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第3作 ドラゴン・タトゥーの少年 桜の朽木に虫の這うこと(三)
第24話 メイド・イン・ヘル
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「アルトラ、メイド・イン・ヘル……!」
鬼堂龍門の双眸がギラリと光った。
いったいどんな能力なのかと、万城目日和は身がまえる。
「どうした? 何も起こらねえじゃねえか?」
「おいおい、ボケ~っとしていいのか? 戦いはもう、はじまってるんだぜ――!」
「――っ!?」
鬼堂龍門の両足が、スプリングのようにねじ曲がった。
そのままぼよ~んと跳躍し、放物線を描いてこちらへ向かってくる。
「くっ!」
「遅えよ」
「があっ!」
頭部をしたたかに打たれ、万城目日和は脇のほうへ転がった。
「ふふっ、俺のアルトラ、メイド・イン・ヘルは、全身を刃物に変えることができる。バネが刃物かは、まあ、よきにはからえってとこだが」
「ははっ、ふざけた能力だな。クソ野郎のてめえにはお似合いだぜ!」
「言ってろ、間抜けが。ほれほれ、よそ見してっと――」
「うわ――」
立ち上がろうとした矢先、鋭い殺気を感じた彼女は、反射的に上体を反らした。
鬼堂龍門の人差し指が肥大化し、鋭利なサーベルに変化している。
間一髪でかわしたものの、髪の毛がいくらかきれいに切断された。
「ふふっ、首ちょんぱの刑かなあ、ああ?」
彼はサーベルを勢いよく振りかざした。
「くっ!」
万城目日和は後退してそれをよけ、反動を利用して高く跳躍する。
「もらったあ!」
鬼堂龍門の上を取り、頑丈な拳を振り下ろす。
「甘えぜ!」
髪の毛がはりねずみのようにとがって伸び、トカゲ少女は串刺しにされてしまった。
「あ、が……」
激痛が彼女を襲う。
「針の山」がスッと引き抜かれ、彼女は地面へドサッと落下した。
「痛いだろ? だが急所は外してある。そう簡単にノックアウトされたんじゃ、つまらんからなあ」
万城目日和は必死で痛みを黙らせた。
「なめん、な……!」
「ふん、においをまく気だな? やってみろ」
無色の甘い気体がぶちまかれる。
彼女の能力のひとつ、脳の神経系を麻痺させる強力な催眠ガスだ。
しかし鬼堂龍門は微動だにしない。
「な……」
「ふふっ、外側からは見えねえだろうが、体のいたるところに針を打ちこんで気つけをした。かなり痛えぜ?」
「正気かよ……」
「それほどの覚悟を持ってるってことさ。この国を守るための覚悟をな。わかるか? 俺に何かあったら、この国は終わるんだぜ? もちろん、おまえら国民もまとめてだ」
彼女は思った。
甘く見すぎていたと。
凡百な悪党のひとりにすぎないと、漠然とながら考えていた。
しかし実際は、方向性は違えど自分とは比較にならないほどの矜持を所有している。
勝てる気がしねえ……
皮肉にもそれは、戦闘能力というよりはむしろ、精神力の点においてだった。
今度はサーベルが、ハンマーの形に変わる。
「少しの間眠っててくれや。そのあとは地獄になるだろうから、休んでいられるのはいまのうちだけだぜ?」
「ちくしょう……」
屈辱だった。
仇である相手にここまでコケにされるのは。
そしてそれが、明らかに自分の実力不足であるという現実。
万城目日和は落涙した。
「ちくしょう、ちくしょう……!」
鬼堂龍門がハンマーを振りかぶる。
「おやすみ、日和ちゃん」
勢いよくそれを振り下ろした、が――
鈍い金属音がこだまする。
何か硬いものが、ハンマーを受け止めたのだ。
万城目日和は顔を上げた。
「おまえは……」
鬼堂龍門がつぶやく。
「ウツロ……」
