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108.小さな騒動のある日常
サミュエルが学園内でノアの傍にいるようになって、平穏な日常が戻ってきた。別の意味で騒ぎが起こることもあるけれど、それはここ数ヶ月で慣れてしまったので、今では聞き流している。
「ふぁー……眼福……目が幸せとはこのことです……」
「そこの過激派、声に出てるぞ」
「私程度が過激派なんて、滅相もありません。私はお二人の健やかなる愛に満ちた日々を、遠くから見守るだけで満足しているので」
「遠くというほど遠くないし、赤の他人が凝視しているだけで、十分害悪だからな? というか、一応お二人の関係はまだ伏せられているんだから、言葉には気をつけろよ。本物のノア様過激派に追い出されるぞ?」
「……それは重々承知しておりますとも」
講義室内から聞こえてくる会話。これが別の意味で起きている騒ぎだ。
ノアがサミュエルと共にいるだけで、色めき立つ者たちが講義室内に一定数存在している。最初はノアも彼らの存在に戸惑っていた。でも、騒ぎすぎる者は速やかに退室させられて平穏が戻るので、いつしか気にしないようになっていた。
(いや、でも、今の言葉は気になる……。彼は過激派と称される人ではない……? 過激派って何をしたらそう呼ばれるの? いったいどういう人なんだろう……)
謎に満ちた集団『ノア様過激派』。どうやら実在しているらしいけれど、ノアは会ったことがない。その言葉が聞こえる度に周囲を見渡して確認するけれど、そのような人物は視界に入ったことがない。
式典で人の整理をしてくれた人がそうなのかもしれないけれど、確認できていないから謎のままだ。
「――ノア、よそ見ばかりは寂しいよ」
「失礼しました。……でも、サミュエル様ばかり見つめるのも、おかしいのでは……?」
サミュエルによって、ノアたちの関係は暗黙の了解として周知されているようなものだけれど、少しは節制すべきではないかと思う。
そんなノアの苦言に、サミュエルは微笑んで首を傾げた。
「見つめ合うくらい、少し仲が良い友人なら普通だと思うよ」
「それは違うのでは……?」
ノアの常識にない言葉が返ってきて、混乱してしまった。でも、ノア自身友人が少ないため、確信を持って否定できない。
時々見つめ合っているカップルを見たことがあったけれど、あれはもしやカップルではなく友人だったのだろうか。
常識を疑い周囲に目を向けると、慌てた様子で見つめ合う二人組が多発した。ちらりとサミュエルを窺うと、なんだか威圧感のある笑みを周囲に向けている。
(これは絶対、サミュエル様の発言に、みんなが強制的に合わせないといけなくなっている感じだ……。申し訳ない……)
サミュエルは人を操るのはお手の物だけれど、時々やり方が大雑把というか、力づくになる。それでなんとかなると分かっているからなのだろう。
ノアはそんなサミュエルのわがままで強引な振る舞いに苦笑してしまった。宥めるようにサミュエルの手を軽く叩くと、すぐに愛しげに細められた目が向けられる。
「サミュエル様、周囲を巻き込むのはほどほどになさってくださいね」
「なんのことか分からないけど、ノアがそう言うなら気をつけるよ」
悪びれない笑みを浮かべているけれど、サミュエルがノアとの約束を破ったことはない。言葉通り、気をつけてくれるだろうと納得して、ノアは微笑んだ。
「……仲が良いことだ。それに、なんとも愉快な光景だな」
不意に届いた声に、ノアは笑みを消した。サミュエルは少し不機嫌さを漂わせ、眉を顰めている。
ここ数日ノアに近づいてこなかったマーティンが、ついにサミュエルが傍にいても話しかけてきたのだ。
「マーティン殿下、ごきげんよう」
「……ごきげんよう、マーティン殿下」
ノアたちが軽く礼をとろうとすると、すぐさま制止される。マーティンは堅苦しい礼儀が苦手らしいのだ。それを知っているからか、積極的に苦手感情を煽ろうと振る舞うサミュエルに、ノアは内心で苦笑してしまった。
「もっと気軽に接してほしいのに、サミュエルは相変わらず俺に素っ気ない。ノア殿もだぞ。サミュエルに合わせないでほしいんだが……やはり、仲が良いからか」
仲が良いという言葉に含みを感じた。確実にノアたちの婚約関係を匂わせている。式典で話した時もそうだったけれど、マーティンはノアたちの婚約にどうしてそこまで興味があるのか。
ノアに惚れているという推測が正しいのか、それとも慕っているという情報のあるサミュエルの婚約だからか。
「ええ、私たちの仲が良いのは事実ですよ。マーティン殿下よりもよほど。ですから、ノアが私に合わせてくれるのは当然でしょう」
「……ほう……俺の目には、友人という関係におさまらないように見えるんだがな」
「何をおっしゃいますやら……私たちの関係がどうであろうと、マーティン殿下には関わりのないことですよ。お気になさらないでください」
笑顔のサミュエルとマーティンの視線がぶつかる。ノアはバチバチという音を聞いた気がした。冬場の静電気みたいだ。
マーティンがサミュエルを慕っているという前情報が信用できなくなるような雰囲気だ。でも、こうして絡んでくるくらいには、サミュエルになんらかの情を抱いているのは事実だろう。……ノアに、なのかもしれないけれど。
サミュエルからはまだマーティンの一目惚れ疑惑の調査結果は出ていないと聞いているし、この思惑を探るやり取りはこれから暫く続きそうだ。
