アラフォーおっさんの美少女異世界転生ライフ

るさんちまん

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王都来訪編Ⅰ 出立の章

5 緩衝地域

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 翌日は俺達も朝の早い時間に宿場町を発つ。
 といっても考えることは皆同じらしく、町の出入口付近はこれから緩衝地域へ赴く集団とハンマーフェロー方面へ向かう集団とで、まるで元の世界の通勤ラッシュ並の混雑があちらこちらで繰り広げられていた。
 何とかその渋滞の輪を潜り抜け、街道に出て一刻程進んだ頃にはさすがにあれだけいた人の列もばらけ、前後に誰かがいるのが辛うじて視認できる程度に落ち着く。昼頃にはそれすらほとんど見なくなった。
 その辺りから時折、街道脇に先行する連中が処分したと思われる魔物の死骸がちらほらと散見され始める。数は多そうだが、まだ危険地帯に足を踏み入れたばかりだからか、さほど脅威ではなさそうだ。
 実際、俺達も陽が傾き始めるまでに小型魔獣の群れと二回程遭遇したが、どちらも十五分と掛からず倒し切れる相手だった。むしろ、後始末の方に時間と手間を取られたくらいだ。
 さらに進んだ先では、一台の馬車がやや手強そうな魔物に襲われていたので、同乗していた商人の親子と協力してこれを撃破。礼金を幾許か貰う。
 こちらのペースに合わせるということなのでそのまましばらく馬車と並走して、そろそろ今晩の野営地を決めなければならない頃合いになったところでセレスが俺に言った。
「ぼちぼち見えてきたわね。幾つかできているようだから適当に選ぶといいわ」
 何のことかと思えば、どうやら街道から少し外れた場所に複数建てられた野営地を選べという意味らしい。これらは比較的大きな商隊が設営したもののようだ。
「選べって、そんなことできるの?」
 俺は疑問に思って、セレスにそう訊ねる。
「村や町の無い街道を行く場合、日中はバラバラでも夜になるとこうして見ず知らずの旅客同士が身を寄せ合うのが一般的なのよ。人数が多ければそれだけで魔物への抑止になるし、見張りの負担も減る。万一襲われても撃退しやすいしね。大抵は規模の大きな商隊が中心になるものよ」
 断られたりしないのか、と訊くと、余程のことがない限りは大丈夫だと言う。
「彼らにとってもメリットのあることだもの。ただで護衛が雇えるようなものだからね」
 そのために旅慣れた商隊はなるべく早く出発し他の旅人より先行して、夕方も早めに野営の場所を決めて、後から来る者を待ち受けるのだそうだ。
「とはいえ、悪だくみをする連中がいないわけじゃないから怪しいと思ったら避けた方が無難よ。急いでいるならできるだけ進んだ先で選んだ方が賢明だけど、行き過ぎて見つからなかったら戻らなきゃならないから注意が必要ね」
 そこまで急いだ旅ではないので幾つかの集団を素通りした後、この辺りで決めようと辺りに視線を流していたら昨夜の喧嘩の仲裁に入ったおっさんの仲間を見かけた。
 昨日の様子を見た限り、あのおっさんが仕切っているのではなかろうか。
〈うん。良し、ここにしよう〉
 俺はセレスとミアにそのことを伝える。並走していた馬車の親子連れは、魔物に襲われて足止めを喰った分を取り戻したいからもう少し先に進むと言って、ここで別れた。
 馬車を見送った俺達はおっさんの仲間の方へ近付いて行き、下馬して声を掛けた。
「私達も共に過ごさせて貰って良いかしら?」
 彼が言うには、問題はないと思うが一応リーダーに訊いてみてくれ、とのことだったので、案内された天幕で夕辺のおっさんに対面する。
 予想通り、彼がここでの取りまとめ役で間違いないようだ。
 旅人の面倒見が良かったのもこうした役割のせいだろう。
「一緒に野営したいそうだな。俺達としちゃ戦力が増えて大歓迎だが、見張りの割り当てはさせて貰うぜ。これはやって来た者全員に課している。例外は無いんだ。それと言い難いんだが、あんた、黄金級冒険者のセレスだろ?」
 ええ、そうよ、とセレスが頷く。やっぱりな、とおっさんが言った。
「祭りのパレードで見たよ。そっちの二人もな。俺達は現場にいなかったから詳しく知らないんだが、何でも『ハンマーフェロー事変』で大活躍したそうじゃないか」
〈ハンマーフォロー事変……?〉
 おっさんの話によれば不死の魔物アンデッドの襲撃に始まった一連の騒動は、早くもそう呼ばれて外部に伝わっているらしい。
「それは良いんだが、俺はしがない翡翠級の冒険者だ。それでもこの場の責任者であることには違いない。あれだけの活躍をしたあんた達、特に『クーベルタンの戦乙女』と呼ばれるあんたが俺なんかの指図を受けたくないと言うなら、ここに居て貰うわけにはいかない。悪いが他を当たってくれ」
「問題ないわ」
 セレスはきっぱりとそう言い切った。
「ここにいる限りはあなたの指示に従う。もちろん、他の義務もみんなと同様に負うわよ」
 そうか、それなら良かった、とおっさんは心底ホッとしたように呟いた。
 中には冒険者のランクを盾に横柄に振る舞う輩もいるのだろう。
「そうと決まればこれほど心強いことはないな。今晩はぐっすり眠れそうだ。飯がまだなら良ければ喰っていってくれ。これも来た連中には全員にそう声を掛けているから遠慮はいらん」
 俺達は一旦、落ち着き場所を確保したのち、おっさんの言葉に甘えて夕飯をご相伴に預かることにした。
 座の中心にある焚き火には大鍋が掛けられ、何かよくわからないものがぐつぐつと美味そうに煮えている。
 手の空いた者から勝手にやって来ては腹を満たしていくシステムらしい。護衛も商人も分け隔てないようだ。常に十人ほどの輪ができていた。
 俺達もその中に入って、適当に取り分けた謎の食材に齧り付く。こういうことにも随分と慣れた。
 途中、楽器の演奏が始まると俺達も踊りの輪に加わったりして、大人数で一つの鍋を囲みながらのワイワイとした食事は思いの外楽しかったと付け加えておこう。

