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本編
25.逮捕劇
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それから授業のたびにアルマンドはルーカスに話しかけてくるようになった。
ルーカスは家族もおらず、行方不明になっても探すひともいない。それが分かったから、アルマンドはルーカスを人身売買組織に誘い入れようとしてくるだろう。もしくは、ルーカスを攫おうとしてくるだろう。
その瞬間が逮捕のチャンスだった。
「君のことは育てられないと両親は施設に預けたんですか?」
「そうなんです。そのころには両親は不仲になっていて、どっちも俺を引き取りたがらなかったんです」
「せっかく人外で子どもに恵まれたのになんてもったいないことを」
人外同士の結婚では子どもは非常にできにくい。人外は生殖能力が低いのだ。それは分かっているが、もののように「もったいない」という表現を使うアルマンドに、人身売買をするような心の闇が透けて見えているようでルーカスは気持ち悪さをこらえていた。
その沈痛な面持ちにアルマンドは何か勘違いしたようだ。
「つらい話をさせてしまいましたね。お詫びに今日は夕食を奢らせてください」
「いえ、悪いですし……」
「気にしないでください。私が君ともう少し話したくなっただけなんですよ」
夕食に誘われた。
これはアルマンドの懐に入る好機かもしれない。
ルーカスは遠慮するふりをしながら、アルマンドに押し切られた形で夕食に連れていかれた。
夕食の場所は大学近くのレストランだった。
レストランでアルマンドが注文する料理をあまり口にしたくはなかったが、食べないというのも不自然なので食べていると、アルマンドがアルコールを注文する。
「君もどうぞ」
「いえ、俺は飲めないので」
「そうですか。それなら、ソフトドリンクを頼みましょう」
ジンジャーエールを頼んでそれを飲んだまでは記憶があった。
その後でルーカスは記憶が途切れた。
二人きりで話すのにイヤフォンを付けているのも不自然だったので外していたが、携帯電話はエルネストと繋いでいたので、エルネストはすぐに異変に気付いただろう。
目を覚ましたときには、ルーカスは狭い暗い部屋に閉じ込められていた。
暗いというだけで気が狂いそうになるのに、狭いというので、ルーカスは全身から汗が噴き出すのを感じる。エルネストに助けを求めようとしても、イヤフォンも携帯電話も取り上げられていた。
「警察人外課のルーカス・ソロウですね。危うく騙されかけましたよ」
「どうして、それを!?」
「鷹の姿で君の後を尾行しました。君は電話で警察官と話していた」
騙しているのはこちらだと思っていたが、相手の方が一枚上で騙されたふりをしていたようだ。
それでも逃げなかったのには理由がありそうだ。
「人外課のせいで、私の計画が台無しになってしまいました。フランスの得意先に納める若い人外がいなくなってしまった。君が代わりに行ってもらいましょうね」
「ふざけるな! この場所もすぐに見つかるぞ!」
「人外課がここを見つけるころには、君はフランスに送られて、私はまた別の大学に移っていますよ」
「ここから出せ!」
鉄格子になっているドアを掴んでゆすぶっても、ルーカスはそこを開けることができない。電灯を消した暗闇の中で、アルマンドがルーカスに言う。
「怖いんでしょう、暗闇が。無様に泣き叫ぶといいですよ」
そのことも調べられていたようだ。
窓もない部屋の中は真っ暗で、ルーカスは自分を抱きかかえるようにして震えを抑える。
「エルネスト……助けてくれ、エルネスト……」
ここがどこなのか分からないが、アルマンドの隠れ家なのだろう。エルネストはここまで助けに来てくれるだろうか。車に乗って移動されると匂いが追えないと言っていた気がする。
レストランからルーカスを怪しまれずに運ぶ手段としては、車以外にないだろう。
エルネストの鼻をもってしてもルーカスを探し出すことはできないかもしれない。
「どうすれば……」
アルマンドはルーカスが怯えているところを見て楽しんでいるのだろう。漆黒の闇の中に気配がする。
