愛の言葉に傾く天秤

秋月真鳥

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後日談

エリーアスの妊娠

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 医療技術の進んだバルテン国では、同性同士でも子どもを作ることができる。男性同士の場合には先に処置を受けて疑似子宮を作ってから妊娠出産に挑むのだが、エリーアスがそれを望んでいると聞いたときに、ギルベルトはショックで立ち尽くしてしまった。

「エリさんが子どもを望んでいたなんて」
「ギルベルトは嫌なんですか?」

 問いかけられてギルベルトはエリーアスの膝に甘えるように擦り寄って、太ももの上に頭を乗せてシャツの上からエリーアスのお腹を指で辿って来る。

「綺麗なエリさんのお腹が傷付くんだろう。それは嫌だな」
「疑似子宮を作るためには、注射で済みますし、出産のときにはさすがに切らなければいけませんが、帝王切開をしている女性はたくさんいますよ」
「それは嫌だー! エリさんのお腹がー!」

 膝の上でのたうつギルベルトをエリーアスは穏やかに撫でている。ギルベルトに触れるときにはエリーアスはできるだけ右手を使ってくれる。義手の左手ではなく、生身の右手に撫でられていると、ギルベルトは落ち着いてくるから不思議だ。

「どうしても子どもが欲しいのか?」
「ギルベルトと私の子どもが欲しいというのは、いけないことですか?」
「それは、嬉しいけど」

 あまり感情を露わにせずに淡々としているエリーアスがギルベルトとの子どもを望んでくれている。子どもが欲しいかどうかギルベルトはよく考えてみて、エリーアスとの間ならば嬉しいのではないかと思い始めていた。
 エリーアスとの愛の結晶が二人の間に生まれる。ギルベルトに似ていても、エリーアスに似ていても赤ん坊は可愛いに決まっている。

「麻酔が最小限しか使えないんだろう? それで腹を切られるなんて、絶対に痛いよ」
「痛みは覚悟しています」
「エリーアスが痛かったり苦しかったりするのが嫌なんだ」

 どこまでも駄々を捏ねるギルベルトに、エリーアスは静かに言い聞かせる。

「麻酔技術も向上しています。ギルベルトが私を心配してくれているのは分かりますが、私は子どもが欲しいのです」

 強い意志を持って告げられた言葉に、ギルベルトは口を閉じた。エリーアスは欲がなくて、ギルベルトのことばかり考えてくれている。そのエリーアスが強く望むことがあるのならば、叶えてやりたいと思ってしまう。

「分かった。俺も協力する」

 心を決めてエリーアスに答えると、エリーアスは淡く微笑んでくれた。
 週末にギルベルトはエリーアスと一緒に産科の病院に行った。診察の後で医師が説明してくれる。

「下腹に注射で疑似子宮の元を注入します。それが育つのが約一か月後。その頃に妊娠を促す発情期のようなものが来ますので、それを逃さずにしっかりと行為をしてください」

 注射で入れた疑似子宮の元が育つのが約一か月後で、その頃には妊娠を促す発情期のようなものが来る。そのときにしっかりとエリーアスを抱かなければいけないという事実に、ギルベルトは喉を鳴らして唾を飲み込んでいた。
 発情期とはどのようなものなのだろう。
 考えている間にエリーアスは連れていかれて、下腹に注射を打たれたようだった。
 疑似子宮に胚が着床したら、赤ん坊の成長具合を確認して、約八か月後に帝王切開で赤ん坊を出産することまで説明は受けた。
 家に帰ってからギルベルトはエリーアスに注射の痕を見せてもらった。注射の痕は小さくてよく見ないと分からないくらいだった。

「痛くなかったか?」
「大したことはありませんよ」

 自分の左腕と左脚が吹き飛んだときも、エリーアスは落ち着いていた。注射程度で動揺するタイプではないということは分かっていた。

「お腹の中に異物ができるんだからな。何か苦しかったり、つらかったりすることがあったら、すぐに教えてくれよ」
「産科が専門じゃないですが、私も医師なのでそんなに心配しなくていいですよ」

 心配して、甘やかして、エリーアスを大事にお姫様扱いしたい気持ちでいっぱいなのに、エリーアスは落ち着いて、こういうときに動揺しないし、自分のことはしてしまうので、ギルベルトの出番はなさそうだった。
 体の中に疑似子宮というこれまでなかった内臓を作り出すのだから、大変ではないはずはないのだが、エリーアスはそれも受け入れてしまうのだろう。

