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五章 十六歳の性教育
17.新年のパーティーにマグロを捌いて
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角煮と煮卵をご飯の上に乗せて食べたエリアス兄上は上機嫌だった。食べながらユリウス義兄上に微笑みかける。
「こんな美味しいものをユリウスが作ってくれたのだな。私は本当に幸せ者だ」
「気に入りましたか、エリアス?」
「ユリウスが作ってくれたというだけで嬉しいのに、こんなに美味しいなんて。ついついたくさん食べてしまうよ」
「よかった。その笑顔が見たくて作りました」
エリアス兄上とユリウス義兄上も会話が弾んでいる。
ユリウス義兄上が作ったことによってエリアス兄上が喜んでいるのならば、それはロヴィーサ嬢の手柄だと僕は胸を張っていた。
「ロヴィーサ嬢、ユリウスと一緒に料理を作ってくれてありがとう。ユリウスに料理を作ってもらえる私は本当に幸せだ」
「王配殿下がご自分で作ることを決めたのです」
「ここは私的な場なので、ユリウスで構わないよ。ロヴィーサ嬢、これからもユリウスと料理を作ってくれるか?」
「わたくしでよろしければ作らせていただきます」
「私は国王としての政務があるので、ユリウスと常に行動を共にできるわけではない。ユリウスにも心打ち解けられる友人が必要だと思っていたのだ」
エリアス兄上はユリウス義兄上の友人にロヴィーサ嬢を選んだ。ロヴィーサ嬢ならば出自もはっきりしているし、将来は僕の妻になるので安心だと思ったのだろう。
貴族社会は陰謀の渦巻く場所。下手に友人を選んで王配殿下のユリウス義兄上が一人の相手と親しくしてしまうと、嫉妬や羨望を呼び、争いの種になりかねない。
そういうことを考えても、僕という王弟の降下すると決まっているミエト家は安心感があった。
「ロヴィーサ様、色んな料理を教えてくださいね」
「はい、喜んで教えます」
「モンスターの捌き方も教えてください」
「ユリウス殿下、やる気ですね。わたくしも気合を入れて教えます」
ユリウス義兄上とロヴィーサ嬢との間でも話は纏まっていた。
新年のパーティーにセシーリア嬢が来ると知らせがあったのは、楽しい夕食の後のことだった。
夕食の後にコーヒーが出された。つつがなくロヴィーサ嬢はミルクを入れて飲んでいるが、僕はその苦味に苦戦していた。
「エド殿下、こちらのお砂糖を入れてミルクをたっぷり入れるのです」
「はい、そうしてみます」
ロヴィーサ嬢の助言に従ってミルクをたっぷり入れてお砂糖も入れると、何とか僕もコーヒーを飲めるようになった。以前に飲んだときもロヴィーサ嬢に教えてもらったのだが、あれから時間が経っていたのでそのままでも飲めるような気になっていたのだ。
そのままのコーヒーは苦すぎて今の僕には無理だった。
「セシーリア嬢は、私の婚約者なので新年のパーティーは魔族の国ではなく、この国のものに出席したいと言っているようです」
「セシーリア様が来るのですか?」
手紙を受け取ったエルランド兄上が喜びの声を上げると、ロヴィーサ嬢も顔を輝かせる。セシーリア嬢とロヴィーサ嬢は本当に見ていて妬けてしまうほど仲がいい。
「結婚すれば嫌でもこの国の貴族の視線を集めることになる。それならば今から経験しておいた方がいいのではないかと、魔族の国の宰相閣下もお考えのようです」
エルランド兄上の報告に、僕はこの国で魔族という存在がどのように見られているのかを改めて考えさせられる。僕は末っ子の王子として生まれていたので、魔族としてよりも王子として見られることが多いが、セシーリア嬢は魔族の国で生まれ、魔族の国で育った生粋の魔族だ。
魔族は人間と寿命が違うことも、魔法を使えることも、知識として分かっていても、エルランド兄上よりもずっと年上のセシーリア嬢に対して貴族がどんな態度をとるかは分からない。
