魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行

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生存決闘 3 ストリックランド主義

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 グローリー・ストリックランドは前時代の騎士たちが戦場で華々しく馬を駆り槍を振るうことをいさおしと考えたように、魔術師は火球や雷光を放ち戦場を華々しく彩る事こそあるべき姿であると考えている。
 もっと派手でわかりやすい方法で相手を圧倒し、勝利することができる実力を持ちながらも、ことさら搦め手をもちいて地味に勝利する鬼一の姿に苛立ちをあらわにし、くってかかった。

「ふざけるのも大概にしろ! なんなんだその魔術の使いかたは、真面目に戦うつもりがないのなら決闘なぞするな!」
「ふざけているわけでも不真面目なつもりもありませんが」
「そんな奇をてらう真似をして、どの口がほざく。きちんとした攻性魔術を使ってまともに戦え。地水火風の基本四属性、そしてより高位な光と闇。この六属性もちいて力と技を競うことこそ魔術決闘の神髄だ」
「凡戦者、以正合、以奇勝」
「なんだと!?」
「戦いは正を以て合い、奇を以て勝つ。一対一で対峙して正面からぶつかり合う正攻法は基本ですが、それでは純粋に実力の差、時の運が勝敗を決することになります。勝利を確実にするためには相手の意表を突く奇策が重要。それら六種の魔術は直接的な攻撃力に優れますが解呪ディスペル抗魔カウンター、対魔術用の防具もあり、対抗手段も多く決定打になりにくい面もある。奇をてらう、すなわち奇策もまた兵法であり魔術師の持つ知恵の力です」
「このストリックランドに魔導戦術論と魔術戦教練を説くつもりか」
「ひょっとして『魔術こそ力』を書いた、あのグローリー・ストリックランドさんで?」
「そうだ、そのグローリー・ストリックランドだ」
「あれは実に興味深い本でした。次に出した『力こそ魔術』も」
「そうだろう、そうだろう」
「察するに次にお書きになる本の題名は『魔術こそ魔術』か『力こそ力』ですかね」
「……今は私の書いた本の事ではなく魔術について話をしている。魔術師の〝強さ〟とは小賢しい真似をせずに純粋な魔力と魔術でもって敵を粉砕することこそ至上。悪知恵を働かせて勝ちを拾うなど、下の下の下策!」
「お書きになった本でもそのような主張を述べていましたね、知識の守護者としての魔術師などもう古い。すべての魔術は戦闘で使うことを念頭に置くべきだと」
「いかにも。これからはストリックランド主義の時代だ」
「ストリックランド主義?」
「そうだ。魔術の持つ戦闘能力を特化し磨き上げるため、魔術師としての武力に直結しない雑多な学問を排除し、戦う力のみを追求する。この私、グローリー・ストリックランドが提唱する純粋真理だ! 学生の身分で知識だなんだと多くを求めるのは無駄で無意味。そのようなことで国家に貢献できようものか」
「なんと短絡的な。魔術は純粋な力のひとつであり、暴力の手段として軽々しくあつかうものではない。世界を形作り命の創造と破壊をおこなうものであり、敬意を払い研究しつつ、忌避することなく学び、実践するもの。そもそも魔術の習得にふくまれる自然理学や占星術学、錬金術に魔術史学、考古学、地質学、数秘術、医術――それら数多の学問はすべて智の結晶。人が生き残るための力そのもの――」

 魔術というのは様々な方向に対して奥が深く、幅が広い。魔術による戦闘ひとつにしても、必要とされる才能は、極めて多岐にわたり、どのような技術、知識、才能でも力となる――。
 知は力、知識は武器なり。
 だが鬼一のこの持論は彼に決闘を挑んだ多くの魔術師たちがそうであったように、ストリックランドにも理解されなかった。

「魔術師にあるまじき狡猾邪道な手品を披露したと思ったら、次はあやしげな言説で世の人々を惑わすつもりか」
「そんなつもりは毛頭ない。あなたはいささか偏った考えを持っているようだが、少し時間をいただければ蜂蜜酒とキッシュを食べながらででも。俺の考えを聞いて、理解してもらえるはずだ」
「私は酒なんて飲まない」
「では、お茶とクッキーでも」
「カフェインと砂糖は体に悪いのでひかえている」
「たいした禁欲主義ですね、俺には真似できない。まるでヒトラーのようだ」
「ヒトラー? そいつはなに者だ」
「極貧の出自にもかかわらず独学で教養を身につけて役人になり、戦争で功を立て勲章をもらい、動物を愛し、国の頂点に立つほど出世をして、厳格だが裕福な家庭を築き上げた政治家です」
「ほう、それは良くできた人物じゃないか」
「あなたは俺のやりかたを邪道だなんだと認めないが、決まりに従っているのは事実だ。ルールを破らずにこうして勝っているからには全否定されるいわれはないかと」
「実戦ではそんな小手先の技や狡知は通用しない」
「ははぁ、あなたも『実戦』ときますか」
「ストリックランド主義の掲げる実戦魔術はきさまのケンカ魔術とは大違いだ。学院の間違った教育方針に染まった生徒たちは正しい魔術の使いかたを知らない。きさまは雑魚をたおしていい気になっているお山の大将にすぎん」
「この学院が誤った教育をしているとは思えない。魔術に武の側面があることを否定はしないが、武術が『敵を倒す』ことではなく『生き残る』ことを目的にしているように、魔術もまた同様。知識も立派な武器であり重要な要素だ」
「否、魔術とはすべからず敵を打ち倒す純粋な武器であるべきだ」
「恥を晒しましたね、やはり知識は大事だ」
「恥とはなんの事だ」
「あなたは今「すべからく」という言葉をALLすべてという意味で使った。だが、この言葉はMUSTしなければならないという意味で「すべて」という意味はまったくない。知識の探究者たる魔術師にあるまじき言葉の誤用だ」
「……些末な事で揚げ足取りをするのは本筋で論破できない証左だな!」