しかし、鷹は鳥目というくらいだから漆黒の闇の中ではうまく動けないはずだ。
それがなんとか利用できないだろうか。
「怖い……怖いんだ。頼む、灯りを点けてくれ!」
半分は演技で懇願してみるがアルマンドの反応はない。
「お手洗いに行かせてくれ!」
頼んでみると、銀色のボウルのような容器をアルマンドが持ってくる。
「そこにすればいい」
「頼む、お手洗いに行かせてくれ」
言いながらも、ボウルのような容器が鉄格子の間を通らなくて、渋々アルマンドがドアを開けた瞬間、ルーカスはチーターの本性になってアルマンドに飛び掛かっていた。
アルマンドの体が倒れて、チーターの細さでルーカスは鉄格子の外に出る。鉄格子の外に出ても周囲は真っ暗で足が竦むのをどうしようもない。
「君は逃げられませんよ。暗闇が怖いんでしょう? ずっと暗闇に閉じ込めて、子どもを産むだけの人生にさせてあげますよ」
起き上がったアルマンドが言うのを聞きながら、ルーカスはじりじりと後ろに下がる。
アルマンドはルーカスを捕まえようと手を伸ばしてくるが、ルーカスは素早く避けて、アルマンドを蹴り倒して暗闇の中を進む。
「エルネスト……」
もう怖い夢は見ないと言ってくれた。
暗闇の中でもエルネストのことを考えていると、何とか体が動く。
「君が本来辿るべき人生はこれだったのですよ。諦めて受け入れなさい」
逃げた先に鍵のかかったドアがあって、それ以上逃げることができずにルーカスはアルマンドに捕まりそうになる。爪でアルマンドを引っ搔いて、俊敏に壁を駆け上ると、棚の上に上がったルーカスをアルマンドが追い掛けようとしてくる。
「どこへ逃げても無駄です。逃げる場所なんてない。大人しくするのです」
アルマンドが構えた銃が薄暗がりに光って見える。それは人外用の麻酔銃だった。
素早く逃げて撃たれないようにするが、アルマンドはルーカスを狙ってまた麻酔銃を撃つ。
「眠っている間に全部終わります。大丈夫」
薄気味悪くアルマンドが笑った瞬間、ルーカスの逃亡を阻んでいたドアが蝶番ごと外れた。
外れたドアからエルネストが入ってきて、アルマンドを取り押さえる。後ろからはパーシーとアーリンも応援に駆け付けていた。
「どうしてここが!?」
「僕がルーカスの匂いを辿れないはずがないじゃないか、って言いたいところだけど、アルマンド、君がオーダーメイドしてる香水、ものすごく匂いが独特で、追いかけやすかったよ」
アルマンドの付けている香水を頼りにエルネストはこの場所を見つけてくれたようだ。
パーシーとアーリンに手錠を付けたアルマンドを預けると、エルネストがルーカスを抱き締める。エルネストの腕の中で解けるように人間の姿になったルーカスは、エルネストの胸にしっかりと顔を埋めて抱き締められた。
「怖かった……エルネストを思い出して必死に耐えていた」
「なんともない? どこも怪我してない?」
「平気だ、エルネスト。助けてくれてありがとう。助けに来てくれるって信じてた」
「ルーカス、無事でよかった」
しっかりと抱き合ってルーカスとエルネストは無事を確かめ合った。
人身売買組織のボスが捕まった。
このことは人外課を沸かせた。
「ルーカス、潜入捜査で危険な目に遭わせてすまなかった」
「いえ、エルネストが助けに来てくれましたから」
「エルネスト、よく犯人の居場所を突き止めたな」
「犯人がオーダーメイドの香水を使っていたので、その匂いを追いました。ルーカスに何事もなくてよかったです」
「ルーカスもエルネストも大手柄だったな」
ジャンルカに褒められて、ルーカスは気持ち悪いのを耐えたり、暗闇で逃げ回ったりしたことが報われた気分だった。
エルネストの部屋にも戻ることができて、ルーカスはエルネストに抱き着いて心から甘えた。
「紅茶を入れてくれる約束だった」
「うん、入れるよ。チョコレートも出そうね」
「エルネスト、助けてくれてありがとう」
エルネストがいなければルーカスは耐えられなかっただろう。エルネストが助けに来てくれると信じていたからこそ、逃げ回って必死に時間を稼いだ。
「香水のこと伝えておいてよかった」
「あれはルーカスの功績だよ。あのおかげでアルマンド逮捕に繋がった」
