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一章 王子と冒険者の出会い
15.王城への帰還
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ハーブなどの香草は育ちが早い。冬の寒さの中でも健気に育っているのは、僕の緑の指の魔法があるからだろう。
香草も魔力を帯びたものに変えられて、僕は食事がますます美味しくなった。
常人にとっては毒となりえるから、僕がモンスターの肉を食べるときに調理に使われる塩も胡椒も香草も、全部常人のものと変わらないものを使っていた。
そうなると僕の体には受け付けないものになり、食べた後でモンスターの肉の魔力をうまく吸収できないことが多かったのだ。
それも完全になくなった。
僕の未来のお嫁さんであるロヴィーサ嬢が、僕のために料理を作ってくれる。
ロヴィーサ嬢はとても料理が上手で、難しい料理も難なくこなしていた。
「愛妻の取って来てくれた食材で、愛妻の料理……僕はなんて幸せなんだろう」
週に一度は王城にエリアス兄上とエルランド兄上と父上に会いに行く約束をしていたので、僕はロヴィーサ嬢と共に馬車に乗る。
ロヴィーサ嬢は派手ではないが上品に誂えたドレスを身に纏い、僕もスーツを身につけていた。
王城に行くと父上に抱き締められる。
父上は執務を休んで、僕と会う時間を作ってくださっていた。
「健康そうな顔になって。背も少し伸びたようだな」
「僕のロヴィーサ嬢が料理を作ってくれるのです。調味料から細かな食材まで全て魔力の宿ったもので」
僕のために!
僕は自慢したくてたまらなかった。
僕の婚約者のロヴィーサ嬢はこんなにも素晴らしい方なのだ。
「冒険者ギルドに登録し直したと聞きました。所領の民を守るための立派な行いです」
「エドもこんなに幸せそうで、ミエト侯爵家に送り出してよかったと思います」
エリアス兄上もエルランド兄上も微笑んでロヴィーサ嬢に言っていた。
「わたくしにできることをしたまでです」
僕のロヴィーサ嬢なんて、エドヴァルド殿下ったら!
ロヴィーサ嬢が顔を真っ赤にして呟いた言葉が聞こえたのは、恐らく僕だけだろう。僕は愛するロヴィーサ嬢を自慢したくてたまらないのだ。
実際にロヴィーサ嬢は料理上手で、モンスターも狩って来てくださって、家庭菜園も庭に作って下さった。
「ロヴィーサ嬢が庭に家庭菜園を作って、魔族の国から輸入した種で野菜を育て始めたのです。僕には緑の指という、植物の成長を促し、収穫を増やす魔法が使えることが分かりました」
父上とエリアス兄上とエルランド兄上に報告すると、僕の手を見てしみじみと呟いている。
「平和主義のエドらしい魔法だな」
「植物を育てる魔法もあるのだな」
「エドの食べるものが増えるといいな」
手に魔法が宿るわけではないけれど、僕の手で世話をした野菜は急成長を遂げているので、僕の手を見るのも間違っていないかもしれない。
「平和な力だけではありませんが。僕は風の魔法も使えるようになりました。ロヴィーサ嬢と共に冒険者になることにしたのです」
宣言すると、父上とエリアス兄上とエルランド兄上の表情が曇る。
父上もエリアス兄上もエルランド兄上も、僕に関しては非常に過保護なのだ。
僕が冒険者として戦いに出ることを望ましく思っていないのかもしれない。
「エド、危ないことをしてはならぬ」
「ロヴィーサ嬢が一緒にいるとしても、万が一のことがあってはいけない」
「エドは冒険者になるのはやめた方がいい」
反対されると分かっていたが、僕は父上とエリアス兄上とエルランド兄上に言い返す。
「大好きなロヴィーサ嬢と離れたくないのです。ロヴィーサ嬢だけを危険な場所に向かわせて、僕だけ安全な場所にいるというのは心が落ち着きません。それに、僕は魔族なのでとても頑丈なのですよ」
「エドは病弱だろう?」
「いいえ、僕の身体はとても頑丈です。病気を繰り返していたのは、食事が合わなかっただけのことなのです」
今の僕がどれだけ頑丈かどうすればエリアス兄上にも、父上にもエルランド兄上にも信じてもらえるのだろう。
考えた末に、僕はロヴィーサ嬢を見た。
「ロヴィーサ嬢、僕を放り投げてください!」
「できません!」
「お願いです。僕がどれだけ頑丈か、父上とエリアス兄上とエルランド兄上に見せるのです」
