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一章 王子と冒険者の出会い
20.公爵家の子息の沙汰
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アルマスが帰る前にロヴィーサ嬢に僕は確認した。
「アルマスがマンドラゴラを育ててみたいと言っているのですがどうでしょう?」
「いいと思います。マンドラゴラは薬効があるので、この国でも高く売れると聞いています」
目的はマンドラゴラを売るのではなくて、大量に集めてラインダンスをさせたいということなのだが、それは特に言わなかった。
ロヴィーサ嬢と僕で家庭菜園に出ると、冷えた空気が体にまとわりつく。コートは着ていたがそろそろ雪が降り始めそうな時期に入っていた。
マンドラゴラが植えられている一画に行くと、ロヴィーサ嬢が長く伸びたマンドラゴラの葉っぱから小さな黒いものを収穫する。
それが種だということは僕にも分かっていた。
「この時期はもうマンドラゴラも種をつけて次の年に備える頃ですからね。ちょうどよかったかもしれません」
大根マンドラゴラ、人参マンドラゴラ、蕪マンドラゴラと袋に入れて分けてロヴィーサ嬢が準備してくれる。
お屋敷に戻るとアルマスは玄関で僕とロヴィーサ嬢を待っていた。
「これをお渡しします。こちらが大根マンドラゴラの種、こちらが人参マンドラゴラの種、こちらが蕪マンドラゴラの種です」
「ありがとうございます。大事に育てます」
「わたくしたちは今年は時期を逃して秋に植えましたが、春に植えたら立派に育つと思います」
「そうします」
ミエト侯爵家に滞在している期間でアルマスはすっかりと敬語が使えるようになっていた。やはりロヴィーサ嬢のような美しいひとが目の前にいると、自然と敬語も出てくるのだろう。
「アルマス、もしかしてロヴィーサ嬢に憧れていないよね?」
「まさか!? 綺麗な方だとは思うけど、エドヴァルド殿下の婚約者だぞ? 親友の婚約者に横恋慕するような阿呆じゃないよ」
アルマスは正直なので僕はその言葉を疑う必要はない。ロヴィーサ嬢が美しいのは確かだが、アルマスは恋情は抱いていなかった。
「エドヴァルド殿下がどれだけ力を尽くして、国王陛下に臣籍降下することまで認めさせて婚約した相手だぞ? 誰も手を出せるはずがないって」
本当にそうだろうか。
アルマスはそう言っているけれど、僕は心配でならなかった。
ロヴィーサ嬢が心変わりするとは思えないけれど、ロヴィーサ嬢に恋慕を抱くものがいるのではないか。
ロヴィーサ嬢はこんなにもできた方で、素晴らしくて、美しくて、誰でも心奪われてしまうような相手なのだ。
「例え誰かに口説かれたとしても、わたくしの心には響きません。わたくしにはエドヴァルド殿下がいるのですから」
ロヴィーサ嬢もそう言ってくれているけれど、僕には劣等感があった。
僕はまだ十二歳でロヴィーサ嬢よりも背が低くて、顔は女の子のように可愛くて、ダミアーン伯父上のように格好よくない。
血統的には将来はダミアーン伯父上のように背が高くなって、顔立ちも凛々しく格好よくなる要素があるはずなのだが、今は可愛いだけだ。ロヴィーサ嬢の評価も格好いいよりも可愛いの方が多い。
「僕よりも格好いいひとが来るかもしれません」
「エドヴァルド殿下、わたくしはミエト侯爵で、エドヴァルド殿下はこの国の王子様。わたくしとエドヴァルド殿下の結婚は国の一大事業でもあるのですよ。それを壊そうという不届き者がいたならば、わたくしは鬼の力の指輪で対抗します」
言われてみればそうだった。
僕が臣籍降下するというだけでも物凄い一大事なのに、ミエト侯爵家と王家を繋ぐ結婚を邪魔しようとする輩がいたら、国王である父上からも激しく罰せられるだろう。
その点に関しては僕は安心していいのだとロヴィーサ嬢に言われた気がした。
アルマスを馬車で家まで送って行く。
アルマスの家は農地に囲まれた小さな一軒家だった。借家だと言っていたからその家も持ち家ではないのだろう。
アルマスの格好も小奇麗にはしているが、素材からして僕やロヴィーサ嬢のものとは違う。アルマスと僕の差を見せつけられた気がした。