素直に褒められてルーカスはエルネストに抱き着いてその匂いを胸に吸い込んで息を吐く。
エルネストはいつもの通りいい匂いがした。
ルーカスは家族もおらず、行方不明になっても探すひともいない。それが分かったから、アルマンドはルーカスを人身売買組織に誘い入れようとしてくるだろう。もしくは、ルーカスを攫おうとしてくるだろう。
その瞬間が逮捕のチャンスだった。
「君のことは育てられないと両親は施設に預けたんですか?」
「そうなんです。そのころには両親は不仲になっていて、どっちも俺を引き取りたがらなかったんです」
「せっかく人外で子どもに恵まれたのになんてもったいないことを」
人外同士の結婚では子どもは非常にできにくい。人外は生殖能力が低いのだ。それは分かっているが、もののように「もったいない」という表現を使うアルマンドに、人身売買をするような心の闇が透けて見えているようでルーカスは気持ち悪さをこらえていた。
その沈痛な面持ちにアルマンドは何か勘違いしたようだ。
「つらい話をさせてしまいましたね。お詫びに今日は夕食を奢らせてください」
「いえ、悪いですし……」
「気にしないでください。私が君ともう少し話したくなっただけなんですよ」
夕食に誘われた。
これはアルマンドの懐に入る好機かもしれない。
ルーカスは遠慮するふりをしながら、アルマンドに押し切られた形で夕食に連れていかれた。
夕食の場所は大学近くのレストランだった。
レストランでアルマンドが注文する料理をあまり口にしたくはなかったが、食べないというのも不自然なので食べていると、アルマンドがアルコールを注文する。
「君もどうぞ」
「いえ、俺は飲めないので」
「そうですか。それなら、ソフトドリンクを頼みましょう」
ジンジャーエールを頼んでそれを飲んだまでは記憶があった。
その後でルーカスは記憶が途切れた。
二人きりで話すのにイヤフォンを付けているのも不自然だったので外していたが、携帯電話はエルネストと繋いでいたので、エルネストはすぐに異変に気付いただろう。
目を覚ましたときには、ルーカスは狭い暗い部屋に閉じ込められていた。
暗いというだけで気が狂いそうになるのに、狭いというので、ルーカスは全身から汗が噴き出すのを感じる。エルネストに助けを求めようとしても、イヤフォンも携帯電話も取り上げられていた。
「警察人外課のルーカス・ソロウですね。危うく騙されかけましたよ」
「どうして、それを!?」
「鷹の姿で君の後を尾行しました。君は電話で警察官と話していた」
騙しているのはこちらだと思っていたが、相手の方が一枚上で騙されたふりをしていたようだ。
それでも逃げなかったのには理由がありそうだ。
「人外課のせいで、私の計画が台無しになってしまいました。フランスの得意先に納める若い人外がいなくなってしまった。君が代わりに行ってもらいましょうね」
「ふざけるな! この場所もすぐに見つかるぞ!」
「人外課がここを見つけるころには、君はフランスに送られて、私はまた別の大学に移っていますよ」
「ここから出せ!」
鉄格子になっているドアを掴んでゆすぶっても、ルーカスはそこを開けることができない。電灯を消した暗闇の中で、アルマンドがルーカスに言う。
「怖いんでしょう、暗闇が。無様に泣き叫ぶといいですよ」
そのことも調べられていたようだ。
窓もない部屋の中は真っ暗で、ルーカスは自分を抱きかかえるようにして震えを抑える。
「エルネスト……助けてくれ、エルネスト……」
ここがどこなのか分からないが、アルマンドの隠れ家なのだろう。エルネストはここまで助けに来てくれるだろうか。車に乗って移動されると匂いが追えないと言っていた気がする。
レストランからルーカスを怪しまれずに運ぶ手段としては、車以外にないだろう。
エルネストの鼻をもってしてもルーカスを探し出すことはできないかもしれない。
「どうすれば……」
アルマンドはルーカスが怯えているところを見て楽しんでいるのだろう。漆黒の闇の中に気配がする。
しかし、鷹は鳥目というくらいだから漆黒の闇の中ではうまく動けないはずだ。
それがなんとか利用できないだろうか。
「怖い……怖いんだ。頼む、灯りを点けてくれ!」
半分は演技で懇願してみるがアルマンドの反応はない。
