雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族

4-16.君の愛

「あ、ブレスラウはまだ喋らないの?」

 ふと思い出して振り返る。
 ブレスラウはサークルの中から、ルミシャンスを目で追っていた。動く気はないようだ。
 竜体なので、サークルから出ようと思えば一瞬でできるだろう。もう短距離の飛行ならば軽々とこなせるのだ。

「……グルル」
「ブレスラウはただ面倒くさがっているだけだと思うぞ」
「え、どういうこと?」

 首を傾げるスノウに対し、アークだけでなくルイスやロウエンも「でしょうねぇ」なんて言いながら苦笑している。
 自分だけが分からないのかと拗そうになったけれど、すぐに『竜族は成長が早い』という話を思い出した。

「——あ、もしかして、喋る時期って、竜族はもっと早いもの?」
「そうだな。生後一週間もしない内に話し始めてもおかしくない。ブレスラウは怠け者なんだ」

 アークが呆れたように言う。
 途端にサークルから不機嫌そうな視線が向けられた気がした。

「アーク、ブレスラウが怒ってるよ」
「喋りもしないでされる主張なんて、ないも同然だな」
「……煽ってる?」

 スノウはアークの目的を察して、密かに笑った。
 どうやら、ルミシャンスに呼んでもらえなかったから、ブレスラウに呼んでもらおうとしているらしい。

「グルルッ」
「あー、なんか、『うるさい』って言ってる感じがする」
「たぶん、スノウ様が全部察してくださるから、ブレスラウ様は話す必要性を感じていないという面もある気がしますね」

 ルイスに指摘されて、スノウは口元を手で塞いだ。
 まさか自分の行動が子どもの成長を妨げていたとは思わなかったのだ。ブレスラウの怠惰さが大きく影響しているのだろうと分かっているとはいえ、スノウも話しているのを聞きたいのに。

「……ブレスラウー、ママとパパって呼んで!」

 じっと見つめてねだったら、ブレスラウは居心地悪そうに目を逸らした。

 スノウはもう、ブレスラウが自分の押しに弱い部分があることを察している。ブレスラウの意思を尊重して、普段はあまりこのようにねだることはしないようにしているけれど、今日くらいはいいだろう。

「グルル……ママ」
「呼んでくれた!」

 躊躇いがちに呼ばれた名に、歓喜が湧いた。
 ルミシャンスに呼ばれた時は突然で驚きの方が強かったけれど、今はただただ嬉しくてたまらない。

「俺は?」

 じっと見下ろすアークに対し、ブレスラウが半眼を向ける。

「………………父者ちちじゃ

 アークの目が丸くなる。スノウは一瞬呼吸を止めた後、思わず吹き出した。

「ふはっ、待って、それ、どこで学んだの?」

 パパと教えていたはずなのに、随分と古風な呼び名を選んだものだ。

 やはりパパ呼びはブレスラウとしてはなしだったのだと分かった。
 それでも父親をきちんと敬うつもりがあるのだと察して、可愛くて愛おしくて、笑いが止まらなかった。

「……パパよりは、いいか」
「確かに、まぁ……ブフッ」
「ロウエン、お前はさっきから笑いすぎだ。いつかお前もこんな日が来るんだからな」
「子どもができてもここには連れてこないようにしましょう」
「真剣な顔で言うな。どうせ、スノウにねだられたら叶えるくせに」

 アークとロウエンの遠慮のないやり取りを聞き流しながら、スノウはブレスラウを抱き上げる。
 なんだか照れくささを隠すように、不機嫌な雰囲気を漂わせていたけれど、スノウにとっては可愛いだけだ。

「大好き、ブレスラウ。ママって呼んでくれてありがとう」

 その呼び方が、ブレスラウにとって、大きな妥協であり、スノウへの愛情を示しているのだと理解している。だから最大限の感謝の思いを愛情と共に伝えるのだ。

 ブレスラウの頬に頬をすり寄せたら、もぞもぞと身動ぎされた。
 居心地悪そうにされたので、床におろしてあげる。あまり長く触れ合うのも、我慢を強いることになって良くない。

「……ママ」
「なぁに?」

 呼ばれたら、つい蕩けるような笑みと共に甘い声で返事をしてしまう。アークから嫉妬深い眼差しを感じるから、自重するべきだと分かっているのだけれど。

「……おれも、だいすきだ」

 ルミシャンスの駆け回る足音にかき消されてしまいそうなほど微かな声だった。でも、それを聞き逃すことは絶対にありえない。

 胸から湧き上がる思いをどう表現していいのか分からないまま、スノウは自然と微笑んでいた。
 今、スノウは世界一幸せな親に違いない。

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