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先輩英雄
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「それでは今日はここまでだ。明日からが『武闘競技祭』の練習も始まる。準備しておけよ」
連絡事項を伝え終えホームルームが終わると、少し怖そうな雰囲気をまとった担任のグリーン先生は教卓の上に置いてあった書類をトントンとして整えそれを手に教室のドアの方へと歩いていった。
よし、これで今日の授業は終わりだ。
早速ダンジョンに行って見たいんだけど1人で行かないって昨日約束しちゃったしな…。
それにそもそもダンジョンがどこにあるのかも分からない。
とりあえずリヴィに相談してみるか。
そう思い荷物をまとめつつリヴィの方に視線を向けてみた。
丁度、彼女も鞄に道具や教科書をしまい終わったところで俺の方に視線を向けてきたので必然的に2人の目と目が合う形となる。
よし、ダンジョンについて聞いてみよう。
思い立ったが吉日。聞いてみようとしたが、先に口を開いたのはリヴィの方だった。
「私この後職員室に行かなきゃいけないから先に帰ってて」
マジか…。
ていうことは今日ダンジョンに行くのは無理なのか。
まあ仕方ないか。今日は諦めて帰るか。
残念な気持ちでいっぱいだったが表情に出さないように精いっぱいの作り笑いをした。
「わかったよ。色々と大変そうだね。俺のことは気にしなくていいから」
俺は今、どんな表情をしてるんだろ…。
たぶん物凄い変な顔になってるんだろうな。
だってリヴィがめっちゃ怪訝そうな顔で俺のこと見てるもん。
「何か私に用事でもあった?」
「いや、特にないよ」
ヤバい。心の中読まれちゃってる。
とりあえず口では否定してみたものの納得いかなそうな表情をしている。
「そう? それならいいんだけど…。何かあったら私に相談してね」
まだどこか引っ掛かるところがあるような表情をしながらも彼女は席を立った。
俺もこのまま教室にいてもやることが無いのでそのまま自分の部屋に帰ることにした。
ちなみに朝のホームルーム直後は皆に囲まれて質問攻めにあっていた俺だが気を使われているのか今では誰も近寄ってこなくなってしまった。
俺が無能力だと知って関心がなくなって話しかけてこなくなった生徒も何人もいるんだろうな。
「じゃあ私はこっちだから」
「オッケー。じゃあまた明日」
「うん。またね」
階段を下りたところをリヴィは右に曲がって職員室の方へと向かっていった。
俺は真っ直ぐに進み校舎の外へと出た。
周りには下校中の生徒が何人もいて皆俺のことを見てひそひそ話をしている。
本人たちは声を抑えているつもりなのだろうがしっかりと話の内容が聞こえてしまっている。
朝は興味とか好機の視線って感じだったけど、今は嘲笑に近い感じで見られていた。
結局、朝に自分の力について打ち明けた後一瞬で学校中に広まってしまい不名誉なあだ名まで付けられてしまった。
「ほら、あれが噂の英雄(笑)でしょ」
さすがに酷すぎる気がする。(笑)ってなんだよ。
そのうち他の英雄と同じ待遇を受けてはならないとか言われたりしちゃうのかな。
さすがにそこまで言われたら心がぽっきり折れちゃいそうだ。
さらに他の生徒が追い打ちを駆けるように話し出した。
「さすがに可哀そうじゃない?ちょっと同情しちゃうかも」
本人に悪気はないんだろうけど不名誉なあだ名よりも同情される方が堪えるかもしれない
他の生徒も口々に俺の悪口とか噂話について話してるようだった。
これ以上は聞きたくないと思い俺は少し早歩きで自分の部屋がある寮へと向かった。
英雄専用の寮についた俺はすぐに中に入った。
この中に入ってしまえばもう他の生徒に見られることもないだろう。
ちなみにこの英雄専用の寮の名前は英雄寮というらしい。
ストレートなネーミングだ。
俺は階段を上がり自分の部屋である203号室に行こうとした時だった。
俺の部屋より手前にある201号室のドアが開かれた。
「!?」
突然のことに声にもならない声を上げてしまう。
