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可愛い愛しいひと
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「陽太とお酒が飲める日を楽しみにしてたんだ。お誕生日おめでとう」
18歳の誕生日にはパートナーとして役所に届けに行って、公に陽太の伴侶である和成が、20歳の誕生日、大学から帰ってきた陽太に言った台詞。
「まずは、お帰りやないとね」
ちょっと捻くれては見せるが、嬉しくないはずはない。陽太の誕生日は学年の始まりの日で、まだ春休みなのだが、その日は大学で身体測定と健康診断があるので、少しの間出ていた隙に、和成は万全の準備をしていた。
10歳で出会ってから10年。
身体測定で陽太の身長が和成よりも10センチ近く低いという結果が出ても、元々年の差が二十歳以上あるのだ。今更気にしたりしない。
「俺は人生の半分を和成さんと過ごしたことになるっちゃね」
言われて、和成は驚いてしまう。最初から陽太が良い男だったから、10歳だったということなど、記憶の彼方に飛んでいる。そもそも、陽太と出会う前の自分がどんな人間だったかも、和成は忘れかけていた。
「俺は、良い男をそんなに長く育ててたの?」
思わずの呟きに、陽太は照れながらも凛々しい眉を下げる。
「いっぱい待たせたけんね、飲みたいっちゃけど……」
テーブルには沢山のご馳走が準備されている。和成が料理上手で、マメであることは、陽太も出会った頃から知っていた。デートのたびにお弁当を作ってくれていたのが懐かしい。
「ケーキもあると?」
「もちろん」
「やったら、あんま飲まんようにせんと、潰れてしまうかもしれん」
「陽太、飲めないの!?」
その件に関して、未成年だったから飲んだことがないので、和成が知るはずはない。けれど、最近の大学では入学後にアルコールのパッチテストが無料で受けられたりするのだ。
自分の大学時代は演劇まみれで、よく覚えていない和成は、ひとには言えないが未成年の頃から飲んでいたし、アルコールで酩酊した覚えはない。まさか陽太が飲めない可能性を考えていなかったのだ。
「飲めんわけやないけど、潰れたら、格好悪かろ?」
パッチテストの結果、ものすごくアルコールが飲めるタイプではないと、陽太は自分のことを知っていたのだ。
「なにそれ、教えてくれたら良かったのに」
「でも、ちょっとは飲むけん」
「浮かれて、俺、恥ずかしい」
消沈する和成に、陽太はお日様のように大らかに笑う。
「そのシャンパン、お祝いやろ? 開けてよか?」
シャンパンのボトルを陽太に渡すと、和成がお祝いに買ってきたシャンパンは、ポンという良い音を立てて、蓋が空いた。それを用意していた細いシャンパングラスに注ぎながら、未だ消沈した様子の和成に、逆に陽太が問いかけた。
「和成さんは飲めると?」
「まぁ、そこそこに」
「もしかして、飲んだら、可愛く酔うタイプとか?」
「え?」
陽太が20歳なのだから、和成はもう四十路を迎えていた。役者なので美しさに衰えは見せないが、やっぱり年齢は気になるところ。それを、可愛いと年下の伴侶はあっさりと言ってしまう。
「それじゃ、酔わせてよ」
どっちが祝われるのか分からない。
そんな雰囲気の中、誕生日のディナーが始まった。
シャンパンは結局、ほとんど和成の胃袋に消えた。
ほんのりと顔を赤らめて、目を潤ませている陽太は、酔っているのかもしれない。二杯くらいしか飲まなかったはずだが、どうなのだろう。
じっと見ていると、ふふふっと笑い声が漏れた。
「和成さん、俺のこと一生懸命見て、可愛いっちゃけん」
「か、可愛いって……俺、もう四十路だよ?」
「ずっと可愛い。俺の可愛いひとやん?」
酔っているのか、口説き文句がいつもより滑らかに、甘く響く。
パートナーになった。
陽太が大学を卒業したら、陽太の母親との同居を考えて、二世帯住宅を建てるつもりでいる。
ずっと一緒だという実感がわくと、お酒のせいか、胸が熱くなって、和成は涙ぐんでしまった。
「俺の人生に陽太を与えてくれた神様に感謝しないと。産んでくれたお母さんにも」
誕生日なのだから祝うつもりでいたことは確かだ。
ぐすっと洟を啜って、和成は両腕を広げる。
「抱き締めて」
「うん、和成さん、愛しとるよ」
「俺も、愛してる」
抱き締めたまま、立ち上がると陽太の爪先が床から離れる。和成は役者であり、ミュージカルも演じる。リフトなどお手の物なので、陽太くらい軽々と持ち上げられた。
「俺が抱き上げられとるやん」
「いけない?」
「いけなくない。和成さん、かっこいい」
陽太よりも背が高くても、力が強くても、体力があっても、陽太はそのままの和成を受け止めてくれる。だからこそ、長い禁欲生活を我慢できた。
「俺、準備してたんだけど」
「準備って……え?」
耳元で囁くと、陽太の顔が真っ赤になる。
平然とテーブルに付いていた和成が、一人でバスルームでローションを後ろに塗り込めていたことに、気付いたのだろう。
「いいでしょ?」
「プレゼントが和成さんやなんて、最高やね」
ベッドまで抱き上げて連れて行って、お姫様のように陽太を降ろすと、引き寄せられて、口付けられる。甘い予感に、和成は目を閉じて、深い口付けを受け止めた。
18歳の誕生日にはパートナーとして役所に届けに行って、公に陽太の伴侶である和成が、20歳の誕生日、大学から帰ってきた陽太に言った台詞。
