コードペンダントの愛玩

柊わたる

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after story II 友達

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 二人は、ロゼが目覚めた書斎へと向かった。無数の古本が並んでいて、どれも綺麗な状態に保たれている。セオドアは、落ちている一冊の厚本を見て言う。
「記憶を奪うのも心臓を止めるのも、君を消すから同じことでしょ?薔薇が欲しいって俺の願いを叶えてくれたたった一人の友達……そんな君が、このまま何も残らずに居なくなるのは嫌だった。俺は、君には幸せになって欲しかったんだよ」
「つまり全部お前のエゴか」
 友達という言葉には触れず、ロゼは静かに返す。
「そうだよ。俺は、奇跡の魔法使いじゃない俺を見てくれる人が欲しかった。そんな俺の願いを叶えるのは、ロゼが良かったんだ。ずっと友達として一緒に居たかったけど、あの子は君じゃなかった。君の幸せは、あげられなかった」
「最悪だな。殺しとけば与えられたのに」
「そう、俺は最悪」
 セオドアは、倒れた脚立を戻した。そして本を拾うと、一段登ってから丁寧に棚へしまった。

「多分、そこから落ちて頭を打った」
「背が小さいから、一番上まで登ったんだね」
 成人男性の身長平均を優に超えるセオドアには、小柄な少年のままでいるロゼが頑張って脚立を登っていたことが愛おしく思えた。
 自然とロゼの頭に手が伸びたが、軽く振り払われる。
「あのババアよりは高ぇぞ。馬鹿にすんなよ」
 あのババアは、ロゼの母親のことだ。セオドアは、それを分かったうえで何も言わなかった。
 ただ心のどこかで、すぐムキになるロゼに、どこか懐かしさを感じている。
「おい、何にやついてんだ」
「君はずっと変わらないね。口が悪い」
「半分はお前が原因だけどな」
 二人は言葉を交わしていく内に、今とは違う互いを想像した。セオドアは、今のロゼを。ロゼは、昔のセオドアを。
「なぁ、もう一回頭を刺激すれば戻るか?」
 ロゼは、不安そうにセオドアを見上げる。本来いるべき場所は、ここではないと分かっていたから。
「危ないからダメ。もう一度、忘却魔法をかける」
「それ、お前の好きなロゼは消えないか?」
「消えないよ」
 ロゼは安心したのか、目を閉じると小さく笑った。初めて見る、不遇な少年の笑顔。セオドアの愛するロゼとは違って、どこか大人びている。
「なら、さっさとやれ。ここには、俺の知るセオドアはいないんだ。変態となんか居たくねぇ」
「こっちこそ。ここに、君は要らないんだ。俺の可愛いロゼだけが、ここにいていい」
 二人は手を取り合うと、白い光がロゼを覆っていく。
「二度と失敗作を呼び戻すな。俺の願い、叶えてくれるか?」
「それがロゼの望みなら」
「……ありがとな。俺は幸せ者だよ」
 光が弾け飛び、ロゼは倒れた。セオドアは、そっと身体を抱える。
「今度は、ちゃんと君を幸せにできたかな」
 黒いローブを羽織った傷と痣だらけの少年の願いと幸せを、セオドアはようやく満たすことができた。どこか、セオドア自身まで満たされた気がした。
 そして、思い出の中にいる友達に別れを告げて、すやすやと息を立てる愛し子を撫でた。

「ん……あれ」
「おはよう、ロゼ。よく眠っていたね」
 早朝、ベッドの上で目を覚ましたロゼは幼なげなロゼに戻っていた。
「俺、掃除してた……うぅ、喉痛い」
 細い指で喉を触るロゼをセオドアは抱き寄せる。夢現な声で名前を呼ばれて、気が緩む。
「変な夢を見ていたんだね。たくさん寝言を言っていた」
「セオドアも、いい夢みた?」
「みたよ。昔の友達と会った」
 すると、ロゼは毛布から脱出しようと動く。今の距離では、セオドアの顔がよく見えないからだ。
「友達って何?」
「話してて楽しい人」
「俺は?」
「友達よりもずっと大好きな子」
 セオドアは、ロゼの額にキスを落とすと「顔、洗いに行こうか」と身体を起こした。
 ロゼも、セオドアの後を追ってベッドから下りる。
「あれ?何で俺、ズボン履いてるんだ?」
 ロゼは、それがセオドアの物だと気付かずに、そのまま脱いで床へ放置した。
 セオドアが再び手で顔を覆い頭を悩ませるまで、後数秒。
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