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四章 キスがしたい十五歳
6.秋の流し素麺
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「流し素麺をしましょう!」
ロヴィーサ嬢が言いだしたのは、早朝の家庭菜園の世話をしているときだった。家庭菜園のよく熟れたトマトと大きく育ったキュウリを収穫して、茄子を収穫して、夏の終わりを感じているときの出来事だ。
大葉を大量に収穫して、ロヴィーサ嬢が細かく切る。茗荷とネギもたっぷりと切る。茄子は揚げてつゆに浸す。鶏肉のミンチは甘辛く煮る。卵はそぼろにする。
たっぷりとトッピングを作ってから、ロヴィーサ嬢は僕に言った。
「わたくしは庭に流し素麺の装置を作って来ますから、エド殿下はヘンリッキ様とアルマス様とアクセリ様とアンニーナ様に招待状を送ってくださいますか?」
「分かりました」
僕はまだ流し素麺がどんなものか分かっていなかったが、ロヴィーサ嬢が楽しそうに準備をしているのできっと楽しいものなのだろうと思ってハーヤネン公爵家のヘンリッキと、バックリーン伯爵家のアルマスとアクセリとアンニーナ嬢に招待状を出した。
その間にロヴィーサ嬢は庭に何か作っていたようだ。
アルマスとアクセリとアンニーナ嬢、ヘンリッキが来ると、庭には竹を組んだスライダーのようなものができていた。
ロヴィーサ嬢は白いワンピースにエプロンをつけて、庭に大量の大葉と、茗荷とネギと、揚げた茄子と、甘辛く煮た鶏肉のミンチと、卵のそぼろを出してテーブルに置き、大量の素麺を茹でてきた。
「これから流し素麺をします。わたくしが竹に素麺を流します。自分の前に来たらタイミングよく取ってください。素麺はたくさんあるので、焦らないでくださいね」
ロヴィーサ嬢の説明に、僕は流し素麺がどのようなものか知る。素麺を半分に切った竹の上を流して、それを取りながら食べていく楽しい行事のようだ。
「流し素麺。初めてです」
「トッピングがたくさんありますね」
「わたくし、大葉と茄子を入れたいですわ」
「とても美味しそうです」
アルマスが流し素麺に興味津々で、ヘンリッキはトッピングに目が行っている。アンニーナ嬢は既に大葉と茄子をつゆの器に入れているし、アクセリは遠慮がちにつゆの器を受け取っている。
僕はつゆの器に甘辛く煮た鶏肉のミンチと卵のそぼろを入れた。
流れて来る素麺をタイミングよくキャッチして、つゆの器に入れて食べる。素麺はよく冷えていて、軽く丸められていて取りやすいようになっていた。
「これが素麺! 美味しいです」
「兄上が取っちゃったから、わたくしが取れませんでしたわ」
「ごめんごめん、アンニーナ」
「次はわたくしに取らせてください」
喧嘩になりそうなアルマスとアンニーナ嬢に、一番端で素麺を流しているロヴィーサ嬢が笑っている。
「まだまだたくさんあるのでゆっくり食べてくださいね」
「ありがとうございます」
「アルマス様とアクセリ様とアンニーナ様のバックリーン家が伯爵家になれたお祝いの流し素麺パーティーですから、楽しんでいってくださいませ」
ロヴィーサ嬢はバックリーン家が伯爵家になれたお祝いをこんな粋な形で行ってくれていたのだ。さすがはロヴィーサ嬢だと感動する。
流し素麺はとても楽しくて、トッピングを変えるとどれだけでも素麺が食べられる気がした。
僕が一番最後まで素麺を食べていた。
素麺を食べ終わると、ロヴィーサ嬢が別の器を持ってくる。
その器の中には黄な粉が入っていた。
「これはどうするんですか?」
「見ていてください」
続いてロヴィーサ嬢が竹の中を流したのは白玉団子だった。つるつるして取りにくいがなんとか取ると、黄な粉の中に入れて食べる。ちょっぴり甘じょっぱい黄な粉が冷たい白玉団子によく合う。
「お腹がいっぱいになったけど、白玉団子は少し食べたいです」
「私も食べます」
アンニーナ嬢とアクセリも参戦してくる。
少し休んでいたヘンリッキとアルマスも参戦して来るが、白玉団子は滑ってなかなかつかめない。
「あー! 逃げました!」
「こっちに来た!」
「二人で協力しよう、アルマス」
「そうだな、ヘンリッキ」
逃して悔しがるアンニーナ嬢に、急いで捕まえようとするアクセリ。協力して白玉団子を捕まえるヘンリッキとアルマス。