斜め下から見上げる角度でお願いすると、ロヴィーサ嬢の顔が真っ赤になる。
赤い顔のロヴィーサ嬢も僕はとても美しくて可愛いと思う。
「そのお顔はずるいのです! エドヴァルド殿下、可愛すぎます!」
「お願いです、僕の愛するロヴィーサ嬢」
「愛するなんて、人前で気軽に言わないでください! 嬉しいのに恥ずかしくて、逃げ出したくなります!」
両頬を押さえて赤い顔を隠すロヴィーサ嬢の左手の中指には鬼の力の指輪がはまっている。きらりと鬼の力の指輪の魔法の模様が光る。
「エドを投げるところなど、私の心臓に悪い。やめておくれ」
「エドが投げられても平気なのを見せたいくらい頑丈なのは分かった。ロヴィーサ嬢に無理を言うのはやめなさい」
「エドに痛い思いをさせたいとは思っていないのだよ、私たちは」
父上もエリアス兄上もエルランド兄上も、ロヴィーサ嬢が僕を放り投げることに関しては反対だった。
それならばどうすれば僕が頑丈だと示せばいいのだろう。
悩んでいると、父上が助け舟を出してくれる。
「そなたたちの母も、病気がちだったが、身体自体はとても頑丈だった。馬車が脱輪して投げ出されたときも、傷一つ負っていなかった」
魔族の国に留学していた父上は、魔族がどれだけ頑丈かを身を以て知っていた。
父上の言葉にエリアス兄上もエルランド兄上も、渋々といった形で僕のことを認めてくれる。
「危なくなったらロヴィーサ嬢に守ってもらうのだよ」
「ロヴィーサ嬢よりも前に出ないように」
それに関して、僕は素直に「はい」とは言えなかった。
ロヴィーサ嬢に危険なことがあれば僕はきっと走り出てロヴィーサ嬢を助けてしまう。
僕はロヴィーサ嬢一人を危険な目に遭わせないために冒険者になったのだから。
返事のできない僕に、父上が僕の髪を撫でる。
「頑固な子だ。本当に母に似ておる」
「僕は母上に似ていますか?」
僕が生まれてすぐに亡くなってしまったので、僕は母上のことをほとんど知らない。ヒルダ姉上とエリアス兄上とエルランド兄上は、母上を亡くしたのは同じなのに、母上のことを全く知らない僕のために、覚えている限りの母上の記憶を話してくれた。
それでも、ヒルダ姉上もエリアス兄上もエルランド兄上も幼い頃に母上を失っているので、得られた情報は僅かなものだ。
「モンスターを食べても構わないと私がどれだけ言っても、『この国に馴染むために皆様と同じものを食べます』と言って自分の信念を曲げなかった。魔族ではあったが、この国の王家に嫁いできた瞬間から、そなたの母は我が国の国母だったぞ」
悲しい記憶が多かったせいか、父上が母上に関することをあまり話した覚えはない。父上から母上の話を聞けて、僕は涙ぐんでしまった。
「母上は立派な方だったのですね」
「頑固で、芯が強くて、凛とした方だった」
頑固で、芯が強くて、凛としている。
それはロヴィーサ嬢にも共通しそうなことだと僕は思っていた。
「ロヴィーサ嬢、どうかエドを守ってやってください」
「わたくしの命を懸けても守ります」
「いいえ。命は懸けないでください。ロヴィーサ嬢が亡くなれば、エドが悲しみます。危険なときは共に逃げてください」
「心得ました」
エリアス兄上とエルランド兄上の頼みに、ロヴィーサ嬢は胸に手を当てて深々と礼をする。優雅なそのしぐさに僕は見惚れていた。
「びーぎゃ!」
冬を前に、家庭菜園の畝が騒がしくなった。
王城から帰って馬車を降りた僕は、家庭菜園から聞こえる声に引き寄せられるようにそちらの方に向かっていた。ロヴィーサ嬢もドレスの裾を持って、家庭菜園に入る。
鳴き声が聞こえるのはマンドラゴラを植えた畝だった。
「びぎゃびぎゃ!」
「ぎょえ!」
「ぎょわ!」
話しているような鳴き声に、僕は葉っぱを引っ張ると、ポンッと丸い蕪が抜ける。
蕪には円らなお目目と菱形の口があって、丸い体に短い手足のような根っこが伸びている。
「これがマンドラゴラ!?」
「びーぎゃ」
「とても可愛いですね。食べるのが可哀そうです」
「びゃめびゃめ!」
食べられたくないというように嫌がる蕪マンドラゴラに、僕はすっかり夢中になってしまった。
「食べるために植えたのですが、一匹くらいは飼ってもいいのではないでしょうか」
「びぎゃー!」
「蕪もそう言っている気がします」
「そうですね、一匹くらいはいいかもしれません」
蕪マンドラゴラの可愛さに、ロヴィーサ嬢の心も揺れている。
