アラフォーおっさんの美少女異世界転生ライフ

るさんちまん

文字の大きさ
31 / 81
クーベルタン市編Ⅵ 策謀の章(クーベルタン市編完結)

4 ランベールの胸の裡

しおりを挟む
 何がもう良いのか、それを説明することもなくランベールは室内にいる全員を睥睨すると、身振りで衛兵達を壁際に下がらせた。それによりセレスも一旦は口を閉じざるを得なくなったみたいだ。
〈これは完全にしてやられたかな〉
 彼が黒幕で、これがシナリオ通りの展開ならどう足掻いてもここからの逆転は不可能そうだ。
 すると、ランベールの行為に一瞬気を取られていたテオドールが、我に返った様子で捲し立て始める。
「ええ、まったく閣下のおっしゃる通りです。もう充分、審議は尽くされたと見るべきでしょう。いかがでしょうか、審議員の皆さん。ここは閣下に判断を一任されてみては? その方がセレスティーナ様にとっても納得いく結論が出せるのではないかと愚考致しますが」
「待ちなさい。そんなことは承服──」
 尚も反論しようとするセレスの手を俺は軽く握ることで押し留め、事態の成り行きを見守ることに決めた。
 告発者であるテオドール自身が提案していることにこそ、この審議会の不当さが現れていると言えるが、どうせここまで来たらジタバタしても始まらない、そんな開き直りの精神に他ならない。それよりセレスの身に、これ以上の累が及ぶ方が心配だ。
 結局、審議員六名の全員一致でランベールに評決を委ねるという案が採択されてしまった。
 買収されている三人は当然として、他の者からしても責任を負いたくなかった心情がありありだったのは言うまでもない。
 もう良い、とひとたび発したきり無言だったランベールだが、その決定を受けて漸く口を開いた。
「……私にどうするか決めろと言うのだな。良かろう。では言ってやる。実に下らぬ見世物だったぞ、テオドールとやら」
「はっ? な、何をおっしゃっているので……」
 んー、どういうことだろう? テオドールは仲間で、これは予定通りの展開じゃなかったのか?
「大方、私がセレスを疎んじているとの噂を信じて、恩を売ろうとこのような茶番劇を仕組んだのであろう。私がそれに嬉々として応じると思ったか。このランベール・クーベルタンも見くびられたものよ。領主家の者を味方に付ければどんな無法もまかり通ると考えられていたことが嘆かわしいわ」
「ぐっ、無法とはランベール様のおっしゃりようとはいえ、容認致しかねませんぞ」
「ほう、では告発を受けた側に反論の場も設けなかったことを何とする?」
 セレスも思わぬ事態の推移に呆気に取られている。まさかランベールが我々を庇い立てしてくれるとは思わなかったのだろう。
 だが、テオドールも老獪な商売人らしく、その程度の追及には逃げ道を用意していたようだ。
「それは私のあずかり知らぬこと。私は単なる告発者に過ぎません。審議を進めたのは議長を始めとする審議員の皆様方ですので、お聞きになるのであればそちらにされるのが宜しいかと存じ上げます」
「テオドール殿!」
 これにはモントーレ議長が思わず焦りの声を上げた。彼にしてみれば恐らくテオドールの指示通りに動いたに過ぎず、ランベールの態度にしても事前に聞かされていたものとはまったく異なっていたに違いない。しかも、勘気に触れた責任の一切を自分達に押し付けられそうとあっては、黙ってはいられなかったのだろう。
 そうは言ってもまさかテオドールの指示だったと告げるわけにはいくまい。そんなことをしたら自分達が買収されていたと告白するようなものだからだ。
 結果、テオドールの名を呼んだだけで議長は黙り込むしかなかった。見れば買収されていたと思われる他の二人も今にも卒倒しそうな表情をしている。
「……審議員の適正については後日詳しく調査するとしよう。身に覚えがある者は覚悟するが良い。さて、ユウキと言ったな。遅くなったが、先程のテオドールの告発について言いたいことがあるならば申すが良い。その上で私自らが評決を下そう」
 漸くこちらの主張を聞いて貰えるようだ。とはいえ、やっとまともな審議となっただけでランベールは無罪と言っているわけではないので、振り出しに戻ったに過ぎず安心するにはまだ早い。
 俺は用心深く言葉を探りつつ、それでも下手に誤魔化すよりは正直に話して疑われた方がマシという気分で語り始めた。
「では申し上げます。確かにそこにいるテオドール殿に請われて保険の話をしたのは事実です。保険についての説明も概ね間違ってはいません。しかしながら、詐取するよう唆したというのは真っ赤な嘘です。私は冒険者を騙すような指南をしたことは一度もありません。それはここにいるセレスも知っています」
 ランベールがセレスに視線を向けた。たぶん、発言を許可するという意味なのだろう。それを受けてセレスがさっきとは打って変わって落ち着いた口調で証言する。
「ユウキの言ったことは本当です。私はその場にいて、この耳ではっきりと聞いていました。どうか信じていただきたい」
 ランベールは暫し黙考した末、こう言った。
「そちらの主張はわかった。だが、テオドールの話と同様、当人がそう言っているに過ぎない。到底、証拠とはなり得ぬ。それは仲間であるセレスの発言も同じである。また、聞くところによるとその場には他にも何人かいたそうだが、テオドールよ、それは確かか?」
「はい、間違いありません。宜しければ使いの者を差し向けて、この場に呼び寄せ証言させましょうか?」
 テオドールがそう言うからには既に口裏合わせはできているのだろう。すかさずセレスが反論する。
「お待ちください、兄上。その者達はメルダース商会の人間。私の証言がユウキの仲間であるという理由で証拠とならないなら、彼らの言葉も同様であるはずです」