危うく当たりそうになったが寸前で踏みとどまり何とかドアとの正面衝突は避けた。
俺の隣の隣の部屋ってことはこの部屋の人も英雄なのかな。
俺がドアのすぐ前にいることにまだ気が付いていないであろう201号室の住人が部屋から出てきて俺の目の前に姿を現した。
何というか「美しい」の一言に尽きる感じの女性だ。
金髪のさらさらしたロングヘアに整った目鼻立ち。さらには出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいる抜群のスタイル。おまけに背も高くモデルみたいな体型だ。
どことなくお嬢様感があるみんなの憧れの的って感じがする。
「あら、ごめんなさい。大丈夫だった?」
「あ、はい。大丈夫です。こちらこそすみません」
つい見惚れてしまっていたが声を掛けられたことでハッとして我に返った。
「あなたが噂の新しい英雄?」
「はい…、そうです…」
噂のってことはもう俺がハズレの英雄なことも知られているのだろう。
恐る恐ると言った感じで顔を覗きこんでみる。
しかし目の前の女性は他の生徒たちみたいに馬鹿にしたような感じの表情はしていなかった。
この人は無関心タイプの人かな。
「あなたも色々と大変だろうけど同じ英雄同士一緒に頑張りましょ」
そう言って笑顔を向けてくる。
眩しい。眩しすぎる。
リヴィのような明るい感じではなく、何というか神々しい感じがする。
こんな人が俺の隣の隣の部屋に住んでるのか。それだけで得した気分になってしまう。
「私はセリーナ・ウォードよ。今は3年生よ」
1つ上か。かなり大人っぽい雰囲気だがこの人もまだ高校生なんだな。
それに名前。もう名前から神々しい。
セリーナ様とか言われてたりするのかな。
そうれはそうと俺も自己紹介しなくては。
「俺の名前は月城悠翔です。2年生です」
「そう。よろしくね」
「はい」
ウォード先輩とでも呼べばいいのかな。
ウォード先輩と話してるこの時間がご褒美タイムのようにさえ感じられてしまう。
でも同じ英雄として恥さらしとか思われてないかな。それとなく探りを入れてみよう。
「あの…、先輩は俺の力についてはもう知ってるんですか?」
どう聞けばいいか分からずについ直球の質問をしてしまった。
「ええ、聞いたわ」
やっぱりもう知られてるのか。
絶望感のようなものが湧き上がってくるような気がする。
しかしウォード先輩の反応は俺の予想とは違ったものだった。
「この世界には力を得る術があるわ。あなたもこれからの努力次第で変われるわよ」
とりあえず軽蔑とかはしてないのかな。
ウォード先輩にそんな風に言われると頑張れそうな気がする。
「はい! とりあえずダンジョンに行って見ようと思ってます!」
「これから行くの?」
本当はそうしたい気持ちで山々なんだけど、リヴィとの約束があるから…。
「いえ今日はちょっと…」
「そうなの。ダンジョンに行く時はいつでも声を掛けてね。私も戦闘の勘を鈍らせたくないから」
ん?
もしかしてウォード先輩、一緒に行ってくれたりするのか?
何か言い方的にそんな感じに聞こえたんだけど。
ここは思い切って言ってみてもいいかもしれない。
「実は…、すぐにでも行きたいんですけどリヴィ…、いやクラスメイトと約束しちゃったんですよ。1人で行かないって」
あんな真剣な表情で言われてしまってはこちらとしても断れない。
それにあんなにも優しいリヴィを悲しませたくもなかったし。
ウォード先輩は無言のままだが何かを考えているようだった。
英雄寮の廊下を静寂が支配する。
俺何か変なこと言ったかな。言ってないよね?
時間にしたら一瞬なんだろうけど物凄く長い時間に感じてしまう。
そして何やら考えがまとまった様子のウォード先輩が口を開いた。
「あなたは今すぐにでもダンジョンに行きたい。でも1人で行かないと約束してしまったがために一緒に行く人がいなくて行くことが出来ない。そういうことでいいかしら?」
「はい。その通りです」
誰か一緒に行ってくれる人がいればすぐにでも行きたいくらいだ。
でもダンジョンはかなり危険らしいしそう簡単に言ってくれる人はい無さそうなんだよな。
お願いします、ウォード先輩!