庭は大騒ぎになっていた。
流し素麺と流し白玉団子が終わると、ロヴィーサ嬢が竹を片付けている。僕もアルマスもヘンリッキもアクセリもアンニーナ嬢も、竹を片付けるのを手伝った。
竹の片付けが終わると、ロヴィーサ嬢は部屋の中にテーブルとトッピングを持って入る。
「わたくしも食べてよろしいですか?」
「もちろんです。気付かなくてすみませんでした」
「いいえ、皆様が楽しんでくれたのならば嬉しいです」
ずっと裏方の仕事をしていたロヴィーサ嬢は全く食べていなかった。トッピングの残りをつゆに入れて素麺を食べるロヴィーサ嬢。
食べているのをじっと見ているのも失礼なので、僕はアルマスとヘンリッキのところに行った。
アルマスとヘンリッキは僕の顔をじっと見ている。
「エドヴァルド殿下に限ってないよ」
「そうかな? 意外とあるかもしれないよ?」
「そうかぁ?」
アルマスとヘンリッキは僕の話をしていたようだ。
僕はミントティーを爺やに淹れてもらって飲みながら話を聞く。
「何の話?」
「エドヴァルド殿下はロヴィーサ様とキスをしてるかって話だよ」
「ぶふぉ!?」
ミントティーを吹いてしまった。
鼻の方からも出たので、鼻が異様な爽快感ですーすーする。
あまりのことに言葉を失った僕に、ヘンリッキが深く頷いている。
「やっぱり、なかっただろ?」
「エドヴァルド殿下も十五歳だぞ? したい気持ちはあるに決まってる」
僕に話を向けられて、咳き込みながら僕は答える。
「き、きききき、キスとか、早すぎない?」
「婚約してて、お互いが好きなら構わないと思うよ、俺は」
「エドヴァルド殿下はアルマスとは違うんだよ。ロヴィーサ様を大事に思っていらっしゃるんだ」
アルマスとヘンリッキの言葉に僕はロヴィーサ嬢の唇を思い浮かべる。
いつも何か塗っているのか、ロヴィーサ嬢の唇は艶々している。赤くて白い肌を引き立てる。
「き、きききききききききき、キス……。やっぱり、ロヴィーサ嬢のお父上の許可がいるんだろうか……」
「エドヴァルド殿下!? キスに許可とか取ってたら、ロヴィーサ様が恥ずかしくて爆発しちゃうぞ」
「ロヴィーサ嬢は爆発するの!?」
「例えだよ」
アルマスが言うようにロヴィーサ嬢に恥ずかしい思いはさせたくない。
でもキスはしてみたい。
僕はアルマスとヘンリッキのせいで妙に意識してしまった。
「大変失礼いたしました。お茶は足りていますか?」
ロヴィーサ嬢が食べ終わって声をかけてくれるのに、僕は妙な声で返事してしまった。
「ひゃい!」
「エド殿下?」
「にゃんれもないれす」
ものすごく不審だ。
動揺激しい僕にロヴィーサ嬢が顔を近付けて来る。
「どこかお悪いのですか? 食べ過ぎて苦しいとか、ありませんか?」
ついつい僕はロヴィーサ嬢の艶々の赤い唇を見詰めてしまう。
この唇に触れることができたらどんな感触だろう。
ロヴィーサ嬢の唇は柔らかいのだろうか。
「エド殿下?」
「ひゃ、ひゃい!」
「やはり食べ過ぎましたか? パーティーをするとついつい箍が外れてしまいますからね」
すっと僕から離れて、消化にいいお茶を淹れてくれるロヴィーサ嬢に僕は一抹の寂しさを感じる。
ロヴィーサ嬢に触れたい気持ちが高まっていた。
「今日はお招きいただきありがとうございました」
「伯爵家への陞爵、誠におめでとうございます」
「お祝いのパーティーをしていただきとても嬉しかったです」
「流し素麺も白玉団子もとても美味しかったです」
アルマスとアクセリとアンニーナ嬢が挨拶をしてミエト家を辞していく。
「本日は楽しいパーティーをありがとうございました」
「ヘンリッキ様はアルマス様の婚約者で、エド殿下のご学友ですから。こちらこそ来ていただきありがとうございました」
「こんな楽しいパーティーならいつでも大歓迎です」
ヘンリッキも挨拶をして辞していく。
ミエト家の居間には僕とロヴィーサ嬢と爺やだけになった。
僕はお腹がいっぱいでソファで寛いでいたが、ロヴィーサ嬢は残ったトッピングを片付けていた。
「甘辛く煮た鶏肉のミンチと卵のそぼろがありますから、晩ご飯は三食ご飯にしましょうか」
「いいですね。僕は三食ご飯が大好きです」
「茄子は煮びたしにしましょうね」
それから朝採ったトマトとキュウリをサラダにして、とロヴィーサ嬢が話している間も、僕はロヴィーサ嬢の唇から目が離せなかった。
