驚いた。
 アイドルのオーディションとかに応募したら普通に受かりそうなレベルじゃないか。こんな子が自分の生活圏内にいたなんて、全然気づかなかったよ。
 だからと言って、別にどうこうしたいと思ったわけじゃない。高嶺の花どころか、道を訊ねて声を掛けるのも憚られる。その程度の分別は弁えているつもりだ。
 ただ、きれいな草花や美しい絵画を愛でるみたいに、見惚れてしまっただけのこと。
 さすがにずっとその姿を追いかけているわけにはいかないから、何気なさを装って視線を逸らそうとしたその時、一瞬目が合ったように感じられて、クスッと笑われた気がするのは俺の思い過しだと信じたい。
 まあ、あの美貌ならこんなことには慣れっこだろうけどさ。
 どことなく緊張しながらすれ違う。いい歳をして何をしているんだか。
 そのが視界から消え、自分にしかわからない吐息を洩らした直後、「危ない!」という悲鳴に近い絶叫が背中越しに聞こえた。
 反射的に振り返る。
 道路の向こうへ転がっていくサッカーボール、追いかけていく小学校低学年くらいの男の子、路肩に停車したトラック、その陰から現れたスポーツタイプの乗用車、驚愕するドライバーの表情、異様な音を立てて軋むタイヤの摩擦音、その全てがスローモーションのように流れていく。
 轢かれる、そう思った瞬間、視界の片隅から飛び出す影。
 先程の美少女が男の子を突き飛ばしていた。自分が突っ込んで来る車の真正面に立つことも厭わずに。
 他の同級生達は誰も動けていない。彼女だけが咄嗟に反応できたみたいだ。
 こんな必死の形相にまで可憐さが失われていないんだな、そんな馬鹿げた感想を抱きながら俺は自分でも信じられないことをしていた。
 気付いたら道路の上だった。彼女まで数十センチの距離。どうやってそこに行ったのかは覚えがない。
 それでも彼女の背中へ懸命に腕を伸ばす。頭で考えたことじゃないから、そこから先をどうしようという発想があったわけでもない。
 ただ、必死だっただけ。
 その手が彼女の背に触れるか触れないかというその刹那──。

 俺の記憶はそこで途切れていた。
 次に目を醒ましたのが、あの森の中だったというわけだ。
 そして今、目の前の川面に映るのは紛れもなくあの時の美少女に他ならない。
 そういえば服装も彼女が着ていた高校のブレザーだ。
〈落ち着け俺。どこまでが現実の出来事だ?〉
 まず会社を事実上クビになった。うん、それは間違いない。
 その帰りがけ、交通事故に遭遇した。これも夢にしては細部まで憶えているから現実に相違ない。
 どことも知れない森の中で盗賊風の男達に襲われた。あの凄惨な殺し合いの現場や、今にも血の匂いが漂ってきそうな記憶が、妄想の産物とはとても思えない。
 そして今の自分の姿。鏡を見るまでもない。確認できる胸の膨らみや手足の細さ、頬に当たる髪の感触、触ってみた顔の造形、どこをどう切り取っても四十手前のおっさんとは似ても似つかない。
 これが現実でなければ、俺はとっくにくたばっているか、頭がおかしくなっているんだろう。
 天国にしては些か殺風景だな、と場違いなことを思いながら改めて全身を水面に映してよく観察してみる。
 肩にかかるくらいのセミロングでストレートな黒髪。前髪は眉にかかる位置できれいに切り揃えられている。
 身長は百六十センチ前後。服の上から見た感じではやや細身な体型。
 長く細い指のせいか、意外と手は大きく見える。爪はマニキュアもネイルアートも無しだが、きれいに手入れされているのがわかる。
 さすがに制服の下まで触って確かめるのは自重した。
 他には何かないかと、内ポケットを探ってみたところ、生徒手帳が入っていた。
 20XX年生まれの十七歳。高校二年生。血液型はB型。
 他には学校名と住所。
 そして氏名の欄に、『木南優希』とある。こなみゆうき、と読むらしい。
〈ゆうき、か……〉
 俺はちょっとだけ因縁めいたものを感じる。何故なら──俺の名前も「ゆうき」だからだ。
 もちろん、字は違う。岡崎祐樹というのが、俺の名だ。
 単なる偶然には違いないが、これで名前を名乗っても混乱することはないな、などと自暴自棄気味に考えていると、そういえば他にもわけがわからないことがあったと思い出した。
 俺を襲った男達の豹変ぶりだ。どう解釈したものか。
〈きっかけは何だった? よく思い出せ〉
 あの時、確か俺は何かを口にしたはずだ。
 最初の時には、やめて欲しい、と言った。その結果、奴は襲うのをやめた。
 二度目の時には、勝手に殺し合え、と言った気がする。そして実際に殺し合いが始まった。
 俺が口にしたことを聞いた奴は実行するのか……?
〈そういえば、マガンがどうとか言ってたな〉
 マガン……魔眼……魔法の眼ってことか。それなら視線を合わせることが関係するんだろうな。
 しかし、これ以上は考えても埒が明かない。確認のしようがないためだ。
〈それはそうと、これからどうしたものか〉
 これが途轍もなくリアルな夢ならさっさと醒めて欲しい。さっきから喉が渇いて仕方がない。
 川の水を飲むのは正直言って躊躇われた。
 まあ、夢なら関係ないんだけどさ。
〈こういう時って神様とかが出てきて、詳しく説明してくれるんじゃないのかよ〉
 それがお決まりの展開のはずだ。
 関係者ノ説明ヲ求ム、そう心の中で叫んでも無駄だった。
 俺は心底、途方に暮れた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...