何やら俺は勝手にウォード先輩に期待してしまっていた。
今どんな表情をしているのかは俺にも想像がつかない。俺が勝手に期待しているのを先輩は気が付いているかもしれない。それでも今この瞬間に期待できるのはウォード先輩だけだ。
「なら今から行きましょ。私が一緒に行くわ」
「!!」
よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ。
ありがとうございますウォード様!
これでガチャが引けるぞ!
しかも先輩も英雄ってことは俺と違ってめっちゃ強いんだよな。心強すぎて泣けてきちゃう。
「本当にいいんですか? 俺何の力もないですよ」
「比較的簡単なダンジョンなら大丈夫よ」
ダンジョンにもいろんな難易度があるのか。それなら今の俺でもウォード先輩の力を借りれば何とかなりそうだ。
でもいくら何でも気前が良すぎやしないか?
他に目的でもあるんじゃないか?
ついそんな風に邪推してしまう。それほどまでに俺にとって美味しい話なのだ。
そして1つの考えを俺の頭に浮かんでしまった。
きっと表情に出ていたのだろう。ウォード先輩が苦笑しながら答える。
「心配しなくてもガチャから排出された物は引いた人にしか使うことはできないわ」
そうか。それなら良かった。
てかせっかく手伝ってくれるって言ってくれた人がガチャを横取りするのではないかとか一瞬でも考えてしまったなんて俺はとんだクズ野郎だ…。
「早速行きましょ」
そう言って俺たちは寮の外に出た。
ウォード先輩は俺が邪推してしまったことをまったく気にしていない感じだった。
リヴィといいウォード先輩といいこの世界では出会いに恵まれているようだ。
~~~~~~~
ダンジョンの場所を俺は知らないのでウォード先輩に案内してもらう形で街中を歩いていく。
道中で先輩はガチャのことや周りの生徒のことなど色々なことを教えてくれた。
ガチャから排出されたものは基本的には引いた人しか使うことが出来ないこと。
そしてガチャから排出された武器は1人で何個でも装備することが出来るが能力は1つしか持つことが出来ないこと。
能力は英雄にしか使うことが出来ないこと。
だからある程度の力を有している人たちは危険を冒してまでダンジョンに行く意味が無く行くのを嫌がっているということ。
などなど。
本当にためになることをたくさん教えてもらった。
そしてその中でも1つ気になることを教えてもらった。
「あくまでも他人が使うことが出来ないのは武器やそれに準ずるものだけよ。アクセサリーは別に誰でも使うことが出来るわ」
つまり俺が当てた赤い石は俺以外でも使うことが出来るそうな。
しかもこの石の純度はかなり高いらしく売ればそれなりに高値がつくらしい。
ということはこの石を売って得たお金でそれないの武器を買うのも悪くはないかもしれない。
「まああなたが最初に当てたものなのだから、よく考えて決めるといいわ」
「そうですね。帰ってからゆっくり考えたいと思います」
そう言って俺は自分の部屋を思い浮かべた。
特に意味は無いのだが帰ってからゆっくりというのを自分で言って想像してしまった。そして寮に着いてのことを想像したときに1つ思い出したことがあった。
「そういえばウォード先輩はどこかに行くところじゃなかったんですか?」
俺が最初に会った時、ウォード先輩は出かけるところだった。
用事とかあったんじゃないのかな。もしそうだったら悪いことをしてしまったな。
「ただ買い物に行こうと思っていただけよ。別にダンジョンに行った帰りにでも買い物にいいかと思ったの」
ならよかった。
ちょっと心の中のもやもやが晴れた気がした。
「あとはやっぱり後輩英雄となると色々してあげたくなっちゃうのよね」
世話焼きタイプ的なやつか。年下の俺からしたら「ザお姉さん」と言った感じに思えてしまう。
「もう1人の後輩には何か嫌われちゃってるみたいだし、せめてあなただけでもと思ったの」
こんなにいい人を嫌いになるなんてどんな奴なんだ。
もう1人ということは202号室の人かな。
よっぽどの反抗期なのかそれともウォード先輩には裏の顔でもあるのか?