「まずは、お帰りやないとね」
ちょっと捻くれては見せるが、嬉しくないはずはない。陽太の誕生日は学年の始まりの日で、まだ春休みなのだが、その日は大学で身体測定と健康診断があるので、少しの間出ていた隙に、和成は万全の準備をしていた。
10歳で出会ってから10年。
身体測定で陽太の身長が和成よりも10センチ近く低いという結果が出ても、元々年の差が二十歳以上あるのだ。今更気にしたりしない。
「俺は人生の半分を和成さんと過ごしたことになるっちゃね」
言われて、和成は驚いてしまう。最初から陽太が良い男だったから、10歳だったということなど、記憶の彼方に飛んでいる。そもそも、陽太と出会う前の自分がどんな人間だったかも、和成は忘れかけていた。
「俺は、良い男をそんなに長く育ててたの?」
思わずの呟きに、陽太は照れながらも凛々しい眉を下げる。
「いっぱい待たせたけんね、飲みたいっちゃけど……」
テーブルには沢山のご馳走が準備されている。和成が料理上手で、マメであることは、陽太も出会った頃から知っていた。デートのたびにお弁当を作ってくれていたのが懐かしい。
「ケーキもあると?」
「もちろん」
「やったら、あんま飲まんようにせんと、潰れてしまうかもしれん」
「陽太、飲めないの!?」
その件に関して、未成年だったから飲んだことがないので、和成が知るはずはない。けれど、最近の大学では入学後にアルコールのパッチテストが無料で受けられたりするのだ。
自分の大学時代は演劇まみれで、よく覚えていない和成は、ひとには言えないが未成年の頃から飲んでいたし、アルコールで酩酊した覚えはない。まさか陽太が飲めない可能性を考えていなかったのだ。
「飲めんわけやないけど、潰れたら、格好悪かろ?」
パッチテストの結果、ものすごくアルコールが飲めるタイプではないと、陽太は自分のことを知っていたのだ。
「なにそれ、教えてくれたら良かったのに」
「でも、ちょっとは飲むけん」
「浮かれて、俺、恥ずかしい」
消沈する和成に、陽太はお日様のように大らかに笑う。
「そのシャンパン、お祝いやろ? 開けてよか?」
シャンパンのボトルを陽太に渡すと、和成がお祝いに買ってきたシャンパンは、ポンという良い音を立てて、蓋が空いた。それを用意していた細いシャンパングラスに注ぎながら、未だ消沈した様子の和成に、逆に陽太が問いかけた。
「和成さんは飲めると?」
「まぁ、そこそこに」
「もしかして、飲んだら、可愛く酔うタイプとか?」
「え?」
陽太が20歳なのだから、和成はもう四十路を迎えていた。役者なので美しさに衰えは見せないが、やっぱり年齢は気になるところ。それを、可愛いと年下の伴侶はあっさりと言ってしまう。
「それじゃ、酔わせてよ」
どっちが祝われるのか分からない。
そんな雰囲気の中、誕生日のディナーが始まった。
シャンパンは結局、ほとんど和成の胃袋に消えた。
ほんのりと顔を赤らめて、目を潤ませている陽太は、酔っているのかもしれない。二杯くらいしか飲まなかったはずだが、どうなのだろう。
じっと見ていると、ふふふっと笑い声が漏れた。
「和成さん、俺のこと一生懸命見て、可愛いっちゃけん」
「か、可愛いって……俺、もう四十路だよ?」
「ずっと可愛い。俺の可愛いひとやん?」
酔っているのか、口説き文句がいつもより滑らかに、甘く響く。
パートナーになった。
陽太が大学を卒業したら、陽太の母親との同居を考えて、二世帯住宅を建てるつもりでいる。
ずっと一緒だという実感がわくと、お酒のせいか、胸が熱くなって、和成は涙ぐんでしまった。
「俺の人生に陽太を与えてくれた神様に感謝しないと。産んでくれたお母さんにも」
誕生日なのだから祝うつもりでいたことは確かだ。
ぐすっと洟を啜って、和成は両腕を広げる。
「抱き締めて」
「うん、和成さん、愛しとるよ」
「俺も、愛してる」
抱き締めたまま、立ち上がると陽太の爪先が床から離れる。和成は役者であり、ミュージカルも演じる。リフトなどお手の物なので、陽太くらい軽々と持ち上げられた。
「俺が抱き上げられとるやん」
「いけない?」
「いけなくない。和成さん、かっこいい」
陽太よりも背が高くても、力が強くても、体力があっても、陽太はそのままの和成を受け止めてくれる。だからこそ、長い禁欲生活を我慢できた。
「俺、準備してたんだけど」
「準備って……え?」
耳元で囁くと、陽太の顔が真っ赤になる。
平然とテーブルに付いていた和成が、一人でバスルームでローションを後ろに塗り込めていたことに、気付いたのだろう。
「いいでしょ?」
「プレゼントが和成さんやなんて、最高やね」
ベッドまで抱き上げて連れて行って、お姫様のように陽太を降ろすと、引き寄せられて、口付けられる。甘い予感に、和成は目を閉じて、深い口付けを受け止めた。
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おかげで素敵な2人のことを心置きなく応援できます。
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読んでいただきありがとうございます!
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陽太をかっこよくて可愛いと言ってくださってありがとうございます!