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121.刻一刻と近づく
サミュエルと共にパーティーの流れを最終確認しながら過ごしていたら、遂にパーティーが始まる時間が近づいてきた。
「そろそろ行こうか」
「そうですね。パーティーの開始にはまだ時間の余裕がありますが」
ノアはサミュエルに促され、広間に移動する。広間は既に立食パーティーの用意が整い、既に何組かの招待客が談笑していた。
このパーティーに招いているのは、基本的に親族や深い付き合いのある貴族である。大抵がノアたちより爵位の低い者なので、玄関まで出迎えに行くことはない。
でも、今回特別な対応が必要な相手が二人いる。ルーカスとマーティンだ。王族である彼らに対しては、賓客として最上級の対応をしなければならない。自国の王族ルーカスだけならば、対応は楽だったのだけれど。
「ご婚約おめでとうございます。末永いお幸せをお祈りいたします」
「あなた、その言葉は成婚後に言うべきものよ」
いち早く到着していた招待客の一人は、ノアの叔父夫妻。子爵位を持っているが、治める領地はなく、ランドロフ侯爵領の一部を管理する仕事をしている。
ノアが子どもの頃から付き合いのある親族であり、それゆえ比較的話しやすい相手でもあった。
茶目っ気のある挨拶をした叔父を、夫人は楽しそうに微笑みながら窘めている。この二人は昔から仲が良く、両親に次いでノアが憧れる夫婦像だった。
少し緊張がほぐれ、ノアは微笑みを返す。最初に挨拶する相手が彼らで心底安堵した。彼らはノアの性格も知っているので、恐らくノアのために早く来てくれたのだろう。ノアの両親と話すため、というのも理由だろうが。
「ふふ、ありがとうございます。ぜひそのお言葉は、一年後まで取っておいてください」
ノアは叔父夫妻をサミュエルに紹介した。サミュエルは既に別のパーティーで彼らと話したことがあったようで、如才なく会話を繰り広げている。ノアでは絶対に真似できない社交力で、感心しながら見守ってしまった。
「結婚は一年後か。楽しみですね」
「本当にそうね。ノアさんが結婚する相手はどんな方になるか気になっていたのだけれど、期待を遥かに超える方で、私たちとても驚いてしまったのよ。でも、二人はとてもお似合いね。そのお召し物も素敵だわ」
夫人に褒められて、ノアはサミュエルと顔を見合わせた。服に取り入れた互いの色に早速気づかれて、少し気恥ずかしい。
サミュエルの方は嬉しそうに微笑んでノアの腰を抱き寄せ、「ありがとうございます」と当然のように返した。
「――ノア様、ルーカス殿下がそろそろご到着になります」
叔父夫妻と話していたら、いつの間にか広間には客の姿が多く見えるようになった。本格的に挨拶に回るのはパーティーの開催を宣言してからだから問題ない。でも、使用人にルーカスの到着を告げられたら、出迎えないわけにはいかない。
ノアたちは叔父夫妻と一旦別れ、玄関ホールに向かった。
続々と到着する招待客と軽く挨拶しながら待つこと暫し。ノアが微笑みを浮かべ続けて、そろそろ頬が筋肉痛になりそうだと情けないことを考えたところで、王家の紋章が掲げられた馬車が前庭に到着した。
颯爽と馬車を降りてきたのは、王子様然とした雰囲気のルーカスだ。これまで見た気楽な雰囲気が一切なく、今後国を背負う者に相応しい風格を感じた。
「サミュエル、ノア殿、招待感謝する。二人のこれからに幸多からんことを祈ろう」
「ありがとうございます。殿下に来ていただけたことは、私どもにとって誉れ高きことでございます」
「……ありがとうございます。本日は、心ばかりのものですが、パーティーをどうぞお楽しみくださいませ」
ルーカスの雰囲気に圧倒され、ノアは返事が遅くなってしまったけれど、サミュエルがすぐに対応してくれたから全く問題はなかった。やはりサミュエルは頼りになる。
(それにしても、こんなに雰囲気が変わるものか……)
ルーカスに対してサミュエルは恭しい態度を崩さない。普段は軽快なやり取りをする二人の姿は、今は完璧な主従と評されるものに変わっていた。
ノアよりもよほど社交慣れした二人だ。こういう場に相応しい振る舞いを自然にやってのけている。
一人その変化についていけず戸惑ってしまうノアは、自分の対応力のなさにため息をつきたくなった。でも、反省は後からいくらでもできる。今は主催者側としてのもてなしに集中すべきだと、思考を切り替えた。
「広間はこちらです。既にほとんどの方にお集まりいただいていまして――」
サミュエルが招待客の情報をルーカスに伝える。どの順番にルーカスが挨拶するかなど、段取りを整えるのも主催者の務めだ。
パーティー会場に戻り、この場で最も爵位が高いグレイ公爵夫妻の元にルーカスを案内する。ついでにノアも挨拶することになり、夫妻はサミュエルに似た穏やかな笑みで祝福をくれた。
ノアはトラウマに関連していたグレイ公爵邸に足を運ぶことができず、グレイ公爵夫妻とは数回挨拶したくらいの付き合いしかない。それでも温かく迎えてくれる二人のことが、ノアは既に大好きだった。
暫くルーカスを交え、五人で談笑していたところで、再び使用人から耳打ちされる。
「――マーティン殿下がそろそろご到着になります」
ついに来た。
ノアは気を引きしめて頷き、サミュエルに視線を向ける。すぐに気づいたサミュエルと共にルーカスたちに中座を詫び、再び玄関ホールに向かった。