実はドSだったりして…。
そんな風に考えながら歩いていた俺だがふと気が付いたのだが、進行方向に城壁が見えていた。かなり大きいサイズだ。俺が意識してなかっただけどさっきからずっと見えてたんだろうな。
やっぱり街並みは中世のヨーロッパという感じの街並みだ。
オレンジ色のレンガの屋根や石レンガの壁などが特にそう思わせているのだろう。
そして今歩いている道の先は城壁の外へと続いている。城壁のところには門番が2人立っており何やらこの街に入る人と出る人を確認しているようだ。
何か緊張してしまう。
何も悪い事をしていないのに警察を見ると不安になってしまうのと一緒の感じだ。
しかしウォード先輩は凛々しい姿のまま悠然と歩いている。
そして門番に何やら確認されても普通の受け答えしていた。
「この子と一緒にダンジョンに行ってきます」
「お気を付けください、ウォード様」
門番の人にウォード様って呼ばれてるのか。流石は英雄と言った感じだ。俺もいつしかあんな風になれるといいな。
城壁の外に出るとそこには草原が広がっていた。行商人がよく通っているのか一部分だけ草が生えておらずあぜ道のようになっているところがある。
ウォード先輩はその道を進んでいく。
10分ほど歩くと向かって右側に森が見えてきた。
「こっちよ」
そう言ってウォード先輩は森の中へと入って行った。
こっちにダンジョンがあるのかな。
別に物騒という感じでもなくいたって普通の森に見える。
そして少し歩いたところで洞穴が見えてきた。
洞穴の周りだけ柵が付けられており、間違って入ることがないように整備されている。
パッと見で分かった。ここがダンジョンだ。
「心の準備はいい?」
いよいよ初ダンジョン。
わくわく感やら緊張やらで俺の心の中がわけわからないことになっている。
一度深呼吸しよう。
周りの空気を吸って…、吐いて。
よし、これで大丈夫だ。
「準備はできました」
「なら行きましょう。記念すべき初ダンジョンね」
ウォード先輩は俺の方に笑みを向けてからダンジョンの方へと顔を向け真剣な顔つきになった。
そして俺たちは一歩、前に踏み出した。
俺はウォード先輩と共にダンジョンへと突入した。
連絡事項を伝え終えホームルームが終わると、少し怖そうな雰囲気をまとった担任のグリーン先生は教卓の上に置いてあった書類をトントンとして整えそれを手に教室のドアの方へと歩いていった。
よし、これで今日の授業は終わりだ。
早速ダンジョンに行って見たいんだけど1人で行かないって昨日約束しちゃったしな…。
それにそもそもダンジョンがどこにあるのかも分からない。
とりあえずリヴィに相談してみるか。
そう思い荷物をまとめつつリヴィの方に視線を向けてみた。
丁度、彼女も鞄に道具や教科書をしまい終わったところで俺の方に視線を向けてきたので必然的に2人の目と目が合う形となる。
よし、ダンジョンについて聞いてみよう。
思い立ったが吉日。聞いてみようとしたが、先に口を開いたのはリヴィの方だった。
「私この後職員室に行かなきゃいけないから先に帰ってて」
マジか…。
ていうことは今日ダンジョンに行くのは無理なのか。
まあ仕方ないか。今日は諦めて帰るか。
残念な気持ちでいっぱいだったが表情に出さないように精いっぱいの作り笑いをした。
「わかったよ。色々と大変そうだね。俺のことは気にしなくていいから」
俺は今、どんな表情をしてるんだろ…。
たぶん物凄い変な顔になってるんだろうな。
だってリヴィがめっちゃ怪訝そうな顔で俺のこと見てるもん。
「何か私に用事でもあった?」
「いや、特にないよ」
ヤバい。心の中読まれちゃってる。
とりあえず口では否定してみたものの納得いかなそうな表情をしている。
「そう? それならいいんだけど…。何かあったら私に相談してね」
まだどこか引っ掛かるところがあるような表情をしながらも彼女は席を立った。
俺もこのまま教室にいてもやることが無いのでそのまま自分の部屋に帰ることにした。
ちなみに朝のホームルーム直後は皆に囲まれて質問攻めにあっていた俺だが気を使われているのか今では誰も近寄ってこなくなってしまった。
俺が無能力だと知って関心がなくなって話しかけてこなくなった生徒も何人もいるんだろうな。
「じゃあ私はこっちだから」
「オッケー。じゃあまた明日」
「うん。またね」
階段を下りたところをリヴィは右に曲がって職員室の方へと向かっていった。
俺は真っ直ぐに進み校舎の外へと出た。
