雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

文字の大きさ
219 / 224
続×3.雪豹くんとにぎやかな家族

4-49.一件落着?

 実行犯が目的や指示役などの背後関係について洗いざらい話したのは、事件が起きた翌日だった。アークとブレスラウが実行犯に直接対峙した直後のことである。

 問題が起こるたびに思うことだけれど、事態の把握が早すぎる。普通はもっと難航するものだろう。

 アークと共に動くことになったブレスラウとは違い、スノウは関与を拒まれたので、どのような手法で尋問が行われたかは分からない。

 でも、執務室に帰ってきたブレスラウが「なかなか面白かった」と呟いていたので良しとする。アークは「ブレスラウは飲み込みが早い」と満足そうだった。

「——結局、また人間だったの?」

 尋問の結果を教えてくれたアークに、スノウはつい呆れた声でそう返した。

 ここ数年起きる問題のほとんどが、人間が原因となって起こされている気がする。『また』と言ってしまうのも仕方ないだろう。

「ああ。魔族を捕らえることを諦めていないようだな」
「こんなところまで入り込んでるなんて……」

 スノウは眉を寄せた。
 これまで人間が干渉してきた雪豹の里も白狼の里も、魔族世界の端に位置していた。だからこそ、人間が入り込みやすい場所だったのだ。

 それなのに今回は魔王城のお膝元である街で人間が活動していたなんて、あまり良いことではない。

「随分と無理をしてやって来たようだな。既に死にかけだったから、指示を出した国に送り返してやった」
「……高濃度魔力に耐えられなかったんだね」

 スノウたち魔族にとっては快適な魔力濃度だけれど、人間にとっては害である。
 魔力アイテムで対処していたはずだけれど、完全ではなかったというだけだ。

「——ここで魔族を攫っても、連れ帰るのは無理だったんじゃない?」

 ルイスが囚われていたのは、街外れにある廃屋の地下だったらしい。
 これまでに誘拐被害者が逃げ出すたびに、囚える場所を移動していたというのだから、随分と手間を掛けているなぁと思う。

 それはそれとして、こんな街で捕らえた魔族を、人間世界まで持ち帰るのは無理に近い気がする。

「それは転移場所を点々と用意していたようだ。そのすべてを見て回っても、使われた形跡はなかったが」
「誰か転移させたの?」

 こんな短時間で見て回るなんて、そんな方法しかないだろうと思った。
 でも、アークが静かに首を横に振る。

「いや。大体の場所が把握できれば、俺の能力である程度把握できる。ブレスラウにも練習させた」
「え、ブレスラウもできたの? すごい!」

 アークの能力の凄さは今更のことだったので驚くことはなかったけれど、それをブレスラウもできるとなれば、スノウは当然褒め称える。

 アークが少し拗ねた雰囲気になった気がした。アークも賞賛されたかったのかもしれない。

「……父者には及ばない。もっと練習が必要」
「そうなんだ。アークはすごいもんね。たくさん教えてもらうといいよ」

 悔しそうなブレスラウを宥めると、何故か眉を寄せられた。反対に、アークは機嫌を良くしたようだ。

「上達するまで付き合おう」
「……すぐ上手くなる」

 アークとブレスラウの視線がぶつかり合う。

 それを眺めながら、スノウは『父親と息子って、こういう関係なんだなぁ』と微笑ましくなった。
 スノウ自身は父親を知らないから、少し羨ましいと思わなくもないけれど。

「それにしても、実行犯を送り返すだけで対処終了?」

 怪我をしたものはいなかったとしても、誘拐された被害者はたくさんいる。それを考えると、少々対処が甘い気がした。

 首を傾げ尋ねるスノウに対し、アークとブレスラウ、そしてロウエンが視線を交わした。なにやら裏事情がありそうだ。

 怪しい雰囲気とは対照的に、ルミシャンスが走り回る音が平和である。ルイスに遊んでもらっているらしい。
 昨日の疲れが残っていないのは良かったけれど、案外タフだなぁと感じる。

「——それについては、ブレスラウが竜族の一部を率いて対処することになった」
「まさか皆殺し……?」

 アークの発言を思い出して、スノウは目を見開いた。
 でも、すぐに「違う」と返ってきたので安心する。戦うのがダメだとは言わないけれど、ブレスラウにはまだ早い気がするのだ。

「竜族の特殊魔法だ」
「初めて聞いた。どんな魔法?」

 スノウは思わず目を輝かせた。竜族の能力の高さを思えば、特殊魔法に凄まじい効果があってもおかしくない。

「魔力溜まりを意図的に創り出す」
「うん? それって、つまり……?」
「人間世界の一部、今回の事件の首謀者の国が、魔族世界に近い魔力濃度になる。時間が経てば薄まるが、それまでは人間が暮らしていくのに不都合がある空間になるだろう。魔物も現れるからな」

 アークの説明を飲み込んで、スノウは固まった。

(それ、結果的に皆殺しになってない……?)

「……人間は逃げられない?」
「魔力が周囲に満ちるまでには時間がかかる。国を捨てて逃げることは可能だろう」
「……そっか。それならいいのかな」

 やり過ぎのような、そうでもないような、よく分からないけれど、それが魔王としてのアークの決断ならば、スノウは受け入れるだけだ。ブレスラウも納得しているようだし。

「——ブレスラウは人間世界まで行くの?」

 一つだけ気になったのがそれだった。
 特殊魔法を使うにしても、人間世界まで遠出するというなら、少し寂しいし心配になってしまう。

「いや。これは竜族が集まって行う儀式魔法——大規模な魔法で、遠隔から放つことができるからな」
「じゃあ、ブレスラウはここにいられるんだね!」

 ホッとしてにこっと笑ったら、アークが目を細めて頷いた。
 心配事はなくなったし、ブレスラウの試練もなんとかなりそうだし、これにて一件落着と考えてもいいだろうか。

「——安心したらお腹空いたかも。ルミシャンス、おやつにしよう!」
「にー! おやつ!!」

 目をキラキラさせて飛び込んできたルミシャンスを抱きしめて、スノウはふふっと笑った。
 次の街散策はもっと楽しみたいものだ。

感想 55

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。