「飼うのならば名前を付けなければいけません」
どんな名前にしよう。
円らな蕪マンドラゴラのお目目を見ながら、僕は考えていた。
香草も魔力を帯びたものに変えられて、僕は食事がますます美味しくなった。
常人にとっては毒となりえるから、僕がモンスターの肉を食べるときに調理に使われる塩も胡椒も香草も、全部常人のものと変わらないものを使っていた。
そうなると僕の体には受け付けないものになり、食べた後でモンスターの肉の魔力をうまく吸収できないことが多かったのだ。
それも完全になくなった。
僕の未来のお嫁さんであるロヴィーサ嬢が、僕のために料理を作ってくれる。
ロヴィーサ嬢はとても料理が上手で、難しい料理も難なくこなしていた。
「愛妻の取って来てくれた食材で、愛妻の料理……僕はなんて幸せなんだろう」
週に一度は王城にエリアス兄上とエルランド兄上と父上に会いに行く約束をしていたので、僕はロヴィーサ嬢と共に馬車に乗る。
ロヴィーサ嬢は派手ではないが上品に誂えたドレスを身に纏い、僕もスーツを身につけていた。
王城に行くと父上に抱き締められる。
父上は執務を休んで、僕と会う時間を作ってくださっていた。
「健康そうな顔になって。背も少し伸びたようだな」
「僕のロヴィーサ嬢が料理を作ってくれるのです。調味料から細かな食材まで全て魔力の宿ったもので」
僕のために!
僕は自慢したくてたまらなかった。
僕の婚約者のロヴィーサ嬢はこんなにも素晴らしい方なのだ。
「冒険者ギルドに登録し直したと聞きました。所領の民を守るための立派な行いです」
「エドもこんなに幸せそうで、ミエト侯爵家に送り出してよかったと思います」
エリアス兄上もエルランド兄上も微笑んでロヴィーサ嬢に言っていた。
「わたくしにできることをしたまでです」
僕のロヴィーサ嬢なんて、エドヴァルド殿下ったら!
ロヴィーサ嬢が顔を真っ赤にして呟いた言葉が聞こえたのは、恐らく僕だけだろう。僕は愛するロヴィーサ嬢を自慢したくてたまらないのだ。
実際にロヴィーサ嬢は料理上手で、モンスターも狩って来てくださって、家庭菜園も庭に作って下さった。
「ロヴィーサ嬢が庭に家庭菜園を作って、魔族の国から輸入した種で野菜を育て始めたのです。僕には緑の指という、植物の成長を促し、収穫を増やす魔法が使えることが分かりました」
父上とエリアス兄上とエルランド兄上に報告すると、僕の手を見てしみじみと呟いている。
「平和主義のエドらしい魔法だな」
「植物を育てる魔法もあるのだな」
「エドの食べるものが増えるといいな」
手に魔法が宿るわけではないけれど、僕の手で世話をした野菜は急成長を遂げているので、僕の手を見るのも間違っていないかもしれない。
「平和な力だけではありませんが。僕は風の魔法も使えるようになりました。ロヴィーサ嬢と共に冒険者になることにしたのです」
宣言すると、父上とエリアス兄上とエルランド兄上の表情が曇る。
父上もエリアス兄上もエルランド兄上も、僕に関しては非常に過保護なのだ。
僕が冒険者として戦いに出ることを望ましく思っていないのかもしれない。
「エド、危ないことをしてはならぬ」
「ロヴィーサ嬢が一緒にいるとしても、万が一のことがあってはいけない」
「エドは冒険者になるのはやめた方がいい」
反対されると分かっていたが、僕は父上とエリアス兄上とエルランド兄上に言い返す。
「大好きなロヴィーサ嬢と離れたくないのです。ロヴィーサ嬢だけを危険な場所に向かわせて、僕だけ安全な場所にいるというのは心が落ち着きません。それに、僕は魔族なのでとても頑丈なのですよ」
「エドは病弱だろう?」
「いいえ、僕の身体はとても頑丈です。病気を繰り返していたのは、食事が合わなかっただけのことなのです」
今の僕がどれだけ頑丈かどうすればエリアス兄上にも、父上にもエルランド兄上にも信じてもらえるのだろう。
考えた末に、僕はロヴィーサ嬢を見た。
「ロヴィーサ嬢、僕を放り投げてください!」
「できません!」
「お願いです。僕がどれだけ頑丈か、父上とエリアス兄上とエルランド兄上に見せるのです」
斜め下から見上げる角度でお願いすると、ロヴィーサ嬢の顔が真っ赤になる。
赤い顔のロヴィーサ嬢も僕はとても美しくて可愛いと思う。
「そのお顔はずるいのです! エドヴァルド殿下、可愛すぎます!」
「お願いです、僕の愛するロヴィーサ嬢」
