末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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五章 十六歳の性教育

16.王城の年末は角煮と煮卵で

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 冬休み前の試験では僕は相変わらず一問だけ間違えてしまった。
 珍しく今回の試験ではアルマスもヘンリッキも同じく、別の科目の問題を一問だけ間違えていた。
 専門科目が違うのではっきりと比べられることはないが、学年一位の成績はアルマスとヘンリッキと僕のものになったようだ。

「一問落として一位になるのがこんなに悔しいなんて」
「アルマスも僕たちの気持ちが分かっただろう?」
「一問だけ間違えるとこんなに悔しいんだよ」

 完璧な成績を誇っていたアルマスが成績を落とすなんて何事があったのだろう。思いながらも言い合っていると、アルマスが深くため息を吐く。

「自分の勉強を疎かにしたかもしれない」
「どういうこと?」
「エドヴァルド殿下、アルマスは私に教えてくれていたのです。私のせいか。すまない、アルマス」
「いや、俺が力不足だったんだよ」

 ヘンリッキの成績を心配して、アルマスはヘンリッキのお屋敷に通って勉強を教えていた。それならばアルマスが勉強する時間が無くなって、専門科目の問題を一問間違ってしまうのも理解できる。
 一問しか間違わなかったことの方がすごいのだ。

「ロヴィーサ嬢は毎回僕に言ってくれるよ。一問しか間違わないのはすごいって。勉強とは自分との戦いで、誰かと比べるものではないって」

 僕が言えばアルマスもヘンリッキも納得した顔で僕を見る。

「そうだな、ロヴィーサ様の言う通りだ。俺は俺に負けたんだ」
「アルマス、次は二人とも勝とう」
「ヘンリッキ、必ず」

 言い合う二人は仲がよくて僕は目を細めてそれを見ていた。

 ミエト家に帰るとロヴィーサ嬢はいつもの通り僕の成績を褒めてくれた。

「五年生になって難しい問題も出てきているでしょう。それで一問しか間違わなかったのはすごいですよ」
「数学の問題をミスしてしまったようです」
「後で復習してもう間違うことのないようにしましょうね」

 研究課程では経済学も学ぼうと思っているので、僕は数学もかなり高度な勉強をしている。アルマスは研究課程で薬学を学ぶつもりで、ヘンリッキは政治学と歴史学を学ぶつもりだった。

 研究課程のゼミは別々になってしまうが、同じ校舎で勉強ができる。

「ロヴィーサ嬢も高等学校の隣りにある研究課程の校舎で勉強したのですよね?」
「わたくしもあの校舎で勉強しました」
「僕も卒業したらロヴィーサ嬢の後輩になります」
「わたくし、エド殿下と同じ高等学校に通っていたので、もう後輩なのですよ」
「そうでしたね」

 この国の貴族たちが勉強する高等学校は王都に一つしかない。規模の大きな高等学校で、平民で授業料が免除になっているものは、寮に入ることもできるように完備されている。
 高等学校の少なさもこの国の教育が行き届いていない理由なのではないだろうか。

 冬休みの年越しは王城で行う。
 そのときに僕はエリアス兄上と父上に提案してみた。

「高等学校の数を増やすわけにはいかないのですか? 今の状態ではこの国で十分な教育を受けられているものが少なすぎます」
「確かにその通りだ」
「高等学校までを義務教育とすべきなのかもしれないね」

 父上もエリアス兄上も僕の意見に賛成してくれる。

「高等学校を作るとなると、土地の確保から建物の建築、教員の確保まで、やることはたくさんある。時間のかかる事業になりそうだ」
「それでもやった方がよさそうだな、エリアスよ」
「はい、父上。この国のために」

 隣国ではどうだっただろう。
 高等学校が義務教育かを僕は確かめていなかった。
 それでもまだ提案できることがある。

「隣国では制服という同じ服を高等学校の生徒に無償で配って、貧富の差が見えないようにしていました」
「制服か。私も聞いたことはある」
「貧しいものでもきちんとした格好で高等学校に通えるようにする配慮ですね」
「無償ならばそうだろうな」

 制服の導入についても父上とエリアス兄上は意欲的だった。

 厨房ではロヴィーサ嬢がユリウス義兄上と一緒に料理を作っている。
 遅れて僕が入ると、ほとんど出来上がっていた。
 豚の三枚肉をことことと煮た角煮に、大きなウズラの煮卵、卵抜きの八宝菜ができている。

