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11.憂慮
家に帰ってきたノアは、領地の報告書を読みながらふわりと微笑んだ。以前指示した作物栽培法が無事成功したらしい。収穫量が二倍近くになったとの報告は嬉しくて当たり前。
サミュエルとはより仲良くなれた気がするし、今日は良いことばかりだ。
「――繊細さん、かぁ……」
自分の欠点の内気さをそのように表現されるとは思わなかったけれど。サミュエルが良い風に解釈してくれたのが嬉しい。
不思議と自信が湧いて、その後は吃らずに話をできたのだから、ノアは自分に『上手く他人と喋れない』という暗示をかけていたのかもしれない。
これで少しは人と話せるようになれれば良いのだけれど。
「サミュエル様といえば……ライアン王太子殿下のことを話せなかったな……」
サミュエルとの待ち合わせに赴く途中で見た光景。寄り添うライアンとアシェルの姿。一幅の絵のように美しかったけれど、本来あり得てはならないことだ。婚約者でもない二人が密着するなんて。
たくさんの人が目撃していたから、サミュエルの元にも報告が入っていたかもしれない。でも、ノアの前に現れたサミュエルにはそんな様子が見受けられなかった。貴族として内心を悟られるようなことをしなかっただけなのかもしれないけれど――。
「心配だ……」
サミュエルは憧れの人だったから、ノアの好意は元々高かった。それに加え、親しく話をさせてもらえるようになって、その人間性や振る舞いにより好ましさを感じた。
遠くから眺める憧れの人に留まらず、既に身近な好きな人になっているのだ。スキャンダラスな噂を心配するのも当然というもの。
「貴族って噂好きが多いし……」
サミュエルの心理的負担を軽くしてあげたい。そもそもサミュエルがライアンのことをどこまで気にかけるかも分からないけれど。
それに、ライアンはこの国の王太子。つまり次期国王だ。ライアンに不確かな存在が安易に近づいても良いものか。
「ライアン王太子殿下の側近は、確か……リカルド侯爵家の嫡男マシュー様とトラドール伯爵家嫡男のリオン様」
リカルド侯爵といえば現宰相で、トラドール伯爵は騎士団を統括する立場。その子息が王太子の側近になるのは何の不思議もない。
ライアンに問題が起きれば、その二人が対処するのが本来のあり方だけれど、少し不安があった。
「……お二方とも、あまり優秀という話を聞かないんだよなぁ」
ライアンはノアやサミュエルの一つ上の学年だ。側近であるマシューとリオンはライアンと同じ学年。今年卒業を迎えるわけだが、およそ三年にも及ぶ学園生活の中で、マシューやリオンが何か成果を残したという話を聞いたことがなかった。
噂では、親の地位を笠に着て、王太子の側近である自身の立場に慢心し、大して仕事ができない者たちらしい。
「噂だから、全てを信じるわけにもいかないけど……かといって、僕は彼らとちゃんと話したこともないし」
内気であるノアに貴族たちとの人脈なんてないも同然。噂話ですら、近くで話している者から漏れ聞こえた程度のものだ。それで誰かを非難することはできない。
でも、サミュエルがそのせいで被害を受ける可能性を考えると、ため息が零れてしまう。
「何事も、起きなければ良いんだけど……」
ノアに何ができるかは分からない。それでも、とりあえず問題のアシェルについての情報を集めておこうと、部下に指示を出した。
サミュエルとはより仲良くなれた気がするし、今日は良いことばかりだ。
「――繊細さん、かぁ……」
自分の欠点の内気さをそのように表現されるとは思わなかったけれど。サミュエルが良い風に解釈してくれたのが嬉しい。
不思議と自信が湧いて、その後は吃らずに話をできたのだから、ノアは自分に『上手く他人と喋れない』という暗示をかけていたのかもしれない。
これで少しは人と話せるようになれれば良いのだけれど。
「サミュエル様といえば……ライアン王太子殿下のことを話せなかったな……」
サミュエルとの待ち合わせに赴く途中で見た光景。寄り添うライアンとアシェルの姿。一幅の絵のように美しかったけれど、本来あり得てはならないことだ。婚約者でもない二人が密着するなんて。
たくさんの人が目撃していたから、サミュエルの元にも報告が入っていたかもしれない。でも、ノアの前に現れたサミュエルにはそんな様子が見受けられなかった。貴族として内心を悟られるようなことをしなかっただけなのかもしれないけれど――。
「心配だ……」
サミュエルは憧れの人だったから、ノアの好意は元々高かった。それに加え、親しく話をさせてもらえるようになって、その人間性や振る舞いにより好ましさを感じた。
遠くから眺める憧れの人に留まらず、既に身近な好きな人になっているのだ。スキャンダラスな噂を心配するのも当然というもの。
「貴族って噂好きが多いし……」
サミュエルの心理的負担を軽くしてあげたい。そもそもサミュエルがライアンのことをどこまで気にかけるかも分からないけれど。
それに、ライアンはこの国の王太子。つまり次期国王だ。ライアンに不確かな存在が安易に近づいても良いものか。
「ライアン王太子殿下の側近は、確か……リカルド侯爵家の嫡男マシュー様とトラドール伯爵家嫡男のリオン様」
リカルド侯爵といえば現宰相で、トラドール伯爵は騎士団を統括する立場。その子息が王太子の側近になるのは何の不思議もない。
ライアンに問題が起きれば、その二人が対処するのが本来のあり方だけれど、少し不安があった。
「……お二方とも、あまり優秀という話を聞かないんだよなぁ」
ライアンはノアやサミュエルの一つ上の学年だ。側近であるマシューとリオンはライアンと同じ学年。今年卒業を迎えるわけだが、およそ三年にも及ぶ学園生活の中で、マシューやリオンが何か成果を残したという話を聞いたことがなかった。
噂では、親の地位を笠に着て、王太子の側近である自身の立場に慢心し、大して仕事ができない者たちらしい。
「噂だから、全てを信じるわけにもいかないけど……かといって、僕は彼らとちゃんと話したこともないし」
内気であるノアに貴族たちとの人脈なんてないも同然。噂話ですら、近くで話している者から漏れ聞こえた程度のものだ。それで誰かを非難することはできない。
でも、サミュエルがそのせいで被害を受ける可能性を考えると、ため息が零れてしまう。
「何事も、起きなければ良いんだけど……」
ノアに何ができるかは分からない。それでも、とりあえず問題のアシェルについての情報を集めておこうと、部下に指示を出した。
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