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一章 王子と冒険者の出会い
16.ロヴィーサ嬢との狩り
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晩ご飯のためにロヴィーサ嬢が狩りに出かける。
それに僕とアルマスも同行することになった。
「エドヴァルド殿下にはまだ早いモンスターなので、エドヴァルド殿下はアルマス様を守ることに集中してください」
「分かりました」
「大型の猪のモンスターを狩りますが、普通の猪を仲間として引き連れています。その猪が襲ってくることがあるので、エドヴァルド殿下はそちらの対応をお願いします」
僕はナイフを使うよりも魔法で戦った方がいいと冒険者ギルドの初心者冒険者の試験で分かっていた。
爺やは心得ていて、僕に魔法具を魔族の国から取り寄せてくれていた。
「ダミアーン王太子殿下が、エドヴァルド殿下が魔法の能力を開花させたら使えるように用意しておいたものです」
それは一見、髪飾りに見えた。
僕は銀色の髪を長めに伸ばしていて、後ろで髪を括っている。いわゆるハーフアップという形だ。クリップ型の髪飾りは今まで使っていた髪飾りの代わりに使うことができた。
髪につけると赤い鳥が羽を広げたような形になる。
「エドヴァルド殿下の魔力を増強して、防御力を上げます。ダミアーン王太子殿下の気持ちと思ってお使いくださいませ」
赤い鳥の髪飾りをつけていると、僕は確かに魔力に体が満ちて来るのが分かった。
「今日はよろしくな!」
「泊って行っていいんだよね、アルマス?」
「俺がミエト侯爵家に泊まって行っていいのか?」
柄でもなく恐縮しているアルマスに、ロヴィーサ嬢が挨拶に来る。
「エドヴァルド殿下の婚約者のロヴィーサ・ミエトです。初めまして、アルマス様」
「僕の学友のアルマスです」
「アルマスであるます」
「噛んでるよ、アルマス!」
緊張して噛んでしまうアルマスに僕は笑ってしまった。
アルマスが噛んでもロヴィーサ嬢は気にせずに優しく微笑んでいる。
豪奢な艶やかな黒髪と深い海のような青い瞳、冒険者の格好をしているが、ロヴィーサ嬢は美しかった。
「あんな綺麗なひと見たの初めてだ。エドヴァルド殿下、すごいひとと婚約してるんだな」
「すごいのは見た目だけじゃないんだよ。僕のためにモンスターを狩ってくれるし、所領の民をモンスターから守ろうとしているし、料理も僕のためにしてくれるし、僕のために家庭菜園も作ってくれているんだよ」
あの家庭菜園をアルマスに見せて自慢したかったが、常人には危険な植物も大量に生えているのでそれはできない。残念だったが、これからロヴィーサ嬢の狩りを見られるのは楽しみだった。
「猪のモンスターが出るのは所領の端の山に面した場所です。そこにある村までは馬車で行きます」
「よろしくお願いします」
「緊張しなくても大丈夫ですよ。ドラゴン系のモンスターに比べたら格段に仕留めやすいモンスターですからね」
どのモンスターが仕留めにくいのか僕にはよく分からないが、ロヴィーサ嬢はドラゴン系のモンスターは仕留めにくいと思っていそうだ。
僕にとっては初陣で、アルマスにとっては初めての見学なので、どういう動きをすればいいのか確認しておかなければいけない。
「僕とアルマスはどうしていればいいですか?」
「わたくしと猪のモンスターの見える位置に隠れていてください。周辺には普通の猪も出るので、襲ってきた場合には、エドヴァルド殿下に処理を任せます」
「分かりました」
「猪のモンスターは直線的に強い攻撃を行ってきます。絶対に前に出ないようにお願いします」
ロヴィーサ嬢はモンスターの動きまで把握している。モンスターは種類によって、動き方が全く違う。猪のモンスターはその名の通り猪突猛進で、直線的な突撃をしてくるのだろう。
馬車が村に着くと、馬車から降りてロヴィーサ嬢が先頭に立って山に入っていく。
山にはけもの道しかなくて、掻き分けて歩いて行くのも大変だった。
「アルマス、きつくない?」
「俺は近所の山にキノコ採りや木の実集めに行ってるから平気だよ」
