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第3作 ドラゴン・タトゥーの少年 桜の朽木に虫の這うこと(三)
第51話 総帥
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遠くのほうで浅倉喜代蔵と浅倉卑弥呼の兄妹があくびをしている。
「兄さん、ウツロくんがディオティマに拉致られちゃったわけだけど、どうするの?」
「うん、卑弥呼。ここはめんどうなことにならないうちに……」
「とんずらだわね」
「気がつかれないように、そうっとな」
二人はゆっくりとうしろを振り向いた。
「……」
ひとりの中年男性が、鋭い目つきで彼らを見つめている。
「かっかっかっ……」
浅倉兄妹はカチカチと歯を鳴らした。
「閣下……!」
誰あろう、それは秘密結社・龍影会の現・総帥、刀隠影司その人である。
「鹿角よ、おまえという者がありながら、ウツロをみすみすディオティマに簒奪されるとは、いったい全体どういうことかね?」
「ひ、ひ、ひ……」
浅倉喜代蔵は小水を少し漏らした。
「なんてね」
「はへ?」
刀隠影司はつかつかと前方へ歩いていく。
桜の森につどった一同は、額にゆっくりとナイフを差しこまれるような戦慄を味わった。
三千院静香らも立ち上がり、苦々しい表情をする。
「諸君、ごきげんよう」
果てた森花炉之介の姿も見えるというのに、彼はおそろしく場違いなあいさつをした。
「刀隠影司……!」
「久しぶりだね、静香?」
三千院静香は剣を握り、前へ出た。
「やはりみずから出張りましたか、影司」
「当然だろう? こんなに楽しい祭りをやっているのだ。しかもまだ、はじまったばかりのようではないか」
「言葉の選び方には気をつけたほうがよろしいですよ? ただでさえこちらは、神聖なる剣士どうしの戦いを、いともたやすく蹂躙されたばかりなのです。あなたほどの御仁であるならば、それくらい手に取るようにわかるのでは?」
「よく回る舌だね、静香。いっそわたしが引っこ抜いてやろうか?」
刀隠影司の態度に、百鬼院霊光が剣を抜いた。
「言わせておけば、なんという無礼を――!」
「無礼が」
「ぬ――!?」
剣尖を拳が握っている。
「なんだって?」
そのまま手首を返すと、柔の要領で百鬼院霊光も翻り、背中から地面にたたきつけられた。
「霊光さん!」
三千院静香が駆け寄る。
「あいかわらずの間抜けっぷりだね、霊光。そんなことだから、主人の身もろくに守れないのだよ?」
「ぐ……!」
一触即発。
彼もまた、剣のつかに手をかけた。
「それよりも、なによりも」
しかし刀隠影司は、そんな状況もおかまいなしとばかりに、一気呵成に前へ出た。
そのまま南柾樹のところまで行くと、ニコっと笑ってみせる。
「やっと会えたね、柾樹?」
「……」
わかっていた、一目見たときから。
知識ではない、細胞が教えるのだ。
この男が、自分の実の父親であると。
「親父……」
父子の再会。
因縁というべきか、宿命というべきか。
とにかくそれは、ついに果たされたのだ。
彼は見下げる「父」のまなざしに、たらりと汗を流した。
「どうしたね? 言いたいことがあるだろう?」
「……」
当たり前である。
こいつが、この男が。
父親であるにもかかわらず、俺をよりにもよって、ゴミ捨て場へと廃棄したのだ。
山のようにある、言いたいことなど。
「親父……」
「うん?」
南柾樹の両目から、ポロポロと水滴が漏れ出る。
「すきありいいいいいっ――!」
「ごっ――」
「父親」に顔面に、「息子」の鉄拳が炸裂した。
「兄さん、ウツロくんがディオティマに拉致られちゃったわけだけど、どうするの?」
「うん、卑弥呼。ここはめんどうなことにならないうちに……」
「とんずらだわね」
「気がつかれないように、そうっとな」
二人はゆっくりとうしろを振り向いた。
「……」
ひとりの中年男性が、鋭い目つきで彼らを見つめている。
「かっかっかっ……」
浅倉兄妹はカチカチと歯を鳴らした。
「閣下……!」
誰あろう、それは秘密結社・龍影会の現・総帥、刀隠影司その人である。
「鹿角よ、おまえという者がありながら、ウツロをみすみすディオティマに簒奪されるとは、いったい全体どういうことかね?」
「ひ、ひ、ひ……」
浅倉喜代蔵は小水を少し漏らした。
「なんてね」
「はへ?」
刀隠影司はつかつかと前方へ歩いていく。
桜の森につどった一同は、額にゆっくりとナイフを差しこまれるような戦慄を味わった。
三千院静香らも立ち上がり、苦々しい表情をする。
「諸君、ごきげんよう」
果てた森花炉之介の姿も見えるというのに、彼はおそろしく場違いなあいさつをした。
「刀隠影司……!」
「久しぶりだね、静香?」
三千院静香は剣を握り、前へ出た。
「やはりみずから出張りましたか、影司」
「当然だろう? こんなに楽しい祭りをやっているのだ。しかもまだ、はじまったばかりのようではないか」
「言葉の選び方には気をつけたほうがよろしいですよ? ただでさえこちらは、神聖なる剣士どうしの戦いを、いともたやすく蹂躙されたばかりなのです。あなたほどの御仁であるならば、それくらい手に取るようにわかるのでは?」
「よく回る舌だね、静香。いっそわたしが引っこ抜いてやろうか?」
刀隠影司の態度に、百鬼院霊光が剣を抜いた。
「言わせておけば、なんという無礼を――!」
「無礼が」
「ぬ――!?」
剣尖を拳が握っている。
「なんだって?」
そのまま手首を返すと、柔の要領で百鬼院霊光も翻り、背中から地面にたたきつけられた。
「霊光さん!」
三千院静香が駆け寄る。
「あいかわらずの間抜けっぷりだね、霊光。そんなことだから、主人の身もろくに守れないのだよ?」
「ぐ……!」
一触即発。
彼もまた、剣のつかに手をかけた。
「それよりも、なによりも」
しかし刀隠影司は、そんな状況もおかまいなしとばかりに、一気呵成に前へ出た。
そのまま南柾樹のところまで行くと、ニコっと笑ってみせる。
「やっと会えたね、柾樹?」
「……」
わかっていた、一目見たときから。
知識ではない、細胞が教えるのだ。
この男が、自分の実の父親であると。
「親父……」
父子の再会。
因縁というべきか、宿命というべきか。
とにかくそれは、ついに果たされたのだ。
彼は見下げる「父」のまなざしに、たらりと汗を流した。
「どうしたね? 言いたいことがあるだろう?」
「……」
当たり前である。
こいつが、この男が。
父親であるにもかかわらず、俺をよりにもよって、ゴミ捨て場へと廃棄したのだ。
山のようにある、言いたいことなど。
「親父……」
「うん?」
南柾樹の両目から、ポロポロと水滴が漏れ出る。
「すきありいいいいいっ――!」
「ごっ――」
「父親」に顔面に、「息子」の鉄拳が炸裂した。
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