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五章
優しさ
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「アルトリアは何故あんな能力を??」
「私達の祖は時の女神クロノスと地の英雄アルトリアとの間に産まれたと言われております」
「そーなのか」
この時、辰巳は胸に何らかの違和感を覚える。仮にそれが本当だとしたのならアルトリアは、神と人とのハーフ。だが、そんな事はどーでも良かった。
だとしたのなら、この国の嘗ての王は堕天した神との間に産まれた子。なら何故今は堕天使と戦うのか。
今考えても意味は無いと、答えもわからない疑問を唾と一緒に飲み込みシシリに話をかける。
「まあ、ともあれその力があれば俺らの戦いも楽になりそーだな」
輝明龍《ファクルタース》は、馬車など比にならないスピードで虚空を翔ける。星星の光が線となる中で、叫び声にも似た風音《ふうおん》に辰巳の声は苛まれる。が、先頭に座るシシリの反応は聞こえているようだ。
「それは、わからない。人が神に抗えないのは世の理であって神と人との間に創られたけして埋めることの出来ない奈落」
風が煩く、そして強い。瞼を細めて見続けたシシリは、そんな事を言った気がして辰巳は釈然としなかった。それは、隣に座るアルトリアのしょぼくれた表情を見たからこそ産まれたモヤモヤに違いない。と、辰巳はフォローをすべく言葉を探しているとシシリは振り向いて口を再度開いた。
「ただ、神と人とのハーフなら──あるいは」
「いいんです。もし、できる事なら私は話し合いの解決を望みたい。血を流さず」
善者の発言、人間らしい発言だ。曇りない眼で言っているんだ、冗談ではないだろう。いかにも主人公が言いそうな台詞。そして、仲間が心を打たれ主人公への気持ちを再確認さえするだろう。
「──それは、無理」
シシリは、鼻っ柱から否定をして見せた。だがこればかりは辰巳もシシリに同意見であり返す言葉もなく先頭に座る少女の小さい背を見つめる。
「血を流さず。これに関しては、自分勝手。もう血は流れているでしょ?」
確かに。と、アルトリアは俯き眉を顰めた。辰巳は宥めるようにユックリと言った。
「アルトリア。王は独裁者でなくてはならない。優しさや同情は人を貶めずとも国を滅ぼす。前にも言ったが、血を流す戦争はもう始まっているんだ」
「アルトリア様。我々は、前に進むしか道はありません。前途多難でしょう。怖いでしょう。それでも貴女様は屍を踏み越え、その先にある頂へと手を伸ばすのです」
バルハは、胸に手を当て一度深く息を吸いこみ吐き出し神妙な趣で、
「いいえ。伸ばし、そして掴み取らなきゃいけないのです。王家としてアルトリアが産れ持ち、そして天から与えられた宿命なのです」
「バルハ──」
零れ落ちた言葉を、バルハは優しく掬いあげた。それこそ、我が子を抱き締めるように。今考えれば、バルハとアルトリアはけして大きく立派な建物とは言えない古臭い建物で二人水入らずで育ってきた。親子当然、だからこそバルハはアルトリアの今ある痛みが分かるのだろう。
「故に、私が貴女様に付き従うのもまた、宿命。私に、貴女が示した光の先を見せてください」
「分かったわ……。ですが、無駄な血は流したくありません。天使に私の力が通じなくとも虫たちには通用しました。人命救助を優先してください」
「分かった、アルトリアの命に従うさ」
「マスターが決めたなら従う」
「ありがとう。ここから先は安心して眠れねぇな。まあ、この為に呼ばれたのなら安眠出来ていた方が不思議だよな」
アルトリアは、問うた。
「そーいえば、ゆかりの地の話を聞いてませんでしたね。どんな場所だったのですか?」
「ああ……。元居た、場所か」
未だまだ高い空を仰ぎ見てみて、ふと思い出す。
「なんもない世界。何も始まらない世界。何かを掴むことさえ許されなかった世界。不自由と不便さに振り回された世界。なんら、ここと変わらないさ。ただ、そう、ただ……アルトリアの様に考える奴……ッてーのは居なかったな」
「そうなんですか?」
「ああ。皆が皆、第一に自分の事を考えている。現にこの俺だってそーだった」
