ガチャ廃人、ガチャの世界でシークレットを当てる

村凛太

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初めての能力?

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 最初にガチャで当てたアクセサリーが実はシークレットで所有者はガチャでレアなアイテムを当てやすくなるという俺にピッタリな能力であることが判明した。
 しかし、それだけでは『武闘競技祭ストラグル』で活躍することは難しい。変な期待をさせてもという思いがあり、このことは成り行き上話したウォード先輩以外にはまだ話していない。

 「ハズレの英雄」や「英雄(笑)」といった不名誉なあだ名をつけられてしまった俺は街中や校内でたくさんの人に好機の目で見られヒソヒソと何やら言われているようだった。

 そしてそれは教室内でも同じだった。
 大柄でゴツイ見た目のフィリップを筆頭に数人のクラスメイトが休み時間のたびに俺のことをバカにしてきていた。
 そのたびにリヴィが庇ってくれるが、俺は何も言い返さずにただじっと堪えることにした。

 リヴィには申し訳ないが、ああいういじめっ子タイプが一番面白くないと思うのは反応しないことだと前にどこかで聞いたことがある。
 だからこそ俺はひたすらあいつらの言うことを無視し続けた。

 力を手にして実力でバカにしたやつらを見返してやる!

 そんな思いとガチャを引きたいという気持ちで何とかこの世界での日々を心身ともに耐えながら過ごしていた。
 午前中は教室で座学の授業をし、午後は学園の地下にある闘技場で『武闘競技祭』の演習授業をする。
 座学は何言ってるかわからないし、演習授業では主にウォード先輩の鬼教官っぷりでいつも死にそうになってる。

 でもそれを乗り越えたらダンジョンに行ける!

 唯一、俺の事情を知ってるウォード先輩と一緒に俺は毎日ダンジョンに通った。
 そして毎回ガチャを引いた。
 ある時はコインだったり、またある時は便利なアイテムだったりが当たった。

 しかし1日1回ダンジョンに行くというのを数日間繰り返したものの、未だに強そうな武器や能力をゲットできずにいた…。

 ルリアは元々の宝石の形に変身することができ、宝石になってもらいポケットに入れていつも持ち歩いている。
 それでも当たらないということはそれだけしょっぱい内容のガチャということだろう。

 それでも俺はめげずに今日もダンジョンに行く!

 ガチャなのだから目当てのものが当たらないのは当然だ。
 少し辺りが引けないくらいで心が折れていたら。とっくにガチャを引くの何てやめている。

 まだガチャへの投資が足りないだけだ!
 俺はガチャをこよなく愛するガチャ廃人だ。
 排出確率が0パーセントじゃない限りは諦めてたまるか!

 そんな思いから毎日、パワーが湧き上がってくる。

 そして今日は休日だ。

 昨日、ダンジョンから帰る途中にウォード先輩と話して、今日は午前中からダンジョンに行くことにした。
 明日からはまた学校があるし、『武闘競技祭』1週間前ということもあり演習内容も変わるらしい。
 そこで今日1日で何回もダンジョンに行き、ガチャを引きまくろうということになった。

 朝の10時に英雄寮の前で待ち合わせということになり、俺は約束の時間より少し早めに待ち合わせ場所で待つことにした。

 俺が着いた時にはまだ誰もおらず、人気の無い静かな休日と言った感じだった。
 そんな雰囲気で気持ちを和ませつつ、この数日間であったことやこの世界についてのことを思い返していた。

 いろんなことが新鮮で刺激的な日々だった。
 みんなの身体能力が魔力を使えない俺とは段違いで絶対に怒らせてはいけないと心の底から思わされたり、ネット機器などが無く不便に思ったりもした。

 そんな中でも元居た世界と似ている部分もいくつかあった。
 1日が24時間なところや1週間が7日間なところは一緒だった。
 昔の英雄が元の世界で使われていた考え方を便利だからとこの世界で広めたらしい。

 頬を撫でるように吹くそよ風を肌で感じつつ、長いようでまだ1週間しか経っていないこの世界での日々に1人思いふけってる時だった。
 1人の少女がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

「ごめーん、待ったー?」

 今回、初めてダンジョンに同行してくれることになったリヴィがそう言いながら駆け寄ってきた。

「全然待ってないよ。ていうかまだ約束の時間よりも前でしょ」
「そうだけど、待たせてたら悪いじゃん」

 リヴィはこんな風にめっちゃ人のことを考えてくれる最高に天使なクラスメイトだ。
 これまではウォード先輩とルリアと2人でダンジョンに行っていたのだが、『武闘競技祭』の演習授業がない今日ならリヴィも体力的に余裕があるとのことで一緒に来てくれることになったのだ。
 まあ2人とは言いつつもアクセサリーの形になっているルリアもいつも一緒に行っている。
 実際は3人で行ってたということになる。

