末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

文字の大きさ
17 / 180
一章 王子と冒険者の出会い

17.マンドラゴラを飼うということ

しおりを挟む
「びーぎゃ! びぎゃびぎゃ!」

 蕪マンドラゴラが僕の膝の上に座って、アルマスとの会話に混ざっているつもりになっている。可愛いので僕は蕪マンドラゴラをそのままにしておいた。

「これ、俺も飼えるかな?」
「アルマスも蕪マンドラゴラが欲しいの?」
「俺のうち、猫も犬も飼えないんだ」

 アルマスの家は借家なので猫も犬も飼えない契約になっているとアルマスは教えてくれた。蕪ならば植物なので問題ないし、いざとなれば野菜籠に隠してしまえばいい。

「蕪がいいの? 大根や人参もあるみたいなんだけど」
「顔を見て決めたいな」

 アルマスの要望で、僕は薄暗くなった庭に出て蕪マンドラゴラと大根マンドラゴラと人参マンドラゴラを引き抜いてきた。
 冬の冷たい水で綺麗に洗って戻ってくると、アルマスは申し訳なさそうにしている。

「エドヴァルド殿下を使うなんて悪かったな」
「いいよ。アルマスは家庭菜園には入れないんだからね」

 アルマスの安全のために家庭菜園に入れてはいけない。家庭菜園にはアルマスにとっては毒となりうる植物が植えてあるのだ。
 こういうことを考えるとロヴィーサ嬢が魔族の血を引いていてくれて本当によかったと思う。
 僕はロヴィーサ嬢と一緒に家庭菜園の世話ができて、ロヴィーサ嬢に食事も作ってもらえる。

「お食事の用意ができました。テーブルへどうぞ」

 ロヴィーサ嬢が声をかけてくれて、僕はテーブルへ移ろうとしたが、アルマスはソファから動かない。アルマスは人参マンドラゴラと大根マンドラゴラと蕪マンドラゴラを見比べているのだ。

「どいつも可愛い! 選べない!」
「三匹飼っちゃえば?」
「いいのか? 餌は?」
「餌は……勝手に土に埋まってるよ」

 蕪マンドラゴラを引き抜いてから、餌を上げた覚えはないのだが、蕪マンドラゴラはお腹が空いたら勝手に自分で土に埋まっている。土に埋まれば植物なので栄養が取れるのだろう。
 蕪マンドラゴラのために、僕はお屋敷の中にも埋まれるプランターを置いていた。

「土に埋まるだけか。うちは農家だからちょうどいいな。三匹とももらっていいのか?」
「いいと思う。いいですよね、ロヴィーサ嬢」
「アルマス様がマンドラゴラを飼いたいのですね。三匹持って行ってくださって構いませんよ」

 ロヴィーサ嬢もアルマスがマンドラゴラをもらうことに関して反対しなかった。

「蕪マンドラゴラでシチューを作ってみました。マンドラゴラ自体は魔力を持っていますが、薬にもなる栄養価の高い植物です。人間が食べても毒にはならず栄養になるので、アルマス様の分も作ってみました」
「えー!? 俺……じゃない、私がロヴィーサ様の手料理を食べていいのですかー!?」

 叫んでいるアルマスに僕は心が狭いと思いながらちょっとむっとしてしまった。

「アルマスと言えども、僕のロヴィーサ嬢の手料理を食べるなんて」
「お嫌でしたか?」
「心が狭いと分かっているのですが、妬けます」

 素直に僕が言うと、ロヴィーサ嬢が頬を染めて微笑む。

「これ以降は、エドヴァルド殿下のためだけに料理を作りますね」

 いつか、子どもができたらそれも変わるのかもしれないが、僕はまだ十二歳。ロヴィーサ嬢の約束はしばらくは有効のようだった。
 ロヴィーサ嬢が約束してくれたので僕もやっと落ち着いて食卓に着ける。

「ロヴィーサ嬢とアルマスと同じものを食べられる日が来るなんて思いませんでした」
「魔族の国の魔力のこもった食材には様々なものがあります。その中には常人が食べても問題ないものもあると思うのです。少しずつ探していきましょうね」

 僕とロヴィーサ嬢が結婚して子どもが生まれたとする。その子どもが常人だった場合には、僕とは全く別の料理を食べなければいけない。
 それを考えると、常人も魔族も共通して食べられる食材を探しておくのも必要な気がしていた。

「エドヴァルド殿下のお母上がモンスター由来のものを口にしないと誓ったのは、エドヴァルド殿下と同じ理由でした。王城の厨房で自分の子どもや伴侶が毒に晒されないようにという気遣いだったのです」

 どれだけ自分の魔力が枯渇して苦しくても、母上はモンスター由来のものを口にしなかった。それがどれだけの覚悟なのか、僕にはよく分かる。
 僕が王城を出てミエト侯爵家にやってきたのも同じ理由なのだから。

「エドヴァルド殿下のお母上はすごいひとだったんだな」
「僕は覚えていないけれど、頑固で、芯があって、凛としたひとだったって父上が言っていた」
「ロヴィーサ様もそんな感じだもんな。だから惚れたのか」
「そうだよ」

 素直に僕が答えると、ロヴィーサ嬢が顔を真っ赤にしている。僕がロヴィーサ嬢に惚れているのは周知の事実なので言っても構わないと思っていたが、ロヴィーサ嬢には恥ずかしかったようだ。

「エドヴァルド殿下、そんな、あけすけに言わないでくださいませ」

 照れるロヴィーサ嬢も可愛いので僕はますます口説きたくなってしまうが、アルマスの前でロヴィーサ嬢に吹っ飛ばされたらアルマスがびっくりしてしまいそうなのでぐっと我慢した。

