アラフォーおっさんの美少女異世界転生ライフ

るさんちまん

文字の大きさ
72 / 81
王都来訪編Ⅱ 道草の章

2 晩餐会

しおりを挟む
 ミアの衣装はローラン市の問屋街のような場所で手に入れた。
 俺やセレスのようなカクテルドレスではなく、年相応のレースをたっぷり使ったアップフロントのワンピースだ。リボンをあしらったヘッドドレスが狼耳にばっちり合っていて可愛い。
 宿から領主館へは歩いていけない距離ではなかったが、さすがにドレスでそんなわけにはいかないので、当日は時間になると馬車を呼んで送って貰う。
 正面エントランスに乗り付けると、家令を名乗る老紳士に出迎えられた。
 彼に案内されて館の中へ。この辺りのことは手慣れた様子のセレスにすべて任せておけば良い。俺とミアは無作法にならないよう神妙に従うだけだ。
 特に控室のような場所で待たされることもなく、そのまま広間のような食堂へ通された。
 真っ白なクロスの敷かれたテーブルには、既に四人分の完璧にセットされた食器が並んでいる。上座に向かって右側にセレスが一人だけ着席を促され、俺とミアは左側に並んで席が用意されていた。
 当然、上座に坐るであろうヴィクトルはまだ姿を見せていない。これは当主の威厳を示すセレモニーのようなものだと事前にセレスから聞かされていた。なので、大人しく彼が現れるのを待つ。
 三十分は待たされるものと覚悟していたが、五分もしないうちにヴィクトルが食堂に足を踏み入れた。彼にとっては威厳を示すよりもセレスに会うことの方が大事だったようだ。
 ローラン子爵家次期当主ヴィクトルは、二十代前半のなかなかに爽やかなイケメン青年だった。
 立ち上がって彼を出迎えた俺達に向かって、大仰に頷きながら上座に着くなり言った。
「私がローラン子爵家嫡男のヴィクトルだ。お初にお目にかかる、セレス殿。今日は我が招きに応じてよくぞ参られた。当主も不在故、堅苦しい礼儀は抜きにしたい。お付きの方も気楽にされよ」
 彼の態度から察するに、見合いを断られたことを根には持っていないようだ。ランベールが上手く処理したに違いない。
「初めまして、ヴィクトル様。本日はお招きいただき感謝致します。ですが、ひと言だけ申させてください。ここにいる両名はユウキとミアと言い、従者ではなく私の仲間なのです」
 セレスが俺とミアを指して、律義にも次期領主の間違いを正す。わざわざ訂正しなくとも俺達なら気にしなかったのに。堅物なセレスらしい。
 それを聞いてヴィクトルは少し驚いたようだ。
 彼からすれば伯爵家の令嬢が異国の人間や亜人を同列に見做すことが信じられないのかも知れない。冒険者仲間と言っても護衛か付き人みたいに考えていたのだろう。
 ヴィクトルを始めここまで案内して来た家令や給仕のメイド達もそうだが、この家の者は確かに俺やミアを見てもあからさまに侮蔑の表情を浮かべたりはしない。
 ただ、それはセレスのように心の底から同じに思っているわけではなく、差別意識を理性で押し留めている感じだ。
 元の世界でも差別は根強く存在していた。頭では間違いだとわかっていても、長年染み付いた価値観からはなかなか脱却できないものだ。
 なので、表面上とはいえ差別しないのは、それだけで充分評価に値する。
 きっと当主の方針だろう。
 貿易に力を入れている関係で、他国の人間と接する機会が多いからかも知れない。
「そうか、失礼した。許されよ」
 ヴィクトルが謝罪を口にするが、もちろんそれはセレスに向けてだ。
 ここで俺達に謝って欲しい、などとセレスが言い出さなくてホッとした。さすがにそれは貴族の間では度が過ぎていると彼女も判断したに違いない。
 気を取り直して、晩餐が始まった。
 貴族の食事と言っても所詮は中世辺りの文明レベルでしかない異世界のこと。これまでの質素な食事を思えば、現代の過度な味付けに慣らされた俺の舌からしたら大したことはないだろうと高を括っていたが、大いに反省しなければならなかった。
 前菜に始まったコース料理はどれも絶品と呼ぶに相応しい味わいと見た目だった。
 中でも野菜や果物の種類と調理方法の多様さには驚かされた。
 数種類も出てきたサラダは無論だが、スープや肉料理のソースなどほとんどの皿に使われている様子だ。