「すごく楽しかったよ。ありがとう」
「どういたしまして。また来てね!」
「うん、ぜひ伺わせてもらうよ」
大根マンドラゴラの大根一号と人参マンドラゴラの人参二号と蕪マンドラゴラの蕪三号を抱いて、アルマスは馬車から降りて行った。アルマスの家からはアルマスの両親と兄弟らしきひとたちが出て来ていて、僕とロヴィーサ嬢に深々と頭を下げていた。
馬車はそのまま王城に向かった。
今日は父上とエリアス兄上とエルランド兄上に会う日なのだ。
アルマスと過ごした楽しい気持ちのまま王城に入ると、父上とエリアス兄上とエルランド兄上が迎えてくれる。
「エド、私は魔族の国に留学することにしたよ。ダミアーン伯父上が受け入れてくださるそうだ」
開口一番、エリアス兄上は僕に報告してくれた。
父上もエリアス兄上くらいの年に魔族の国に留学に行っている。魔族と隣人として暮らすにあたって、魔族の国で学ぶことは非常に大事だった。
「エドの食事のことも、私はずっと理解したかった。学ぶ機会が欲しかったんだ」
「エリアス兄上、嬉しいです。エリアス兄上にそんな風に思われていたなんて、僕は果報者です」
優しいエリアス兄上は僕がモンスターを食べることは知っていたけれど、常人の食べるものを僕が受け付けない理由や、常人が食べるものを食べると逆に体調を崩してしまう理由をよく分かっていなかった。
それはエルランド兄上も同じだった。
「私も高等学校を卒業したら魔族の国に一年間の留学をしようと思っているよ」
「エルランド兄上も!」
「もしかしたら、私も魔族の国で運命に出会うかもしれない」
父上は母上という運命に魔族の国で出会った。
エルランド兄上はまだ婚約もしていないし、好きな相手がいるというのも聞いたことがない。エルランド兄上は魔族の国から姫君を見初めて来るのかもしれない。
「エド、ミエト侯爵家での暮らしはどうだ?」
「さっきまで、学友のアルマスが遊びに来ていました。アルマスは平民ですが、僕ととても気が合うのです。アルマスとモンスター狩りに行って、食事をして、カードゲームもしました」
嬉しい気持ちが溢れ出るように報告すると、父上も目尻に皺を寄せて微笑んでくれる。
「いい友達ができたようだな。本当によかった」
「ありがとうございます」
父上に抱き締められて、そんな年ではないけれど、僕は幸せで胸が暖かくなっていた。
ソファに座って改めて話をする。
父上から話されたのは、ロヴィーサ嬢の鬼の力の指輪を盗んだ公爵家の子息のことだった。
「あの子息はハーヤネン公爵家の次男だった。名前はヘンリッキ。ヘンリッキは家を継ぐことができなくて、エドの学友となって王家に入り込むしか出世の道はないと吹きこまれていたようだ」
「僕は王家を降下するのですが」
「それでも、王家との繋がりはあり続けるから、一縷の望みにかけたようだ」
ヘンリッキは唆されてミエト侯爵家に忍び込んだ。
唆したのは、ヘンリッキの兄のハンヌだった。
「まだ年も十二歳だ。ロヴィーサ嬢の部屋に忍び込んで鬼の力の指輪を盗み、エドの学友の荷物に忍び込ませるなど、考えつかなかったのだろう。兄のハンヌが面白がって弟を操っていたようなのだ」
父上が言うには首謀者はヘンリッキではなくて兄のハンヌだった。僕の学友になれと命じたのも兄なのかもしれない。
弟のヘンリッキも許せないが、十二歳の弟を操って悪だくみをさせたハンヌはますます許せない。
「父上はどのような沙汰を下されますか?」
「エドはどうしたい?」
僕はヘンリッキに関して、少しだけ反省していた。
ヘンリッキのしたことは許されないことだけど、僕も風の魔法でヘンリッキが漏らしてしまうまで脅かしてしまった。風の魔法が暴発していれば、ヘンリッキは無事ではいられなかっただろう。
アルマスとロヴィーサ嬢が止めてくれたからヘンリッキは無事で、僕はひとを傷付けることがなかった。
「ヘンリッキが許されないことをしたとしても、その罰はもう受けている気がします。僕とロヴィーサ嬢とアルマスの前で漏らすくらい恐ろしい思いをしている。許せないのは唆した兄のハンヌです」
ハンヌとヘンリッキの兄弟関係がどうなっているか分からないが、良好ではなさそうなのは確かだった。