 これで残るは…、

「まだウォード先輩は来てない?」

 リヴィも同じことを考えていたようで、辺りを見渡しながらそう聞いてきた。
 ウォード先輩はまだ来ていなかった。
 とはいっても俺とリヴィが早く来すぎただけで、まだ時間はあるんだけどね。

 リヴィと話しながら時間を潰しているとすぐにその時は来た。
 英雄寮の入口のドアが開いた音がし、そちらに視線を向けるとウォード先輩が寮から出てきた。

「お待たせ。2人とも早いのね」

 先輩は爽やかな笑顔でそう言った。

 もしかして感心してたりするかな。
 本当ははやる気持ちを抑えきれなくて早く来ちゃっただけなんだよね。
 リヴィは俺と先輩のことを気遣って早めに来たんだろうけど。

「それじゃあ早速行きましょ」

 こうして4人揃った俺たちはダンジョンへと出発した。 


 ~~~~~~~


 途中、昼休憩を挟みつつ俺たちは4回もダンジョンに潜った。
 普段は1日1回しかダンジョンに行かないため、それと比べると今日はかなり多い。

 最初にダンジョンに行った時とは違い『武闘競技祭』の演習が始まってからは俺も戦闘に参加していた。
 といっても未だに魔力が使えないし、感じ取ることもできない俺は普通に店で購入した剣とウォード先輩に教わっている体術を駆使して何とか数体の魔物を倒すだけにとどまっていた。

 さすがに4回もダンジョンに潜るとかなりキツかった。
 2人の様子を見てみると、先輩は別にまだ余裕そうだけどリヴィは少しだけ疲れが顔に出ている気がしした。

「次でラストにしましょうか」

 俺とリヴィの状態を見て先輩は言った。

「そうですね」

 俺も先輩の意見に賛成した。
 正直なことを言えば、もっとガチャを引きたいという気持ちはある。
 でもこのままダンジョンに潜り続ければ、いずれ俺もリヴィも限界を迎えて先輩1人で俺ら2人を守りながら戦うことになってしまう。
 さすがにそれはマズいだろう。

「でも…、まだ悠翔の力になりそうなものは…」

 リヴィが何とも言えない表情で俺のことを見てきた。
 確かに彼女の言う通りで、未だに当たりと言えるようなものは1つもゲットできずにいた。

「そうだけど流石にそろそろ限界だから。次でめっちゃすごいの当てて見せるから」

 俺は親指を立てつつニヤリと笑ってそう言ってみせた。

「うん。期待してる」

 温かな眼差しで俺を見つめながら頷いてくれた。

 頼む! 今度こそ当たってくれ!

 そんな思いを胸に俺は今日最後のダンジョン探索を開始した。

 外とは違いひんやりとした空気に包まれ、薄暗く壁から生えた鉱石が放つ様々な色の光によって作り出された幻想的な雰囲気には何回来ても感動してしまう。

 もうトータルで10回くらいこのダンジョンに来ている。
 なのでさすがに敵の強さにも慣れてきた。焦らずに戦えば俺でも普通に倒すことが出来る。
 まあそれも数によるが。
 ウォード先輩は言うまでもないがリヴィも相当な強さで一瞬で何体もの魔物を倒してしまえるほどの実力の持ち主だった。
 さすがはエリートクラスといったところだ。

 まあ俺も一応そのエリートクラスの一員なんだけどね…。

 さすがにこのままいいところ無しっていうのは情けない。
 1回くらい俺1人で魔物を一掃してカッコつけたいな。

 そんな風に思ってはいるものの特にチャンスもなくどんどんダンジョンの奥へと進んでいった。
 俺とリヴィが前衛として魔物に接近戦をしかけ先輩が後ろから『無限追尾の聖弓エピストリー・アーク』で支援するというのが基本戦術なのだが、先輩の力が圧倒的過ぎてロクに俺の出番もないまま戦闘が終わってしまうことがほとんどだった。
 さらにリヴィは俺と違って魔力が使え、魔力を使ったスピード強化が得意なので彼女も俺よりも先に魔物を倒してしまう。
 女子2人に守ってもらう形になってしまっていて何だか情けない感じがしてならなかった。

 その後も特にヤバくなることもなく遂に大きな扉がある少し開けた場所に着いた。
 ダンジョンの最奥部だ。 
 あの扉の先にはガチャがある。

 早く扉を開けようと1歩踏み出した時だった。
 横の方で何やら気配を感じたのでそっちを見てみると、何体もの魔物がいた。
 さらに別の方向からも魔物が来ていたらしくリヴィと先輩へそっちに視線を向けていた。