周りには下校中の生徒が何人もいて皆俺のことを見てひそひそ話をしている。
本人たちは声を抑えているつもりなのだろうがしっかりと話の内容が聞こえてしまっている。
朝は興味とか好機の視線って感じだったけど、今は嘲笑に近い感じで見られていた。
結局、朝に自分の力について打ち明けた後一瞬で学校中に広まってしまい不名誉なあだ名まで付けられてしまった。
「ほら、あれが噂の英雄(笑)でしょ」
さすがに酷すぎる気がする。(笑)ってなんだよ。
そのうち他の英雄と同じ待遇を受けてはならないとか言われたりしちゃうのかな。
さすがにそこまで言われたら心がぽっきり折れちゃいそうだ。
さらに他の生徒が追い打ちを駆けるように話し出した。
「さすがに可哀そうじゃない?ちょっと同情しちゃうかも」
本人に悪気はないんだろうけど不名誉なあだ名よりも同情される方が堪えるかもしれない
他の生徒も口々に俺の悪口とか噂話について話してるようだった。
これ以上は聞きたくないと思い俺は少し早歩きで自分の部屋がある寮へと向かった。
英雄専用の寮についた俺はすぐに中に入った。
この中に入ってしまえばもう他の生徒に見られることもないだろう。
ちなみにこの英雄専用の寮の名前は英雄寮というらしい。
ストレートなネーミングだ。
俺は階段を上がり自分の部屋である203号室に行こうとした時だった。
俺の部屋より手前にある201号室のドアが開かれた。
「!?」
突然のことに声にもならない声を上げてしまう。
危うく当たりそうになったが寸前で踏みとどまり何とかドアとの正面衝突は避けた。
俺の隣の隣の部屋ってことはこの部屋の人も英雄なのかな。
俺がドアのすぐ前にいることにまだ気が付いていないであろう201号室の住人が部屋から出てきて俺の目の前に姿を現した。
何というか「美しい」の一言に尽きる感じの女性だ。
金髪のさらさらしたロングヘアに整った目鼻立ち。さらには出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいる抜群のスタイル。おまけに背も高くモデルみたいな体型だ。
どことなくお嬢様感があるみんなの憧れの的って感じがする。
「あら、ごめんなさい。大丈夫だった?」
「あ、はい。大丈夫です。こちらこそすみません」
つい見惚れてしまっていたが声を掛けられたことでハッとして我に返った。
「あなたが噂の新しい英雄?」
「はい…、そうです…」
噂のってことはもう俺がハズレの英雄なことも知られているのだろう。
恐る恐ると言った感じで顔を覗きこんでみる。
しかし目の前の女性は他の生徒たちみたいに馬鹿にしたような感じの表情はしていなかった。
この人は無関心タイプの人かな。
「あなたも色々と大変だろうけど同じ英雄同士一緒に頑張りましょ」
そう言って笑顔を向けてくる。
眩しい。眩しすぎる。
リヴィのような明るい感じではなく、何というか神々しい感じがする。
こんな人が俺の隣の隣の部屋に住んでるのか。それだけで得した気分になってしまう。
「私はセリーナ・ウォードよ。今は3年生よ」
1つ上か。かなり大人っぽい雰囲気だがこの人もまだ高校生なんだな。
それに名前。もう名前から神々しい。
セリーナ様とか言われてたりするのかな。
そうれはそうと俺も自己紹介しなくては。
「俺の名前は月城悠翔です。2年生です」
「そう。よろしくね」
「はい」
ウォード先輩とでも呼べばいいのかな。
ウォード先輩と話してるこの時間がご褒美タイムのようにさえ感じられてしまう。
でも同じ英雄として恥さらしとか思われてないかな。それとなく探りを入れてみよう。
「あの…、先輩は俺の力についてはもう知ってるんですか?」
どう聞けばいいか分からずについ直球の質問をしてしまった。
「ええ、聞いたわ」
やっぱりもう知られてるのか。
絶望感のようなものが湧き上がってくるような気がする。
しかしウォード先輩の反応は俺の予想とは違ったものだった。
「この世界には力を得る術があるわ。あなたもこれからの努力次第で変われるわよ」
とりあえず軽蔑とかはしてないのかな。
ウォード先輩にそんな風に言われると頑張れそうな気がする。
「はい! とりあえずダンジョンに行って見ようと思ってます!」
「これから行くの?」
本当はそうしたい気持ちで山々なんだけど、リヴィとの約束があるから…。
「いえ今日はちょっと…」
「そうなの。ダンジョンに行く時はいつでも声を掛けてね。私も戦闘の勘を鈍らせたくないから」
ん?