変わりたいと思っていた頃も辰巳にだってあった訳だが、いつの間にか社会の輪にハマり遠くの過去へと置き去りにしていた。
必死で自分を守り、人間関係と言った社会から省かれない様にと作り笑いをしてきたのだ。けして楽しいとは言えなかった過去を振り返って出るのはただただ、乾いた溜息。
肩を落とし、嫌いな自分と向き合い嫌悪を抱いているとアルトリアは体制を変えて辰巳と向き合う。
風の抵抗がタダでさえ強いにも関わらず、危険を顧みず、蹌踉めきながらも膝を立て辰巳の額に手を添えた。
「でも、今のタツミは自分を傷つける危険があっても私を護ると言ってくれました」
「それは、シシリが居る甘えもあるんだ」
罪悪感だった。自分に何とか出来なくてもシシリが何とかしてくれる。心のどこかでいつも辰巳は思っていた。だが、同時に葛藤もなかった訳では無い。
しかし、それ自体が甘えだと辰巳は胸の奥に収めた。
アルトリアは、非常に落ち着き穏やかな表情で、
「人は皆、甘えます。私だって王の血を引き継ぎながらも現にバルハに甘え、そして会ってまもないタツミにも甘えています。それは、私が貴方に対して抗う力を見ているからです。私には無い力を、可能性を感じているからなんですよ」
優しい声音に、辰巳は自分に沸いた熱が冷めていくのを感じた。額に手を添えただけなのに伝わる温もりは少しアルトリアの律動を命を教えてくれる。
心拍数は、落ち着いた表情とは裏腹に早い。彼女もまた、様々な思いを抱き口にしているのだろう。色々考えた辰巳は短く頷いた。
「ありがとう。甘えが悪い──とか、ないんだよな」
「はい。少なからず、私は甘ったれです」
「それは、違うな。アルトリアは、人に甘いが強い」
自分に甘い人間が、人に優しく出来るはずがない。利益もない相手に、国に対して関係を持たない人間が肩入れするはずもない。辰巳はあって数十時間の間にアルトリアの事を人としてカッコイイと思ってはいた。思っていたからこそ、意を伝えようと額に触れた手を取ろうとした時。
──シシリからは放たれた穏やかじゃない言葉は、現実へと叩き落とす。
「マスター、話はそのへんにして。目の前に無数の敵影確認。数十秒で、対敵する」
「私達の祖は時の女神クロノスと地の英雄アルトリアとの間に産まれたと言われております」
「そーなのか」
この時、辰巳は胸に何らかの違和感を覚える。仮にそれが本当だとしたのならアルトリアは、神と人とのハーフ。だが、そんな事はどーでも良かった。
だとしたのなら、この国の嘗ての王は堕天した神との間に産まれた子。なら何故今は堕天使と戦うのか。
今考えても意味は無いと、答えもわからない疑問を唾と一緒に飲み込みシシリに話をかける。
「まあ、ともあれその力があれば俺らの戦いも楽になりそーだな」
輝明龍《ファクルタース》は、馬車など比にならないスピードで虚空を翔ける。星星の光が線となる中で、叫び声にも似た風音《ふうおん》に辰巳の声は苛まれる。が、先頭に座るシシリの反応は聞こえているようだ。
「それは、わからない。人が神に抗えないのは世の理であって神と人との間に創られたけして埋めることの出来ない奈落」
風が煩く、そして強い。瞼を細めて見続けたシシリは、そんな事を言った気がして辰巳は釈然としなかった。それは、隣に座るアルトリアのしょぼくれた表情を見たからこそ産まれたモヤモヤに違いない。と、辰巳はフォローをすべく言葉を探しているとシシリは振り向いて口を再度開いた。
「ただ、神と人とのハーフなら──あるいは」
「いいんです。もし、できる事なら私は話し合いの解決を望みたい。血を流さず」
善者の発言、人間らしい発言だ。曇りない眼で言っているんだ、冗談ではないだろう。いかにも主人公が言いそうな台詞。そして、仲間が心を打たれ主人公への気持ちを再確認さえするだろう。
「──それは、無理」
シシリは、鼻っ柱から否定をして見せた。だがこればかりは辰巳もシシリに同意見であり返す言葉もなく先頭に座る少女の小さい背を見つめる。
「血を流さず。これに関しては、自分勝手。もう血は流れているでしょ?」
確かに。と、アルトリアは俯き眉を顰めた。辰巳は宥めるようにユックリと言った。