 狼のような見た目をしていて群れを成しているようにも思える。

 二つの方向から魔物に挟まれる形となった俺たちだが、焦ることなくお互いに目配せして無言で連携を取り合う。
 片方には俺が行き、もう片方にはリヴィが向かった。
 先輩はその場で両方の支援をするという形になる。
 とは言ってもリヴィと比べて俺の方が全然弱いため基本的に先輩は俺の方を重点的に支援してくれる。

 俺は手前にいる魔物からどんどんぶった切っていく。
 一発では倒せない物の二、三発、剣を叩き込めば倒すことが出来た。
 そんな感じで特に問題なく俺が相手をしている方の魔物を全滅させようとした時だったー

 バキンッ

 鈍い音が扉の前の空間に響き渡った。
 そして俺は目の前の魔物に吹っ飛ばされてしまった。
 一瞬何が起こったのかわからずに周りを見てみるた。
 ある物が視界に入って俺はようやく何が起きたかを理解した。
 俺の数メートル先には剣の先の方が転がっていた。

 俺はゆっくりと自分の手元に視線を落とした。
 ついさっきまではちゃんとした剣だったはずが今は元の半分ほどしかない折れた剣になっていた。

 マジかよ…。

 これで俺の攻撃手段はなくなってしまった。
 魔力が使えれば拳に魔力を乗せて攻撃なんてのもできるけど、俺にはそんな芸当はできない。
 それでも俺を吹っ飛ばした魔物は俺目掛けてまっすぐ走ってくる。

 どうすることも出来ずに俺はただ呆然として魔物が向かってくるのを見ていた。
 もう少しで俺に届くというところで狼型の魔物は飛び跳ねると大きく口を開けて鋭い牙を覗かせた。

 このまま食われるのかな。
 結局、1週間で異世界ライフは終わっちゃうのか…。

「…今までありがとう。…リヴィ、…ウォード先輩」

 数秒後には俺はこいつの餌になる。
 そう覚悟を決めた。

ーしかし

 俺のすぐ目の前にいた魔物は突然姿を消した。
 いや、正確には物凄い速さで吹き飛んでいった。

「大丈夫? 思いっきり吹き飛ばされてたけど」

 そう言って手を差し伸べられた。

「…はい、おかげさまで」

 そう返しつつ俺は差し伸べられて手を掴んで立ち上がった。

「ありがとうございます、ウォード先輩」

 間一髪のところで、魔物は先輩の光の矢によって打ち抜かれて吹っ飛んでいったのだ。
 あんまり大きな声じゃなかったけど俺が言った言葉聞かれてないよね?
 なんか恥ずかしくなってきた。

 でもまだ戦闘中だ。
 気を取り直してさっきまで俺が相手をしていた魔物の集団の方に視線を向けると、既に1体も残らず倒された後だった。
 おそらく先輩がやったのだろう。
 それにしても俺が吹っ飛ばされる前はまだあと5体くらいいたはずなんだけど…。
 相変わらずの強さだな。

 てことはこっちは終わりだから、残るは…
 そう思ってもう一つの集団、リヴィの方を向くと、ちょうどリヴィが最後の1体を倒したところだった。
 リヴィは無傷で魔物を全滅させたみたいだ。

「悠翔、それ…」

 こっちに向かってきたリヴィが俺の剣を見てそう呟いた。

「ああ、なんか折れちゃって」
「そっか…」

 リヴィは少し残念そうな表情になった。
 なんなら持ち主の俺よりも落ち込んでるかもしれない。

「まあ元々そこまで強い武器でもなかったし、きっともう限界だったのよ」

 まあ確かに魔力の強化なしでずっと戦ってたもんね。
 そこまで高価なものでもなかったし折れても文句は言えないだろう。

 俺の唯一の武器がなくなったのは痛手だけど、これでガチャが引ける!
 俺はこの空間の奥側にある扉に目を向けた。

 ゆっくりと扉の方へと歩いていく。
 俺の後に続いて2人も着いて来る。

 この中でずば抜けて何もしてない俺がガチャ引いちゃっていいのかな。

 そんな迷いさえ生まれてしまい、ふと振り返って2人の顔を見てみた。
 2人とも真っ直ぐな目で俺のことを見ていた。
 信じている、という目なのか。それとも応援しているという目なのか。
 どちらにしても俺がやることは1つだと言われているような気がした。

 俺は1度深呼吸してはやる気持ちを抑えつつ扉に手を添えた。
 そしてゆっくりと扉を開いた。

 扉の向こうはこれまでと同様に小さな部屋になっていて、その真ん中にガチャがある。