「よかった」
アルマスの様子を見ながら僕が山に分け入っていると、先頭のロヴィーサ嬢が体を低くした。唇に指を当てるロヴィーサ嬢に、僕もアルマスも息を潜める。
山の中にはちらちらと小雪が降り始めていた。
山の下よりも気温が低いのだ。
息が白くなるのを隠すために、できるだけ息を深く吐かないようにする。
「来ます! ここにいてください!」
茂みから走り出たロヴィーサ嬢に、小山ほどありそうな巨大な猪が突進してきた。
「危ない!」
思わず叫んだ僕だが、ロヴィーサ嬢は突進をしっかりと受け止めている。
猪のモンスターが素早く身を引いてもう一度突進に備える。
ロヴィーサ嬢は大振りのナイフを抜いて猪のモンスターに襲い掛かる。
避けた猪のモンスターがもう一度突進してきたのも、ロヴィーサ嬢はしっかりと受け止めた。
見入っている間に、僕は生臭い吐息がかかるのに気付いた。
後ろを振り向けば、大きな猪が僕に向かって突進して来ようとしている。
モンスター級ではないが、猪としては大きな部類のその猪に、僕はとっさに魔法を展開できずにいた。
吹っ飛ばされてしまって、草むらに倒れたが、幸い怪我はない。
やはり僕は頑丈なようだ。
その代わりにアルマスと離れてしまった。
「アルマス、逃げて!」
「エドヴァルド殿下ー!?」
半泣きでアルマスが僕の方に走ってくる。それより早く追い付こうとした猪に、僕は魔法を展開させた。
赤い鳥の髪飾りが光って、鳥の羽が鋭い刃になって発射される。
それは致命傷にはならなかったが、猪を怯ませるには十分だった。
野生の動物は自分に勝ち目がないと分かれば逃げて行く。
アルマスのことを食べられるわけでもないのに深追いはしないのだ。
逃げて行った猪に安堵していると、アルマスがロヴィーサ嬢の方を見ていた。
何度目かの突撃を受け止めたロヴィーサ嬢は、遂に猪のモンスターの身体を捉え、空中に放り投げていた。
巨木を折りながら投げ飛ばされた猪のモンスターは完全に昏倒している。
ロヴィーサ嬢は大振りのナイフで止めを刺して、猪のモンスターを仕留めた。
「エドヴァルド殿下、ご無事でしたか?」
「猪に吹っ飛ばされたけど、平気です」
「エドヴァルド殿下を吹っ飛ばした猪がいるのですか! 仕留めないと!」
「ロヴィーサ嬢、落ち着いて。アルマスに猪の解体を見せるのでしょう」
僕が猪に吹っ飛ばされたと聞くと、ロヴィーサ嬢はその猪を仕留めようとする。それだけ愛されているのだと思うと、嬉しくて頬が緩んでしまう。
ロヴィーサ嬢は猪のモンスター血抜きをして、内臓を取り出し、皮を剥いで、肉を解体してしまう。
巨大な猪のモンスターは大きな塊の肉になって、ロヴィーサ嬢のマジックポーチに収納された。
必要のない内臓の部位はロヴィーサ嬢が火で燃やして処理してしまう。
「埋めると毒素が滲み出ることがあるのです。高温の火で燃やせば、灰になって無害になります」
不要な部位の処理までロヴィーサ嬢は完璧だった。
皮は加工できるように村のひとたちに譲る。猪のモンスターの皮は加工が難しいが、上手に加工すると魔族の国でマジックポーチなどの材料にするために買い取ってもらえるのだ。
村のひとたちの利益まで考えているロヴィーサ嬢は立派だった。
ミエト侯爵家に帰る頃には、日が沈んでいた。
お腹を空かせた僕のために、ロヴィーサ嬢は厨房で猪のモンスターの肉を調理してくれている。
僕はその間、アルマスとお菓子を摘まんでお茶にしていた。
「こっちが僕のお菓子。アルマスのは、そっち。間違えないでね」
「分かったよ」
僕の食べるものはアルマスには毒になりうるので、別々のお皿に盛ってある。アルマスはアルマスのために用意されたお茶菓子を食べていた。
山盛りのクッキーもロヴィーサ嬢が作ってくれたもの。
サクサクでバターの香りがしてとても美味しい。
「びぎゃ! びょえ、びょわ!」
蕪マンドラゴラが僕に何か話しかけている。
綺麗に洗った蕪マンドラゴラはミエト侯爵家のお屋敷の中で飼われるようになったけれど、まだ名前が決まっていない。
白い丸い体に円らなお目目と菱形のお口。
「それ、蕪だよな?」