しばらくは僕はロヴィーサ嬢を意識してしまいそうだった。
ロヴィーサ嬢が言いだしたのは、早朝の家庭菜園の世話をしているときだった。家庭菜園のよく熟れたトマトと大きく育ったキュウリを収穫して、茄子を収穫して、夏の終わりを感じているときの出来事だ。
大葉を大量に収穫して、ロヴィーサ嬢が細かく切る。茗荷とネギもたっぷりと切る。茄子は揚げてつゆに浸す。鶏肉のミンチは甘辛く煮る。卵はそぼろにする。
たっぷりとトッピングを作ってから、ロヴィーサ嬢は僕に言った。
「わたくしは庭に流し素麺の装置を作って来ますから、エド殿下はヘンリッキ様とアルマス様とアクセリ様とアンニーナ様に招待状を送ってくださいますか?」
「分かりました」
僕はまだ流し素麺がどんなものか分かっていなかったが、ロヴィーサ嬢が楽しそうに準備をしているのできっと楽しいものなのだろうと思ってハーヤネン公爵家のヘンリッキと、バックリーン伯爵家のアルマスとアクセリとアンニーナ嬢に招待状を出した。
その間にロヴィーサ嬢は庭に何か作っていたようだ。
アルマスとアクセリとアンニーナ嬢、ヘンリッキが来ると、庭には竹を組んだスライダーのようなものができていた。
ロヴィーサ嬢は白いワンピースにエプロンをつけて、庭に大量の大葉と、茗荷とネギと、揚げた茄子と、甘辛く煮た鶏肉のミンチと、卵のそぼろを出してテーブルに置き、大量の素麺を茹でてきた。
「これから流し素麺をします。わたくしが竹に素麺を流します。自分の前に来たらタイミングよく取ってください。素麺はたくさんあるので、焦らないでくださいね」
ロヴィーサ嬢の説明に、僕は流し素麺がどのようなものか知る。素麺を半分に切った竹の上を流して、それを取りながら食べていく楽しい行事のようだ。
「流し素麺。初めてです」
「トッピングがたくさんありますね」
「わたくし、大葉と茄子を入れたいですわ」
「とても美味しそうです」
アルマスが流し素麺に興味津々で、ヘンリッキはトッピングに目が行っている。アンニーナ嬢は既に大葉と茄子をつゆの器に入れているし、アクセリは遠慮がちにつゆの器を受け取っている。
僕はつゆの器に甘辛く煮た鶏肉のミンチと卵のそぼろを入れた。
流れて来る素麺をタイミングよくキャッチして、つゆの器に入れて食べる。素麺はよく冷えていて、軽く丸められていて取りやすいようになっていた。
「これが素麺! 美味しいです」
「兄上が取っちゃったから、わたくしが取れませんでしたわ」
「ごめんごめん、アンニーナ」
「次はわたくしに取らせてください」
喧嘩になりそうなアルマスとアンニーナ嬢に、一番端で素麺を流しているロヴィーサ嬢が笑っている。
「まだまだたくさんあるのでゆっくり食べてくださいね」
「ありがとうございます」
「アルマス様とアクセリ様とアンニーナ様のバックリーン家が伯爵家になれたお祝いの流し素麺パーティーですから、楽しんでいってくださいませ」
ロヴィーサ嬢はバックリーン家が伯爵家になれたお祝いをこんな粋な形で行ってくれていたのだ。さすがはロヴィーサ嬢だと感動する。
流し素麺はとても楽しくて、トッピングを変えるとどれだけでも素麺が食べられる気がした。
僕が一番最後まで素麺を食べていた。
素麺を食べ終わると、ロヴィーサ嬢が別の器を持ってくる。
その器の中には黄な粉が入っていた。
「これはどうするんですか?」
「見ていてください」
続いてロヴィーサ嬢が竹の中を流したのは白玉団子だった。つるつるして取りにくいがなんとか取ると、黄な粉の中に入れて食べる。ちょっぴり甘じょっぱい黄な粉が冷たい白玉団子によく合う。
「お腹がいっぱいになったけど、白玉団子は少し食べたいです」
「私も食べます」
アンニーナ嬢とアクセリも参戦してくる。
少し休んでいたヘンリッキとアルマスも参戦して来るが、白玉団子は滑ってなかなかつかめない。
「あー! 逃げました!」
「こっちに来た!」
「二人で協力しよう、アルマス」
「そうだな、ヘンリッキ」
逃して悔しがるアンニーナ嬢に、急いで捕まえようとするアクセリ。協力して白玉団子を捕まえるヘンリッキとアルマス。
庭は大騒ぎになっていた。
流し素麺と流し白玉団子が終わると、ロヴィーサ嬢が竹を片付けている。僕もアルマスもヘンリッキもアクセリもアンニーナ嬢も、竹を片付けるのを手伝った。