 メインディッシュは猪のモンスターの肉のソテーだった。ポークソテーとよく似ているが、脂が蕩けるように甘くてとても美味しい。
 ロヴィーサ嬢とアルマスのメインディッシュはポークソテーだった。

 家庭菜園で採れたズッキーニやジャガイモやトマトのゴロゴロ入っているオムレツを付け合わせに、猪のモンスターのソテーを食べる。オムレツはコカトリスの卵で、しっかりと味がついていて美味しい。

「シチューも美味いし、オムレツも、ポークソテーも、こんな美味いものは食べたことがない」
「僕のは材料が違うけど、見た目はほとんど変わらないね」

 ロヴィーサ嬢はこんなところまで気遣いをしてくれていた。
 材料が違っても、お皿の上に乗っている料理の見た目がほとんど変わらないようにすることで、僕とロヴィーサ嬢とアルマスが同じ食卓を囲んでいるのだと強く感じることができる。
 特に今日は蕪マンドラゴラのシチューが全員同じもので、他人と同じものを食べられる喜びを僕は味わっていた。

 食事が終わると、僕はロヴィーサ嬢とお茶をしながら、爺やを呼んだ。

「爺やはモンスター由来のものは口にしないと母上の誓いに従っているけれど、常人も食べられる今日のような蕪マンドラゴラのシチューくらいなら食べてもいいんじゃないかな」
「それは……」
「僕は爺やが心配なんだ。爺やにはずっと仕えていて欲しいし、長生きもして欲しい」

 顕著に体調を崩すことはないが、爺やの身体に魔力が枯渇しているのは確かだった。常人として暮らすのに魔力はいらないかもしれないが、僕は魔力のこもったものを十分に食べられなかった時期に、どれだけ自分が寝込んで周囲を心配させたかをしっかりと覚えていた。

「爺やにマンドラゴラや常人の毒にならないものを食べて欲しい。それで誓いが破られたと母上は思わないんじゃないかな。お願いだよ、爺や」

 僕が目を潤ませるのに、爺やは額に手をやってため息をついた。

「エドヴァルド殿下には敵いませんな」
「それじゃ、食べてくれるんだね?」
「あり難くいただきます」

 爺やの件も解決できそうで僕は嬉しくてロヴィーサ嬢に飛び付く。抱き締めると、ロヴィーサ嬢は小山ほどある猪のモンスターを素手で受け止めたとは思えないほどほっそりとしていた。

「エドヴァルド殿下、よかったですね」
「はい。僕にとって爺やは赤ん坊のころから面倒を見てくれた大事なひとなのです」

 僕には乳母がいないのは、僕が魔族で僕のミルクや離乳食に常人の乳母は触れることができなかったからだ。母上の輿入れのときについてきた爺やは僕のミルクや離乳食に触れることができて、僕は爺やに育てられた。

「エドヴァルド殿下に心配されるなど、私も果報者ですな」
「爺やは僕の乳母代わりだからね」

 話が終わってアルマスのところに行くと、アルマスは大根マンドラゴラと人参マンドラゴラと蕪マンドラゴラを並ばせていた。

「大根一号、人参二号、蕪三号!」
「びゃい!」
「びょえ!」
「びょわ!」

 アルマスは大根マンドラゴラに大根一号、人参マンドラゴラに人参二号、蕪マンドラゴラに蕪三号と名前を付けたようだった。

「こいつらは三兄弟だと思うんだ。大根が長男で、人参が次男、蕪が末っ子だ」
「それなら、僕は蕪になっちゃうな」
「そっか、エドヴァルド殿下も末っ子か」

 アルマスの言葉に、僕には大根マンドラゴラがエリアス兄上、人参マンドラゴラがエルランド兄上、蕪マンドラゴラが僕に思えてきた。
 僕の蕪マンドラゴラはいそいそとプランターの土を掻き分けて埋まっている。

「エーメル……ロヴィーサ嬢、蕪マンドラゴラの名前はエーメルでどうでしょう?」
「可愛い名前ですね。何から取ったのですか?」
「僕の家系は父上がエンシオ、兄上がエリアスとエルランド、僕がエドヴァルドで、全員名前が『エ』から始まっているのです。僕は末っ子だけど弟が欲しかったから、僕の弟だったらどんな名前かを考えました」
「エドヴァルド殿下はエーメルの兄上なのですね」
「弟だと思って可愛がります」

 僕に弟が生まれることはないけれど、蕪マンドラゴラのエーメルを弟だと思って可愛がることはできる。

「エーメル!」
「びぎゃ!」

 呼ぶとエーメルはプランターの中から返事をしてくれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

婚約破棄された悪役令嬢、手切れ金でもらった不毛の領地を【神の恵み(現代農業知識)】で満たしたら、塩対応だった氷の騎士様が離してくれません

夏見ナイ
恋愛
公爵令嬢アリシアは、王太子から婚約破棄された瞬間、歓喜に打ち震えた。これで退屈な悪役令嬢の役目から解放される! 前世が日本の農学徒だった彼女は、慰謝料として誰もが嫌がる不毛の辺境領地を要求し、念願の農業スローライフをスタートさせる。 土壌改良、品種改良、魔法と知識を融合させた革新的な農法で、荒れ地は次々と黄金の穀倉地帯へ。 当初アリシアを厄介者扱いしていた「氷の騎士」カイ辺境伯も、彼女の作る絶品料理に胃袋を掴まれ、不器用ながらも彼女に惹かれていく。 一方、彼女を追放した王都は深刻な食糧危機に陥り……。 これは、捨てられた令嬢が農業チートで幸せを掴む、甘くて美味しい逆転ざまぁ&領地経営ラブストーリー!

処理中です...