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ハンマーフェロー編Ⅱ 遭遇の章
4 新装備
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〈──……どうしてこうなった?〉
俺がイメージしていたのは現代風のスマートな長身銃だったはずだ。
ライフルやショットガンのような細長い銃身とその根元にある引き金や撃鉄を組み込んだ機関部、そこから伸びた肩付けするための曲銃床。
そのように図案も描いて説明したはず。
なのに、目の前にあるのはどう見てもアレとしか思えない。
予想の三倍は太く、長さは半分程で、望遠鏡のようなずんぐりした砲身。
グリップとストックは普通の銃と遜色ないが、優美さとは程遠い金属を組み合わせただけの武骨なデザイン。
全体的に焼き入れされたとわかる、艶のある黒一色で統一された外見。
〈これって、やっぱりアレだよな?〉
アレとは擲弾発射器──いわゆるグレネードランチャーそのものではないか。
その中でもM203のようなアサルトライフル等の銃身下に装着するアドオン式ではなく、M79みたいに銃単体で使用するタイプ。見た目的には偶然に違いなかろうが、スイス軍が採用しているB&T(ブリュッガー&トーメ) GL─06に酷似している。
「まあ、ちぃとばかり弾のサイズは大きくなってしもうたが、それ以外は我ながら完璧な仕上がりじゃ」
ギリルが胸を張ってそう言う。
〈何が完璧だ、コラ。全然違うじゃねえか。おい、待て。何、兄弟で肩なんか組んでやがる。いつからそんな仲良しになった。ドヤ顔も止めろ〉
などと内心で罵ってみるが、こうなってしまったものは言っても仕方がない。
さすがに現代の実包をあの大きさで再現するのは難しかったようだ。
一応、まだ試作の段階ということで、今後の改善に期待するとしよう。
「へぇ、これがユウキの考えていた銃……?」
「思い描いていた物とは随分違うけどね」
「何か、ヘン」
ミアにはお気に召さなかったみたいだ。彼女は近接武器が好みらしい。
肝心なのは実戦で役に立つかどうかなので、評価はそれからとすることにした。
「弾は今のところ、これしかないからの。ここぞという場面で大事に使うんじゃぞ」
そう言って手渡されたのは、以前にセレスが使った魔封缶に似た専用弾だ。形や大きさは四十ミリ榴弾のそれに近い。
幾つかの種別があるらしく、外見の色分けで区別が付くようになっていた。
「これって試射はしているんだよね?」
「…………」
〈してないのかよ! まあ、材料費の高さを考えればどうせそんなことだろうとは思ったけどさ〉
「心配するな。計算では安全のはずじゃ。……たぶん」
小声でたぶんって付け加えたのを聞き逃さなかったからな。俺はギリルを軽くひと睨みするが、向こうは素知らぬ顔でそっぽを向く。
とはいえ……これは俺が望んだことでもあるのだ。
実を言えば銃の知識をこの世界に持ち込むのは少し不安があった。
万一、これをきっかけに銃が広く普及した場合、元いた世界と同様に戦争の在り方を一変させてしまうのではないかという懸念があったためだ。
マンハッタン計画に関わった科学者のような苦悩は味わいたくないからね。
もっともドリル曰く、現状では弾一発当たりの単価は数打ちではあるが剣を使い捨てるようなものなので、その辺の心配は要らないとのこと。
大量に作って、大量に消費するというわけにはいかないようだ。
念のため、少し調べてみたところ、この世界でも火薬の原料となる硝石や硫黄が取れないわけでないことがわかった。恐らく、黒色火薬の製造も可能だろう。
もしかしてマスケット銃を伝えた人が転生者か転移者であるなら、安価な火薬の製造方法を教えなかったのはこうした軍事利用を怖れて敢えてだったのかも知れない。
なので俺もそれに倣って火薬の作り方は秘密にしておくことにしたのだ。
その分、コストが割高になることはやむを得ないと言える。