「ロヴィーサ嬢、セシーリア嬢のことを守ってくれますか? 私がずっとそばにいたいのですが、それだけでは目の届かぬときもあります。女性同士、ロヴィーサ嬢の方がセシーリア嬢の気持ちを分かることもあるでしょう」
「エルランド殿下、わたくしでよろしければ、セシーリア様を喜んで守ります。わたくしは強いんですよ。それにこの国に三つしかない公爵家の当主です。わたくしに真っ向から挑もうという貴族はいないでしょう」
残りの二つの公爵家は、僕に失礼なことをした令嬢を持つエクロース家と、ミエト家に入り込みロヴィーサ嬢の指輪を盗んで反逆の罪で嫡男のハンヌを修道院に贈られたハーヤネン家だ。
この二つの公爵家はどちらもミエト家に頭が上がらない。
その上、ミエト家には僕という王子もいるのだから、王家との繋がりも強く、今一番勢力を伸ばしている公爵家だった。
その公爵家の当主であるロヴィーサ嬢に誰が真っ向から挑めるだろう。
セシーリア嬢もロヴィーサ嬢のそばにいれば安心だというエルランド兄上の考えも納得ができた。
エルランド兄上が一緒にいられるところは一緒にいるのだろうが、エルランド兄上にも付き合いがあるし、セシーリア嬢を一人にする場面ができないとも限らない。それをエルランド兄上は恐れているのだ。
「エルランド殿下、大丈夫です。セシーリア様はお強い。わたくしも守りますし、セシーリア様自身も自分を守るすべを持っておいでだと思います」
「ロヴィーサ嬢にそう言ってもらえると心強いです。ありがとうございます」
エルランド兄上はロヴィーサ嬢に深々と頭を下げていた。
王城に泊って、翌朝にはロヴィーサ嬢とユリウス義兄上の作った朝食を、父上とエリアス兄上とユリウス義兄上とエルランド兄上と僕とロヴィーサ嬢で食べていた。
食べている途中にセシーリア嬢の到着が告げられて、エルランド兄上が朝食を手早く終わらせて迎えに行く。
セシーリア嬢が来たときには僕はご飯のお代わりをもらっているところだった。
「お食事中に大変失礼いたしました」
「気にすることはない。セシーリア嬢は朝ご飯は食べて来られたかな?」
「ロヴィーサ嬢の作った銀鱈味醂が絶品なのですよ」
食事に誘う父上とエリアス兄上にセシーリア嬢は恐縮している。
「エルランド殿下に早く会いたくて、朝食もそこそこに来てしまいました」
「そんなに会いたいと思っていただけるとは。私も会いたかったです」
「年越しもこの国で過ごしたかったのですが、もうすぐ嫁いでいくのだから、残り少ない年越しくらい家族で過ごそうと言われて説得されてしまいました」
「ご家族も寂しいのだと思います。そのお気持ちを尊重したセシーリア嬢だからこそ、私は好きなのです」
「エルランド殿下」
いい雰囲気になっているエルランド兄上とセシーリア嬢を横に、僕は銀鱈味醂でご飯を二杯食べて、お味噌汁もお代わりしていた。
「国王陛下のお魚は、ユリウス殿下が焼いたのですよ」
「そうなのですか? とても美味しかった」
「エリアスに喜んでもらえて嬉しいです」
私的な場面では敬語ではないのだろうが、エリアス兄上が国王陛下になってからユリウス義兄上はエリアス兄上と話すときに敬語を使うようになっていた。これが王配殿下としての当然の振る舞いなのだろう。
自然に切り替えができているユリウス義兄上は、エリアス兄上に相応しいひとなのだと実感できる。
王城で始まるパーティーのために、ロヴィーサ嬢とセシーリア嬢とユリウス義兄上が厨房に入る。僕も手伝いのために厨房に入った。
王家の人間が食べる料理は、他の来客が食べる料理とは別のテーブルに置かれて、異物の混入がないように厳重な警備で守られている。
ロヴィーサ嬢はセシーリア嬢とユリウス義兄上と計画を立てていた。
「カレーパンはとても好評でしたよね。今回はそれに、ネギトロ鉄火を加えて、天むすも作ろうかと思っています」
「魔窟でマグロを狩って来られたのですか?」
「そうです。捌き方を教えますので、ユリウス殿下、やってみてください」
「力が要りそうですね。こう見えて私は力持ちなのですよ」