「愛するなんて、人前で気軽に言わないでください! 嬉しいのに恥ずかしくて、逃げ出したくなります!」
両頬を押さえて赤い顔を隠すロヴィーサ嬢の左手の中指には鬼の力の指輪がはまっている。きらりと鬼の力の指輪の魔法の模様が光る。
「エドを投げるところなど、私の心臓に悪い。やめておくれ」
「エドが投げられても平気なのを見せたいくらい頑丈なのは分かった。ロヴィーサ嬢に無理を言うのはやめなさい」
「エドに痛い思いをさせたいとは思っていないのだよ、私たちは」
父上もエリアス兄上もエルランド兄上も、ロヴィーサ嬢が僕を放り投げることに関しては反対だった。
それならばどうすれば僕が頑丈だと示せばいいのだろう。
悩んでいると、父上が助け舟を出してくれる。
「そなたたちの母も、病気がちだったが、身体自体はとても頑丈だった。馬車が脱輪して投げ出されたときも、傷一つ負っていなかった」
魔族の国に留学していた父上は、魔族がどれだけ頑丈かを身を以て知っていた。
父上の言葉にエリアス兄上もエルランド兄上も、渋々といった形で僕のことを認めてくれる。
「危なくなったらロヴィーサ嬢に守ってもらうのだよ」
「ロヴィーサ嬢よりも前に出ないように」
それに関して、僕は素直に「はい」とは言えなかった。
ロヴィーサ嬢に危険なことがあれば僕はきっと走り出てロヴィーサ嬢を助けてしまう。
僕はロヴィーサ嬢一人を危険な目に遭わせないために冒険者になったのだから。
返事のできない僕に、父上が僕の髪を撫でる。
「頑固な子だ。本当に母に似ておる」
「僕は母上に似ていますか?」
僕が生まれてすぐに亡くなってしまったので、僕は母上のことをほとんど知らない。ヒルダ姉上とエリアス兄上とエルランド兄上は、母上を亡くしたのは同じなのに、母上のことを全く知らない僕のために、覚えている限りの母上の記憶を話してくれた。
それでも、ヒルダ姉上もエリアス兄上もエルランド兄上も幼い頃に母上を失っているので、得られた情報は僅かなものだ。
「モンスターを食べても構わないと私がどれだけ言っても、『この国に馴染むために皆様と同じものを食べます』と言って自分の信念を曲げなかった。魔族ではあったが、この国の王家に嫁いできた瞬間から、そなたの母は我が国の国母だったぞ」
悲しい記憶が多かったせいか、父上が母上に関することをあまり話した覚えはない。父上から母上の話を聞けて、僕は涙ぐんでしまった。
「母上は立派な方だったのですね」
「頑固で、芯が強くて、凛とした方だった」
頑固で、芯が強くて、凛としている。
それはロヴィーサ嬢にも共通しそうなことだと僕は思っていた。
「ロヴィーサ嬢、どうかエドを守ってやってください」
「わたくしの命を懸けても守ります」
「いいえ。命は懸けないでください。ロヴィーサ嬢が亡くなれば、エドが悲しみます。危険なときは共に逃げてください」
「心得ました」
エリアス兄上とエルランド兄上の頼みに、ロヴィーサ嬢は胸に手を当てて深々と礼をする。優雅なそのしぐさに僕は見惚れていた。
「びーぎゃ!」
冬を前に、家庭菜園の畝が騒がしくなった。
王城から帰って馬車を降りた僕は、家庭菜園から聞こえる声に引き寄せられるようにそちらの方に向かっていた。ロヴィーサ嬢もドレスの裾を持って、家庭菜園に入る。
鳴き声が聞こえるのはマンドラゴラを植えた畝だった。
「びぎゃびぎゃ!」
「ぎょえ!」
「ぎょわ!」
話しているような鳴き声に、僕は葉っぱを引っ張ると、ポンッと丸い蕪が抜ける。
蕪には円らなお目目と菱形の口があって、丸い体に短い手足のような根っこが伸びている。
「これがマンドラゴラ!?」
「びーぎゃ」
「とても可愛いですね。食べるのが可哀そうです」
「びゃめびゃめ!」
食べられたくないというように嫌がる蕪マンドラゴラに、僕はすっかり夢中になってしまった。
「食べるために植えたのですが、一匹くらいは飼ってもいいのではないでしょうか」
「びぎゃー!」
「蕪もそう言っている気がします」
「そうですね、一匹くらいはいいかもしれません」
蕪マンドラゴラの可愛さに、ロヴィーサ嬢の心も揺れている。
「飼うのならば名前を付けなければいけません」
どんな名前にしよう。
円らな蕪マンドラゴラのお目目を見ながら、僕は考えていた。
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