 さすがは特産品となるだけのことはある。
 もっともそれだけにカトラリーも豊富で、何を使えば良いのか迷うところだが、どうにかあちらの世界で培った社会人の経験を活かして目立った恥はかかずに済んだと思う。
 幾つか間違っていた気もするけど、誰も指摘しなかったので気にせずにおこう。
 ミアは最初、戸惑っていたようだが、途中からは徹頭徹尾俺の真似をすると決めたらしく、ひたすら俺の手許を覗き込んで同じようにしていた。
 だからと言って食べる順番まで一緒にする必要はないと思うのだが。
 どうせならセレスを見習うべきではあるが、席が向かい側だったため、左右の切り替えが上手くいかなかったようだ。
「ところでセレス殿は、ここにはいつまで滞在の御予定か?」
 デザートが運ばれて来る段になって、ヴィクトルが何気なく訊ねてくる。
 ちなみにデザートも果実がたっぷりと使われた贅沢な一品だ。
 俺とミアは滅多に話しかけられないのを良いことに、会話の相手はセレスに丸投げして、そちらに専念する。
「失礼ながらこの街には補給と休息に立ち寄っただけのつもりでした。それが済めばすぐにでも出立の予定でしたので、ご挨拶をするまでもないかとお知らせしなかったのです。結果的に礼を欠くことになり、申し訳ありません。しかしながら明日には発とうと考えております」
「いや、挨拶はどうでも良いのだ。むしろ、気を遣わせたのではないかと心苦しく感じている。それにしても明日とは早急過ぎやしまいか?」
 貴族なら路銀に困ることもないだろうし、次の受け入れ先の準備もあってホイホイと居場所を変えるわけにいかないだろうから、そう考えるのは妥当かも知れない。
「我々冒険者にとっては当たり前のことです」
 セレスは気負った様子もなく、そう答える。
「そうか。セレス殿は冒険者として旅しておられるのだったな。しかし、そうなると……」
 ヴィクトルが何やら悩み始める。彼はセレスにもうしばらくこの街にいて欲しかったみたいだ。
「どうかなされましたか?」
 そんな態度をされては無視するわけにもいかず、セレスは仕方のなさが顔に出ないよう注意しながら訊ねた。
「うむ。実は明後日に巻狩を予定しておってな。セレス殿達にもそれに同行して貰いたいと考えていたのだ」
「私達が巻狩に?」
 巻狩とは普段聞き慣れない言葉だが、俺の中に翻訳されるだけの知識があって良かった。
 要するに身分の高い者が行う大掛かりな狩りのことだ。
 勢子と呼ばれる追い立て役が野山から獲物を引き出し、それを待ち受ける者達が仕留めるのである。
 そう言うと貴族のお遊びのように聞こえるかも知れないが、これには神事祭礼という側面の外に、兵達の日頃の鍛錬の成果を上に立つ者に披露するという軍事演習の役割も有している。
 加えて異世界ならではの事情として、あとからセレスに聞いたところによると、狙う獲物はすべて魔物で、それらを掃討して領内の安全を図るという目的もあるらしい。
「年に二回ほど行っているのだが、今年は父より私が任されていてね。是非ともセレス殿にそれを見ていただきたいのだが、叶わぬだろうか?」
「そう言われましても……」
 セレスも困っている。
 そこまで必死な理由が有力貴族とのコネを築くという次期領主としての野心から出たものなら俺もきな臭く感じてしまうところだが、彼の場合どうやら可愛い女の子に自分の良い恰好を見せつけたいという若者らしい発想にあるようなので、微笑ましさが先に立つ。その気持ちは俺にもわからなくはない。
 とはいえ、相手がセレスでなければ応援してやりたくもあるが、大切な相棒を手放すつもりはさらさらないため、あまりしつこいようなら助け舟を出そう。
 ところが何とか固辞しようとしたセレスに対し、それなら冒険者として護衛に雇いたいとまでヴィクトルは言い出した。
「いかがだろう? 依頼であればセレス殿やお仲間にとっても喜ばしいことではあるまいか?」
 そう言いつつチラリと俺の方に視線を送る。
〈いやいや、俺に援護射撃を期待しても無駄だよ〉
 思わず内心の呟きが洩れそうになる。
 そんなの余程の破格な報酬でもなければ──。

 一分後、俺はつい依頼を引き受けてしまっていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...