他にも幾つか提案していた物の試作品を受け取って、俺はセレスやミアと共に意気揚々と冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルド──それは魔物の討伐、各種資源の採取、護衛や警護といった住民から寄せられる様々な依頼を冒険者に斡旋する組合組織の名称。
国境を跨ぎ、規模の大小こそあれ大抵の街には存在するとされ、そのネットワークを活かして郵便・宅配業務や為替の引き換えなども行う、まさに地域経済にとって欠かせない存在だ。
そしてここに登録された冒険者は原則、人種や国籍、性別、年齢などに左右されず、同じ基準でランク付けされ、全員がそれに見合った扱いを受けることになる。
最上位の神金や皇鋼クラスともなればその待遇は国賓並みだという。ただし、国家の存亡を左右するような一大事件を解決でもしない限り与えられることはないため、実質的な最高ランクはセレスが得ている黄金級と言えよう。
それだけにどこへ行っても彼女は有名人だ。また、実力だけでなく、それに見合った容姿と雰囲気も兼ね備えている。
そんなわけでハンマーフェローの冒険者ギルドに足を踏み入れた途端、セレスに気付いた周囲がざわつき始める。
中には『妖精の園』で見かけた顔もチラホラあるので、俺達が今日から冒険者に復帰する話はまだ伝わっていなかったようだ。
そうした中で最初に話しかけてきたのは──。
「漸くお出ましか。クーベルタンの戦乙女はヒラヒラのドレスがお気に召してもう冒険に出ないのかと思ったぜ」
「お生憎様。ドレスも悪くないけど、私にはやっぱりこの方が様になっていると思うわ。あなたにはドレスの方がお似合そうね」
早速、挑発的な言葉を投げつけてきた男に、セレスがそうやり返す。彼はこの街では少数派のヒト族の冒険者であるようだ。装備は動きやすさを重視した軽量の金属鎧とロングソードという基本的な剣士の誂えだが、ひと目でそれなりの物とわかる。
「何だと、と言いたいが、今日のところは初顔合わせってことで歓迎するぜ。俺はスヴェン。白銀級だ」
「セレス、黄金級よ。こっちは相棒のユウキとミア。ユウキは黒曜級、ミアはこれから登録するところだからまだランクはないわ」
パーティーメンバーが駆け出しの黒曜とまったくの新人と聞いて、彼は面喰ったようだ。普通、パーティー内にこれだけの格差があることはまずないので、驚くのも無理はない。
だが、彼は賢明にも何も言わなかった。
代わって別の場所から声が掛かる。
「おい、若いの。出しゃばるでないわ。まずは黄金級同士の挨拶が先じゃろ」
そう言いながら近寄って来たのは、これまたミスリル合金製を思わせる重厚そうなフルプレートアーマーに身を包んだベテランらしき冒険者。彼はこの街では珍しくないドワーフ族だ。
「ふん、ランク上位者が先に話しかける決まりなんて聞いたことがないぜ。ドワーフは順番も守れないのか。こっちの話が終わるまでそこの隅で大人しく待ってな、ジジイ」
「やれやれ、ヒト族は年長者に対する礼儀もなっとらんようで何とも嘆かわしいわ」
「何が年長者だ。大体、平均寿命が違うだろ。あんただってドワーフの基準なら俺と大差ない年齢じゃないか」
「はて、そうじゃったかの」
初日からなかなか賑やかな感じだ。こうでなければ冒険者に戻った甲斐がないというものだ。
「お久しぶりです、ガルドさん」
一方、このままでは埒が明かないと思ったのか、セレスの方は自ら会話に割って入る。どうやらガルドと呼ばれたドワーフの冒険者とは顔見知りのようだ。
「ホレ見ろ。ヒト族の中にもちゃんと礼儀を弁えた者もおるではないか。やはり挨拶は年功序列でするものよのぉ」
「こっちの自己紹介はもう終わっているっていうの」
尚もいがみ合う二人を前に、セレスが苦笑いを浮かべて話題の転換を図る。
「ユウキ、こちらのガルドさんは『大地の戦鎚』と呼ばれる黄金級冒険者よ」
初めまして、と挨拶する俺の横で、黄金級冒険者になれば俺だって二つ名くらい、とブツブツ言う呟きが小声で聞こえてきた。スヴェンにはまだ異名がない模様。
聞けば黄金級まであとひと息ということなので、彼も二つ名で呼ばれる日が来ることを願おう。