良好な兄弟関係だったならば、SSランクの冒険者であるロヴィーサ嬢の部屋に忍び込ませたりしない。捕まって酷い目にヘンリッキがあっても、兄のハンヌは全く構わなかったのだろう。
アルマスが庇っていたし、僕はヘンリッキの方が気になっていた。それは僕も末っ子で、ヘンリッキも弟という立場だからというのもあっただろう。
「弟を唆すようなハンヌには公爵家を継ぐ資格はないのではないですか?」
「兄に罪を問うか」
「はい。ヘンリッキは反省はしてもらいますが、首謀者はハンヌだと僕は思います」
僕の言葉に父上は形のいい顎を撫でて小さく唸る。
「ハンヌの公爵家の継承権を剥奪するか?」
「できますか?」
「我が息子のエドと婚約者のロヴィーサ嬢の平和を乱した罪は重い。弟を唆してロヴィーサ嬢の部屋に忍び込ませたのも、重罪だ」
ロヴィーサ嬢は僕の婚約者なのだから、その部屋に入るということは、僕からロヴィーサ嬢を寝取る行為になりかねない。ヘンリッキがまだ十二歳で性的なことができないとしても、夜にロヴィーサ嬢の部屋に忍び込んだ罪は重い。
それを年上のハンヌが指示していたのなら尚更だ。
僕のロヴィーサ嬢が無事でよかったが、ハンヌが忍び込んでロヴィーサ嬢に手を出していれば、処罰は軽いものでは決してすまなかっただろう。
侯爵家の継承権を剥奪するというのも重い処罰だが、弟をロヴィーサ嬢の部屋に忍び込ませたハンヌにはお似合いの罪だった。
「ロヴィーサ嬢、何ともありませんでしたか?」
「はい。わたくしは平気でした。ちょうどシャワーを浴びて部屋を出ているときでしたので。部屋に戻ると、エドヴァルド殿下くらいの男の子がわたくしのアクセサリーボックスをあさっていて、鬼の力の指輪を持って部屋を出て行ったのです」
「鬼の力の指輪はロヴィーサ嬢のお母上から受け継いだ形見であり、僕のためにモンスターを狩る大事な道具です。それに触れたことも許せない」
やはりハンヌは公爵家の当主の継承権を剥奪。
ヘンリッキは反省させて更生させると公爵家に誓わせる。
それで沙汰が決まった。
ヘンリッキはまだ更生できるだろう。
自分の命を救ってくれたアルマスとも仲良くできるのではないかと僕は思っていた。
「アルマスがマンドラゴラを育ててみたいと言っているのですがどうでしょう?」
「いいと思います。マンドラゴラは薬効があるので、この国でも高く売れると聞いています」
目的はマンドラゴラを売るのではなくて、大量に集めてラインダンスをさせたいということなのだが、それは特に言わなかった。
ロヴィーサ嬢と僕で家庭菜園に出ると、冷えた空気が体にまとわりつく。コートは着ていたがそろそろ雪が降り始めそうな時期に入っていた。
マンドラゴラが植えられている一画に行くと、ロヴィーサ嬢が長く伸びたマンドラゴラの葉っぱから小さな黒いものを収穫する。
それが種だということは僕にも分かっていた。
「この時期はもうマンドラゴラも種をつけて次の年に備える頃ですからね。ちょうどよかったかもしれません」
大根マンドラゴラ、人参マンドラゴラ、蕪マンドラゴラと袋に入れて分けてロヴィーサ嬢が準備してくれる。
お屋敷に戻るとアルマスは玄関で僕とロヴィーサ嬢を待っていた。
「これをお渡しします。こちらが大根マンドラゴラの種、こちらが人参マンドラゴラの種、こちらが蕪マンドラゴラの種です」
「ありがとうございます。大事に育てます」
「わたくしたちは今年は時期を逃して秋に植えましたが、春に植えたら立派に育つと思います」
「そうします」
ミエト侯爵家に滞在している期間でアルマスはすっかりと敬語が使えるようになっていた。やはりロヴィーサ嬢のような美しいひとが目の前にいると、自然と敬語も出てくるのだろう。
「アルマス、もしかしてロヴィーサ嬢に憧れていないよね?」
「まさか!? 綺麗な方だとは思うけど、エドヴァルド殿下の婚約者だぞ? 親友の婚約者に横恋慕するような阿呆じゃないよ」
アルマスは正直なので僕はその言葉を疑う必要はない。ロヴィーサ嬢が美しいのは確かだが、アルマスは恋情は抱いていなかった。
「エドヴァルド殿下がどれだけ力を尽くして、国王陛下に臣籍降下することまで認めさせて婚約した相手だぞ? 誰も手を出せるはずがないって」