「アルトリア。王は独裁者でなくてはならない。優しさや同情は人を貶めずとも国を滅ぼす。前にも言ったが、血を流す戦争はもう始まっているんだ」
「アルトリア様。我々は、前に進むしか道はありません。前途多難でしょう。怖いでしょう。それでも貴女様は屍を踏み越え、その先にある頂へと手を伸ばすのです」
バルハは、胸に手を当て一度深く息を吸いこみ吐き出し神妙な趣で、
「いいえ。伸ばし、そして掴み取らなきゃいけないのです。王家としてアルトリアが産れ持ち、そして天から与えられた宿命なのです」
「バルハ──」
零れ落ちた言葉を、バルハは優しく掬いあげた。それこそ、我が子を抱き締めるように。今考えれば、バルハとアルトリアはけして大きく立派な建物とは言えない古臭い建物で二人水入らずで育ってきた。親子当然、だからこそバルハはアルトリアの今ある痛みが分かるのだろう。
「故に、私が貴女様に付き従うのもまた、宿命。私に、貴女が示した光の先を見せてください」
「分かったわ……。ですが、無駄な血は流したくありません。天使に私の力が通じなくとも虫たちには通用しました。人命救助を優先してください」
「分かった、アルトリアの命に従うさ」
「マスターが決めたなら従う」
「ありがとう。ここから先は安心して眠れねぇな。まあ、この為に呼ばれたのなら安眠出来ていた方が不思議だよな」
アルトリアは、問うた。
「そーいえば、ゆかりの地の話を聞いてませんでしたね。どんな場所だったのですか?」
「ああ……。元居た、場所か」
未だまだ高い空を仰ぎ見てみて、ふと思い出す。
「なんもない世界。何も始まらない世界。何かを掴むことさえ許されなかった世界。不自由と不便さに振り回された世界。なんら、ここと変わらないさ。ただ、そう、ただ……アルトリアの様に考える奴……ッてーのは居なかったな」
「そうなんですか?」
「ああ。皆が皆、第一に自分の事を考えている。現にこの俺だってそーだった」
変わりたいと思っていた頃も辰巳にだってあった訳だが、いつの間にか社会の輪にハマり遠くの過去へと置き去りにしていた。
必死で自分を守り、人間関係と言った社会から省かれない様にと作り笑いをしてきたのだ。けして楽しいとは言えなかった過去を振り返って出るのはただただ、乾いた溜息。
肩を落とし、嫌いな自分と向き合い嫌悪を抱いているとアルトリアは体制を変えて辰巳と向き合う。
風の抵抗がタダでさえ強いにも関わらず、危険を顧みず、蹌踉めきながらも膝を立て辰巳の額に手を添えた。
「でも、今のタツミは自分を傷つける危険があっても私を護ると言ってくれました」
「それは、シシリが居る甘えもあるんだ」
罪悪感だった。自分に何とか出来なくてもシシリが何とかしてくれる。心のどこかでいつも辰巳は思っていた。だが、同時に葛藤もなかった訳では無い。
しかし、それ自体が甘えだと辰巳は胸の奥に収めた。
アルトリアは、非常に落ち着き穏やかな表情で、
「人は皆、甘えます。私だって王の血を引き継ぎながらも現にバルハに甘え、そして会ってまもないタツミにも甘えています。それは、私が貴方に対して抗う力を見ているからです。私には無い力を、可能性を感じているからなんですよ」
優しい声音に、辰巳は自分に沸いた熱が冷めていくのを感じた。額に手を添えただけなのに伝わる温もりは少しアルトリアの律動を命を教えてくれる。
心拍数は、落ち着いた表情とは裏腹に早い。彼女もまた、様々な思いを抱き口にしているのだろう。色々考えた辰巳は短く頷いた。
「ありがとう。甘えが悪い──とか、ないんだよな」
「はい。少なからず、私は甘ったれです」
「それは、違うな。アルトリアは、人に甘いが強い」
自分に甘い人間が、人に優しく出来るはずがない。利益もない相手に、国に対して関係を持たない人間が肩入れするはずもない。辰巳はあって数十時間の間にアルトリアの事を人としてカッコイイと思ってはいた。思っていたからこそ、意を伝えようと額に触れた手を取ろうとした時。
──シシリからは放たれた穏やかじゃない言葉は、現実へと叩き落とす。
「マスター、話はそのへんにして。目の前に無数の敵影確認。数十秒で、対敵する」
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