 俺はゆっくりと進んでいく。

 今日最後のガチャ。

 ガチャの目の前まで来るとガチャに手を伸ばした。
 手がガチャに触れた瞬間、ガチャが光りだした。
 もうお決まりの光景だ。

 この後はダンジョンの入口まで強制的に転移させられる。
 タイミングまで覚えてしまいそうなくらい繰り返している。

 光がどんどん強くなっていき俺たちを完全に包んだ。
 そしてダンジョンの入口に転移する直前、光を発しているガチャから玉のようなものが出てきて俺の中に入って行った気がした。
 かなり眩しいのでもしかしたら見間違いかもしれないがそんな気がした。

 今のは一体何だったんだろう。

 気のせいだったのか、それとも実際に何かが起こったのか。
 そんなことを考えていたが、ふと周りを見ているといつの間にかダンジョンの入口に来ていた。

「お疲れ様。とりあえず今日のダンジョン探索は終了ね」

 先輩がそう言って俺の方を見てきた。
 普段ならガチャで当たったものが俺の手の中にある。しかし俺の手のひらを見てみても何もない。
 何が当たったのかわからず体のいたるところを見てみるが特に変わった様子はない。

 
「えっと…、何が当たったんですかね…」

 ついそんなことを言ってしまった。
 俺がわからないのに2人がわかるわけないよな。
 2人とも困った顔をしてしまっている。

「自分でもよくわからないんですけど…、何かが入ってきた感じがしたというか…、何というか…」

 とりあえず説明しようとはしたものの何て言えばいいのかわからず変な風になってしまった。
 リヴィは頭にクエスチョンマークを浮かべている。
 しかしウォード先輩は思い当たることがあるのか何やら考えているようだった。

「…もしかしたらなんだけど、私が『無限追尾の聖弓エピストリー・アーク』を手に入れた時もそんな感じだったの。だから…」

 俺もついに何か能力を手に入れたってことか?
 ポケットの中には宝石になっているルリアが入っている。彼女の能力でレアなものが当たりやすくなっている。そのおかげでついに先輩みたいな強い力を手に入れたのか?
 でもそうだとしたら俺の力ってどんななんだろう。

「力を手に入れると、どんな力かなんとなくわかるはずなんだけど何か感じる?」

 先輩も同じ疑問を抱いてたみたいで、能力に着いてそう聞いてきた。

 でも、なんとなくわかるって言われても…。
 さすがに漠然としすぎていてよくわからない。

「特に何も…」

 俺は正直にそう答えた。

「まあその内わかるだろうし焦らず頑張りましょ」
「わかりました…」

 結局何が当たったのかわからないまま帰路に着こうとした時、ふと俺の脳内に直感的に言葉が浮かんだ。

「…『透過』」

 気が付いたらそう呟いていた。

「悠翔、何か言った?」

 リヴィが不思議そうにそう聞いてきた。

「いや、何か突然言葉が浮かんで…」
「それがあなたの能力ってことなんじゃないかしら?」

 先輩にそう言われた。
 でも具体的なイメージなんて何もわかない。
 透過の意味なら何となくわかるけど…、どんなことができるのかさっぱりわからない。

「じゃあ明日から月城君の能力について色々調べましょ」

 俺が何もわからないでいるのを察したのか先輩がそう提案してきた。
 現状では名前しかわからず、どんなことができるのかわからない。
 それどころか本当に能力が当たったのかすらわからない。

 もう『武闘競技祭』まで1週間だ。
 明日からはさらに実践的なことをやるらしい。それに加えて俺の能力についても調べていく。
 これまでよりもさらに大変になりそうだ。
 それでもちょっと楽しみだったりもする。

 ついに俺も英雄としての本領を発揮できるかもしれない!

 すぐに当たりかどうかわからないのはちょっと気にくわないが、それでもやっぱりガチャを引くのは最高だ。
 このワクワク感とドキドキ感がたまらない。

 まあどうせならウォード先輩みたいにもっとカッコいい名前の方が良かったんだけどね。


 こうして、無事に能力? をゲットして今日のダンジョン周回は終了した。
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