本当にそうだろうか。
アルマスはそう言っているけれど、僕は心配でならなかった。
ロヴィーサ嬢が心変わりするとは思えないけれど、ロヴィーサ嬢に恋慕を抱くものがいるのではないか。
ロヴィーサ嬢はこんなにもできた方で、素晴らしくて、美しくて、誰でも心奪われてしまうような相手なのだ。
「例え誰かに口説かれたとしても、わたくしの心には響きません。わたくしにはエドヴァルド殿下がいるのですから」
ロヴィーサ嬢もそう言ってくれているけれど、僕には劣等感があった。
僕はまだ十二歳でロヴィーサ嬢よりも背が低くて、顔は女の子のように可愛くて、ダミアーン伯父上のように格好よくない。
血統的には将来はダミアーン伯父上のように背が高くなって、顔立ちも凛々しく格好よくなる要素があるはずなのだが、今は可愛いだけだ。ロヴィーサ嬢の評価も格好いいよりも可愛いの方が多い。
「僕よりも格好いいひとが来るかもしれません」
「エドヴァルド殿下、わたくしはミエト侯爵で、エドヴァルド殿下はこの国の王子様。わたくしとエドヴァルド殿下の結婚は国の一大事業でもあるのですよ。それを壊そうという不届き者がいたならば、わたくしは鬼の力の指輪で対抗します」
言われてみればそうだった。
僕が臣籍降下するというだけでも物凄い一大事なのに、ミエト侯爵家と王家を繋ぐ結婚を邪魔しようとする輩がいたら、国王である父上からも激しく罰せられるだろう。
その点に関しては僕は安心していいのだとロヴィーサ嬢に言われた気がした。
アルマスを馬車で家まで送って行く。
アルマスの家は農地に囲まれた小さな一軒家だった。借家だと言っていたからその家も持ち家ではないのだろう。
アルマスの格好も小奇麗にはしているが、素材からして僕やロヴィーサ嬢のものとは違う。アルマスと僕の差を見せつけられた気がした。
「すごく楽しかったよ。ありがとう」
「どういたしまして。また来てね!」
「うん、ぜひ伺わせてもらうよ」
大根マンドラゴラの大根一号と人参マンドラゴラの人参二号と蕪マンドラゴラの蕪三号を抱いて、アルマスは馬車から降りて行った。アルマスの家からはアルマスの両親と兄弟らしきひとたちが出て来ていて、僕とロヴィーサ嬢に深々と頭を下げていた。
馬車はそのまま王城に向かった。
今日は父上とエリアス兄上とエルランド兄上に会う日なのだ。
アルマスと過ごした楽しい気持ちのまま王城に入ると、父上とエリアス兄上とエルランド兄上が迎えてくれる。
「エド、私は魔族の国に留学することにしたよ。ダミアーン伯父上が受け入れてくださるそうだ」
開口一番、エリアス兄上は僕に報告してくれた。
父上もエリアス兄上くらいの年に魔族の国に留学に行っている。魔族と隣人として暮らすにあたって、魔族の国で学ぶことは非常に大事だった。
「エドの食事のことも、私はずっと理解したかった。学ぶ機会が欲しかったんだ」
「エリアス兄上、嬉しいです。エリアス兄上にそんな風に思われていたなんて、僕は果報者です」
優しいエリアス兄上は僕がモンスターを食べることは知っていたけれど、常人の食べるものを僕が受け付けない理由や、常人が食べるものを食べると逆に体調を崩してしまう理由をよく分かっていなかった。
それはエルランド兄上も同じだった。
「私も高等学校を卒業したら魔族の国に一年間の留学をしようと思っているよ」
「エルランド兄上も!」
「もしかしたら、私も魔族の国で運命に出会うかもしれない」
父上は母上という運命に魔族の国で出会った。
エルランド兄上はまだ婚約もしていないし、好きな相手がいるというのも聞いたことがない。エルランド兄上は魔族の国から姫君を見初めて来るのかもしれない。
「エド、ミエト侯爵家での暮らしはどうだ?」
「さっきまで、学友のアルマスが遊びに来ていました。アルマスは平民ですが、僕ととても気が合うのです。アルマスとモンスター狩りに行って、食事をして、カードゲームもしました」
嬉しい気持ちが溢れ出るように報告すると、父上も目尻に皺を寄せて微笑んでくれる。
「いい友達ができたようだな。本当によかった」
「ありがとうございます」
父上に抱き締められて、そんな年ではないけれど、僕は幸せで胸が暖かくなっていた。