竹の片付けが終わると、ロヴィーサ嬢は部屋の中にテーブルとトッピングを持って入る。
「わたくしも食べてよろしいですか?」
「もちろんです。気付かなくてすみませんでした」
「いいえ、皆様が楽しんでくれたのならば嬉しいです」
ずっと裏方の仕事をしていたロヴィーサ嬢は全く食べていなかった。トッピングの残りをつゆに入れて素麺を食べるロヴィーサ嬢。
食べているのをじっと見ているのも失礼なので、僕はアルマスとヘンリッキのところに行った。
アルマスとヘンリッキは僕の顔をじっと見ている。
「エドヴァルド殿下に限ってないよ」
「そうかな? 意外とあるかもしれないよ?」
「そうかぁ?」
アルマスとヘンリッキは僕の話をしていたようだ。
僕はミントティーを爺やに淹れてもらって飲みながら話を聞く。
「何の話?」
「エドヴァルド殿下はロヴィーサ様とキスをしてるかって話だよ」
「ぶふぉ!?」
ミントティーを吹いてしまった。
鼻の方からも出たので、鼻が異様な爽快感ですーすーする。
あまりのことに言葉を失った僕に、ヘンリッキが深く頷いている。
「やっぱり、なかっただろ?」
「エドヴァルド殿下も十五歳だぞ? したい気持ちはあるに決まってる」
僕に話を向けられて、咳き込みながら僕は答える。
「き、きききき、キスとか、早すぎない?」
「婚約してて、お互いが好きなら構わないと思うよ、俺は」
「エドヴァルド殿下はアルマスとは違うんだよ。ロヴィーサ様を大事に思っていらっしゃるんだ」
アルマスとヘンリッキの言葉に僕はロヴィーサ嬢の唇を思い浮かべる。
いつも何か塗っているのか、ロヴィーサ嬢の唇は艶々している。赤くて白い肌を引き立てる。
「き、きききききききききき、キス……。やっぱり、ロヴィーサ嬢のお父上の許可がいるんだろうか……」
「エドヴァルド殿下!? キスに許可とか取ってたら、ロヴィーサ様が恥ずかしくて爆発しちゃうぞ」
「ロヴィーサ嬢は爆発するの!?」
「例えだよ」
アルマスが言うようにロヴィーサ嬢に恥ずかしい思いはさせたくない。
でもキスはしてみたい。
僕はアルマスとヘンリッキのせいで妙に意識してしまった。
「大変失礼いたしました。お茶は足りていますか?」
ロヴィーサ嬢が食べ終わって声をかけてくれるのに、僕は妙な声で返事してしまった。
「ひゃい!」
「エド殿下?」
「にゃんれもないれす」
ものすごく不審だ。
動揺激しい僕にロヴィーサ嬢が顔を近付けて来る。
「どこかお悪いのですか? 食べ過ぎて苦しいとか、ありませんか?」
ついつい僕はロヴィーサ嬢の艶々の赤い唇を見詰めてしまう。
この唇に触れることができたらどんな感触だろう。
ロヴィーサ嬢の唇は柔らかいのだろうか。
「エド殿下?」
「ひゃ、ひゃい!」
「やはり食べ過ぎましたか? パーティーをするとついつい箍が外れてしまいますからね」
すっと僕から離れて、消化にいいお茶を淹れてくれるロヴィーサ嬢に僕は一抹の寂しさを感じる。
ロヴィーサ嬢に触れたい気持ちが高まっていた。
「今日はお招きいただきありがとうございました」
「伯爵家への陞爵、誠におめでとうございます」
「お祝いのパーティーをしていただきとても嬉しかったです」
「流し素麺も白玉団子もとても美味しかったです」
アルマスとアクセリとアンニーナ嬢が挨拶をしてミエト家を辞していく。
「本日は楽しいパーティーをありがとうございました」
「ヘンリッキ様はアルマス様の婚約者で、エド殿下のご学友ですから。こちらこそ来ていただきありがとうございました」
「こんな楽しいパーティーならいつでも大歓迎です」
ヘンリッキも挨拶をして辞していく。
ミエト家の居間には僕とロヴィーサ嬢と爺やだけになった。
僕はお腹がいっぱいでソファで寛いでいたが、ロヴィーサ嬢は残ったトッピングを片付けていた。
「甘辛く煮た鶏肉のミンチと卵のそぼろがありますから、晩ご飯は三食ご飯にしましょうか」
「いいですね。僕は三食ご飯が大好きです」
「茄子は煮びたしにしましょうね」
それから朝採ったトマトとキュウリをサラダにして、とロヴィーサ嬢が話している間も、僕はロヴィーサ嬢の唇から目が離せなかった。
しばらくは僕はロヴィーサ嬢を意識してしまいそうだった。
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