アラフォーおっさんの美少女異世界転生ライフ

るさんちまん

文字の大きさ
78 / 81
王都来訪編Ⅲ 古都の章

2 予期せぬ再会

しおりを挟む
 俺が顔を見て思わず名前を口走ってしまった彼は、この世界に来たばかりの頃に出会った若い商人だ。
「何、ユウキ。知り合いなの?」
 セレスが振り向いて確認してくる。
「ええ、困っていた私をクーベルタン市まで送ってくれた親切な人よ」
 実際にはクーベルタン領軍のファビオ中隊長から半ば脅される形で強引に押し付けられた感がなかった気もしないではないが、細かいことは気にせずにおこう。
 というわけで俺はセレスの言葉に首肯する。
 そのコンラードは自前の馬車を持ち王都の方へ行商に行くと言っていたから、ここで遭うのはさほど不自然なことではない。
 ただし、何人かに取り囲まれて何やら穏やかならざる雰囲気だ。
 周りを囲んでいる連中は、傭兵崩れといった感じであまり柄の良さそうな相手とは思えなかった。
 元の世界なら不良学生にカツアゲされる気の弱い社会人に見えたことだろう。
 向こうは大声で言い合いするのに忙しいらしく、こちらにはまだ気付いていない様子だ。
 彼らの会話が雑踏に紛れて聞こえてくる。
「だから、どこで手に入れたかを教えてくれりゃ解放するって言ってるだろ」
「それは……申し上げられないと、何度も説明したじゃありませんか」
「そこを頼むって言ってるんだよ!」
〈何だろう? 商売上のトラブルだろうか?〉
 明らかにチンピラ風の男達がコンラードに無理難題を押し付けているように思えるが、こんな目立つ場所で堂々と言い争っているところを見ると、力づくでどうにかしようというわけではないっぽい。
 少なくとも今の段階ではという注釈は付くが。
「お待ちなさい。そんな風に言ったら、まるで脅迫しているようではないですか」
 ん? チンピラ達に紛れて気付かなかったが、一人だけ比較的身なりの良い男が交じっている。
 そいつが俺の内心の考察を聞いたわけではないだろうが、前に進み出てそんなことを言い出した。
「私達はあくまで商売の話し合いをしているのですから誤解を招くような言動は慎みなさい」
 身なりの良い男は声を荒げたチンピラの一人をそう叱りつけるが、それが茶番なのは誰の目にも見え見えだ。
「私の方にお話しすることはありません。さっさと馬車を返してください。そうすればすぐにこの街を出て行きますから」
 コンラードが訴える。彼の馬車は今、手許にないらしい。馬車がなければ街を出ることもままならないのは彼の商売からしたら当然と言えよう。
「おや、おかしなことをおっしゃる。あなたの馬車は確か整備不良が原因で衛士隊に差し押さえられているのではなかったですかな。それを私共にどうにかしろと言われましても困りますなぁ」
「何を白々しいことを。そっちが裏で糸を引いているのは明白なのに……」
 コンラードが力なく洩らした呟きが辛うじて聞き取れた。
 身なりの良い男は無視して話し続ける。
「それならばこうしましょう。私共はあなたに入手先を教えて貰う代わりに、対価をお支払いします。もちろん、我々だけになったところでですが。了承していただけるなら馬車の件については衛士隊に口添えしても良い。そうですなぁ、金貨一枚でいかがですか?」
 金貨一枚と言えばかなりの大金だ。そうまでして知りたい入手経路とは如何なるものだろうか?
「金の問題ではないのです……」
「金貨一枚ではご不満か? ならば金貨三枚までなら出しましょう」
 金貨三枚と聞き、おお、と周りの野次馬達から一斉にどよめきが上がる。どちらかと言えば相手の太っ腹な態度に感心した声だ。コンラードの方ががめつい商人という空気が漂い始める。
 わざわざ衆人環視の中で騒ぎを起こしたのは、もしかしてこの同調圧力を狙っていたのだろうか?
 よく見ると、群衆の中にサクラっぽい感じの奴が何人かチラホラと見受けられる。
「ですから! 幾ら積まれてもお教えできないものはできないのです」
「そこまであの服の秘密を独占されたいか? 言っておくが、入手方法を知りたがっているのは私共だけではない。いずれ強引な手段に訴える輩が現れないとも限りませんぞ」
 おやぁ、今やっているこれは彼の中では強引な手段のうちには入らないみたいだ。
 それにしても服? それってもしかして──。
「そうじゃない! それが……約束だから……」
「一体、誰と約束したのです? その者があの精緻の限りを尽くした服の譲り主なのですか?」
 どうやら話題になっている服というのは、俺がコンラードに売り付けた学校の制服で間違いなさそうだ。
 当座の生活費のために着ていた物を手放したんだよね。
 だけど何か約束なんかしたっけ? もう憶えていないや。
 それを律義に守り通すとは、見た目に反して彼はなかなか骨のある奴らしい。
 自分にも関係していると知った以上、黙って見過ごすわけにはいかないだろう。
 俺は野次馬達の間を擦り抜けて前に進み出る。
 そして周りの状況など目に入っていないふりをして話しかけた。