今は不在だが、他にもハンマーフェローには二人の黄金級冒険者がいるそうだ。
また、見たところ、随分と立派な装備品に身を包んだ者が多い。
クーベルタン市ではセレスと同格の冒険者は居なかったから、この街が鍛冶で栄えていることを差し引いても総じて皆の実力は高いと思われる。
もっともそんな中でもさすがに俺が腰に吊ったグレネードランチャーもどきは異彩を放っていた。
もしかしたら武器とは認識されていないのかも知れない。
何故ならこんな因縁を付ける奴まで現れたからだ。
「おいおい、クーベルタンの戦乙女は昨日まで酔っ払いの相手をしていたかと思えば、今度は幼年学舎の教師に鞍替えか。おまけに黒髪の相棒の方は何だ、その後ろのおかしな物は。それで子守でもするつもりかよ」
振り向くと、良品揃いの冒険者の中でもひと際高級そうな鎧に身を包んだヒト族の若者の姿が目に入った。
幼年学舎の教師や子守というのは、先程からギルド内が珍しいらしくあちらこちらをウロウロしているミアを指してのことだろう。
別に誰にも迷惑を掛けているわけではないので、放って置いたのが気に喰わなかったらしい。
隣でスヴェンが、面倒な奴が来た、といった感じで軽く舌打ちする。
「あいつはゲーリッツ。冒険者ランクは翡翠とそこそこなんだが、親父がこの街の有力な貿易商でね。金に飽かせた装備の数々で、ここまでのし上がってきた嫌味な奴さ。相手にしない方がいいぜ」
そう小声で教えてくれた。
言われてみると、『妖精の園』で働いていた時、何度か見た憶えがある。
確かに横柄な態度だったが、金払いは良かったっけ。
セレスは何度かテーブルに着いたことがあるようだが、俺は直接言葉を交わしたことはない。
スヴェンは金に飽かせたと言ったが、セレスの元パーティーメンバーであるナゼル氏も言っていたように、冒険者の総合力が実力プラス装備であるなら財力を活かすのも一つの手立てだと個人的には思う。
俺の新装備からして金に糸目を付けないものだしね。
ただし、それを自身の力量と勘違いするのはまた別だ。
「あの娘を只の子供と思っている時点で冒険者として二流じゃよ。狗狼族とも見抜けん奴が、偉そうなことを言うもんじゃないわい」
相手にしたくないのか、ガルドが向こうに聞こえない程度の音量で囁いた。
〈なるほどね。そういう理由があったのか〉
どうやらスヴェンや他の冒険者がミアを見ても一向に邪険にしないのは、外見に惑わされることなく、彼女の実力が冒険者に見合うものだと正当に評価された故らしい。見る者が見れば狗狼族ともわかるようだ。
そんなこととは露知らずに、ゲーリッツがミアに向かって言い放つ。
「おい、ガキ。ここはお前みたいな子供が来ていい場所じゃないぜ。俺達のような強い奴だけが集う選ばれた戦士の場だ。わかったならさっさとうちに帰ってミルクでも飲んで寝てろ」
「ミア、強い奴わかる。お前、あまり強くない」
ミアにそう言い返されたゲーリッツが一瞬呆けた後、大人げなく怒り始める。
「何だと。ガキだと思って優しく言ってやりゃつけあがりやがって。子供に何がわかるってんだ」
「セレス、強い。ミアもちょっと強い。お前、弱い。わからないの、ユウキだけ」
〈へえ、俺の強さはわからないのか。てっきり弱者認定されていると思っていたよ。魔眼に掛けたことが効いているのかな?〉
「ふざけてんじゃねえ」
ゲーリッツもさすがに剣の柄に手を掛けるような真似はしないが、子供相手に今にも手を上げそうな勢いだ。
どうしようかと迷っていると、セレスが前に進み出た。その上でこんなことを言い出した。
「そこまで明言されてはあなたも引っ込みがつかないでしょう? 良ければ私達のパーティーと模擬戦をしませんか? ちょうど我々も肩慣らしがしたいと思っていたところです。そこであなたの実力を認めさせればこの娘も過ちに気付き訂正するのではないかしら?」
〈イキナリナニヲイイダスンデスカ?〉
思わずカタコトで呟いてしまったよ。
相変わらず彼女は見目の麗しさに反して発想が脳筋だ。少しはこちらのことも考えて欲しい。
断れ、という俺の願いも虚しく、ゲーリッツが仲間の意見を聞くことなく答える。