「一か月後の発情状態になったときには、大学は休んでくださいね?」

 協力してほしいことはそれだけ。
 甘く囁かれてギルベルトは顔を真っ赤にしてこくこくと頷いていた。
 発情状態というのがどういうものか想像がつかないが、蕩けたエリーアスを存分に抱ける日が来るのならば嬉しくないはずがない。子どもを作るためだから避妊具も使わなくていいはずだ。
 初めてのときにエリーアスもギルベルトも避妊具もローションも持っていなくて、そのときはなにもつけずにギルベルトはエリーアスを抱いた。薄い皮膜一枚だがそれを付けていないときでは感じ方が全く違うというのを、ギルベルトは知っていた。
 避妊具をつけずにエリーアスの中に出してしまうとエリーアスがお腹を下してしまうという事態になると聞いていたので、それ以後は避妊具とローションを手配してきっちり使っているが、ギルベルトとしては避妊具を使わずにエリーアスを抱きたいという気持ちがないわけではなかった。
 エリーアスに全てを許されている感覚で抱けるというのは楽しみでしかない。
 毎日うきうきと食事を作っていたが、一か月が近くなった頃に、エリーアスは食事を控えるようになった。

「そろそろ疑似子宮が育つ頃なので、今日の食事はやめておきますね」
「食べないで大丈夫なのか!?」
「一日や二日食べなくても平気ですよ。明日くらいに発情状態が来ると思いますので、大学は休んでくださいね」

 食べない理由は、腸内を清潔に保つためなのだろう。シャワーで綺麗に洗った後でベッドに横たわるエリーアスを抱き締めると、甘い匂いがするような気がする。股間に来る匂いだが、ギルベルトはエリーアスの準備が出来上がるまで待つことにした。
 次の朝、目が覚めると部屋中が甘い香りに満ちていた。発情状態というのはこんなにも濃厚なものなのだろうか。フェロモンが発せられているのかもしれない。
 とろりと蕩けた瞳のエリーアスがギルベルトにしなだれかかってくる。朝食も食べていないが、それよりも部屋に充満する甘い香りにギルベルトの下半身は完全に反応していた。
 早くエリーアスを抱きたくてたまらなくて、エリーアスのパジャマを脱がせてローションを後孔に塗り込めて行く。ぐちぐちと指で中を探っていると、エリーアスが身を起こした。
 左膝の下から先がないのでバランスが取りづらい状況で、エリーアスはギルベルトの腰に跨る。手でエリーアスを支えていると、勃ち上がったギルベルトの中心の切っ先に後孔を押し付けて、ずぶずぶと飲み込んでいく。
 避妊具のない接合に、直に内壁に擦られてギルベルトの中心は既に達しそうになっていた。匂いで興奮しているだけでなく、直に触れるエリーアスの中が熱く柔らかくギルベルトを締め付けてくる。

「くっ! でるっ……」
「出してください。ギルベルトにはたっぷり出してもらわないと」

 孕むまで。
 うっとりと囁くエリーアスの中にどくどくと白濁を吐き出したギルベルトだが、それだけでは済まない。甘い香りにすぐに芯を取り戻した中心を、飲み込まれたままでエリーアスが腰を動かしてくる。
 放った白濁が逆流して泡立つほどまでエリーアスに搾り取られて、ギルベルトはひんひんと泣いていた。

「もう、むりぃ! でないぃ!」
「ギルベルト、私を孕ませてください」
「ひぁぁぁぁ!?」

 もう出ないと泣かされてもまだ責め立てられて、ギルベルトはエリーアスの中で達していた。
 シャワーを浴びてリビングのソファに座る頃には、エリーアスは落ち着いていた。濃厚な甘い香りもなくなっている。

「発情状態が落ち着いた気がします。これは成功してそうですね」
「本当か? エリさんのお腹に、俺とエリさんの赤さんが……」

 いそいそとエリーアスのお腹に耳を当てるギルベルトに、「気が早いですよ」とエリーアスは笑っていた。
 エリーアスが赤ん坊を出産するのはこれから約八か月後のこと。
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