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119.嵐の前の――?
ハミルトンたちとの話から暫く。マーティンの動向は気になるけれど、そろそろノアはそれどころではなくなってきた。
「ノア様、招待状へのご返事がございました。皆様参加の御意向です」
「そう。サミュエル様の方も、招待状を送った方々は皆さん参加のようですから、そのつもりで準備を」
「はい。既に食事やお酒、カトラリーなど、準備は整えてございます」
「ありがとう。立食パーティーだから、その辺は柔軟に対応できそうだね」
侍従のロウと婚約披露パーティーの準備の確認作業が大詰めを迎えている。運悪く、サミュエルは王太子の補佐としての仕事が忙しいらしく、ノアが一手に担っている状態だった。
申し訳なさそうな顔のサミュエルに、ノアは「大丈夫ですよ。ロウたちがいますから問題ありません」と宣言した手前、その言葉通りにしたいと意気込んでいるのだ。
サミュエルに頼ってばかりなのは情けないし、何よりノアも貴族としてこのくらいのことは自分の力でやり遂げたい。
「――ふぅ……大体のことは決まったね。後はトラブルなく済むことを祈るだけかな」
「最近は少し騒動もありましたから、真剣に祈りましょう」
ソファに腰を下ろして休憩をとるノアに、ロウが真剣な表情で告げる。ノアは苦笑を浮かべて頷いた。
最近の騒動というのは、サミュエルとノアの婚約に対する過剰な反応のことだった。
招待状の送付により、ほぼ婚約を公表したも同然であり、これまで二人の関係を知らなかった面々にまで情報が広まったのだ。その結果、様々な騒ぎが起きた。
一つ目は、サミュエルに恋慕していた者たちの愁嘆により、学園や社交界への不参加者の一時的な増加だ。これはノアも予想していたことだった。彼らは悲しみのあまり貴族としての務めを放棄したのだ。
サミュエルは「勝手にしたらいいんじゃない?」と放置を決めたし、ノアも「僕が何か言うことでもありませんしね……」と苦笑するしかなかった。
この問題は、ルーカスが「みんな、貴族って立場をなめすぎだろ……! 第一、少しでもサミュエルに相手をしてもらえる可能性があると思っていた時点で、サミュエルのこと理解してないんだよ。そんなやつが選ばれるわけがないだろ。自意識過剰か!」と吐き捨てて、「貴族の考えを知るいい機会になった」という言葉で片づけた。
二つ目は、サミュエルへ無記名の手紙が大量に送られたことだ。ノアは心配したけれど、サミュエルは「敵意表明してもらえると、対処が楽だよね。これを機に、身の程をわきまえない過激派を一掃できそうだ」と不敵な笑みを浮かべていた。
この騒動の結末は、怖くて聞けていない。最近会ったルーカスが疲れた顔で「社交界不参加の内の何割かは、サミュエルに……いや、なんでもない」と言っていたので、これからも聞くつもりはない。ルーカスさえ口籠もるような真実を受け止められる気がしなかったから。
三つ目は、学園での過剰な祝福だ。ようやく口にできると言わんばかりに、会う人皆に「おめでとうございます……!」と言葉を掛けられた。ノアは『まだ、ちゃんと発表してない……』と思いながらも、「ありがとうございます」と返すしかなかった。
雰囲気に背を押され、フライングでお祝いしたのは分かっている。これまでノアたちの関係を察しても、口を閉ざしてくれていたのはありがたいことでもある。
ただ、休み時間ごとにたくさんの人に囲まれるのはだいぶ疲れることだった。祝われること自体は嬉しいので、サミュエルの「追い払う?」という提案を退けたのはノアだけれど。
この他にも大小様々な騒ぎは起こった。その中でも最大の騒動は――。
「……マーティン殿下も参加、かぁ」
ノアはテーブルに並ぶ手紙の中の一通を手に取る。カールトン国王家の紋章が施された、正式な封筒に収められていたのは、『カールトン国からの祝意を表し、王家を代表し、第三王子マーティンを使者として参加させる』という趣旨が書かれた手紙だった。
サミュエルが暗に拒否したのに、マーティンは国家権力を使って堂々と乗り込んでくるつもりのようだ。
一貴族の婚約披露パーティーに他国の王族が参加するなんて異例だけれど、主役の片割れが元は王配予定で外交に同行した経験があり、他国の王族とも古くから交流があったとなれば、許されることではある。
マーティンも最近は王家や貴族家が主催するパーティーに積極的に参加していたようなので、他の貴族から反感を買うこともないだろう。
「――それにしても、トラブルが起こらないとは思えない……」
ルーカスは現在唯一の側近の婚約への祝意と、王家とグレイ公爵家に隔意がないことを示すため、元々パーティーに出席予定だった。
ディーガー家は現伯爵夫妻とその三人の子が参加する。つまり、アダムとハミルトンもやって来る。
マーティン、ルーカス、ハミルトン、アダムという、四者が勢ぞろいすることになり、トラブルが起きないと思えるほど、ノアは楽天家ではなかった。
「スケジュールを調整すれば、多少時間は空くと思いますが、聖堂にお祈りにいきますか?」