「うん、飼ってるんだ」
「蕪を、飼う……?」
蕪マンドラゴラをアルマスは興味深そうに見ていた。
それに僕とアルマスも同行することになった。
「エドヴァルド殿下にはまだ早いモンスターなので、エドヴァルド殿下はアルマス様を守ることに集中してください」
「分かりました」
「大型の猪のモンスターを狩りますが、普通の猪を仲間として引き連れています。その猪が襲ってくることがあるので、エドヴァルド殿下はそちらの対応をお願いします」
僕はナイフを使うよりも魔法で戦った方がいいと冒険者ギルドの初心者冒険者の試験で分かっていた。
爺やは心得ていて、僕に魔法具を魔族の国から取り寄せてくれていた。
「ダミアーン王太子殿下が、エドヴァルド殿下が魔法の能力を開花させたら使えるように用意しておいたものです」
それは一見、髪飾りに見えた。
僕は銀色の髪を長めに伸ばしていて、後ろで髪を括っている。いわゆるハーフアップという形だ。クリップ型の髪飾りは今まで使っていた髪飾りの代わりに使うことができた。
髪につけると赤い鳥が羽を広げたような形になる。
「エドヴァルド殿下の魔力を増強して、防御力を上げます。ダミアーン王太子殿下の気持ちと思ってお使いくださいませ」
赤い鳥の髪飾りをつけていると、僕は確かに魔力に体が満ちて来るのが分かった。
「今日はよろしくな!」
「泊って行っていいんだよね、アルマス?」
「俺がミエト侯爵家に泊まって行っていいのか?」
柄でもなく恐縮しているアルマスに、ロヴィーサ嬢が挨拶に来る。
「エドヴァルド殿下の婚約者のロヴィーサ・ミエトです。初めまして、アルマス様」
「僕の学友のアルマスです」
「アルマスであるます」
「噛んでるよ、アルマス!」
緊張して噛んでしまうアルマスに僕は笑ってしまった。
アルマスが噛んでもロヴィーサ嬢は気にせずに優しく微笑んでいる。
豪奢な艶やかな黒髪と深い海のような青い瞳、冒険者の格好をしているが、ロヴィーサ嬢は美しかった。
「あんな綺麗なひと見たの初めてだ。エドヴァルド殿下、すごいひとと婚約してるんだな」
「すごいのは見た目だけじゃないんだよ。僕のためにモンスターを狩ってくれるし、所領の民をモンスターから守ろうとしているし、料理も僕のためにしてくれるし、僕のために家庭菜園も作ってくれているんだよ」
あの家庭菜園をアルマスに見せて自慢したかったが、常人には危険な植物も大量に生えているのでそれはできない。残念だったが、これからロヴィーサ嬢の狩りを見られるのは楽しみだった。
「猪のモンスターが出るのは所領の端の山に面した場所です。そこにある村までは馬車で行きます」
「よろしくお願いします」
「緊張しなくても大丈夫ですよ。ドラゴン系のモンスターに比べたら格段に仕留めやすいモンスターですからね」
どのモンスターが仕留めにくいのか僕にはよく分からないが、ロヴィーサ嬢はドラゴン系のモンスターは仕留めにくいと思っていそうだ。
僕にとっては初陣で、アルマスにとっては初めての見学なので、どういう動きをすればいいのか確認しておかなければいけない。
「僕とアルマスはどうしていればいいですか?」
「わたくしと猪のモンスターの見える位置に隠れていてください。周辺には普通の猪も出るので、襲ってきた場合には、エドヴァルド殿下に処理を任せます」
「分かりました」
「猪のモンスターは直線的に強い攻撃を行ってきます。絶対に前に出ないようにお願いします」
ロヴィーサ嬢はモンスターの動きまで把握している。モンスターは種類によって、動き方が全く違う。猪のモンスターはその名の通り猪突猛進で、直線的な突撃をしてくるのだろう。
馬車が村に着くと、馬車から降りてロヴィーサ嬢が先頭に立って山に入っていく。
山にはけもの道しかなくて、掻き分けて歩いて行くのも大変だった。
「アルマス、きつくない?」
「俺は近所の山にキノコ採りや木の実集めに行ってるから平気だよ」
「よかった」
アルマスの様子を見ながら僕が山に分け入っていると、先頭のロヴィーサ嬢が体を低くした。唇に指を当てるロヴィーサ嬢に、僕もアルマスも息を潜める。
山の中にはちらちらと小雪が降り始めていた。
