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5.秘密
静かな時間が流れる。鳥の囀りと猫の喉の音。
ノアから何か話し掛けることはできそうもなくて、忙しいサミュエルがいつ立ち去るかと、少し残念に思った。
「――ここは静かでいいね」
不意に話し出したサミュエルの横顔を見つめる。頭上の木を眺めながら、ホッと息をついていた。いつも人に囲まれているようなサミュエルでも、ノアのように静けさを好むこともあるのだと、新発見をした気分だ。
「ええ……」
上手い返しなんて思いつかなくて、ただ頷くだけの自分が情けない。でも、サミュエルは気分を害した様子もなく、穏やかに微笑んだ。
「こんなところがあるなんて知らなかったけど、もしかしてノアの秘密の場所だった?」
「あ、いえ……その……」
それはその通りだった。一人になりたい時に来るのだから、誰かに教えてしまっては意味がない。もちろん叔父の学園長や巡回の騎士は知っているけれど、彼らはノアの視界に入らないよう配慮してくれる。だから、ここではノアはいつでも一人になれた。
でも、サミュエルがここにいることに嫌な気分はしない。むしろ、初めてきちんと話すことができて気分が高揚しているくらいだ。
「じゃあ、私も秘密にしよう。――だから、またここに来てもいいかな? ここの静けさが気に入ったんだ」
「……ええ、もちろん。ですが、サミュエル様は、お忙しいのでは?」
勇気を出して問い掛けると、片眉を上げたサミュエルがノアを横目で見た。その流し目に、何故か心臓が跳ねる心地がする。無意識の仕草に男らしい色気を感じた。
「……まあ、暇とは言いがたいけど。私は好きなことをする自由もあるはずだ。最低限の務めは果たしているし」
苦々しい口調に感じて、ノアは小さく首を傾げる。サミュエルの普段の明るく爽やかで社交的な振る舞いは、本意ではないのだろうか。まるでそうは見えなかったけれど。
「――そう言えば、ノアは婚約者はいるんだっけ?」
「いえ……」
ノアは言葉少なく答えた。ちょうど悩んでいた話題で、あまり言いたいことではなかったから。
「じゃあ、一緒にいても大丈夫だね。変な噂になると申し訳ないけど……ここはそもそも人がいなさそうだし」
サミュエルの呟きを聞いて、ふと気づく。婚約者のことを気にしなければならないのはサミュエルの方のはずだ。王太子の婚約者が、こんなところで密会をしていていいはずがない。
「あ、あの! ……ここは、監視カメラも置かれているので、不貞とか、疑われることは……ない、と……」
勢い込んで説明を始めてしまったが、自意識過剰だったのではないかと思えて、尻すぼみに言葉が消えていく。
ノアがサミュエルと共にいたところで、サミュエルがそんな疑いをかけられるなんてことはないだろう。誰もノアがサミュエルに相手をされるとは思わない。
目を見開いて聞いていたサミュエルが、ふと視線を巡らせた。木に隠れるように設置されている監視カメラに気づいたのか、僅かに息をついて微笑む。
「そうか。監視カメラがあるなら安全だね。ノアが一人でここにいて大丈夫なのかと、少し心配だったんだ。――ああ、私について心配してくれたのもありがとう。殿下は気にしないだろうけどね」
「……巡回の騎士も、いるので、安全です」
王太子に関しての言葉にはなんと返答すべきか分からなかったので、説明の言葉を加えるだけでノアは口を閉ざした。とにかく、サミュエルに呆れられなくて良かったと胸を撫で下ろす。
「それはいいね。ますます、ここを使いたくなったよ。これからよろしくね」
「……はい、サミュエル様」
穏やかな笑みにノアも笑みを返して、再びサミュエルとこのような時間が持てる可能性に、じわじわと喜びが込み上げてきた。
ノアから何か話し掛けることはできそうもなくて、忙しいサミュエルがいつ立ち去るかと、少し残念に思った。
「――ここは静かでいいね」
不意に話し出したサミュエルの横顔を見つめる。頭上の木を眺めながら、ホッと息をついていた。いつも人に囲まれているようなサミュエルでも、ノアのように静けさを好むこともあるのだと、新発見をした気分だ。
「ええ……」
上手い返しなんて思いつかなくて、ただ頷くだけの自分が情けない。でも、サミュエルは気分を害した様子もなく、穏やかに微笑んだ。
「こんなところがあるなんて知らなかったけど、もしかしてノアの秘密の場所だった?」
「あ、いえ……その……」
それはその通りだった。一人になりたい時に来るのだから、誰かに教えてしまっては意味がない。もちろん叔父の学園長や巡回の騎士は知っているけれど、彼らはノアの視界に入らないよう配慮してくれる。だから、ここではノアはいつでも一人になれた。
でも、サミュエルがここにいることに嫌な気分はしない。むしろ、初めてきちんと話すことができて気分が高揚しているくらいだ。
「じゃあ、私も秘密にしよう。――だから、またここに来てもいいかな? ここの静けさが気に入ったんだ」
「……ええ、もちろん。ですが、サミュエル様は、お忙しいのでは?」
勇気を出して問い掛けると、片眉を上げたサミュエルがノアを横目で見た。その流し目に、何故か心臓が跳ねる心地がする。無意識の仕草に男らしい色気を感じた。
「……まあ、暇とは言いがたいけど。私は好きなことをする自由もあるはずだ。最低限の務めは果たしているし」
苦々しい口調に感じて、ノアは小さく首を傾げる。サミュエルの普段の明るく爽やかで社交的な振る舞いは、本意ではないのだろうか。まるでそうは見えなかったけれど。
「――そう言えば、ノアは婚約者はいるんだっけ?」
「いえ……」
ノアは言葉少なく答えた。ちょうど悩んでいた話題で、あまり言いたいことではなかったから。
「じゃあ、一緒にいても大丈夫だね。変な噂になると申し訳ないけど……ここはそもそも人がいなさそうだし」
サミュエルの呟きを聞いて、ふと気づく。婚約者のことを気にしなければならないのはサミュエルの方のはずだ。王太子の婚約者が、こんなところで密会をしていていいはずがない。
「あ、あの! ……ここは、監視カメラも置かれているので、不貞とか、疑われることは……ない、と……」
勢い込んで説明を始めてしまったが、自意識過剰だったのではないかと思えて、尻すぼみに言葉が消えていく。
ノアがサミュエルと共にいたところで、サミュエルがそんな疑いをかけられるなんてことはないだろう。誰もノアがサミュエルに相手をされるとは思わない。
目を見開いて聞いていたサミュエルが、ふと視線を巡らせた。木に隠れるように設置されている監視カメラに気づいたのか、僅かに息をついて微笑む。
「そうか。監視カメラがあるなら安全だね。ノアが一人でここにいて大丈夫なのかと、少し心配だったんだ。――ああ、私について心配してくれたのもありがとう。殿下は気にしないだろうけどね」
「……巡回の騎士も、いるので、安全です」
王太子に関しての言葉にはなんと返答すべきか分からなかったので、説明の言葉を加えるだけでノアは口を閉ざした。とにかく、サミュエルに呆れられなくて良かったと胸を撫で下ろす。
「それはいいね。ますます、ここを使いたくなったよ。これからよろしくね」
「……はい、サミュエル様」
穏やかな笑みにノアも笑みを返して、再びサミュエルとこのような時間が持てる可能性に、じわじわと喜びが込み上げてきた。
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