「そうとは限らんぞ、セレス。それに使いの者を出す必要はない。カリスト、例の者をここに呼べ」
 ランベールの指示を受けて、カリスト・ビスタークが背後の扉の向こうから配下を呼んで何やら命じる。
 自分を含めて全員が固唾を呑んで見守る中、表面上はこれまでと変わらぬ表情のランベールが、何だか愉快そうに見えたのは俺だけだろうか。
「一体、誰を……」
 緊張に耐え切れなくなった様子でテオドールが思わずそう洩らす。
 それが合図だったのかのように、扉の向こうから現れた人物を見て、俺はその意外さに言葉を失った。だが、似たように感じたらしきテオドールの反応は違った。
「メリッサ! 何故ここに?」
 それはメルダース商会クーベルタン支店で会った幹部の中で唯一の女性だったあの人だ。
 そうか、彼女メリッサって名前だったのか、へぇー、などと些か現実逃避してみたものの、それも長くは続かない。ここはしっかりと事態の先行きに注目しなければならないだろう。
「親しいようだな。ちょうど良い。そちらから紹介してはくれまいか」
 ランベールにそう振られてはテオドールも拒否できなかったのは当然だ。彼女は私の部下の一人です、と言葉少なに告げた。
「ホケンとかいうものの説明現場にいたというが、双方共にそれは間違いないな?」
 俺は頷く。テオドールも訝しみながら渋々という感じで認める。
「それでは聞こう。そこのユウキなる者はホケンという商売で冒険者を騙そうとしていたのか?」
「いいえ、違います。ユウキ殿は冒険者が安心して生活できる仕組みを真摯に考えておられました」
「それがホケンというわけだな?」
「その通りです。実現には難しい面も幾つかありましたが、総合的に見れば素晴らしい案だと私も感銘を受けました」
 自分で考えたものではないので、そう感心されると少々お尻の辺りがむず痒い。
「だが、お前の上司であるテオドールは詐取であると告発したぞ」
「私もそのことには驚きました。しかもそればかりではありません。彼はあの場に居合わせた我々幹部を集めて、ユウキ殿を陥れるべく口裏を合わせるよう強要したのです。それが商会の利益になると言われれば、面と向かって逆らおうという者はおりませんでした」
 嘘だ、と突然、テオドールが叫んだ。カリスト・ビスタークが何かを言いかけたが、ランベールが片手を挙げてそれを制し、好きに喋らせることにしたようだ。
 もはや置物と化した審議員達がそれを唖然とした面持ちで眺めている。
「その女の言っていることは信用なりません。そうか、わかったぞ。あちら側に買収されたんだな。そうに決まっている。閣下、騙されてはなりませんぞ。他の幹部に聞いてください。その女が嘘を吐いていると証明してくれるでしょう」
「無駄であろう。証言が事実なら口裏を合わせているだろうし、虚偽なら今までの主張と変わらん。いずれにせよ、同じ内容なわけだからな。それにその者は買収されてそう申しているわけではないぞ」
「そんなはずは……だったら……どうして裏切って……」
「まだわからぬか。カリスト、教えてやれ」
 ランベールに促され、カリスト・ビスタークが重々しく話し出す。
「テオドール殿が部下と考えておられる彼女は、何を隠そう私が送り込んだ手の者です。もっとも部下という以上に親しく接しておられたようだが。そういう意味では期待を越えた働きを彼女はしてくれました。テオドール殿には気の毒だが残念ながらメリッサというのも本名ではない」
 あらら、愛人だったはずの相手が実はスパイだったのか。突然そんなことを告げられたら俺ならきっと泣いちゃうよ。
 さすがにテオドールは気丈にも泣かずに耐えているけど、内心のショックは相当であるに違いない。敵ながら同情を禁じ得ない場面だ。
 ちなみに俺の心境は、異世界の商売人ってこえー、のひと言に尽きる。
 何故そんなことを、とテオドールは辛うじて口にするので精一杯のようだった。
「当然であろう。私がライバル商会の進出をただ指を咥えて静観しているとでも思ったのかね? 打つべき手は打っているよ。これもその一つに過ぎないがね」
「そうか……カリスト・ビスターク、確かに甘く見ていたようだ。だが何故だ? ここまでお膳立てしてやったのにどうして乗ってこない? 領主家の次兄は妹が邪魔で数々の妨害をしているのではなかったのか?」
 それは俺もここに来て感じ始めていた疑問だ。本当にセレスを疎ましく思っていたなら自分の意に沿わせる絶好の機会だったに相違なかったのだから。
「どうやらこの者には閣下の御心を推し量ることはできなかったようですな」
「余計なことを言うな、カリスト」
 ランベールの胸の裡? それってどういうことだ?
「ランベール兄様、今のカリスト殿のおっしゃりようはどういう意味なのでしょうか?」
 同じ疑問を抱いたと思われるセレスが、そう訊ねた。
「…………」
 ランベールは無言だ。どうあっても教える気はないらしい。
「カリスト殿!」
 それを見たセレスがカリストに矛先を向ける。
 だが、彼は首を横に振った。ランベールの許可無くして自分が話すわけにはいかないということなのだろう。

「──それなら私が代わりに答えてやろう」

 突然、背後の観音扉が開いて、数人の兵士に護られた見知らぬ人物が現れた。
「兄上!」
「ギュスターヴ兄様!」
 おっと、俺が誰だろうと思うより先に、二人が答えをくれたよ。
 ギュスターヴ・クーベルタン──次期領主である彼の登場が果たして吉と出るのか凶と出るのか、それを知るには今しばらくかかりそうな気配に、俺は誰にも悟られず密かに溜め息を吐いた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...