コードペンダントの愛玩

柊わたる

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after story 過去の君と

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「ふんふーん」
 ある日の夕方、ロゼは本棚の掃除をしていた。埃は一切ないのに、鼻歌混じりに棚の上を叩いている。ちなみに本はあまり読んだことがない。
 ただ、今日のロゼは珍しくある一冊に興味を示した。
「……こういうのって、どんなこと書いてあるんだろう?」
 ロゼは、上段にある一際分厚い本を手に取る。が、想像よりも重みがあり、ロゼは本に勝てずバランスを崩した。
「うわっ」
 鈍い音が部屋に鳴る。そして、家には静寂が訪れた。

「ロゼ?どこにいるの?」
 数時間後、教会から帰ったセオドアはロゼを探していた。今日は、帰っても何の反応もなく家中を周っても姿が見えなかった。
「おかしい……」
 家出未遂の日から、セオドアはロゼに一人での外出を禁じた。ロゼも、それを嬉しそうに受け入れた。それなのに、どうして。
 玄関に戻り、家の裏を確認しようとした時、夜闇の中から一つの影が襲いかかってきた。

「お前、セオドアか?」
 長い黒髪に、赤い目の青年。聞き慣れたはずの声は低く、威圧感を持っている。簡単に折れてしまいそうな腕で、セオドアを殴ろうとする。それを優しく抑えると、セオドアは息を吐いた。
「戻ってきちゃったんだね、ロゼ」
「あぁ。お前、俺を殺したんじゃねぇのかよ。散々願い聞かせろって言ってきたくせに、叶えてくれやしないんだな変態野郎」
「へん……っ」
 普段のロゼからは想像もつかない強い口調で、セオドアに言葉の刃を刺す。彼は、セオドアに記憶を奪われる前のロゼだった。狂犬じみた反発的な態度で、セオドアに噛み付く。
「好き勝手してくれるな。人のこと愛玩動物ペットみたいに扱って、シャツ一枚で放置しやがって。奇跡の魔法使い様はとんだ悪趣味だな。これならあいつらに殴られてる方がまだマシだった」
「違うよ、俺はロゼを一人の人間として愛してる」
「ならズボンくらい履かせろよ変態。てか、お前の愛でてる俺はどんな人間なんだ。下着も無しに露出狂かよ」
 ブカブカのズボンをベルトで無理矢理固定させたロゼが、吐き捨てるように言う。投げられた正論に、セオドアは両手で顔を覆った。
「ロゼの服はあるんだ……なのに、あの子は全く着ようとしない。何度言い聞かせても、俺の服以外は嫌がるんだよ。他は素直なのに……」
「……お前、知らねぇ俺にどんな教育してんだよ。随分と変わっちまったな変態」
「変態はやめて……」
 反抗期のロゼは、それ以降もセオドアを罵倒した。虐げられて育った十五歳の語彙力は乏しくて、すぐに変態と連呼し始めた。
 そして、疲れたのか急に大人しくなった。掠れた声で、セオドアをじっと睨んで呟いた。
「……なんで、俺の記憶だけを奪った。俺は、もう全部無くしたかったのに」
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