ソファに座って改めて話をする。
父上から話されたのは、ロヴィーサ嬢の鬼の力の指輪を盗んだ公爵家の子息のことだった。
「あの子息はハーヤネン公爵家の次男だった。名前はヘンリッキ。ヘンリッキは家を継ぐことができなくて、エドの学友となって王家に入り込むしか出世の道はないと吹きこまれていたようだ」
「僕は王家を降下するのですが」
「それでも、王家との繋がりはあり続けるから、一縷の望みにかけたようだ」
ヘンリッキは唆されてミエト侯爵家に忍び込んだ。
唆したのは、ヘンリッキの兄のハンヌだった。
「まだ年も十二歳だ。ロヴィーサ嬢の部屋に忍び込んで鬼の力の指輪を盗み、エドの学友の荷物に忍び込ませるなど、考えつかなかったのだろう。兄のハンヌが面白がって弟を操っていたようなのだ」
父上が言うには首謀者はヘンリッキではなくて兄のハンヌだった。僕の学友になれと命じたのも兄なのかもしれない。
弟のヘンリッキも許せないが、十二歳の弟を操って悪だくみをさせたハンヌはますます許せない。
「父上はどのような沙汰を下されますか?」
「エドはどうしたい?」
僕はヘンリッキに関して、少しだけ反省していた。
ヘンリッキのしたことは許されないことだけど、僕も風の魔法でヘンリッキが漏らしてしまうまで脅かしてしまった。風の魔法が暴発していれば、ヘンリッキは無事ではいられなかっただろう。
アルマスとロヴィーサ嬢が止めてくれたからヘンリッキは無事で、僕はひとを傷付けることがなかった。
「ヘンリッキが許されないことをしたとしても、その罰はもう受けている気がします。僕とロヴィーサ嬢とアルマスの前で漏らすくらい恐ろしい思いをしている。許せないのは唆した兄のハンヌです」
ハンヌとヘンリッキの兄弟関係がどうなっているか分からないが、良好ではなさそうなのは確かだった。
良好な兄弟関係だったならば、SSランクの冒険者であるロヴィーサ嬢の部屋に忍び込ませたりしない。捕まって酷い目にヘンリッキがあっても、兄のハンヌは全く構わなかったのだろう。
アルマスが庇っていたし、僕はヘンリッキの方が気になっていた。それは僕も末っ子で、ヘンリッキも弟という立場だからというのもあっただろう。
「弟を唆すようなハンヌには公爵家を継ぐ資格はないのではないですか?」
「兄に罪を問うか」
「はい。ヘンリッキは反省はしてもらいますが、首謀者はハンヌだと僕は思います」
僕の言葉に父上は形のいい顎を撫でて小さく唸る。
「ハンヌの公爵家の継承権を剥奪するか?」
「できますか?」
「我が息子のエドと婚約者のロヴィーサ嬢の平和を乱した罪は重い。弟を唆してロヴィーサ嬢の部屋に忍び込ませたのも、重罪だ」
ロヴィーサ嬢は僕の婚約者なのだから、その部屋に入るということは、僕からロヴィーサ嬢を寝取る行為になりかねない。ヘンリッキがまだ十二歳で性的なことができないとしても、夜にロヴィーサ嬢の部屋に忍び込んだ罪は重い。
それを年上のハンヌが指示していたのなら尚更だ。
僕のロヴィーサ嬢が無事でよかったが、ハンヌが忍び込んでロヴィーサ嬢に手を出していれば、処罰は軽いものでは決してすまなかっただろう。
侯爵家の継承権を剥奪するというのも重い処罰だが、弟をロヴィーサ嬢の部屋に忍び込ませたハンヌにはお似合いの罪だった。
「ロヴィーサ嬢、何ともありませんでしたか?」
「はい。わたくしは平気でした。ちょうどシャワーを浴びて部屋を出ているときでしたので。部屋に戻ると、エドヴァルド殿下くらいの男の子がわたくしのアクセサリーボックスをあさっていて、鬼の力の指輪を持って部屋を出て行ったのです」
「鬼の力の指輪はロヴィーサ嬢のお母上から受け継いだ形見であり、僕のためにモンスターを狩る大事な道具です。それに触れたことも許せない」
やはりハンヌは公爵家の当主の継承権を剥奪。
ヘンリッキは反省させて更生させると公爵家に誓わせる。
それで沙汰が決まった。
ヘンリッキはまだ更生できるだろう。
自分の命を救ってくれたアルマスとも仲良くできるのではないかと僕は思っていた。
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