Cheetah's buddy 〜警察人外課の獣たち〜

秋月真鳥

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本編

28.ワインの効力

 エルネストが戻ってくる日、ルーカスは休みを取っていた。研修から戻った日から、ルーカスは休みに入っていたので、エルネストも休みに入るはずだ。
 休みを合わせてエルネストと一緒に過ごしたかった。

 エルネストのために食事を準備して、ルーカスはオーギュストに電話をかけていた。

「お義父さん、エルネストが好きなものはなんですか?」
『エルネストは食べ物に好き嫌いはないよ。特に好きなのはパスタかな』
「紅茶以外でエルネストの好きな飲み物はありますか?」
『時々だけどエルネストはワインを飲むよ』

 紅茶をエルネストのように入れるのは無理なので、飲み物の好みを聞けば、エルネストはワインを飲むという。ルーカスと一緒に食事をするときにエルネストはアルコールは口にしない。我慢させていたのかと思うと申し訳なくて、ルーカスは近くのスーパーでそれなりのお値段のワインを買った。
 ルーカスはアルコールを飲むと緊急時に呼び出しがかかった場合に対応できないので、飲まないことにしていた。これまでアルコールを飲む必要もないと思っていたので、アルコールを飲んだこともない。
 自分がアルコールを飲んだときにどんな風になるのか、ルーカスは想像もつかなかった。

 帰ってきたエルネストは少し疲れた様子だったけれど、ルーカスを見るとすぐに駆け寄って抱き締めてくれた。

「ルーカス、ただいま」
「エルネスト、お帰り」

 寂しかったとか、甘えたかったとか色んなことが頭を巡ったが、ルーカスはとりあえず昼食の準備をする。パスタを茹でてソースと絡めて出すと、エルネストが無邪気に喜んでくれる。

「ルーカスが作ってくれた昼食だ。ありがとう」
「ソースはインスタントのを使ったし、手抜きだぞ」
「そんなことないよ。ルーカスがしてくれたことが嬉しいよ」

 食卓に着くエルネストに、ルーカスはワインを取り出して見せた。

「俺が飲まないからずっと我慢させてたんじゃないか? 今日は飲んでもいいよ」
「別に僕は我慢なんてしてないよ。ワインも好きだけど、紅茶も同じくらい好きだからね」
「この家にワイングラスがなかったから、お前がワインを好きだなんて知らなかった」
「ワイングラスは脚を折っちゃうから使わないんだよね。代わりにこういう丸いグラスで飲んでたよ」

 エルネストが取り出してきたのはワイングラスの脚をなくしたような丸いグラスだった。ワインのことは何も知らないので、コルク栓で閉まっているなんてことも知らなくて、ワインオープナーをエルネストが取り出したときには、ルーカスは目を丸くしていた。
 ワインオープナーでコルク栓を抜いて、エルネストがグラスにワインを注いで飲む。

「ルーカスは飲まないの?」
「俺は、アルコールを飲んだことがないんだ」
「そうなんだ。経験だし、一度飲んでみる?」
「エルネストの分がなくなるんじゃないか?」
「僕はそんなにいっぱい飲まないから平気」

 エルネストに促されてルーカスもグラスにワインを注いでもらった。ワインはいい香りがしたが、飲んでみると渋くて酸っぱくて、ルーカスにはあまり美味しいとは感じられなかった。それでも注いでもらった分を飲んでいると、頭がふわふわしてくる。

「エルネストがいなくて寂しくて、エルネストの服をベッドに持っていって、そこに埋もれて寝てたんだ」
「なにそれ。ルーカス可愛い。僕も見たい」
「恥ずかしいから見せられない」
「ルーカス、見せてよ」

 酔っぱらってしまったルーカスはエルネストに恥ずかしいことを白状していたし、エルネストにお願いされると食後に食器を食洗器に入れてから、言われた通りにエルネストの服を持ってきて、ベッドでチーターの姿になって包まった。

「自分のうちの猫がこの世で一番可愛いって言う同僚がいたけど、その気持ちが今なら分かる」
「エルネストにとって俺は世界一可愛いのか?」
「ルーカスは可愛い」

 服では足りなくなってエルネストの膝の上に乗って丸くなったルーカスを、エルネストはわしゃわしゃと撫でて抱き締めてくれた。ついでに吸われたような気がする。
 気が付けばルーカスはエルネストの膝の上で寝ていて、起きたときには酔いはすっかりとさめていた。

