内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

文字の大きさ
5 / 277

5.秘密

 静かな時間が流れる。鳥の囀りと猫の喉の音。
 ノアから何か話し掛けることはできそうもなくて、忙しいサミュエルがいつ立ち去るかと、少し残念に思った。

「――ここは静かでいいね」

 不意に話し出したサミュエルの横顔を見つめる。頭上の木を眺めながら、ホッと息をついていた。いつも人に囲まれているようなサミュエルでも、ノアのように静けさを好むこともあるのだと、新発見をした気分だ。

「ええ……」

 上手い返しなんて思いつかなくて、ただ頷くだけの自分が情けない。でも、サミュエルは気分を害した様子もなく、穏やかに微笑んだ。

「こんなところがあるなんて知らなかったけど、もしかしてノアの秘密の場所だった?」
「あ、いえ……その……」

 それはその通りだった。一人になりたい時に来るのだから、誰かに教えてしまっては意味がない。もちろん叔父の学園長や巡回の騎士は知っているけれど、彼らはノアの視界に入らないよう配慮してくれる。だから、ここではノアはいつでも一人になれた。
 でも、サミュエルがここにいることに嫌な気分はしない。むしろ、初めてきちんと話すことができて気分が高揚しているくらいだ。

「じゃあ、私も秘密にしよう。――だから、またここに来てもいいかな? ここの静けさが気に入ったんだ」
「……ええ、もちろん。ですが、サミュエル様は、お忙しいのでは?」

 勇気を出して問い掛けると、片眉を上げたサミュエルがノアを横目で見た。その流し目に、何故か心臓が跳ねる心地がする。無意識の仕草に男らしい色気を感じた。

「……まあ、暇とは言いがたいけど。私は好きなことをする自由もあるはずだ。最低限の務めは果たしているし」

 苦々しい口調に感じて、ノアは小さく首を傾げる。サミュエルの普段の明るく爽やかで社交的な振る舞いは、本意ではないのだろうか。まるでそうは見えなかったけれど。

「――そう言えば、ノアは婚約者はいるんだっけ?」
「いえ……」

 ノアは言葉少なく答えた。ちょうど悩んでいた話題で、あまり言いたいことではなかったから。

「じゃあ、一緒にいても大丈夫だね。変な噂になると申し訳ないけど……ここはそもそも人がいなさそうだし」

 サミュエルの呟きを聞いて、ふと気づく。婚約者のことを気にしなければならないのはサミュエルの方のはずだ。王太子の婚約者が、こんなところで密会をしていていいはずがない。

「あ、あの! ……ここは、監視カメラも置かれているので、不貞とか、疑われることは……ない、と……」

 勢い込んで説明を始めてしまったが、自意識過剰だったのではないかと思えて、尻すぼみに言葉が消えていく。
 ノアがサミュエルと共にいたところで、サミュエルがそんな疑いをかけられるなんてことはないだろう。誰もノアがサミュエルに相手をされるとは思わない。

 目を見開いて聞いていたサミュエルが、ふと視線を巡らせた。木に隠れるように設置されている監視カメラに気づいたのか、僅かに息をついて微笑む。

「そうか。監視カメラがあるなら安全だね。ノアが一人でここにいて大丈夫なのかと、少し心配だったんだ。――ああ、私について心配してくれたのもありがとう。殿下は気にしないだろうけどね」
「……巡回の騎士も、いるので、安全です」

 王太子に関しての言葉にはなんと返答すべきか分からなかったので、説明の言葉を加えるだけでノアは口を閉ざした。とにかく、サミュエルに呆れられなくて良かったと胸を撫で下ろす。

「それはいいね。ますます、ここを使いたくなったよ。これからよろしくね」
「……はい、サミュエル様」

 穏やかな笑みにノアも笑みを返して、再びサミュエルとこのような時間が持てる可能性に、じわじわと喜びが込み上げてきた。

感想 141

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後

結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。 ※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。 全5話完結。予約更新します。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。