もしかしてウォード先輩、一緒に行ってくれたりするのか?
何か言い方的にそんな感じに聞こえたんだけど。
ここは思い切って言ってみてもいいかもしれない。
「実は…、すぐにでも行きたいんですけどリヴィ…、いやクラスメイトと約束しちゃったんですよ。1人で行かないって」
あんな真剣な表情で言われてしまってはこちらとしても断れない。
それにあんなにも優しいリヴィを悲しませたくもなかったし。
ウォード先輩は無言のままだが何かを考えているようだった。
英雄寮の廊下を静寂が支配する。
俺何か変なこと言ったかな。言ってないよね?
時間にしたら一瞬なんだろうけど物凄く長い時間に感じてしまう。
そして何やら考えがまとまった様子のウォード先輩が口を開いた。
「あなたは今すぐにでもダンジョンに行きたい。でも1人で行かないと約束してしまったがために一緒に行く人がいなくて行くことが出来ない。そういうことでいいかしら?」
「はい。その通りです」
誰か一緒に行ってくれる人がいればすぐにでも行きたいくらいだ。
でもダンジョンはかなり危険らしいしそう簡単に言ってくれる人はい無さそうなんだよな。
お願いします、ウォード先輩!
何やら俺は勝手にウォード先輩に期待してしまっていた。
今どんな表情をしているのかは俺にも想像がつかない。俺が勝手に期待しているのを先輩は気が付いているかもしれない。それでも今この瞬間に期待できるのはウォード先輩だけだ。
「なら今から行きましょ。私が一緒に行くわ」
「!!」
よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ。
ありがとうございますウォード様!
これでガチャが引けるぞ!
しかも先輩も英雄ってことは俺と違ってめっちゃ強いんだよな。心強すぎて泣けてきちゃう。
「本当にいいんですか? 俺何の力もないですよ」
「比較的簡単なダンジョンなら大丈夫よ」
ダンジョンにもいろんな難易度があるのか。それなら今の俺でもウォード先輩の力を借りれば何とかなりそうだ。
でもいくら何でも気前が良すぎやしないか?
他に目的でもあるんじゃないか?
ついそんな風に邪推してしまう。それほどまでに俺にとって美味しい話なのだ。
そして1つの考えを俺の頭に浮かんでしまった。
きっと表情に出ていたのだろう。ウォード先輩が苦笑しながら答える。
「心配しなくてもガチャから排出された物は引いた人にしか使うことはできないわ」
そうか。それなら良かった。
てかせっかく手伝ってくれるって言ってくれた人がガチャを横取りするのではないかとか一瞬でも考えてしまったなんて俺はとんだクズ野郎だ…。
「早速行きましょ」
そう言って俺たちは寮の外に出た。
ウォード先輩は俺が邪推してしまったことをまったく気にしていない感じだった。
リヴィといいウォード先輩といいこの世界では出会いに恵まれているようだ。
~~~~~~~
ダンジョンの場所を俺は知らないのでウォード先輩に案内してもらう形で街中を歩いていく。
道中で先輩はガチャのことや周りの生徒のことなど色々なことを教えてくれた。
ガチャから排出されたものは基本的には引いた人しか使うことが出来ないこと。
そしてガチャから排出された武器は1人で何個でも装備することが出来るが能力は1つしか持つことが出来ないこと。
能力は英雄にしか使うことが出来ないこと。
だからある程度の力を有している人たちは危険を冒してまでダンジョンに行く意味が無く行くのを嫌がっているということ。
などなど。
本当にためになることをたくさん教えてもらった。
そしてその中でも1つ気になることを教えてもらった。
「あくまでも他人が使うことが出来ないのは武器やそれに準ずるものだけよ。アクセサリーは別に誰でも使うことが出来るわ」
つまり俺が当てた赤い石は俺以外でも使うことが出来るそうな。
しかもこの石の純度はかなり高いらしく売ればそれなりに高値がつくらしい。
ということはこの石を売って得たお金でそれないの武器を買うのも悪くはないかもしれない。
「まああなたが最初に当てたものなのだから、よく考えて決めるといいわ」
「そうですね。帰ってからゆっくり考えたいと思います」
そう言って俺は自分の部屋を思い浮かべた。