今回の料理はカレーパンとネギトロ鉄火と天むすのようだ。
セシーリア嬢がカレーパンを担当して、ユリウス義兄上がロヴィーサ嬢に習ってマグロを解体して、僕が天むすを作っていく。
とはいえ、僕は揚げ物は得意ではないので、ご飯を炊いて海苔を用意するのが主な仕事だ。
捌けたマグロの中トロの部分をネギと混ぜて刻んで、ユリウス義兄上が海苔で巻いて行く。
ロヴィーサ嬢は天ぷらを揚げて、それを僕がおにぎりにしていった。
出来上がった料理に僕のお腹がきゅるきゅると鳴る。
「一個だけですよ。味見です」
ロヴィーサ嬢がくれた一切れのネギトロ鉄火は、舌の上で蕩ける美味しさだった。
「こんな美味しいものをユリウスが作ってくれたのだな。私は本当に幸せ者だ」
「気に入りましたか、エリアス?」
「ユリウスが作ってくれたというだけで嬉しいのに、こんなに美味しいなんて。ついついたくさん食べてしまうよ」
「よかった。その笑顔が見たくて作りました」
エリアス兄上とユリウス義兄上も会話が弾んでいる。
ユリウス義兄上が作ったことによってエリアス兄上が喜んでいるのならば、それはロヴィーサ嬢の手柄だと僕は胸を張っていた。
「ロヴィーサ嬢、ユリウスと一緒に料理を作ってくれてありがとう。ユリウスに料理を作ってもらえる私は本当に幸せだ」
「王配殿下がご自分で作ることを決めたのです」
「ここは私的な場なので、ユリウスで構わないよ。ロヴィーサ嬢、これからもユリウスと料理を作ってくれるか?」
「わたくしでよろしければ作らせていただきます」
「私は国王としての政務があるので、ユリウスと常に行動を共にできるわけではない。ユリウスにも心打ち解けられる友人が必要だと思っていたのだ」
エリアス兄上はユリウス義兄上の友人にロヴィーサ嬢を選んだ。ロヴィーサ嬢ならば出自もはっきりしているし、将来は僕の妻になるので安心だと思ったのだろう。
貴族社会は陰謀の渦巻く場所。下手に友人を選んで王配殿下のユリウス義兄上が一人の相手と親しくしてしまうと、嫉妬や羨望を呼び、争いの種になりかねない。
そういうことを考えても、僕という王弟の降下すると決まっているミエト家は安心感があった。
「ロヴィーサ様、色んな料理を教えてくださいね」
「はい、喜んで教えます」
「モンスターの捌き方も教えてください」
「ユリウス殿下、やる気ですね。わたくしも気合を入れて教えます」
ユリウス義兄上とロヴィーサ嬢との間でも話は纏まっていた。
新年のパーティーにセシーリア嬢が来ると知らせがあったのは、楽しい夕食の後のことだった。
夕食の後にコーヒーが出された。つつがなくロヴィーサ嬢はミルクを入れて飲んでいるが、僕はその苦味に苦戦していた。
「エド殿下、こちらのお砂糖を入れてミルクをたっぷり入れるのです」
「はい、そうしてみます」
ロヴィーサ嬢の助言に従ってミルクをたっぷり入れてお砂糖も入れると、何とか僕もコーヒーを飲めるようになった。以前に飲んだときもロヴィーサ嬢に教えてもらったのだが、あれから時間が経っていたのでそのままでも飲めるような気になっていたのだ。
そのままのコーヒーは苦すぎて今の僕には無理だった。
「セシーリア嬢は、私の婚約者なので新年のパーティーは魔族の国ではなく、この国のものに出席したいと言っているようです」
「セシーリア様が来るのですか?」
手紙を受け取ったエルランド兄上が喜びの声を上げると、ロヴィーサ嬢も顔を輝かせる。セシーリア嬢とロヴィーサ嬢は本当に見ていて妬けてしまうほど仲がいい。
「結婚すれば嫌でもこの国の貴族の視線を集めることになる。それならば今から経験しておいた方がいいのではないかと、魔族の国の宰相閣下もお考えのようです」
エルランド兄上の報告に、僕はこの国で魔族という存在がどのように見られているのかを改めて考えさせられる。僕は末っ子の王子として生まれていたので、魔族としてよりも王子として見られることが多いが、セシーリア嬢は魔族の国で生まれ、魔族の国で育った生粋の魔族だ。
