桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎(くちき おうさい)

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第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)

第72話 処遇

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 倉庫の中へ数名の黒服たちが入ってきて、意識を失った星川皐月ほしかわ さつき、ならびに刀子朱利かたなご しゅり氷潟夕真ひがた ゆうまを、中型のバンに乗せて「回収」していった。

「虎太郎くんよ、いったいどういうつもりだ?」

 真田虎太郎さなだ こたろうはアルトラ「イージス」の能力で、ウツロと万城目日和まきめ ひよりの応急処置を試みている。

「姉さんほどの回復力はありませんが、それでも気休め程度にはなるかと思います」

「だから、ウツロはともかく、なんで俺まで助けるんだよ? 俺はおまえの姉ちゃんをさらったんだぜ? 恨むならともかくさ」

「さあ、僕にもよく、わかりません」

「……」

 彼については情報を持っているだけだったが、万城目日和には少し、どういう人間なのかわかってきた。

 ウツロと同じく、甘ちゃん野郎。

 しかしおそらく、自分は負けている。

 精神的な強さという意味で。

 その強さとはやはり、ウツロのいうとおり、おのれの弱さと向き合うことから生じているのだろう。

 それを考えていると、なんだか自分のやってきたことが、おそろしくバカげているように思えてきた。

「万城目日和さん、あなたの眠らせるにおいの効力は、時間に換算してどれくらい持続するものなのかしら?」

 銃を懐にしまった甍田美吉良いらかだ よしきらがたずねてくる。

「ま、だいたい半日強ってとこか。ちょうど明日の朝くらいには目を覚ますだろうぜ」

「そう、ありがとう。それを聞いて、安心したわ」

 彼女はきびすを返し、その場を立ち去ろうとした。

「お待ちください、兵部卿ひょうぶきょう。俺たちをあなたがたの組織、龍影会りゅうえいかいの総帥閣下のところへ、連行するのではないのですか?」

 甍田美吉良は足を止めて振り返った。

「今回の件は不問にふす。万城目さん、あなたのことも含めてね。それが閣下のご意思よ」

 彼女は薄くほほえんでみせた。

「いいのかい? 俺はあんたらの組織に手ぇ出したんだぜ? そしてもちろん、今後もやるつもりだ。これがどういう意味か、大幹部・七卿しちきょうのひとりであるあんたなら、わかるよな?」

 万城目の言ったことの意味が、ウツロにはわからなかった。

 なぜだ?

 なぜ龍影会を狙う?

 日本を陰で支配するという組織に。

 勝てる見込みなど、あるとでも思っているのか?

 彼にはその理由が、気にかかってしかたがなかった。

「さあ、あのお方の考えることを把握しようなどという行為自体が、おそれおおいことだからね。ただ、これだけは告げておくわよ、万城目さん? あいつ・・・もまた、あなたを狙っている。それだけは確かに、覚えておいてね?」

「くっ……」

 ウツロは気がついた。

 「あいつ」という単語を聴いた途端、万城目日和の目つきが変わったことに。

 どういうことなんだ?

 あるいはその「あいつ」と呼ばれた人物が、彼女が組織をつけ狙う理由なのか?

 わからないことが多すぎる、あまりにも。

 そんなふうにグルグルと思考をめぐらせた。

「それじゃあ、失礼するわね。ウツロくん、あなたとはまた、会えそうな気がするわ」

「……」

 甍田美吉良は去った。

 それを確認したウツロは――

「う……」

 急激な安堵感で一気に意識が遠くなり、その場へと倒れ込んだ。

「ウツロさん!」

「おい、ウツロ! しっかりしろ!」

 無理もない。

 たった数時間のうちに、刀子朱利と氷潟夕真、そして万城目日和、おまけに星川皐月と、休む暇もなく壮絶な戦いを繰り広げたのだ。

 ここまでもったのが、むしろ奇跡である。

 たび重なる死地を越え、彼は深淵のような眠りの中へと、落ちていった――
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