特に意味は無いのだが帰ってからゆっくりというのを自分で言って想像してしまった。そして寮に着いてのことを想像したときに1つ思い出したことがあった。
「そういえばウォード先輩はどこかに行くところじゃなかったんですか?」
俺が最初に会った時、ウォード先輩は出かけるところだった。
用事とかあったんじゃないのかな。もしそうだったら悪いことをしてしまったな。
「ただ買い物に行こうと思っていただけよ。別にダンジョンに行った帰りにでも買い物にいいかと思ったの」
ならよかった。
ちょっと心の中のもやもやが晴れた気がした。
「あとはやっぱり後輩英雄となると色々してあげたくなっちゃうのよね」
世話焼きタイプ的なやつか。年下の俺からしたら「ザお姉さん」と言った感じに思えてしまう。
「もう1人の後輩には何か嫌われちゃってるみたいだし、せめてあなただけでもと思ったの」
こんなにいい人を嫌いになるなんてどんな奴なんだ。
もう1人ということは202号室の人かな。
よっぽどの反抗期なのかそれともウォード先輩には裏の顔でもあるのか?
実はドSだったりして…。
そんな風に考えながら歩いていた俺だがふと気が付いたのだが、進行方向に城壁が見えていた。かなり大きいサイズだ。俺が意識してなかっただけどさっきからずっと見えてたんだろうな。
やっぱり街並みは中世のヨーロッパという感じの街並みだ。
オレンジ色のレンガの屋根や石レンガの壁などが特にそう思わせているのだろう。
そして今歩いている道の先は城壁の外へと続いている。城壁のところには門番が2人立っており何やらこの街に入る人と出る人を確認しているようだ。
何か緊張してしまう。
何も悪い事をしていないのに警察を見ると不安になってしまうのと一緒の感じだ。
しかしウォード先輩は凛々しい姿のまま悠然と歩いている。
そして門番に何やら確認されても普通の受け答えしていた。
「この子と一緒にダンジョンに行ってきます」
「お気を付けください、ウォード様」
門番の人にウォード様って呼ばれてるのか。流石は英雄と言った感じだ。俺もいつしかあんな風になれるといいな。
城壁の外に出るとそこには草原が広がっていた。行商人がよく通っているのか一部分だけ草が生えておらずあぜ道のようになっているところがある。
ウォード先輩はその道を進んでいく。
10分ほど歩くと向かって右側に森が見えてきた。
「こっちよ」
そう言ってウォード先輩は森の中へと入って行った。
こっちにダンジョンがあるのかな。
別に物騒という感じでもなくいたって普通の森に見える。
そして少し歩いたところで洞穴が見えてきた。
洞穴の周りだけ柵が付けられており、間違って入ることがないように整備されている。
パッと見で分かった。ここがダンジョンだ。
「心の準備はいい?」
いよいよ初ダンジョン。
わくわく感やら緊張やらで俺の心の中がわけわからないことになっている。
一度深呼吸しよう。
周りの空気を吸って…、吐いて。
よし、これで大丈夫だ。
「準備はできました」
「なら行きましょう。記念すべき初ダンジョンね」
ウォード先輩は俺の方に笑みを向けてからダンジョンの方へと顔を向け真剣な顔つきになった。
そして俺たちは一歩、前に踏み出した。
俺はウォード先輩と共にダンジョンへと突入した。
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「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」
異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
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日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
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「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
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