「模擬戦だって? いいだろう……受けて立ってやるよ」
こうして俺達は何故か他の冒険者パーティーと立ち合う羽目になった。
俺がイメージしていたのは現代風のスマートな長身銃だったはずだ。
ライフルやショットガンのような細長い銃身とその根元にある引き金や撃鉄を組み込んだ機関部、そこから伸びた肩付けするための曲銃床。
そのように図案も描いて説明したはず。
なのに、目の前にあるのはどう見てもアレとしか思えない。
予想の三倍は太く、長さは半分程で、望遠鏡のようなずんぐりした砲身。
グリップとストックは普通の銃と遜色ないが、優美さとは程遠い金属を組み合わせただけの武骨なデザイン。
全体的に焼き入れされたとわかる、艶のある黒一色で統一された外見。
〈これって、やっぱりアレだよな?〉
アレとは擲弾発射器──いわゆるグレネードランチャーそのものではないか。
その中でもM203のようなアサルトライフル等の銃身下に装着するアドオン式ではなく、M79みたいに銃単体で使用するタイプ。見た目的には偶然に違いなかろうが、スイス軍が採用しているB&T(ブリュッガー&トーメ) GL─06に酷似している。
「まあ、ちぃとばかり弾のサイズは大きくなってしもうたが、それ以外は我ながら完璧な仕上がりじゃ」
ギリルが胸を張ってそう言う。
〈何が完璧だ、コラ。全然違うじゃねえか。おい、待て。何、兄弟で肩なんか組んでやがる。いつからそんな仲良しになった。ドヤ顔も止めろ〉
などと内心で罵ってみるが、こうなってしまったものは言っても仕方がない。
さすがに現代の実包をあの大きさで再現するのは難しかったようだ。
一応、まだ試作の段階ということで、今後の改善に期待するとしよう。
「へぇ、これがユウキの考えていた銃……?」
「思い描いていた物とは随分違うけどね」
「何か、ヘン」
ミアにはお気に召さなかったみたいだ。彼女は近接武器が好みらしい。
肝心なのは実戦で役に立つかどうかなので、評価はそれからとすることにした。
「弾は今のところ、これしかないからの。ここぞという場面で大事に使うんじゃぞ」
そう言って手渡されたのは、以前にセレスが使った魔封缶に似た専用弾だ。形や大きさは四十ミリ榴弾のそれに近い。
幾つかの種別があるらしく、外見の色分けで区別が付くようになっていた。
「これって試射はしているんだよね?」
「…………」
〈してないのかよ! まあ、材料費の高さを考えればどうせそんなことだろうとは思ったけどさ〉
「心配するな。計算では安全のはずじゃ。……たぶん」
小声でたぶんって付け加えたのを聞き逃さなかったからな。俺はギリルを軽くひと睨みするが、向こうは素知らぬ顔でそっぽを向く。
とはいえ……これは俺が望んだことでもあるのだ。
実を言えば銃の知識をこの世界に持ち込むのは少し不安があった。
万一、これをきっかけに銃が広く普及した場合、元いた世界と同様に戦争の在り方を一変させてしまうのではないかという懸念があったためだ。
マンハッタン計画に関わった科学者のような苦悩は味わいたくないからね。
もっともドリル曰く、現状では弾一発当たりの単価は数打ちではあるが剣を使い捨てるようなものなので、その辺の心配は要らないとのこと。
大量に作って、大量に消費するというわけにはいかないようだ。
念のため、少し調べてみたところ、この世界でも火薬の原料となる硝石や硫黄が取れないわけでないことがわかった。恐らく、黒色火薬の製造も可能だろう。
もしかしてマスケット銃を伝えた人が転生者か転移者であるなら、安価な火薬の製造方法を教えなかったのはこうした軍事利用を怖れて敢えてだったのかも知れない。
なので俺もそれに倣って火薬の作り方は秘密にしておくことにしたのだ。
その分、コストが割高になることはやむを得ないと言える。
他にも幾つか提案していた物の試作品を受け取って、俺はセレスやミアと共に意気揚々と冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルド──それは魔物の討伐、各種資源の採取、護衛や警護といった住民から寄せられる様々な依頼を冒険者に斡旋する組合組織の名称。
