末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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五章 十六歳の性教育

8.大根一号と人参二号の服

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 高等学校でアルマスに相談されたのは、マンドラゴラのことだった。

「びーぎゃびーぎゃ、ぶーぎゃぶーぎゃ!」

 歌いながら踊る薄いピンク色のロンパースを着た蕪マンドラゴラ。それを遠巻きに見ている大根マンドラゴラと人参マンドラゴラ。
 バックリーン家ではマンドラゴラの間で異変が起きていた。

「蕪三号はロンパースをもらって、着て、ものすごくご機嫌なんだよ。でも、大根一号と人参二号がそれを見る目が、なんだか暗いような気がするんだ」
「大根一号と人参二号は、蕪三号のロンパースが羨ましいのかな?」
「きっとそうなんだと思う」

 バックリーン家の中で飼われているマンドラゴラが不平等であってはならない。アルマスはそう思っているようだ。僕もアルマスの意見に賛成だった。

「大根一号と人参二号にも、ロンパースを着せる?」

 想像してみたが、大根の細長さと人参の体型を考えると、ロンパースは似合いそうにない。ロンパースは蕪の丸さがあるからこそ似合うのだ。
 そうなると別の衣装を考えなければいけなかった。

「大根一号と人参二号が気に入る服がないだろうか」
「どんな服がいいんだろうね。大根一号と人参二号はどんな服が好きなのかな?」
「マンドラゴラにどんな服が好きか聞くと思うか?」
「聞かないよね。それじゃ、これから聞いてみるっていうのはどうかな?」

 僕の提案にアルマスも乗ることにしたらしい。
 僕とアルマスは高等学校が終わったらバックリーン家で大根マンドラゴラの大根一号と人参マンドラゴラの人参二号の服を選ぶ約束をした。

「ロヴィーサ嬢の知恵も借りた方がいいような気がするんだ」
「そうじゃなくても、エドヴァルド殿下はロヴィーサ嬢と一緒に行動したいんだろう?」
「そうなんだけど!」

 アルマスにからかわれながらも、僕はロヴィーサ嬢を連れて行くことに決めていた。
 高等学校が終わってから一度ミエト家に帰って、ロヴィーサ嬢に事情を話す。

「アルマスの家の大根一号と人参二号が、蕪三号のロンパースを羨ましがっているようなのです。大根と人参にはロンパースは似合わないと思います。何かいい服を考えてやりたいのです」
「それでは、服飾の本を持って参りましょうかね」
「本を見て大根一号と人参二号に選ばせるのですね!」

 さすがロヴィーサ嬢は頭が回る。僕は尊敬しつつ、バックリーン家に行く支度を整えていた。

 バックリーン家に行くと、リンクスのにゃんたが庭の土に埋まっていた。メインクーンのねここもそれに寄り添っている。
 リンクスのにゃんたは体が大きくなっていたけれども、バックリーン家のマンドラゴラたちに育てられたので自分のことをマンドラゴラの一種だと思っている節がある。
 マンドラゴラは栄養が足りなくなると土に埋まる。にゃんたも真似をして、土に埋まるリンクスに育ったようだ。

「にゃんたも大きくなりましたね」
「大きくなったけれど大人しい様子で安心しました」

 ロヴィーサ嬢と話しながらバックリーン家に入る。バックリーン家ではアルマスとアクセリとアンニーナ嬢が待っていた。
 ロンパースを着た蕪マンドラゴラの蕪三号は、僕が連れてきたロンパースを着た蕪マンドラゴラのエーメルを見て駆け寄ってきて手を取り合って踊り出す。
 楽しそうな蕪三号とエーメルの様子を、物陰から大根マンドラゴラの大根一号と人参マンドラゴラの人参二号がじっと見ている。

「アルマス様、服飾の本を持ってきましたよ」
「ありがとうございます、ロヴィーサ様。おいで、大根一号、人参二号」

 呼ばれて出てきた大根一号も人参二号も、何か不満そうな雰囲気を漂わせている。蕪三号だけがロンパースをもらったという出来事は、マンドラゴラ三兄弟の間に亀裂を入れてしまったようだ。

 服飾の本を広げてロヴィーサ嬢が大根一号と人参二号に話しかける。

「どの衣装が気に入ったか教えてください。どれでも構いませんよ」
「びゃい!」
「びゃびゃっだ!」

 いいお返事をした大根一号と人参二号は、真剣な表情で服飾の本を見始めた。
 ゆっくりと考えられるように、ロヴィーサ嬢がページを捲っていく。服飾の本を見ながら大根一号も人参二号も悩んでいたようだが、先に動いたのは大根一号だった。

