桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎(くちき おうさい)

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第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)

第58話 開戦

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「行くぜ、ウツロっ――!」

「来い、万城目日和まきめ ひよりっ――!」

 戦いの火ぶたは切って落とされた。

「くらいなっ!」

 ウツロの上段に、万城目日和が右手を振り下ろす。

 虎の爪を模した古代インドの暗器・バグナク。

「ふんっ!」

 ウツロはその動きを見切り、次への起こりを遅らせるため、わざとすれすれで左へよけた。

「甘えぜっ!」

 万城目日和は難なく体をひねり、左のひじをたたきつける。

「はあっ!」

 ウツロはやはり顔面のすれすれで、黒刀こくとうのさやでもって攻撃を受け止めた。

「まだまだあっ!」

 万城目日和はさらに回転する。

 左脚での下段。

「ふっ!」

 跳躍してよける。

「おらあっ!」

 中空へ移動したボディに、今度は右脚でえぐるように蹴り上げる。

「はっ!」

 刀の上下を握り、盾のようにしてそれを防ぐ。

 その勢いを利用して後方へ下がり、しっかりと間合いを取った。

「全部読んでたな? やるじゃねえか、ウツロ。氷潟ひがたにあれだけボコられといて、よくもそんなに動けるもんだぜ。まったく、あいつに負けただなんて信じられねえくらいだな」

 万城目日和はしかけず、会話を切り出した。

「くしくも同じ似嵐流にがらしりゅう、むしろ氷潟のときよりも戦いやすいぞ?」

「けえっ、きざったらしいやつだな」

「なぜ旧校舎に聖川ひじりかわをよこした?」

「決まってんだろ? おまえをぶっ殺すのは、俺がしたいからさ。せっかく苦労して黒帝こくていにもぐりこんで、いままでこつこつと準備してきたんだぜ? 刀子かたなごなんかに横取りされてたまるかよ」

「最初に龍子りょうこがさらわれたときは? なぜ俺を体育倉庫へ誘導した?」

「まさかおまえのためだとでも思ったのか? 真田さなだにもし何かあったら、今後の計画がパーになる可能性がある。そう思ったからだよ。実際、おまえをここに誘うのには、最高のエサになったしなあ」

「貴様っ――!」

「ははっ、ほんと、真田のことになるとムキになるよな、おまえ。ああっ、龍子~、龍子~」

「それ以上の侮辱は許さない……!」

「ふん、言ってろよ、色ボケ毒虫野郎。そうやって激高してるフリをして、俺を油断させようって腹なくせによ。ああっ?」

「おや、残念だな。見破られてしまったか。まあ、この程度の術式にかかってくれるようなやつなんかじゃないと、見越してはいたがな」

「へえっ、そうですか! いちいちムカつく野郎だぜ、おまえはよ!」

「どうした? かかってこないのか?」

 ウツロはあいかわらず揺さぶりをかけているが、それに引っかかるような万城目日和ではなかった。

「どうだ、ウツロ? 普通に戦うのももちろんいいが、どうにも決着がつきそうにねえ。そうは思わねえか?」

「アルトラで勝負したいということか?」

「ははっ、理解が早くて助かるぜ」

「俺もまどろっこしいのは好きじゃないな」

「ふん。じゃあ出しな、てめえのとっておきをよ?」

「いいだろう……」

「……」

 ウツロは呼んだ。

 彼の盟友である存在を。

「虫たちよ、俺に力を貸してくれ!」

「ふっ」

 ぞろぞろと集まってくる。

 影から、闇から、異形の者どもが。

 盟主の願いを成就するために。

 ウツロはたちどころに、毒虫の戦士の姿へと変貌をとげた。

 万城目日和はその光景をニヤニヤと見つめている。 

「醜い、でも美しいってとこか。こういうトンチみてえなこと、おまえ好きなんだろ?」

「いいから、おまえもアルトラを出したらどうだ?」

「はっ、つまんねえやつ。まあいい、後悔させてやるぜ、ウツロ?」

「……」

 彼女は天を仰ぎ、精神を集中させた。

「アルトラ、リザード……!」

「これ、は……」

 肌が土色に変化する。

 皮膚はただれたように膨れあがり、爪はといえば幾層にも重なって硬くとがっていく。

「万城目日和……これが、おまえの能力か……!」

 少女の姿は一匹の、どう猛なトカゲへと変じていた――
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