ロウが真剣な表情で厄払いを提案する。ノアは『それもいいかも……』と思いつつも、神様だってそんな厄介事に関わりたくないだろうと慮って、やめておいた。
「ノア様、招待状へのご返事がございました。皆様参加の御意向です」
「そう。サミュエル様の方も、招待状を送った方々は皆さん参加のようですから、そのつもりで準備を」
「はい。既に食事やお酒、カトラリーなど、準備は整えてございます」
「ありがとう。立食パーティーだから、その辺は柔軟に対応できそうだね」
侍従のロウと婚約披露パーティーの準備の確認作業が大詰めを迎えている。運悪く、サミュエルは王太子の補佐としての仕事が忙しいらしく、ノアが一手に担っている状態だった。
申し訳なさそうな顔のサミュエルに、ノアは「大丈夫ですよ。ロウたちがいますから問題ありません」と宣言した手前、その言葉通りにしたいと意気込んでいるのだ。
サミュエルに頼ってばかりなのは情けないし、何よりノアも貴族としてこのくらいのことは自分の力でやり遂げたい。
「――ふぅ……大体のことは決まったね。後はトラブルなく済むことを祈るだけかな」
「最近は少し騒動もありましたから、真剣に祈りましょう」
ソファに腰を下ろして休憩をとるノアに、ロウが真剣な表情で告げる。ノアは苦笑を浮かべて頷いた。
最近の騒動というのは、サミュエルとノアの婚約に対する過剰な反応のことだった。
招待状の送付により、ほぼ婚約を公表したも同然であり、これまで二人の関係を知らなかった面々にまで情報が広まったのだ。その結果、様々な騒ぎが起きた。
一つ目は、サミュエルに恋慕していた者たちの愁嘆により、学園や社交界への不参加者の一時的な増加だ。これはノアも予想していたことだった。彼らは悲しみのあまり貴族としての務めを放棄したのだ。
サミュエルは「勝手にしたらいいんじゃない?」と放置を決めたし、ノアも「僕が何か言うことでもありませんしね……」と苦笑するしかなかった。
この問題は、ルーカスが「みんな、貴族って立場をなめすぎだろ……! 第一、少しでもサミュエルに相手をしてもらえる可能性があると思っていた時点で、サミュエルのこと理解してないんだよ。そんなやつが選ばれるわけがないだろ。自意識過剰か!」と吐き捨てて、「貴族の考えを知るいい機会になった」という言葉で片づけた。
二つ目は、サミュエルへ無記名の手紙が大量に送られたことだ。ノアは心配したけれど、サミュエルは「敵意表明してもらえると、対処が楽だよね。これを機に、身の程をわきまえない過激派を一掃できそうだ」と不敵な笑みを浮かべていた。
この騒動の結末は、怖くて聞けていない。最近会ったルーカスが疲れた顔で「社交界不参加の内の何割かは、サミュエルに……いや、なんでもない」と言っていたので、これからも聞くつもりはない。ルーカスさえ口籠もるような真実を受け止められる気がしなかったから。
三つ目は、学園での過剰な祝福だ。ようやく口にできると言わんばかりに、会う人皆に「おめでとうございます……!」と言葉を掛けられた。ノアは『まだ、ちゃんと発表してない……』と思いながらも、「ありがとうございます」と返すしかなかった。
雰囲気に背を押され、フライングでお祝いしたのは分かっている。これまでノアたちの関係を察しても、口を閉ざしてくれていたのはありがたいことでもある。
ただ、休み時間ごとにたくさんの人に囲まれるのはだいぶ疲れることだった。祝われること自体は嬉しいので、サミュエルの「追い払う?」という提案を退けたのはノアだけれど。
この他にも大小様々な騒ぎは起こった。その中でも最大の騒動は――。
「……マーティン殿下も参加、かぁ」
ノアはテーブルに並ぶ手紙の中の一通を手に取る。カールトン国王家の紋章が施された、正式な封筒に収められていたのは、『カールトン国からの祝意を表し、王家を代表し、第三王子マーティンを使者として参加させる』という趣旨が書かれた手紙だった。
サミュエルが暗に拒否したのに、マーティンは国家権力を使って堂々と乗り込んでくるつもりのようだ。
一貴族の婚約披露パーティーに他国の王族が参加するなんて異例だけれど、主役の片割れが元は王配予定で外交に同行した経験があり、他国の王族とも古くから交流があったとなれば、許されることではある。
マーティンも最近は王家や貴族家が主催するパーティーに積極的に参加していたようなので、他の貴族から反感を買うこともないだろう。
「――それにしても、トラブルが起こらないとは思えない……」
ルーカスは現在唯一の側近の婚約への祝意と、王家とグレイ公爵家に隔意がないことを示すため、元々パーティーに出席予定だった。
ディーガー家は現伯爵夫妻とその三人の子が参加する。つまり、アダムとハミルトンもやって来る。
マーティン、ルーカス、ハミルトン、アダムという、四者が勢ぞろいすることになり、トラブルが起きないと思えるほど、ノアは楽天家ではなかった。
「スケジュールを調整すれば、多少時間は空くと思いますが、聖堂にお祈りにいきますか?」
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