内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

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54.心に寄り添う

 好きだから、ライアンの心に寄り添いたい。アシェルの言葉の意味は分かるのに、現実感が伴わず、上手く理解できない。

 ノアだって、サミュエルに憧れて、人として好きだからこそ、役に立とうと婚約を結んだのに、アシェルの感情はノアとは少し違う気がした。

「……それで、どうするつもりなんだい? ライアン殿下の侍従にでもなる?」

 最初の問いよりも幾分穏やかな口調で、サミュエルがアシェルに問いかけた。
 アシェルはサミュエルを真っ直ぐに見つめて頷く。

「それが、僕がライアンの心に寄り添える方法なら。ライアンが一生を一人で過ごすことに決めていたとしても、僕は彼を支えたいんです」

 決意を語るアシェルが、やけに眩しく見えた。
 いつの間に、そんな風に考えていたのだろうか。ノアの傍にいるようになってから、そんな感情を全く表に出していなかったのに。

「……ライアン殿下は、後継ぎを作らない誓約を、王家と交わしている。もし君と殿下が結ばれることがあっても、君は表舞台に妻として立つことはできないだろう。騒動のこともあるからね」

 サミュエルの諭すような言葉に、ノアはようやく自分の感情との違いに気づいた。アシェルの好きは、性愛としてのものなのだ。予想外過ぎて、一瞬思考が停止する。

 どの場面を振り返ってみても、そんな素振りはなかった気がするけれど……。でも、アシェルが「離れてから気づいた」と言っていたのだから、つい最近自覚が芽生えたことは間違いない。

(でも、なんで、そんなことに……?)

 手が震えるような気がして、ぐっと拳を握り締める。友人であるはずのアシェルが、何故だかひどく恐ろしい存在に思えた。

 頭が締め付けられるように痛む。閉じた目蓋の裏に、知らない情景が浮かんだ気がして、慌てて目を開けた。ドクドクと脈打つ心臓が苦しくて、胸に手を当てて深呼吸をする。

 サミュエルから、一瞬視線を向けられたけれど、反応を返す余裕はなかった。

「分かっています。別に、立場なんてどうでもいいんです。むしろ、貴族なんて僕には合わないですよ。僕は、ライアンを支えられれば、それでいい」

 ノアは呆然とアシェルを見つめた。
 その澄んだ声に、ノアの雑念が洗い流された気がして、ホッと息をつく。少しずつ頭痛が引いて、恐ろしく感じる情景も消え去っていった。

 アシェルはサミュエルの言葉を一切否定しなかった。つまり、性愛としてライアンのことが好きだということを、認めたのだ。
 強い眼差しで宣言するアシェルは、いつもより大人に見えた。既に自分のこれからの生き方を定めているのだと感じ取れる。

(……あぁ……格好いいなぁ……。そっか……好きだから、傍で支えたいって思いは、こんなに素敵なことなのか……)

 ノアの手からフッと力が抜けた。わけの分からない恐ろしさを、もう感じない。アシェルの決意を応援したい気持ちが、全てに勝っていた。

 友人が決めた人生。傍から離れてしまうというのは寂しいけれど、それで関係が途切れるわけではない。それならば、その決意を後押しするまで。

「――では、侍従としての教育だけでなく、領地運営についても教えましょう。その方が、先々でアシェルさんの力になるはずです。グラシャ男爵家の横やりは、ライアン殿下のご迷惑になるでしょうから、うちの分家の養子なってもらうのがいいでしょうね」
「ノア様……!」

 アシェルが表情を輝かせて、ノアに抱きついて来た。ノアは受け止めながら微笑み、言葉を続ける。

「ライアン殿下の臣籍降下まで、あまり時間がありません。ランドロフ侯爵家の名を背負わせて送り出す以上、中途半端な状態では認められませんよ。短期で詰め込むことになります。覚悟してくださいね」
「分かりました! 絶対に、やり遂げて見せます……!」

 安堵で潤んだ目で、それでも力強く頷くアシェル。その姿を見て、ノアは絶対に大丈夫だと確信した。
 どれほど厳しく指導しようと、アシェルは歯を食いしばってついてきて、全てを自分の力に変えてくれるだろう。

 サミュエルがため息をつきながらも、慈しみ深い眼差しでノアたちを眺めていた。

「……まったく、ノアは優しいね」
「そうでしょうか? 元々行儀見習いの後は、うちで勤めてもらうか、他の貴族家に送り出す必要があったのです。送り先が決まっているのでしたら、ついでに領地運営の知識を与えるくらい、大したことではありませんよ」

 微笑んで答えると、サミュエルが肩をすくめる。
 領地運営のノウハウを外部に漏らすことは、普通はあり得ないことなのだと、サミュエルは知っているのだ。
 でも、部下を貸与するのとさほど変わらないことだとノアは思う。それに、役に立つ知識とは、広く知られてこそ価値が高まるものだとも考えている。

「――うちから送る部下の一人は内定しました。そのつもりで、ライアン殿下にもお伝えください」
「分かったよ。殿下がなんと思われるかは分からないけど、拒否したところでねじ込んであげるから、安心して」
「……あまり、無理なやり方はやめてくださいね?」

 なんだか物騒に感じるサミュエルの物言いに、ノアは逆に不安になった。

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