心の中は『どうかマーティン殿下が大人しく過ごしてくれますように』という思いでいっぱいだ。
「そろそろ行こうか」
「そうですね。パーティーの開始にはまだ時間の余裕がありますが」
ノアはサミュエルに促され、広間に移動する。広間は既に立食パーティーの用意が整い、既に何組かの招待客が談笑していた。
このパーティーに招いているのは、基本的に親族や深い付き合いのある貴族である。大抵がノアたちより爵位の低い者なので、玄関まで出迎えに行くことはない。
でも、今回特別な対応が必要な相手が二人いる。ルーカスとマーティンだ。王族である彼らに対しては、賓客として最上級の対応をしなければならない。自国の王族ルーカスだけならば、対応は楽だったのだけれど。
「ご婚約おめでとうございます。末永いお幸せをお祈りいたします」
「あなた、その言葉は成婚後に言うべきものよ」
いち早く到着していた招待客の一人は、ノアの叔父夫妻。子爵位を持っているが、治める領地はなく、ランドロフ侯爵領の一部を管理する仕事をしている。
ノアが子どもの頃から付き合いのある親族であり、それゆえ比較的話しやすい相手でもあった。
茶目っ気のある挨拶をした叔父を、夫人は楽しそうに微笑みながら窘めている。この二人は昔から仲が良く、両親に次いでノアが憧れる夫婦像だった。
少し緊張がほぐれ、ノアは微笑みを返す。最初に挨拶する相手が彼らで心底安堵した。彼らはノアの性格も知っているので、恐らくノアのために早く来てくれたのだろう。ノアの両親と話すため、というのも理由だろうが。
「ふふ、ありがとうございます。ぜひそのお言葉は、一年後まで取っておいてください」
ノアは叔父夫妻をサミュエルに紹介した。サミュエルは既に別のパーティーで彼らと話したことがあったようで、如才なく会話を繰り広げている。ノアでは絶対に真似できない社交力で、感心しながら見守ってしまった。
「結婚は一年後か。楽しみですね」
「本当にそうね。ノアさんが結婚する相手はどんな方になるか気になっていたのだけれど、期待を遥かに超える方で、私たちとても驚いてしまったのよ。でも、二人はとてもお似合いね。そのお召し物も素敵だわ」
夫人に褒められて、ノアはサミュエルと顔を見合わせた。服に取り入れた互いの色に早速気づかれて、少し気恥ずかしい。
サミュエルの方は嬉しそうに微笑んでノアの腰を抱き寄せ、「ありがとうございます」と当然のように返した。
「――ノア様、ルーカス殿下がそろそろご到着になります」
叔父夫妻と話していたら、いつの間にか広間には客の姿が多く見えるようになった。本格的に挨拶に回るのはパーティーの開催を宣言してからだから問題ない。でも、使用人にルーカスの到着を告げられたら、出迎えないわけにはいかない。
ノアたちは叔父夫妻と一旦別れ、玄関ホールに向かった。
続々と到着する招待客と軽く挨拶しながら待つこと暫し。ノアが微笑みを浮かべ続けて、そろそろ頬が筋肉痛になりそうだと情けないことを考えたところで、王家の紋章が掲げられた馬車が前庭に到着した。
颯爽と馬車を降りてきたのは、王子様然とした雰囲気のルーカスだ。これまで見た気楽な雰囲気が一切なく、今後国を背負う者に相応しい風格を感じた。
「サミュエル、ノア殿、招待感謝する。二人のこれからに幸多からんことを祈ろう」
「ありがとうございます。殿下に来ていただけたことは、私どもにとって誉れ高きことでございます」
「……ありがとうございます。本日は、心ばかりのものですが、パーティーをどうぞお楽しみくださいませ」
ルーカスの雰囲気に圧倒され、ノアは返事が遅くなってしまったけれど、サミュエルがすぐに対応してくれたから全く問題はなかった。やはりサミュエルは頼りになる。
(それにしても、こんなに雰囲気が変わるものか……)
ルーカスに対してサミュエルは恭しい態度を崩さない。普段は軽快なやり取りをする二人の姿は、今は完璧な主従と評されるものに変わっていた。
ノアよりもよほど社交慣れした二人だ。こういう場に相応しい振る舞いを自然にやってのけている。
一人その変化についていけず戸惑ってしまうノアは、自分の対応力のなさにため息をつきたくなった。でも、反省は後からいくらでもできる。今は主催者側としてのもてなしに集中すべきだと、思考を切り替えた。
「広間はこちらです。既にほとんどの方にお集まりいただいていまして――」
サミュエルが招待客の情報をルーカスに伝える。どの順番にルーカスが挨拶するかなど、段取りを整えるのも主催者の務めだ。
パーティー会場に戻り、この場で最も爵位が高いグレイ公爵夫妻の元にルーカスを案内する。ついでにノアも挨拶することになり、夫妻はサミュエルに似た穏やかな笑みで祝福をくれた。
ノアはトラウマに関連していたグレイ公爵邸に足を運ぶことができず、グレイ公爵夫妻とは数回挨拶したくらいの付き合いしかない。それでも温かく迎えてくれる二人のことが、ノアは既に大好きだった。
暫くルーカスを交え、五人で談笑していたところで、再び使用人から耳打ちされる。
「――マーティン殿下がそろそろご到着になります」
ついに来た。
ノアは気を引きしめて頷き、サミュエルに視線を向ける。すぐに気づいたサミュエルと共にルーカスたちに中座を詫び、再び玄関ホールに向かった。
心の中は『どうかマーティン殿下が大人しく過ごしてくれますように』という思いでいっぱいだ。
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