ノアが少し疲れたため息をついてしまうのは仕方ないだろう。バチバチとした空気には慣れる気がしない。
「ふぁー……眼福……目が幸せとはこのことです……」
「そこの過激派、声に出てるぞ」
「私程度が過激派なんて、滅相もありません。私はお二人の健やかなる愛に満ちた日々を、遠くから見守るだけで満足しているので」
「遠くというほど遠くないし、赤の他人が凝視しているだけで、十分害悪だからな? というか、一応お二人の関係はまだ伏せられているんだから、言葉には気をつけろよ。本物のノア様過激派に追い出されるぞ?」
「……それは重々承知しておりますとも」
講義室内から聞こえてくる会話。これが別の意味で起きている騒ぎだ。
ノアがサミュエルと共にいるだけで、色めき立つ者たちが講義室内に一定数存在している。最初はノアも彼らの存在に戸惑っていた。でも、騒ぎすぎる者は速やかに退室させられて平穏が戻るので、いつしか気にしないようになっていた。
(いや、でも、今の言葉は気になる……。彼は過激派と称される人ではない……? 過激派って何をしたらそう呼ばれるの? いったいどういう人なんだろう……)
謎に満ちた集団『ノア様過激派』。どうやら実在しているらしいけれど、ノアは会ったことがない。その言葉が聞こえる度に周囲を見渡して確認するけれど、そのような人物は視界に入ったことがない。
式典で人の整理をしてくれた人がそうなのかもしれないけれど、確認できていないから謎のままだ。
「――ノア、よそ見ばかりは寂しいよ」
「失礼しました。……でも、サミュエル様ばかり見つめるのも、おかしいのでは……?」
サミュエルによって、ノアたちの関係は暗黙の了解として周知されているようなものだけれど、少しは節制すべきではないかと思う。
そんなノアの苦言に、サミュエルは微笑んで首を傾げた。
「見つめ合うくらい、少し仲が良い友人なら普通だと思うよ」
「それは違うのでは……?」
ノアの常識にない言葉が返ってきて、混乱してしまった。でも、ノア自身友人が少ないため、確信を持って否定できない。
時々見つめ合っているカップルを見たことがあったけれど、あれはもしやカップルではなく友人だったのだろうか。
常識を疑い周囲に目を向けると、慌てた様子で見つめ合う二人組が多発した。ちらりとサミュエルを窺うと、なんだか威圧感のある笑みを周囲に向けている。
(これは絶対、サミュエル様の発言に、みんなが強制的に合わせないといけなくなっている感じだ……。申し訳ない……)
サミュエルは人を操るのはお手の物だけれど、時々やり方が大雑把というか、力づくになる。それでなんとかなると分かっているからなのだろう。
ノアはそんなサミュエルのわがままで強引な振る舞いに苦笑してしまった。宥めるようにサミュエルの手を軽く叩くと、すぐに愛しげに細められた目が向けられる。
「サミュエル様、周囲を巻き込むのはほどほどになさってくださいね」
「なんのことか分からないけど、ノアがそう言うなら気をつけるよ」
悪びれない笑みを浮かべているけれど、サミュエルがノアとの約束を破ったことはない。言葉通り、気をつけてくれるだろうと納得して、ノアは微笑んだ。
「……仲が良いことだ。それに、なんとも愉快な光景だな」
不意に届いた声に、ノアは笑みを消した。サミュエルは少し不機嫌さを漂わせ、眉を顰めている。
ここ数日ノアに近づいてこなかったマーティンが、ついにサミュエルが傍にいても話しかけてきたのだ。
「マーティン殿下、ごきげんよう」
「……ごきげんよう、マーティン殿下」
ノアたちが軽く礼をとろうとすると、すぐさま制止される。マーティンは堅苦しい礼儀が苦手らしいのだ。それを知っているからか、積極的に苦手感情を煽ろうと振る舞うサミュエルに、ノアは内心で苦笑してしまった。
「もっと気軽に接してほしいのに、サミュエルは相変わらず俺に素っ気ない。ノア殿もだぞ。サミュエルに合わせないでほしいんだが……やはり、仲が良いからか」
仲が良いという言葉に含みを感じた。確実にノアたちの婚約関係を匂わせている。式典で話した時もそうだったけれど、マーティンはノアたちの婚約にどうしてそこまで興味があるのか。
ノアに惚れているという推測が正しいのか、それとも慕っているという情報のあるサミュエルの婚約だからか。
「ええ、私たちの仲が良いのは事実ですよ。マーティン殿下よりもよほど。ですから、ノアが私に合わせてくれるのは当然でしょう」
「……ほう……俺の目には、友人という関係におさまらないように見えるんだがな」
「何をおっしゃいますやら……私たちの関係がどうであろうと、マーティン殿下には関わりのないことですよ。お気になさらないでください」
笑顔のサミュエルとマーティンの視線がぶつかる。ノアはバチバチという音を聞いた気がした。冬場の静電気みたいだ。
マーティンがサミュエルを慕っているという前情報が信用できなくなるような雰囲気だ。でも、こうして絡んでくるくらいには、サミュエルになんらかの情を抱いているのは事実だろう。……ノアに、なのかもしれないけれど。
サミュエルからはまだマーティンの一目惚れ疑惑の調査結果は出ていないと聞いているし、この思惑を探るやり取りはこれから暫く続きそうだ。
ノアが少し疲れたため息をついてしまうのは仕方ないだろう。バチバチとした空気には慣れる気がしない。
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