桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎(くちき おうさい)

文字の大きさ
228 / 244
第3作 ドラゴン・タトゥーの少年 桜の朽木に虫の這うこと(三)

第66話 ホットライン

しおりを挟む
「ディオティマを逃亡させるための手助けをしろ、か。アメリカもたいへんだな、マギー?」

「われらは国家とその国民ごと、質に取られているようなものなのよ。まったく、苦しい立場だわ」

 総理官邸執務室。

 内閣総理大臣・鬼堂龍門きどう りゅうもんは、ホワイトハウスにいるアメリカ合衆国大統領マーガレット・ミンクスとホットラインをつないでいた。

「実質的にアメリカは乗っ取られてしまっている。あのいまいましい魔女と、そのパトロンである大ユダヤ会の資本力によってね。わたしは単なる傀儡なのよ。やつらの都合のいいように動くしかないんだわ」

「肩を落とすなマギー。俺が知るかぎり、おまえほど国家に忠誠を誓っているアメリカ国民を俺は知らない。俺が日本という国家に対してそうしているようにな」

「あなたもたいへんよね、龍門。龍影会りゅうえいかいもあなたをマリオネットのようにあつかっているのでしょう? 立場を同じくする者として、同情の念を禁じえないわ」

 どんな存在にも理解者は必要だ。

 国家を背負う二人はこのように、みずからの心の内を明かしあった。

「ディオティマはすっかりアメリカを私物化している。ひとりの国民として、わたしは断じて看過するこはできない。あなたもそうでしょう、龍門?」

「ああ、こっちも同じ状況さ。だが、まだがまんだ。耐えるしかない。機が熟すまではな。ひょっとしたらあいつら、例のウツロたちが大きなネックになってくるかもしれん」

「いま彼は、ディオティマの人形にされているのでしょう? この状況、どう打開するつもり?」

「わからん、が……なんとかするしかない。すべては国家に巣食う膿を一掃するためにな。そっちはどうだ?」

国防総省ペンタゴンの地下深くで、ブラックヘッド博士が何か動きを見せたらしいわ。ディオティマから転送されてきたウツロのデータを使って、またあやしげな研究を開始したようよ」

「あのナチ公が、まだ生きていやがったのか」

「最近はコモド・ドラゴンやマウンテン・ゴリラの細胞を移植したらしいわよ。いったい何歳まで生きるつもりなんだか」

「イカれてるな。いや、俺たちもか」

「ヴィクトリアの命でトリップ四姉妹も動いているわ。まったく、自分が情けないわよ」

「俺とて同じさ。どいつもこいつも、好き勝手に動きやがって」

 電話ごしにため息が漏れ出る。

「ところでグラウコンがそちらへ向かったよし。万が一に備えて対策を講じたほうがいいわ」

「マジかよ……上陸するなら、ゴジラのほうがまだあつかいやすいってもんだ」

「最悪の事態が起こっても、ディオティマの手前上こちらは安全保障を発動できない。心苦しいけれど、そちらでなんとか対応してくれるかしら?」

「すまんなマギー。おまえがいなかったら、俺はとっくに心が折れてたよ」

「わたしも同様よ龍門。これは孤独な闘いだわ。しかし諦めてはいけない。害虫どもを根こそぎ駆除するまでは、われわれは決して屈してはいけないのよ」

「害虫、害虫か、ふふっ。いやいや、だいぶ気が楽になったよ。そろそろ感づかれるかもしれん。悪いがいったん切るぞ」

「ええ、気を確かにね。シー・ユー」

 回線が途切れる。

 遠くはなれた地で、二人の支配者は胸をなでおろしていた。

 よいことだ、理解者がいるというのは。

 戦っているのは誰しもがである。

 まだまだ、本番はこれからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...