内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

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3.憧れ

 不意に自分とはかけ離れた、憧れの人のことを思い出す。
 サミュエル・グレイ。グレイ公爵家の三男で、淡い金髪と翠眼が美しい男性だ。年は一緒だけれど、これまで挨拶をしたことがある程度で、面と向かってきちんと話したことはない。
 サミュエルはとても社交的で、いつだってたくさんの人に囲まれていたから。話題のないノアに時間を使わせるのは申し訳なくて、いつも挨拶の後はそそくさと立ち去っていた。

 サミュエルは生まれながらに王家に嫁ぐと決められている人だった。四世代に一度、王家はグレイ公爵家の血を取り込むのが決まりらしい。サミュエルは王太子であるライアンの婚約者であり、次期王配ということだ。
 黒髪茶目のライアンと並ぶと、絵画のように美しい。二人とも美丈夫だから、どちらも見劣りしなかった。
 華奢で頼りない体躯のノアは、羨ましくて仕方ない。その自信溢れる姿も、周りに好かれる社交性も。

「僕も、もう少し社交をがんばらないと」

 いつまでも両親に心配されているようでは申し訳なくなる。領地運営の仕事が上手くできても、貴族として社交をこなせないと意味がないのだ。
 サミュエルを見習って、改めて決意を固めたところで、背後から枝が折れる乾いた音がした。膝の上で猫が耳を立てる。

「――おや……まさか人がいるとは思わなかった。邪魔をしてしまったかな?」
「っ……いいえ……」

 先ほど姿を思い浮かべたばかりのサミュエルだった。思わず身体が震える。こんなところで人と会うとは思いもしなかったし、それがサミュエルだとは、どうしたらいいか分からない。
 小さく首を振るノアを、サミュエルは不思議そうに眺めて首を傾げた。

「ランドロフ侯爵家のノア殿だよね」
「はい……ご挨拶が遅くなりまして――」

 いつまでも座っているわけにはいかないと、立ち上がって挨拶しようとするも、膝の上の猫が邪魔をする。強引に退かせるのも気が咎めて、ノアは慌てふためいてしまった。

「……ああ、座ったままで構わないよ。私が邪魔をしてしまったんだから」
「いえ、本当に、邪魔だなんて思っても……」

 何を言うべきか思考が空回りして、せめてこれだけは伝われと必死に否定する。

「……はは、そうか。それなら良かった。では、隣に座っても構わない? 君とは一度きちんと話してみたかったんだ」
「え……ぁ、ど、どうぞ……」

 理解できない展開だった。あのサミュエルがノアにこんなに話し掛けてきてくれるだなんて。
 吃ってしまう自分を恥ずかしく思って俯く。サミュエルの目にノアが映っているというのが信じられなかった。

「――ノア殿は、思っていた以上に、可愛らしい人だね」
「え……」

 世辞にしても嘘っぽい言葉だった。でも、隣に座るサミュエルの顔には微笑みが浮かび、本当に思っていることを話しているようにしか感じられない。
 ノアの白い頬に一気に熱が上った。

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