国境を跨ぎ、規模の大小こそあれ大抵の街には存在するとされ、そのネットワークを活かして郵便・宅配業務や為替の引き換えなども行う、まさに地域経済にとって欠かせない存在だ。
そしてここに登録された冒険者は原則、人種や国籍、性別、年齢などに左右されず、同じ基準でランク付けされ、全員がそれに見合った扱いを受けることになる。
最上位の神金や皇鋼クラスともなればその待遇は国賓並みだという。ただし、国家の存亡を左右するような一大事件を解決でもしない限り与えられることはないため、実質的な最高ランクはセレスが得ている黄金級と言えよう。
それだけにどこへ行っても彼女は有名人だ。また、実力だけでなく、それに見合った容姿と雰囲気も兼ね備えている。
そんなわけでハンマーフェローの冒険者ギルドに足を踏み入れた途端、セレスに気付いた周囲がざわつき始める。
中には『妖精の園』で見かけた顔もチラホラあるので、俺達が今日から冒険者に復帰する話はまだ伝わっていなかったようだ。
そうした中で最初に話しかけてきたのは──。
「漸くお出ましか。クーベルタンの戦乙女はヒラヒラのドレスがお気に召してもう冒険に出ないのかと思ったぜ」
「お生憎様。ドレスも悪くないけど、私にはやっぱりこの方が様になっていると思うわ。あなたにはドレスの方がお似合そうね」
早速、挑発的な言葉を投げつけてきた男に、セレスがそうやり返す。彼はこの街では少数派のヒト族の冒険者であるようだ。装備は動きやすさを重視した軽量の金属鎧とロングソードという基本的な剣士の誂えだが、ひと目でそれなりの物とわかる。
「何だと、と言いたいが、今日のところは初顔合わせってことで歓迎するぜ。俺はスヴェン。白銀級だ」
「セレス、黄金級よ。こっちは相棒のユウキとミア。ユウキは黒曜級、ミアはこれから登録するところだからまだランクはないわ」
パーティーメンバーが駆け出しの黒曜とまったくの新人と聞いて、彼は面喰ったようだ。普通、パーティー内にこれだけの格差があることはまずないので、驚くのも無理はない。
だが、彼は賢明にも何も言わなかった。
代わって別の場所から声が掛かる。
「おい、若いの。出しゃばるでないわ。まずは黄金級同士の挨拶が先じゃろ」
そう言いながら近寄って来たのは、これまたミスリル合金製を思わせる重厚そうなフルプレートアーマーに身を包んだベテランらしき冒険者。彼はこの街では珍しくないドワーフ族だ。
「ふん、ランク上位者が先に話しかける決まりなんて聞いたことがないぜ。ドワーフは順番も守れないのか。こっちの話が終わるまでそこの隅で大人しく待ってな、ジジイ」
「やれやれ、ヒト族は年長者に対する礼儀もなっとらんようで何とも嘆かわしいわ」
「何が年長者だ。大体、平均寿命が違うだろ。あんただってドワーフの基準なら俺と大差ない年齢じゃないか」
「はて、そうじゃったかの」
初日からなかなか賑やかな感じだ。こうでなければ冒険者に戻った甲斐がないというものだ。
「お久しぶりです、ガルドさん」
一方、このままでは埒が明かないと思ったのか、セレスの方は自ら会話に割って入る。どうやらガルドと呼ばれたドワーフの冒険者とは顔見知りのようだ。
「ホレ見ろ。ヒト族の中にもちゃんと礼儀を弁えた者もおるではないか。やはり挨拶は年功序列でするものよのぉ」
「こっちの自己紹介はもう終わっているっていうの」
尚もいがみ合う二人を前に、セレスが苦笑いを浮かべて話題の転換を図る。
「ユウキ、こちらのガルドさんは『大地の戦鎚』と呼ばれる黄金級冒険者よ」
初めまして、と挨拶する俺の横で、黄金級冒険者になれば俺だって二つ名くらい、とブツブツ言う呟きが小声で聞こえてきた。スヴェンにはまだ異名がない模様。
聞けば黄金級まであとひと息ということなので、彼も二つ名で呼ばれる日が来ることを願おう。
今は不在だが、他にもハンマーフェローには二人の黄金級冒険者がいるそうだ。
また、見たところ、随分と立派な装備品に身を包んだ者が多い。