彼だ、確かに。
黒刀の切先に手をそえ、ハンマーの動きを止めている。
「似嵐ウツロ、助太刀のため、推参つかまつる!」
鬼堂龍門の双眸がギラリと光った。
いったいどんな能力なのかと、万城目日和は身がまえる。
「どうした? 何も起こらねえじゃねえか?」
「おいおい、ボケ~っとしていいのか? 戦いはもう、はじまってるんだぜ――!」
「――っ!?」
鬼堂龍門の両足が、スプリングのようにねじ曲がった。
そのままぼよ~んと跳躍し、放物線を描いてこちらへ向かってくる。
「くっ!」
「遅えよ」
「があっ!」
頭部をしたたかに打たれ、万城目日和は脇のほうへ転がった。
「ふふっ、俺のアルトラ、メイド・イン・ヘルは、全身を刃物に変えることができる。バネが刃物かは、まあ、よきにはからえってとこだが」
「ははっ、ふざけた能力だな。クソ野郎のてめえにはお似合いだぜ!」
「言ってろ、間抜けが。ほれほれ、よそ見してっと――」
「うわ――」
立ち上がろうとした矢先、鋭い殺気を感じた彼女は、反射的に上体を反らした。
鬼堂龍門の人差し指が肥大化し、鋭利なサーベルに変化している。
間一髪でかわしたものの、髪の毛がいくらかきれいに切断された。
「ふふっ、首ちょんぱの刑かなあ、ああ?」
彼はサーベルを勢いよく振りかざした。
「くっ!」
万城目日和は後退してそれをよけ、反動を利用して高く跳躍する。
「もらったあ!」
鬼堂龍門の上を取り、頑丈な拳を振り下ろす。
「甘えぜ!」
髪の毛がはりねずみのようにとがって伸び、トカゲ少女は串刺しにされてしまった。
「あ、が……」
激痛が彼女を襲う。
「針の山」がスッと引き抜かれ、彼女は地面へドサッと落下した。
「痛いだろ? だが急所は外してある。そう簡単にノックアウトされたんじゃ、つまらんからなあ」
万城目日和は必死で痛みを黙らせた。
「なめん、な……!」
「ふん、においをまく気だな? やってみろ」
無色の甘い気体がぶちまかれる。
彼女の能力のひとつ、脳の神経系を麻痺させる強力な催眠ガスだ。
しかし鬼堂龍門は微動だにしない。
「な……」
「ふふっ、外側からは見えねえだろうが、体のいたるところに針を打ちこんで気つけをした。かなり痛えぜ?」
「正気かよ……」
「それほどの覚悟を持ってるってことさ。この国を守るための覚悟をな。わかるか? 俺に何かあったら、この国は終わるんだぜ? もちろん、おまえら国民もまとめてだ」
彼女は思った。
甘く見すぎていたと。
凡百な悪党のひとりにすぎないと、漠然とながら考えていた。
しかし実際は、方向性は違えど自分とは比較にならないほどの矜持を所有している。
勝てる気がしねえ……
皮肉にもそれは、戦闘能力というよりはむしろ、精神力の点においてだった。
今度はサーベルが、ハンマーの形に変わる。
「少しの間眠っててくれや。そのあとは地獄になるだろうから、休んでいられるのはいまのうちだけだぜ?」
「ちくしょう……」
屈辱だった。
仇である相手にここまでコケにされるのは。
そしてそれが、明らかに自分の実力不足であるという現実。
万城目日和は落涙した。
「ちくしょう、ちくしょう……!」
鬼堂龍門がハンマーを振りかぶる。
「おやすみ、日和ちゃん」
勢いよくそれを振り下ろした、が――
鈍い金属音がこだまする。
何か硬いものが、ハンマーを受け止めたのだ。
万城目日和は顔を上げた。
「おまえは……」
鬼堂龍門がつぶやく。
「ウツロ……」
彼だ、確かに。
黒刀の切先に手をそえ、ハンマーの動きを止めている。
「似嵐ウツロ、助太刀のため、推参つかまつる!」
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