貧乏子爵令息のオメガは王弟殿下に溺愛されているようです

asagi

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Ⅱ-ⅲ.あなたに満たされる

2-26.避暑地で過ごす日常

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 夏の盛りに近づく頃。僕たちは予定通り、ブルガラ領の避暑地にやって来た。
 代官への挨拶を昨日済ませてから、領都郊外の別荘――という名だけど、普通にお城――に移動して、たっぷり休んだので元気いっぱい。旅の疲れもないよ。

「ジル様、お散歩に行きますか?」

 朝食をとって早々に、僕が外を指して言うと、ジル様はなにかを考えるように目を細めた。

「……イリス、マイルス、どうだと思う?」
「体調に変化ございませんので、近くを散策なさる程度でしたら大丈夫かと」
「一番初めに察知できるのは殿下でしょう。念の為、すぐに戻れるよう手配をしておきます」

 三人ともなにを話してるんだろう?
 きょとんとしてたら、イリスに苦笑された。そして、近づいてきて耳元で囁かれる。

「予定では、そろそろフラン様の発情期ヒートが来ますので」
「あ……」

 そうだった。そのためにブルガラ領に寄ったようなものなのに、すっかり忘れてしまっていた。

 今後のことを考えた途端、頬が熱くなる。
 覚悟はしているつもりだけど、やっぱり恥ずかしさは消えない。僕、発情期ヒートでどうなっちゃうんだろうなぁ。

 でも、将来ジル様と子どもを作るには――というか生きていくためには、発情期ヒートを一緒に過ごすのは当然のこと。最初をクリアできれば、いずれ慣れるはず。……きっと、たぶん。

「――まだ予定日まで余裕があるので、お散歩しましょう」

 あまり考えているとドツボにはまっちゃいそうだったから、気分転換も兼ねて、改めてねだる。
 せっかく過ごしやすい気候のところに来たんだし、楽しみたいっていうのも理由の一つ。ブルガラ領は王家直轄領なだけあって、風光明媚なところのようだから。

「ああ。体調が悪くなったらすぐに言うんだぞ」
「はい、もちろんです。お気遣いありがとうございます」
「気遣いというか……まぁ、今はそれでいいか」

 ふっと笑ったジル様が立ち上がり、手を差し伸べてくる。その手を取りながら、僕は首を傾げた。
 時々、ジル様がなにを言おうとしているのか、わからなくなることがあるんだよなぁ。

「――どこを見たい」
「あの森の先に湖があると伺いました。ぜひ見てみたいです」

 別荘の周りには庭園がある。その奥には遊歩道が整備された森があり、そこを進むと美しい湖に辿り着くらしい。昨日、代官から聞いた話だ。

 この周辺一帯が王族の滞在地として侵入が制限されているから、ジル様でものびのびと散策できるはず。

 期待を込めてジル様を見上げると、すぐに頷きが返ってきた。
 その後、ジル様はなにか考えるように外に目を向ける。

「……フランは馬に乗れるか?」
「馬ですか? えっと……少しは。でも、騎士の皆さんが乗っているような体格の良い馬には乗ったことがありません」

 突然の質問に困惑しながらも答える。

 ボワージア領には数頭の馬がいて、それは馬車を引いたり、農耕を助けたり、という役目を持っていた。馬は高いし、維持費もかかるので、あまり質が良いとは言えない。

 僕は貴族子息の嗜みとして、その馬に乗る練習をしたことがある。本来オメガはそういうことをしないみたいだけど、僕は興味があったから。小兄様がとてもハラハラした表情で見守ってくれたなぁ。

 それはともかく。
 ジル様の傍に付き従う騎士たちが乗る馬は、とても立派な体格のものたちばかりだ。鎧を着た騎士だって乗せなきゃいけないんだから当然なんだろうけど。
 そういう馬たちに乗るのは、僕の練習とは感覚が違うと思う。

「そうか。それなら二人乗りが良いな」
「……えっと?」

 背後でマイルスさんがため息をつく気配がする。
 にこりと楽しそうに笑うジル様を見上げながら、ちょっと当初考えていた散策とは違う感じになりそうだなぁ、と苦笑した。
 どういう形になろうと、ジル様と共に過ごせるなら構わないけど。
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