山の下よりも気温が低いのだ。
息が白くなるのを隠すために、できるだけ息を深く吐かないようにする。
「来ます! ここにいてください!」
茂みから走り出たロヴィーサ嬢に、小山ほどありそうな巨大な猪が突進してきた。
「危ない!」
思わず叫んだ僕だが、ロヴィーサ嬢は突進をしっかりと受け止めている。
猪のモンスターが素早く身を引いてもう一度突進に備える。
ロヴィーサ嬢は大振りのナイフを抜いて猪のモンスターに襲い掛かる。
避けた猪のモンスターがもう一度突進してきたのも、ロヴィーサ嬢はしっかりと受け止めた。
見入っている間に、僕は生臭い吐息がかかるのに気付いた。
後ろを振り向けば、大きな猪が僕に向かって突進して来ようとしている。
モンスター級ではないが、猪としては大きな部類のその猪に、僕はとっさに魔法を展開できずにいた。
吹っ飛ばされてしまって、草むらに倒れたが、幸い怪我はない。
やはり僕は頑丈なようだ。
その代わりにアルマスと離れてしまった。
「アルマス、逃げて!」
「エドヴァルド殿下ー!?」
半泣きでアルマスが僕の方に走ってくる。それより早く追い付こうとした猪に、僕は魔法を展開させた。
赤い鳥の髪飾りが光って、鳥の羽が鋭い刃になって発射される。
それは致命傷にはならなかったが、猪を怯ませるには十分だった。
野生の動物は自分に勝ち目がないと分かれば逃げて行く。
アルマスのことを食べられるわけでもないのに深追いはしないのだ。
逃げて行った猪に安堵していると、アルマスがロヴィーサ嬢の方を見ていた。
何度目かの突撃を受け止めたロヴィーサ嬢は、遂に猪のモンスターの身体を捉え、空中に放り投げていた。
巨木を折りながら投げ飛ばされた猪のモンスターは完全に昏倒している。
ロヴィーサ嬢は大振りのナイフで止めを刺して、猪のモンスターを仕留めた。
「エドヴァルド殿下、ご無事でしたか?」
「猪に吹っ飛ばされたけど、平気です」
「エドヴァルド殿下を吹っ飛ばした猪がいるのですか! 仕留めないと!」
「ロヴィーサ嬢、落ち着いて。アルマスに猪の解体を見せるのでしょう」
僕が猪に吹っ飛ばされたと聞くと、ロヴィーサ嬢はその猪を仕留めようとする。それだけ愛されているのだと思うと、嬉しくて頬が緩んでしまう。
ロヴィーサ嬢は猪のモンスター血抜きをして、内臓を取り出し、皮を剥いで、肉を解体してしまう。
巨大な猪のモンスターは大きな塊の肉になって、ロヴィーサ嬢のマジックポーチに収納された。
必要のない内臓の部位はロヴィーサ嬢が火で燃やして処理してしまう。
「埋めると毒素が滲み出ることがあるのです。高温の火で燃やせば、灰になって無害になります」
不要な部位の処理までロヴィーサ嬢は完璧だった。
皮は加工できるように村のひとたちに譲る。猪のモンスターの皮は加工が難しいが、上手に加工すると魔族の国でマジックポーチなどの材料にするために買い取ってもらえるのだ。
村のひとたちの利益まで考えているロヴィーサ嬢は立派だった。
ミエト侯爵家に帰る頃には、日が沈んでいた。
お腹を空かせた僕のために、ロヴィーサ嬢は厨房で猪のモンスターの肉を調理してくれている。
僕はその間、アルマスとお菓子を摘まんでお茶にしていた。
「こっちが僕のお菓子。アルマスのは、そっち。間違えないでね」
「分かったよ」
僕の食べるものはアルマスには毒になりうるので、別々のお皿に盛ってある。アルマスはアルマスのために用意されたお茶菓子を食べていた。
山盛りのクッキーもロヴィーサ嬢が作ってくれたもの。
サクサクでバターの香りがしてとても美味しい。
「びぎゃ! びょえ、びょわ!」
蕪マンドラゴラが僕に何か話しかけている。
綺麗に洗った蕪マンドラゴラはミエト侯爵家のお屋敷の中で飼われるようになったけれど、まだ名前が決まっていない。
白い丸い体に円らなお目目と菱形のお口。
「それ、蕪だよな?」
「うん、飼ってるんだ」
「蕪を、飼う……?」
蕪マンドラゴラをアルマスは興味深そうに見ていた。
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