「俺は! なんてことを!」

 ベッドの上にはルーカスの毛がついたエルネストの服が、くしゃくしゃになって丸まっている。エルネストにばれないように洗濯して畳んで片付けていたはずなのに、酔っ払って自分からばらすようなことをしてしまった。
 恥ずかしさに震えるルーカスに、一緒になって寝ていたエルネストが起きて、くすくすと笑っていた。

「ルーカスはアルコールに弱いみたいだね。飲まない方がいいかもしれないね」
「もう二度と飲まない!」
「僕と一緒のときには飲んでもいいんだけどな」
「飲まない!」

 アルコールとは怖いもの。
 ルーカスは二度と飲まないことを誓っていた。

 夜にはエルネストが夕食を作ってくれた。
 柔らかなフィレ肉をステーキにして、マッシュポテトとサラダとスープと一緒に出してくれる。パンもこだわりのパン屋で買ったもので、とても美味しかった。

「このパン屋はクロヴィスのお父さんとお母さん、つまり僕の叔父さんと叔母さんがやっていて、僕は小さいころからずっとこのパンを食べて来たんだ」
「エルネストの思い出のパンなんだな」
「それを今、ルーカスと一緒に食べられて嬉しいよ」
「俺もエルネストの思い出のパンを食べられて嬉しい」

 たった二日エルネストがいないだけで寂しがって服を持ち出して包まって眠るようなことをしたルーカスを、エルネストは笑わなかった。それどころか、可愛いと言ってくれた。
 他の相手ならば可愛いと言われたら侮辱しているのかと喧嘩腰になってしまうかもしれないが、エルネストに言われるのならば嬉しいのだからルーカスもエルネストに惚れてどうしようもない。

「エルネストがいない二日間、俺はアーリンと組んでたよ」
「僕もルーカスがいない二日間、パーシーと組んでたよ」
「そうだったのか。エルネストと出会う前ならアーリンと組まされるとしてもうまくいかなかっただろうが、今ならアーリンと組んでも問題なかった」
「結局、臨時的に誰と組んでも問題ないかどうかも、研修の裏側で見られていたんだと思うよ」

 結婚すれば妊娠や出産で片方が長期に休むこともあるだろう。それを考えると、研修を課せられたこと自体が問題だったのではなくて、研修の裏側でルーカスやエルネストが相棒以外の誰とでも組めるということを示すのが今回の本当の目的だったのかもしれない。
 エルネストに言われてルーカスは理解する。

「ルーカスは変わったよ。アーリンと前に組んだ時には相棒の交代を申し出られたんでしょう?」
「今回はそんなことはなかった」
「いい傾向だと思うよ。ルーカスが周囲を受け入れているように、周囲からも受け入れられてることに気付いたんだね」
「エルネストのおかげだ」

 キスをすると、エルネストが目を閉じる。
 口付けのときに目を閉じないでいてしまうのは、エルネストの顔が至近距離で見られるからかもしれない。伏せた白銀の睫毛も、睫毛が落とす影も、白い瞼も、通った鼻筋も、全てルーカスしか見られないものだった。

「エルネストは、俺以外に抱かれたことはないんだよな」
「そうだね。僕が抱く方がよかったというか、相手の方が自然と抱かれる方に回ってくれてたのかな」
「エルネストはどっちでもよかったのか?」
「好きな相手ならどっちでも構わないよ。ただ、ルーカスが初めて抱いた相手が僕で、僕が初めて抱かれた相手がルーカスっていうのは、ちょっと嬉しいかな」
「俺も同じ気持ちだ」

 抱かれて艶やかに乱れるエルネストを知っているのはルーカスだけ。ルーカスはエルネスト以外の相手と肉体関係は持ったことがないが、それに劣等感を抱かせないくらいエルネストはルーカスに心許し、体を許してくれた。
 ルーカスの中があんなに熱くて柔らかいなんてことを、知っているのはルーカスだけなのだ。

「エルネスト、今夜、いいだろう?」
「いいよ、ルーカス」

 泊りでの研修だったので翌日も休みのエルネストに合わせてルーカスも休みを取っていた。ルーカスの誘いにエルネストが甘く答える。
 今夜は長い夜になりそうだった。
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