「お手洗いに行かせてくれ!」
頼んでみると、銀色のボウルのような容器をアルマンドが持ってくる。
「そこにすればいい」
「頼む、お手洗いに行かせてくれ」
言いながらも、ボウルのような容器が鉄格子の間を通らなくて、渋々アルマンドがドアを開けた瞬間、ルーカスはチーターの本性になってアルマンドに飛び掛かっていた。
アルマンドの体が倒れて、チーターの細さでルーカスは鉄格子の外に出る。鉄格子の外に出ても周囲は真っ暗で足が竦むのをどうしようもない。
「君は逃げられませんよ。暗闇が怖いんでしょう? ずっと暗闇に閉じ込めて、子どもを産むだけの人生にさせてあげますよ」
起き上がったアルマンドが言うのを聞きながら、ルーカスはじりじりと後ろに下がる。
アルマンドはルーカスを捕まえようと手を伸ばしてくるが、ルーカスは素早く避けて、アルマンドを蹴り倒して暗闇の中を進む。
「エルネスト……」
もう怖い夢は見ないと言ってくれた。
暗闇の中でもエルネストのことを考えていると、何とか体が動く。
「君が本来辿るべき人生はこれだったのですよ。諦めて受け入れなさい」
逃げた先に鍵のかかったドアがあって、それ以上逃げることができずにルーカスはアルマンドに捕まりそうになる。爪でアルマンドを引っ搔いて、俊敏に壁を駆け上ると、棚の上に上がったルーカスをアルマンドが追い掛けようとしてくる。
「どこへ逃げても無駄です。逃げる場所なんてない。大人しくするのです」
アルマンドが構えた銃が薄暗がりに光って見える。それは人外用の麻酔銃だった。
素早く逃げて撃たれないようにするが、アルマンドはルーカスを狙ってまた麻酔銃を撃つ。
「眠っている間に全部終わります。大丈夫」
薄気味悪くアルマンドが笑った瞬間、ルーカスの逃亡を阻んでいたドアが蝶番ごと外れた。
外れたドアからエルネストが入ってきて、アルマンドを取り押さえる。後ろからはパーシーとアーリンも応援に駆け付けていた。
「どうしてここが!?」
「僕がルーカスの匂いを辿れないはずがないじゃないか、って言いたいところだけど、アルマンド、君がオーダーメイドしてる香水、ものすごく匂いが独特で、追いかけやすかったよ」
アルマンドの付けている香水を頼りにエルネストはこの場所を見つけてくれたようだ。
パーシーとアーリンに手錠を付けたアルマンドを預けると、エルネストがルーカスを抱き締める。エルネストの腕の中で解けるように人間の姿になったルーカスは、エルネストの胸にしっかりと顔を埋めて抱き締められた。
「怖かった……エルネストを思い出して必死に耐えていた」
「なんともない? どこも怪我してない?」
「平気だ、エルネスト。助けてくれてありがとう。助けに来てくれるって信じてた」
「ルーカス、無事でよかった」
しっかりと抱き合ってルーカスとエルネストは無事を確かめ合った。
人身売買組織のボスが捕まった。
このことは人外課を沸かせた。
「ルーカス、潜入捜査で危険な目に遭わせてすまなかった」
「いえ、エルネストが助けに来てくれましたから」
「エルネスト、よく犯人の居場所を突き止めたな」
「犯人がオーダーメイドの香水を使っていたので、その匂いを追いました。ルーカスに何事もなくてよかったです」
「ルーカスもエルネストも大手柄だったな」
ジャンルカに褒められて、ルーカスは気持ち悪いのを耐えたり、暗闇で逃げ回ったりしたことが報われた気分だった。
エルネストの部屋にも戻ることができて、ルーカスはエルネストに抱き着いて心から甘えた。
「紅茶を入れてくれる約束だった」
「うん、入れるよ。チョコレートも出そうね」
「エルネスト、助けてくれてありがとう」
エルネストがいなければルーカスは耐えられなかっただろう。エルネストが助けに来てくれると信じていたからこそ、逃げ回って必死に時間を稼いだ。
「香水のこと伝えておいてよかった」
「あれはルーカスの功績だよ。あのおかげでアルマンド逮捕に繋がった」
素直に褒められてルーカスはエルネストに抱き着いてその匂いを胸に吸い込んで息を吐く。
エルネストはいつもの通りいい匂いがした。
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