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第3作 ドラゴン・タトゥーの少年 桜の朽木に虫の這うこと(三)
第34話 蛮頭寺善継
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「壱騎! ごやっかいになっている身分なのですから、女の子とイチャイチャしているひまがあるのならこちらを手伝いなさい! だいたいなんですか、そのかっこうは! きれいな黒髪でしたのに、そのようにオレンジともピンクともつかない色に染めてしまって! お父さまに合わす顔があるのですか!?」
さくら館へと乗りこんできた姫神志乃は、いきなりアパートの大掃除をはじめながら、こんなふうに息子である姫神壱騎を叱責した。
着物をたすき掛けしたかっこうはまるで時代劇である。
「わかった母さん、わかったから」
さすがの天才剣士も、この母の前ではたじたじの状態だ。
「志乃さん、なにもそんなに、がっつりやっていただかなくても大丈夫なんですよ? 少し休んで、ゆっくりしてくださいな」
龍崎湊が缶ビールをあおりながら言う。
内心は自分のやる手間が省けてラッキーだと思っているのだ。
「なにをおっしゃいますか、湊さん。のらくらのバカ息子だけではなく、わたしのお世話までしていただいているのです。この程度の奉公ではむしろ足りないくらいですよ」
いちいち時代を感じさせるふるまいを、一同は興味深く観察していた。
もちろん姫神壱騎だけは、ただならない緊張感をしいられていたのだけれど。
「素敵なお母さんですね」
ウツロは目をきらきらさせながら言った。
彼女の一挙手一投足には親近感がわいたし、なにより彼は母親という存在をそもそも知らない。
お母さんというのは、こういうものなのか。
そんなふうに憧憬していた。
アクタ、それが母の名だということだ。
兄と同じ名前。
おそらく名づけた父・似嵐鏡月が、それほどに母のことを思っていたのだろう。
そう思索していたのだ。
事情を知っている姫神壱騎は、ウツロの純粋な態度に返答しあぐねた。
「ごめんね、みんな。なんだか騒がしくなっちゃって」
無難な答えをつぶやく。
「聞こえていますよ、壱騎!」
「あ、はは……」
なんだかんだで、その場はなごんでいたのだった。
「失礼」
「?」
玄関先にひとりの中年男性が立っている。
豪奢な体格にピシッと高そうなスーツを着こみ、その肩をいからせている。
オールバックに鋭い目つき、もみあげはナイフのようにとがっている。
「どちらさま、でしょう」
ウツロがたずねた。
「わたしは蛮頭寺善継という者でね、そこの龍崎湊氏と同様、弁護士をしているんだ。まあ、裏の顔は、秘密結社・龍影会の最高幹部のひとり・右丞相という役職なのだが」
「……」
敵襲……?
龍影会、確かにこの男はそう告げた。
まずい、心の準備がまるでできていない……
虫たちよ、俺の黒刀を……
「落ち着きたまえ、ウツロくん。そして、周りをよく見るんだ」
「え……?」
みんなが俺のほうを見ている。
目つきが変だ。
まるで、何かに操られているような……
「くっ……!」
蛮頭寺善継はつかつかとこちらへやってくる。
そして正面のソファにどんと腰かけた。
「わたしのアルトラは精神系だ」
「……」
精神系だと?
精神系のアルトラ……
人間の心を支配してしまうということなのか?
ウツロは焦った。
この状況、いったいどうすれば……
「ふふ、必死に考えているね? わたしのアルトラ、カリギュラ・システム。このまま仲良く同士討ちというのも一興だろうねえ?」
カリギュラ・システム……
精神を操る能力……
しまった、俺としたことが。
完全にぬかった。
どうする?
どうする、ウツロ……!?
「さあ、ウツロくん。君がどう動くのか、しかと見せてもらうよ?」
「……」
少年の全身から、脂汗が一斉に噴き出しはじめた。
さくら館へと乗りこんできた姫神志乃は、いきなりアパートの大掃除をはじめながら、こんなふうに息子である姫神壱騎を叱責した。
着物をたすき掛けしたかっこうはまるで時代劇である。
「わかった母さん、わかったから」
さすがの天才剣士も、この母の前ではたじたじの状態だ。
「志乃さん、なにもそんなに、がっつりやっていただかなくても大丈夫なんですよ? 少し休んで、ゆっくりしてくださいな」
龍崎湊が缶ビールをあおりながら言う。
内心は自分のやる手間が省けてラッキーだと思っているのだ。
「なにをおっしゃいますか、湊さん。のらくらのバカ息子だけではなく、わたしのお世話までしていただいているのです。この程度の奉公ではむしろ足りないくらいですよ」
いちいち時代を感じさせるふるまいを、一同は興味深く観察していた。
もちろん姫神壱騎だけは、ただならない緊張感をしいられていたのだけれど。
「素敵なお母さんですね」
ウツロは目をきらきらさせながら言った。
彼女の一挙手一投足には親近感がわいたし、なにより彼は母親という存在をそもそも知らない。
お母さんというのは、こういうものなのか。
そんなふうに憧憬していた。
アクタ、それが母の名だということだ。
兄と同じ名前。
おそらく名づけた父・似嵐鏡月が、それほどに母のことを思っていたのだろう。
そう思索していたのだ。
事情を知っている姫神壱騎は、ウツロの純粋な態度に返答しあぐねた。
「ごめんね、みんな。なんだか騒がしくなっちゃって」
無難な答えをつぶやく。
「聞こえていますよ、壱騎!」
「あ、はは……」
なんだかんだで、その場はなごんでいたのだった。
「失礼」
「?」
玄関先にひとりの中年男性が立っている。
豪奢な体格にピシッと高そうなスーツを着こみ、その肩をいからせている。
オールバックに鋭い目つき、もみあげはナイフのようにとがっている。
「どちらさま、でしょう」
ウツロがたずねた。
「わたしは蛮頭寺善継という者でね、そこの龍崎湊氏と同様、弁護士をしているんだ。まあ、裏の顔は、秘密結社・龍影会の最高幹部のひとり・右丞相という役職なのだが」
「……」
敵襲……?
龍影会、確かにこの男はそう告げた。
まずい、心の準備がまるでできていない……
虫たちよ、俺の黒刀を……
「落ち着きたまえ、ウツロくん。そして、周りをよく見るんだ」
「え……?」
みんなが俺のほうを見ている。
目つきが変だ。
まるで、何かに操られているような……
「くっ……!」
蛮頭寺善継はつかつかとこちらへやってくる。
そして正面のソファにどんと腰かけた。
「わたしのアルトラは精神系だ」
「……」
精神系だと?
精神系のアルトラ……
人間の心を支配してしまうということなのか?
ウツロは焦った。
この状況、いったいどうすれば……
「ふふ、必死に考えているね? わたしのアルトラ、カリギュラ・システム。このまま仲良く同士討ちというのも一興だろうねえ?」
カリギュラ・システム……
精神を操る能力……
しまった、俺としたことが。
完全にぬかった。
どうする?
どうする、ウツロ……!?
「さあ、ウツロくん。君がどう動くのか、しかと見せてもらうよ?」
「……」
少年の全身から、脂汗が一斉に噴き出しはじめた。
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