「あれ、コンラードさんじゃないですか? こんなところで遭うなんて奇遇ですね」
 急に横合いから声を掛けられて驚いた彼がこちらを見詰める。
「あなたは確か……ユウキさん」
 名前はちゃんと憶えてくれていたようだ。忘れられていたから出てこなかったのかとちょっぴり心配してしまったよ。
「どうしてこんなところに……?」
 ほとんど反射的にそう訊ねてくる。そりゃ、いきなり現れたらそう来るよね。
「あれから色々ありまして。話せば長くなるんですが、今は王都に向かっている途中なんです。コンラードさんも王都へ?」
「いえ、私は王都から戻って来たところで……」
 そう言いつつ、周りの連中に目をやる。別の土地へ向かう道中に立ち寄ったところを絡まれたと言いたいのだろう。
 その言葉をきっかけに、突然の割り込みで唖然としていた連中が息を吹き返す。
「何だ、お前?」
 小娘と思って侮っているのか、こらちは一応短剣とはいえ佩剣している上に、革鎧まで身に着けているにも拘らず、徒手空拳で凄んでくる。はっきり言って頭が悪過ぎだ。
 それに気付いた別の一人が、慌てて止めに入る。
「おい、待て。あの格好、冒険者みたいだぞ」
「冒険者? そういや生意気にもそんな感じだな。けどよ、どうせ青磁か黒曜の成り立てだろ。それか薬草採取専門の腰抜けか」
 冒険者のランクに関しては正解だが、薬草採取を専門にしていても魔物に遭遇することはあるので戦闘と無縁ではいられないとは知らないらしい。
 黙っていると、声も出せないほど怖がっていると勘違いした相手がさらに詰め寄ってくる。
「運が良かったな、お嬢ちゃん。今は忙しいんだ。見逃してやるからとっととどこかに失せな」
 そう言われたが、はてさてどうしたものだろうか。
 普通に喧嘩になってもセレスの特訓の成果とアルのサポートがある今の俺なら片手でも簡単に勝てそうだが、騒ぎをあまり大きくしたくない。先程の会話から衛士は奴らに買収されていそうだし、事情聴取だの何だのと留め置かれても面倒だ。
 魔眼を使うのは論外。衆人の目があるし、こいつらには勿体無さ過ぎる。
 太ももに装着した〈ドラグーン〉を抜くのも同じ。効果を知らなければ脅しにはならないが、かといって撃てば弾の無駄遣いだ。
 それだけではなかった。恨みを買って後日コンラードが襲われる羽目になってもまずい。
 チラリとセレスの方に目をやると、彼女はこちらを見て小さく手を振る。明らかにこの状況を愉しんでいる。助ける気は微塵もなさそうだ。
〈ああ、そうですか。仲間が窮地に陥っていても心配じゃないんですか。よぉーく、わかりましたよ。それだったら──〉
 俺はチンピラ風の男達を無視してコンラードに向き直ると、こう言った。
「立ち話も何ですし、どこかで落ち着いて話しませんか? 仲間も紹介します」
「仲間? 知り合いの方がいらっしゃるんですか?」
「てめぇ、舐めてんじゃねぇ」
 シカトされて激高した男が俺に掴みかかろうと伸ばした手をするりと抜けて、言葉を続ける。
「ええ。『クーベルタンの戦乙女』って御存知ですか? ほら、そこにいますよ」
 俺は野次馬の間を縫うようにしてセレスを指差した。
「『クーベルタンの戦乙女』ってまさか、あの?」
 驚いてコンラードが訊き返す。
 野次馬の中には薄々勘付いていた者もいたようだが、はっきりとそう指摘したことで一斉にざわつき始める。
 それにより、これまでこちらを見向きもしなかった通行人まで何事かと足を止めるようになった。
「ちょ、ちょっとユウキ。……よくもやってくれたわね」
 唐突に注目を集めることになったセレスが抗議の声を上げるが、予想通りに効果は抜群だった。
「『クーベルタンの戦乙女』って黄金級冒険者の? 山のような魔物を素手で捻り殺すゴーレムばりの女って聞いたぞ」
「馬鹿、そうじゃねえよ。俺が知っているのは百人の盗賊を問答無用で切り捨てたことだ。それも全員、縦に真っ二つになっていたらしいぜ」
「『ハンマーフェロー事変』じゃ相棒の黒髪の女と暴れまくって街の被害の半分はそいつらの仕業だとか話してた行商人が……って、黒髪の女ってまさか!」
〈いや、一体どこで仕入れたネタだよ、それ〉
「お前達は少し黙っていなさい。そんな出鱈目な噂話はどうでも良い。『クーベルタンの戦乙女』と言えばれっきとした伯爵家の令嬢。そんな方が知り合いとなると、こちらも出方を考えなければなりませんね」
 身なりの良い男は、そう言い残すと配下のチンピラ共を従えてあっさりと引き上げて行った。
 セレスの威光にビビってこのまま諦めてくれれば良いが、どうもそんな雰囲気ではなさそうだ。
 ともあれ、この場はこれで治まった。
 無難に切り抜けられたんだし、セレスもこれ以上の文句は言うまい。
 関わったからにはこれでお終いというわけにもいかないだろう。
 俺は改めてコンラードの方を見やると、さも当然のような口調で言った。
「それじゃあ、何があったのか詳しく話して聞かせて貰いましょうか」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...