「角煮と煮卵をご飯と一緒に食べると美味しいのです」
「ご飯は多めに炊きましたね」
「たくさん食べる方が多いですからね。わたくしも食べますし」
「私も食べます」

 ロヴィーサ嬢とユリウス義兄上は仲良く料理をしたようだ。厨房から運ばれていく角煮と大きなウズラの煮卵と卵抜き八宝菜に、僕のお腹がきゅるきゅると鳴った。
 料理が運ばれて来ると、話し合いは一時中断する。
 ユリウス義兄上がエリアス兄上にご飯を注いであげている。

「これくらい食べますか?」
「ユリウスの作ってくれた料理だ。食べ過ぎてしまうかもしれないな」
「それは嬉しいですね」

 ユリウス義兄上とエリアス兄上も仲睦まじい。
 僕にはロヴィーサ嬢がご飯を盛ってくれた。山盛り欲しかったのだが、そんなに盛ってくれていない。
 その理由はすぐに分かった。
 ご飯の上に角煮を乗せて、煮卵も乗せて、崩して食べるととても美味しいのだ。ご飯が山盛りだったら上に乗せられなかった。
 煮卵は黄身がとろりと半熟でご飯に絡んでとても美味しい。角煮はとろとろでご飯とよく合った。

「セシーリア嬢にも煮卵を作ってもらいました」
「セシーリア様は本日来られなくて本当に残念に思っているようですよ」
「年末年始は国で過ごさねばなりませんからね」

 セシーリア嬢は一応宰相家の令嬢だ。結婚していないのだから、年末年始までこの国で過ごすわけにはいかない。
 エルランド兄上に料理を作ることを楽しみにしているセシーリア嬢は、そのことをとても残念に思っていたようだ。よくミエト家にやって来てロヴィーサ嬢と料理を作っているので、ロヴィーサ嬢がエルランド兄上に話していた。

「セシーリア嬢は魔窟に行って獲物を捕らえるまでしてくれているのですよ」
「エルランド殿下のためですよ。恋する乙女は強いのです」
「私のためだと思うと嬉しくて嬉しくて。セシーリア嬢と早く結婚したいものです」

 ロヴィーサ嬢と話すエルランド兄上は、研究課程の三年生だ。まだ一年間は研究課程で勉強しなければいけない。

「エルランド兄上は研究課程を卒業してから結婚するつもりなのですよね」
「そうでないと、セシーリア嬢につりあいませんからね」

 エルランド兄上は自分がセシーリア嬢よりもずっと年下であることを気にしていた。セシーリア嬢とつりあうようになるために、研究課程を卒業してからの結婚を決めていた。

「僕は高等学校を卒業したら、ロヴィーサ嬢と結婚したいのです」
「エドはその方がいいだろうな」
「理解してくださいますか、父上」
「エドの気持ちも分かるし、ロヴィーサ嬢の年齢を考えると、エドは魔族、ロヴィーサ嬢は人間だから、できるだけ早く結婚した方がいいと私は考える」

 そうだった。
 僕は魔族で年を取るのが遅い。
 ロヴィーサ嬢は人間で僕より早く年を取ってしまう。
 それを考えると、一年でも長く一緒にいられるために、僕は早く結婚した方がいいという父上の現実的な考えは理解できた。

「わたくしもエド殿下と結婚するのが待ちきれません」
「ロヴィーサ嬢、僕もです」

 告げてから、僕はあることに気付く。
 来年は僕が高等学校を卒業する年度だが、エルランド兄上も研究課程を卒業する年度ではないだろうか。

「エルランド兄上の結婚式が終わってから、僕とロヴィーサ嬢の結婚式を行うのでしょうか?」
「実はその件について考えていたんだ。ロヴィーサ嬢とセシーリア嬢はとても仲がいい。私とエドも仲のいい兄弟だ。合同結婚式という形はどうだろう?」
「合同結婚式ですか?」
「私とセシーリア嬢、エドとロヴィーサ嬢が同時に結婚するのだ」

 国にとっては一大事業だし、賓客も一度に集められるのでその方が楽ではないかとエルランド兄上は提案していた。

「セシーリア嬢が結婚式は派手にしたくないと言っているのだが、魔族の国の宰相家の令嬢と私との結婚で地味にはできない。それならば、ロヴィーサ嬢とエドとの結婚と一緒にしてしまえばいいのではないかと考えたのだ」

 僕の結婚式がエルランド兄上の結婚式と同時になる。
 それはエルランド兄上が大好きな僕にとっては嬉しいことだった。

「ロヴィーサ嬢、どう思いますか?」
「セシーリア様と一緒に結婚式を挙げられるのは嬉しいです。わたくし、セシーリア様と仲良くさせていただいていますから」

 ロヴィーサ嬢も合同結婚式に賛成だった。
 エルランド兄上とセシーリア嬢と一緒の結婚式。
 それはワクワクするイベントだった。
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