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120.あなたの色
婚約披露パーティーの当日は朝から慌ただしかった。
会場はランドロフ侯爵邸のホールを選んだから、移動する手間はない。でも、主役ということでノアは嬉々とした使用人たちに飾り立てられることになっているのだ。
朝起きたら湯浴みの後にマッサージ。昼食をとりながらパーティーの準備の最終確認をして、その後は晴れ着に身を包む。
晴れ着はサミュエルが贈ってくれた。色はラベンダーグレーで、ノアの華奢な体型を強調するようなスラッとしたスーツだ。
使用人たちが「ノア様の瞳のお色のようで美しい!」と絶賛していた。サミュエルのセンスはさすがである。
自身も褒められる形になり、ノアは少し照れてしまった。
ボタンはサミュエルの瞳の色のようなエメラルドが使われ、金装飾されている。ハンカチーフも淡い翠色だ。婚約者の色を衣装に取り入れるのが、現在の流行りらしい。
聞いたときは、もし致命的なくらい合わない色だったら、悲惨なことになる流行りだなぁと思った。幸いにして、ノアの場合はサミュエルのセンスのおかげか、上手く調和している。
「――僕の場合は、ね……」
自分の思考に独り言が零れた。ノアの髪を整えてくれていたロウから視線を向けられたけれど、「なんでもない」と返しておく。内心はなんでもなくないけれど。
サミュエルから晴れ着を贈られたということは、ノアの方もお返しをしたということで。
今日のサミュエルの装いは、ノアがコーディネートして贈ったのだ。ノアは正直不安である。精一杯考えて選んだけれど、自分のセンスをあまり信用していない。
(まあ、サミュエル様なら、よほどおかしなものでなければ着こなしてくれるだろうけど……。でも、こんな素敵なものをいただいたんだから、ちゃんと似合うものになっていれば良いなぁ)
ノアのセンスがないと思われるのは良いけれど、それでサミュエルの魅力度が下がることになったら悲しい。美しい人は美しいままであってほしいので。
「ノア様、このような感じでよろしいですか?」
「うん、ありがとう」
軽く化粧まで施され、髪を整えられると、いつもとは違った自分が鏡に写っていた。
地味な容姿だと思っていたけれど、サミュエルが贈ってくれたスーツのおかげか、いつもより数段華やかになっている。
「――これなら、サミュエル様の隣に並んでも、見劣りしない、かな……?」
呟きつつも、サミュエルの華やかさを思い出して、やっぱりダメかもしれないと思ってしまう。元々の出来が違うのだ。
「何をおっしゃいますか。ノア様が見劣りするなんてあり得ませんよ。こんなに美しくて愛らしいのですから。むしろ、サミュエル様が霞んでしまわれるかもしれませんね」
「それは身内贔屓がすぎるよ……」
真剣な表情で褒め称えてくれるロウに、ノアは苦笑した。お世辞だと分かっていても、そう言ってもらえるのは嬉しいけれど。
ロウはそんなノアに何か言いたげな表情をしたけれど、侍女から声をかけられて口を閉ざした。
「ノア様。サミュエル様がご到着です」
「分かった。今出迎えに――」
ノアの応えを遮るようにざわめきが聞こえる。準備の慌ただしさとは違うようだ。
首を傾げつつ立ち上がったところで、ざわめきの元が顔を覗かせた。侍女が少し呆れた表情をしながらさがる。
「サミュエル様……」
ノアの出迎えを待たずに、サミュエルの方からやって来てしまったらしい。
サミュエルにとってはもう慣れた家であろうとも、少しマナー違反である。
ノアは振り回されることになる使用人たちのためにも、少しは咎めようと口を開いた。でも、すぐに息を飲んで固まってしまう。
「やぁ、ノア。気持ちが逸って、案内を待たずに来てしまったよ。……うん、今日は一段と美しいね。私以外に見せてしまうのがもったいないくらいだ」
微笑み近づいてきたサミュエルは、ノアを口説くように甘い眼差しで褒め称える。流れるように頬にキスされて、ノアは反射的にキスを返した。
ノアが呆然としてしまったのは、サミュエルがいつも以上に輝きを放っているように見えたからだ。
少し翠がかったグレーのスーツはノアが選んだもの。ハンカチーフは淡い紫色で、ボタンにはアメジストを使い銀装飾してある。
サミュエルの優れた体型にピッタリと合い、想像していた以上に魅力的になっていた。
「……サミュエル様も、格好いいです」
「ありがとう。ノアが選んでくれたスーツ、すごく気に入ったよ」
なんとか感想を口にしたノアに、サミュエルが満面の笑みを向ける。幸福感と喜びが溢れたような雰囲気だ。
ノアはうっとりとサミュエルを見上げた。こんなに素敵な人が婚約者なのだと改めて思い、ノアも幸せな気分だった。パーティーへの少し憂鬱な気分も、今だけは消え去ってしまう。
言葉を失くして見つめるノアに何を思ったのか、サミュエルが熱の籠った眼差しをノアに向けた。
「――そんなに見つめられたら、このまま食べてしまいたくなるよ。誰にも見せずに、私だけのものに……」
近づいてくるサミュエルの顔。この後何が起きるかなんて分かりきっていて、ノアは静かに目を瞑った。
しっとりと重なる唇。触れるだけだったそれが、次第に唇を食むようになり、ノアの息が乱れる。
「ん……」
「……あぁ……本当に、閉じ込めてしまいたい」
ノアはサミュエルの胸に凭れて息を整えながら、その愛おしげな囁きに頬を緩めた。