 堂々巡りの議論は次第に険悪な空気をただよわせはじめた。
 今度はこのふたりが決闘しかねない。

「お~い、おまえら。口舌の刃で打ち合ってないで魔術師らしく魔術で決着けりつけろよ決着けりを~」

 このおよそ魔術師らしくない発言をしたのはひとりの若い――ともすれば幼い印象すら感じさせる女性だった。
 幼い少女のようにも妙齢の女性のようにも見える 妖しい美をそなえた容貌。
 濃い色の紫水晶アメジストを思わせる紫がかった艶やかな黒髪を大胆にも肩口で切りそろえ、漆黒のドレスの上からでもひと目でわかる女性らしい優美でしなやかな肢体。
 ウィリデ・ユウリン。
 かつてアリフレテラ大陸を席巻した魔王ヘルヴスト=ケストリッツァーを討った百英雄のひとりに名を連ねる当代随一の魔導師ウィザード。魔術学院に教授として籍を置くVIP重要人物である。
 この魔術学院の貴賓の言葉に鬼一とストリックランドの双方がわずかではあるが頭を冷やした。
 ケンカになりそうな時に周りからけしかけられるとかえって興が醒めるものである。
 ましてや鬼一はへそ曲がりだ。

「……生徒と講師の決闘など起きては長幼の序が乱れる。無責任に焚きつけるな」
「だがおまえらの話は堂々巡りの平行線をたどる一方じゃないか。グローリー・ストリックランドはこの学院の方針とそれに従うキイチ・ホーゲンに異論があり、私塾の生徒にストリックランド主義とやらに裏づけされた武辺教育を教授しているとか。そこまで自己の主義に熱を入れるのなら救国の英雄にして悪魔殺しの実績のあるキイチ・ホーゲンを相手に、その生徒たちの力を試してみるといい。それも、個人対個人の決闘などよりも、もっと魔術師としての実力を証明できる方法で」
「その方法とは?」
「魔術師としての実力を明確で迅速に証明する戦闘方式。それは決闘でも魔導兵団戦でもない、生存決闘サバイブ・デュエルだ。戦闘能力、状況判断力、継戦能力――。生存決闘では魔術師として武力のすべてを試される。たしかストリックランド君の著書『魔術こそ力』や『力こそ魔術』にもそう記述されていなかったかな」
「たしかに、そう書いた……。なるほど、たしかに生存決闘サバイブ・デュエルならばいかなる小手先の技や悪知恵も通用しない。しかしそうなると必然的に集団戦になるわけだが……」
「ひと月の準備期間を用意するのでその間に有志を募り、教練するといい。グローリー・ストリックランド直伝のストリックランド主義に裏付けされた生存決闘サバイブ・デュエルの技術をな」
「ふむ、こちらはそれでいいとして東方人――キイチ・ホーゲンのほうはどうする。まさかひとりで――」
「俺のほうはひとりでかまわない」
「なんだと!?」
「なにごとも勉強であり、一対一の決闘は決闘でためになったが、こうも立て続けだといささか食傷する。ここはひとつ俺に魔術でもの申したい連中を集めて決着をつけようじゃないか」
生存決闘サバイブ・デュエルは戦争を想定した対決方式。それをひとりでかまわんとは、きさま戦争をなめているのか!」
「ところでウィリデ・ユウリン教授。生存決闘サバイブ・デュエルというのは大がかりな演習で軽々しく実施することのできないものだと認識しているが、そちらから提案するということは、実施する算段があるのでしょうね」
「おい、人の話を――」
「ある。プリンプリン山の麓にある迷いの森の一画を使ってもらう。で、細いルールについてだが――」
 
 ウィリデ自身もまた横紙破りの問題児であり、連日のようにおこなわれていた鬼一の決闘を楽しんで見物していた。
 しかし結果のわかりきった戦いを延々と見せられるのもそろそろ飽きてきた。そのためだれもが納得せざるをえない方法で手打ちを狙ったのだ。
 こうして生存決闘に参加する者を募ったわけだが、実に30人の希望者が出た。
 その半数以上が法眼との決闘に敗れた者であった。
 決闘の結果は覆らない。
 一度の結果がすべてであり、再戦の要求や報復は断じて認めない。
 というのが決闘の決まりであるが「決闘ではなく〝生存〟決闘」という、改めての対決手段により事実上の再戦が可能となり雪辱の機会に飛びついたのだ。
 30人とは学院の一クラス分の人数だ。
 多い。
 多いだけではなく、この人数は三位一体トリニティユニットが10も編成できることを表している。
 トリニティ・ユニットとは魔導兵団戦における最新鋭の概念で、前衛は攻撃・防御のふたり、後衛は状況に応じた攻守の支援や回復役のひとりで構成される理想の構成とされている。
 ストリックランドの提唱する主義のもとに鍛えられた者たちが勝つか、奇抜な手段で決闘を勝ち抜いてきた鬼一法眼がさらなる勝利をつかむのか――。
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