「びぎゃ!」

 ビシッと手で指したのは、立て襟で袷が斜めになっていて、深いスリットの入っている隣国のスレンダーなドレスだった。

「これは隣国に注文しなければいけないかもしれませんね」
「色は何色がいいんだ?」
「びゃびゃ」

 ぺちぺちと手で服飾の本を叩く大根一号。色は見本に描いてある鮮やかな赤が気に入ったようだった。

「ヒルダ姉上に手紙を書いてみよう」
「いいのか、エドヴァルド殿下」
「アルマスのためなら」

 僕が答えるとアルマスが頭を下げる。

「ありがとう」

 僕とアルマスが話している間に、人参二号の方も衣装が決まったようだ。

「びょえ!」

 バレエのダンサーが着る薄いチュールやオーガンジーなどを幾重にも縫い付けて作ったスカート付きの衣装を選んでいる。

「これがいいの?」
「びゃい!」
「色は?」
「びょべ!」

 僕がその衣装でいいのかと聞けば、人参二号は真面目に答えるし、アルマスが色を聞けば、衣装の中で白い部分を指している。
 白い衣装を人参二号は希望しているようだ。

 方針は決まったのだが、すぐに作ることはできない。
 そう思っていたら、ロヴィーサ嬢が大根一号と人参二号を呼んだ。

「大根一号さん、人参二号さん、こちらに来てください」
「びゃい!」
「びゅく!」

 お行儀よくロヴィーサ嬢の前に並んだ大根一号と人参二号の体のサイズをロヴィーサ嬢が測ってメモしていく。測られて大根一号も人参二号もワクワクしているようだった。

 ミエト家に帰ってからロヴィーサ嬢は大根一号の衣装と人参二号の衣装の材料を取り寄せた。大根一号の衣装の材料は隣国から取り寄せたのだが、ヒルダ姉上が手配してくれたものを僕が魔法石で飛んで受け取りに行った。

「ロヴィーサ嬢が作るつもりですか?」
「わたくし、小さい頃に自分のぬいぐるみに衣装を作って着せ替えをして遊んでいたのですよ。これくらい作れます」

 測ったメモを元に型紙を作って、大根一号と人参二号の衣装を手縫いで作ってしまうロヴィーサ嬢に僕は感心してしまった。
 出来上がった衣装を持って、ロヴィーサ嬢はバックリーン家を訪れた。

 立て襟で袷が斜めになっていて、深いスリットの入ったスレンダーな異国のドレスを大根一号が着る。
 バレエに使われるような薄いチュールやオーガンジーを幾重にも重ねたスカートの付いた衣装を人参二号が着る。
 新しい衣装を着て大根一号も人参二号もとても誇らし気だった。

「びぎゃ!」

 ロンパースを着た蕪マンドラゴラの蕪三号が近付いて行っても、嫌な雰囲気はない。それどころか、蕪三号の手を取って大根一号と人参二号も踊り始めた。
 
「仲直りができて本当によかったです」
「ロヴィーサ様、エドヴァルド殿下、ありがとうございます」

 心配して大根一号と人参二号と蕪三号を見守っていたアクセリとアンニーナ嬢からお礼を言われる。

「元々は蕪三号さんにだけロンパースを上げてしまったわたくしたちの配慮不足でした」
「三匹がまた仲良くなってよかったです」

 ロヴィーサ嬢も僕も大根一号と人参二号と蕪三号の仲が元通りになって安心していた。

 貴族の中でマンドラゴラを飼うのが流行り始めるのはこの後のこと。
 可愛いマンドラゴラの衣装も、マンドラゴラを飼うことが流行り始めて、すぐに国中に広がった。

 大根マンドラゴラには立て襟で袷が斜めになっていて、深いスリットの入ったちょっとセクシーなスレンダーなドレス。
 人参マンドラゴラにはバレエのときに着るような薄いチュールやオーガンジーを幾重にも重ねたスカートの付いた衣装。
 蕪マンドラゴラにはロンパース。

 それがこの国の定番のマンドラゴラの衣装になる。

 最初は魔族の国のお祖父様が蕪マンドラゴラに着せていたロンパース。それを僕がもらって、アルマスにもお裾分けしたら、大根マンドラゴラと人参アンドラ語らも欲しがるような事態になった。

 マンドラゴラの衣装作りが隣国との交易を盛んにさせて、マンドラゴラの衣装工場ができてこの国の産業も豊かになるだなんて、このときの僕は全然考えていなかった。
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