桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎(くちき おうさい)

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第3作 ドラゴン・タトゥーの少年 桜の朽木に虫の這うこと(三)

第69話 ラスティ・ネイルとバッド・カプセラー

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「ああ、壱騎いっき……なんということに……」

 さくら館のエントランスで、姫神志乃ひめがみ しのが奥歯をかんでいた。

「志乃さん、どうか落ち着いてください。わたしたちが出ていっても、きっと足手まといになるだけです。ここは彼らを信じましょう」

 龍崎湊りゅうざき みなとが必死になだめる。

 そのころ食堂では――

「息子のこと、気がついているのだろう?」

 刀隠影司とがくし えいじがおもむろに語りかける。

「ええ、心を持たないサイコパス。遥香はるかには感情というものがいっさい存在しない」

 三千院静香さんぜんいん しずかは重い口を開いた。

「似ている、わたしの無痛症と。彼とはもしかしたら、ウマがあうかもね」

「息子を龍影会りゅうえいかいにでも取りこむ腹づもりなのですか?」

「それも面白いかもね。必ずや優秀な戦力になってくれるであろう」

「皮肉なことです。わたしは無力だ、親としても、一個の剣士としても」

「君がそんな愚痴をもらすところなど、見たくはないな。余命が近づいて命が惜しくなったかい?」

「わたしとて人間ですから」

「人間、人間ねえ。ふふっ」

 このように会話を繰り広げた。

 *

「三千院流、一の秘剣・世界」

「こ、これは……!」

 ウツロボーグの角の上から半分、そこがきれいさっぱりと裁断された。

「角に力を持つ者の弱点はやはり角だ。そうだろう?」

 エネルギーを持った気体のようなものが、切り口からどんどんと漏れ出る。

「なっ、なぜだ! ディオティマさまが強化してくださったボディが、たかが日本刀ごときで傷つけられるわけが――」

 ティレシアスが驚いてうろたえる。

「アルトラ、ラスティ・ネイル。僕は物質を空間ごと切り裂くことができる」

 物見の一同も驚愕した。

 剣神と呼ばれる父・三千院静香さんぜんいん しずかに勝るとも劣らない剣技。

 それに加え、おそるべき能力を兼ね備えている。

 しかししかし、このままではウツロが……

 そんなふうに焦っていた。

「大丈夫、ウツロくんを傷つけないよう、慎重にやるから」

 察していた彼がそう告げる。

「おのれ、これでもくらえ!」

 ウツロボーグについている赤い球状のパーツが分離した。

 ビリヤード球のようなそれは、空中を縦横無尽に飛びかい、ターゲットめがけて突進していく。

「ふんっ――」

 三千院遥香さんぜんいん はるかはそのひとつを真っ二つに切り裂いた。

 瞬間――

 赤い球は光を放って大爆発を起こす。

「ふふふ、バカめ! その『ムスッペルの目玉』は着弾点火型の爆弾よ! いきなり出てきた分際で調子に乗った末路だ!」

 煙の中から「彼」が姿を現す。

「ふむ、やはり・・・ね。確認しておいてよかった」

 着物が少しこげついた程度で、三千院遥香は無事だった。

「ほらほら、まだたくさん残っていますよ? これを一気にあなたの上へ――」

「鬼羅」

 北天門院鬼羅ほくてんもんいん きらがガムの風船を作り待っていた。

「ほっほ~い」

「なっ……」

 大量の爆弾がそちらのほうへ吸い寄せられる。

「アルトラ、バッド・カプセラー」

 風船の中へと包みこまれ、パンとはじけた。

「空気を操る能力だね。爆弾も空気がなかったら爆発しないでしょ?」

 彼女はのんきに新しいガムをふくらませている。

「じゃ、ここから反撃開始ってことで」

 少女の顔がキシリとゆがんだ。
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