 その夜は俺達が番をしていた時を含めて、都合三度の魔物による襲撃を受けた。
 規模こそ大きくなかったものの、これが別の野営地でも同じようにあるとしたら、やはり相当な数の魔物が徘徊していると考えて相違ないだろう。
 襲って来た魔物の一体はそれなりに強力な奴だったから、商隊だけなら結構苦戦させられたかも知れない。
 さすがにセレスの前じゃ敵ではなかったけどね。
 俺もグレランもどきを使うまでもなくて良かった。
 何しろ、魔石を使用した弾薬は原価が高い上、店売りはされていないので手持ちにある分しか在庫はないのだ。
 いずれは自作することになるだろうが、それはまだ先のことだ。
 何にせよ、軽傷者のみで済んだのは幸いだったと言えよう。
 見張りの負担が少ないので、それだけの襲撃があってもたっぷりと寝ることはできたしね。
 もっとも俺の場合はアルが危機感知スキルを持っているおかげで眠っていても異変があれば即座に起こしてくれる。実に頼りになる相棒だ。
 そして翌朝──。

「昨夜は色々と助かったよ。俺達だけではあれほど短時間に決着は着かなかっただろう。さすがは黄金級冒険者のパーティーだな」
 この隊の被害は軽微だったが、聞くところによると余所では死者が出た野営地もあったらしい。
「そこで雇い主とも相談したんだが、もしよければこのまま隊に同行して貰えないだろうか? もちろん、依頼料は支払う。緩衝地域を抜けるまでで構わない」
 緩衝地域を抜けた後、商隊はそのまま真っ直ぐ進んで、帝国領へ向かうそうだ。
 俺達は分岐点で折れて王国領を目指す。そこまでで良ければとの約束で同行を承諾した。
 緩衝地帯二日目は前日に続いての魔物の襲撃に加え、今度は盗賊まで現れて結構ハードな一日だった。
 向こうもこんな辺境では生き延びるのに必死なのだろう。仲間に犠牲が出ることも厭わない無謀とも言える襲撃に切実さが垣間見える。
 そうはいっても殺されてやるわけにもいかない。こっちにも抗戦すべき理由があるのだ。
 人間相手ならいざとなれば魔眼を頼れば何とでもなりそうだが、可能な限り人目に晒したくはない。
 ここではパーカッションロック式前装リボルバーの〈ドラグーン〉が役に立った。
 全般的にタフな魔物に対してはイマイチ威力不足なこの銃も人には無類の強さを発揮する。
 グレネード弾ほどではないにしろ、炸薬は貴重なので無駄撃ちは厳禁だが。
 既に勝敗が決した後でも護衛のおっさんは仲間に追撃を命じて、とことん壊滅させる気のようだ。
 生き残りがいれば別の商隊や旅人が襲われる危険を考慮してのことに違いない。
 投降も許さない構えだ。
 国の領土内なら巡回している衛士隊にでも引き渡せば相応の報奨が支払われるが、ここではそれもできないので、捕虜を連れて歩く余裕はないものと思われる。
 そりゃ悪人相手とはいえ、人殺しは見ていて気分が良いものではない。まして戦意を喪失した者なら尚更だ。
 しかし、異世界には異世界のルールがある。こればかりは慣れるしかないだろう。
 なお、こちら側にも死者こそ出なかったものの、何人かの重傷者はあった。
 治療は水薬ポーションで行われていたが、もしかして指輪の所有権を移せばアルの回復スキルでも治せるのかと念のため確認してみる。今後、セレスやミアが負傷した場合に備えてだ。
「申し訳ありません。私の使う『再生力増強リジェネレーション』は負傷した段階で発動していなければ効果がありません」
 つまり、大怪我を負った後では遅いということみたいだ。
 このことは心に留めておいた方が良いだろう。
 二度目の野営は前日と大差なかった。
 さらに翌日。
 俺達はやっとのことで緩衝地域を抜け出した。
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