クーベルタン市ではセレスと同格の冒険者は居なかったから、この街が鍛冶で栄えていることを差し引いても総じて皆の実力は高いと思われる。
もっともそんな中でもさすがに俺が腰に吊ったグレネードランチャーもどきは異彩を放っていた。
もしかしたら武器とは認識されていないのかも知れない。
何故ならこんな因縁を付ける奴まで現れたからだ。
「おいおい、クーベルタンの戦乙女は昨日まで酔っ払いの相手をしていたかと思えば、今度は幼年学舎の教師に鞍替えか。おまけに黒髪の相棒の方は何だ、その後ろのおかしな物は。それで子守でもするつもりかよ」
振り向くと、良品揃いの冒険者の中でもひと際高級そうな鎧に身を包んだヒト族の若者の姿が目に入った。
幼年学舎の教師や子守というのは、先程からギルド内が珍しいらしくあちらこちらをウロウロしているミアを指してのことだろう。
別に誰にも迷惑を掛けているわけではないので、放って置いたのが気に喰わなかったらしい。
隣でスヴェンが、面倒な奴が来た、といった感じで軽く舌打ちする。
「あいつはゲーリッツ。冒険者ランクは翡翠とそこそこなんだが、親父がこの街の有力な貿易商でね。金に飽かせた装備の数々で、ここまでのし上がってきた嫌味な奴さ。相手にしない方がいいぜ」
そう小声で教えてくれた。
言われてみると、『妖精の園』で働いていた時、何度か見た憶えがある。
確かに横柄な態度だったが、金払いは良かったっけ。
セレスは何度かテーブルに着いたことがあるようだが、俺は直接言葉を交わしたことはない。
スヴェンは金に飽かせたと言ったが、セレスの元パーティーメンバーであるナゼル氏も言っていたように、冒険者の総合力が実力プラス装備であるなら財力を活かすのも一つの手立てだと個人的には思う。
俺の新装備からして金に糸目を付けないものだしね。
ただし、それを自身の力量と勘違いするのはまた別だ。
「あの娘を只の子供と思っている時点で冒険者として二流じゃよ。狗狼族とも見抜けん奴が、偉そうなことを言うもんじゃないわい」
相手にしたくないのか、ガルドが向こうに聞こえない程度の音量で囁いた。
〈なるほどね。そういう理由があったのか〉
どうやらスヴェンや他の冒険者がミアを見ても一向に邪険にしないのは、外見に惑わされることなく、彼女の実力が冒険者に見合うものだと正当に評価された故らしい。見る者が見れば狗狼族ともわかるようだ。
そんなこととは露知らずに、ゲーリッツがミアに向かって言い放つ。
「おい、ガキ。ここはお前みたいな子供が来ていい場所じゃないぜ。俺達のような強い奴だけが集う選ばれた戦士の場だ。わかったならさっさとうちに帰ってミルクでも飲んで寝てろ」
「ミア、強い奴わかる。お前、あまり強くない」
ミアにそう言い返されたゲーリッツが一瞬呆けた後、大人げなく怒り始める。
「何だと。ガキだと思って優しく言ってやりゃつけあがりやがって。子供に何がわかるってんだ」
「セレス、強い。ミアもちょっと強い。お前、弱い。わからないの、ユウキだけ」
〈へえ、俺の強さはわからないのか。てっきり弱者認定されていると思っていたよ。魔眼に掛けたことが効いているのかな?〉
「ふざけてんじゃねえ」
ゲーリッツもさすがに剣の柄に手を掛けるような真似はしないが、子供相手に今にも手を上げそうな勢いだ。
どうしようかと迷っていると、セレスが前に進み出た。その上でこんなことを言い出した。
「そこまで明言されてはあなたも引っ込みがつかないでしょう? 良ければ私達のパーティーと模擬戦をしませんか? ちょうど我々も肩慣らしがしたいと思っていたところです。そこであなたの実力を認めさせればこの娘も過ちに気付き訂正するのではないかしら?」
〈イキナリナニヲイイダスンデスカ?〉
思わずカタコトで呟いてしまったよ。
相変わらず彼女は見目の麗しさに反して発想が脳筋だ。少しはこちらのことも考えて欲しい。
断れ、という俺の願いも虚しく、ゲーリッツが仲間の意見を聞くことなく答える。
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