会場はランドロフ侯爵邸のホールを選んだから、移動する手間はない。でも、主役ということでノアは嬉々とした使用人たちに飾り立てられることになっているのだ。
朝起きたら湯浴みの後にマッサージ。昼食をとりながらパーティーの準備の最終確認をして、その後は晴れ着に身を包む。
晴れ着はサミュエルが贈ってくれた。色はラベンダーグレーで、ノアの華奢な体型を強調するようなスラッとしたスーツだ。
使用人たちが「ノア様の瞳のお色のようで美しい!」と絶賛していた。サミュエルのセンスはさすがである。
自身も褒められる形になり、ノアは少し照れてしまった。
ボタンはサミュエルの瞳の色のようなエメラルドが使われ、金装飾されている。ハンカチーフも淡い翠色だ。婚約者の色を衣装に取り入れるのが、現在の流行りらしい。
聞いたときは、もし致命的なくらい合わない色だったら、悲惨なことになる流行りだなぁと思った。幸いにして、ノアの場合はサミュエルのセンスのおかげか、上手く調和している。
「――僕の場合は、ね……」
自分の思考に独り言が零れた。ノアの髪を整えてくれていたロウから視線を向けられたけれど、「なんでもない」と返しておく。内心はなんでもなくないけれど。
サミュエルから晴れ着を贈られたということは、ノアの方もお返しをしたということで。
今日のサミュエルの装いは、ノアがコーディネートして贈ったのだ。ノアは正直不安である。精一杯考えて選んだけれど、自分のセンスをあまり信用していない。
(まあ、サミュエル様なら、よほどおかしなものでなければ着こなしてくれるだろうけど……。でも、こんな素敵なものをいただいたんだから、ちゃんと似合うものになっていれば良いなぁ)
ノアのセンスがないと思われるのは良いけれど、それでサミュエルの魅力度が下がることになったら悲しい。美しい人は美しいままであってほしいので。
「ノア様、このような感じでよろしいですか?」
「うん、ありがとう」
軽く化粧まで施され、髪を整えられると、いつもとは違った自分が鏡に写っていた。
地味な容姿だと思っていたけれど、サミュエルが贈ってくれたスーツのおかげか、いつもより数段華やかになっている。
「――これなら、サミュエル様の隣に並んでも、見劣りしない、かな……?」
呟きつつも、サミュエルの華やかさを思い出して、やっぱりダメかもしれないと思ってしまう。元々の出来が違うのだ。
「何をおっしゃいますか。ノア様が見劣りするなんてあり得ませんよ。こんなに美しくて愛らしいのですから。むしろ、サミュエル様が霞んでしまわれるかもしれませんね」
「それは身内贔屓がすぎるよ……」
真剣な表情で褒め称えてくれるロウに、ノアは苦笑した。お世辞だと分かっていても、そう言ってもらえるのは嬉しいけれど。
ロウはそんなノアに何か言いたげな表情をしたけれど、侍女から声をかけられて口を閉ざした。
「ノア様。サミュエル様がご到着です」
「分かった。今出迎えに――」
ノアの応えを遮るようにざわめきが聞こえる。準備の慌ただしさとは違うようだ。
首を傾げつつ立ち上がったところで、ざわめきの元が顔を覗かせた。侍女が少し呆れた表情をしながらさがる。
「サミュエル様……」
ノアの出迎えを待たずに、サミュエルの方からやって来てしまったらしい。
サミュエルにとってはもう慣れた家であろうとも、少しマナー違反である。
ノアは振り回されることになる使用人たちのためにも、少しは咎めようと口を開いた。でも、すぐに息を飲んで固まってしまう。
「やぁ、ノア。気持ちが逸って、案内を待たずに来てしまったよ。……うん、今日は一段と美しいね。私以外に見せてしまうのがもったいないくらいだ」
微笑み近づいてきたサミュエルは、ノアを口説くように甘い眼差しで褒め称える。流れるように頬にキスされて、ノアは反射的にキスを返した。
ノアが呆然としてしまったのは、サミュエルがいつも以上に輝きを放っているように見えたからだ。
少し翠がかったグレーのスーツはノアが選んだもの。ハンカチーフは淡い紫色で、ボタンにはアメジストを使い銀装飾してある。
サミュエルの優れた体型にピッタリと合い、想像していた以上に魅力的になっていた。
「……サミュエル様も、格好いいです」
「ありがとう。ノアが選んでくれたスーツ、すごく気に入ったよ」
なんとか感想を口にしたノアに、サミュエルが満面の笑みを向ける。幸福感と喜びが溢れたような雰囲気だ。
ノアはうっとりとサミュエルを見上げた。こんなに素敵な人が婚約者なのだと改めて思い、ノアも幸せな気分だった。パーティーへの少し憂鬱な気分も、今だけは消え去ってしまう。
言葉を失くして見つめるノアに何を思ったのか、サミュエルが熱の籠った眼差しをノアに向けた。
「――そんなに見つめられたら、このまま食べてしまいたくなるよ。誰にも見せずに、私だけのものに……」
近づいてくるサミュエルの顔。この後何が起きるかなんて分かりきっていて、ノアは静かに目を瞑った。
しっとりと重なる唇。触れるだけだったそれが、次第に唇を食むようになり、ノアの息が乱れる。
「ん……」
「……あぁ……本当に、閉じ込めてしまいたい」
ノアはサミュエルの胸に凭れて息を整えながら、その愛おしげな囁きに頬を緩めた。
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