魔族は人間と寿命が違うことも、魔法を使えることも、知識として分かっていても、エルランド兄上よりもずっと年上のセシーリア嬢に対して貴族がどんな態度をとるかは分からない。
「ロヴィーサ嬢、セシーリア嬢のことを守ってくれますか? 私がずっとそばにいたいのですが、それだけでは目の届かぬときもあります。女性同士、ロヴィーサ嬢の方がセシーリア嬢の気持ちを分かることもあるでしょう」
「エルランド殿下、わたくしでよろしければ、セシーリア様を喜んで守ります。わたくしは強いんですよ。それにこの国に三つしかない公爵家の当主です。わたくしに真っ向から挑もうという貴族はいないでしょう」
残りの二つの公爵家は、僕に失礼なことをした令嬢を持つエクロース家と、ミエト家に入り込みロヴィーサ嬢の指輪を盗んで反逆の罪で嫡男のハンヌを修道院に贈られたハーヤネン家だ。
この二つの公爵家はどちらもミエト家に頭が上がらない。
その上、ミエト家には僕という王子もいるのだから、王家との繋がりも強く、今一番勢力を伸ばしている公爵家だった。
その公爵家の当主であるロヴィーサ嬢に誰が真っ向から挑めるだろう。
セシーリア嬢もロヴィーサ嬢のそばにいれば安心だというエルランド兄上の考えも納得ができた。
エルランド兄上が一緒にいられるところは一緒にいるのだろうが、エルランド兄上にも付き合いがあるし、セシーリア嬢を一人にする場面ができないとも限らない。それをエルランド兄上は恐れているのだ。
「エルランド殿下、大丈夫です。セシーリア様はお強い。わたくしも守りますし、セシーリア様自身も自分を守るすべを持っておいでだと思います」
「ロヴィーサ嬢にそう言ってもらえると心強いです。ありがとうございます」
エルランド兄上はロヴィーサ嬢に深々と頭を下げていた。
王城に泊って、翌朝にはロヴィーサ嬢とユリウス義兄上の作った朝食を、父上とエリアス兄上とユリウス義兄上とエルランド兄上と僕とロヴィーサ嬢で食べていた。
食べている途中にセシーリア嬢の到着が告げられて、エルランド兄上が朝食を手早く終わらせて迎えに行く。
セシーリア嬢が来たときには僕はご飯のお代わりをもらっているところだった。
「お食事中に大変失礼いたしました」
「気にすることはない。セシーリア嬢は朝ご飯は食べて来られたかな?」
「ロヴィーサ嬢の作った銀鱈味醂が絶品なのですよ」
食事に誘う父上とエリアス兄上にセシーリア嬢は恐縮している。
「エルランド殿下に早く会いたくて、朝食もそこそこに来てしまいました」
「そんなに会いたいと思っていただけるとは。私も会いたかったです」
「年越しもこの国で過ごしたかったのですが、もうすぐ嫁いでいくのだから、残り少ない年越しくらい家族で過ごそうと言われて説得されてしまいました」
「ご家族も寂しいのだと思います。そのお気持ちを尊重したセシーリア嬢だからこそ、私は好きなのです」
「エルランド殿下」
いい雰囲気になっているエルランド兄上とセシーリア嬢を横に、僕は銀鱈味醂でご飯を二杯食べて、お味噌汁もお代わりしていた。
「国王陛下のお魚は、ユリウス殿下が焼いたのですよ」
「そうなのですか? とても美味しかった」
「エリアスに喜んでもらえて嬉しいです」
私的な場面では敬語ではないのだろうが、エリアス兄上が国王陛下になってからユリウス義兄上はエリアス兄上と話すときに敬語を使うようになっていた。これが王配殿下としての当然の振る舞いなのだろう。
自然に切り替えができているユリウス義兄上は、エリアス兄上に相応しいひとなのだと実感できる。
王城で始まるパーティーのために、ロヴィーサ嬢とセシーリア嬢とユリウス義兄上が厨房に入る。僕も手伝いのために厨房に入った。
王家の人間が食べる料理は、他の来客が食べる料理とは別のテーブルに置かれて、異物の混入がないように厳重な警備で守られている。
ロヴィーサ嬢はセシーリア嬢とユリウス義兄上と計画を立てていた。
「カレーパンはとても好評でしたよね。今回はそれに、ネギトロ鉄火を加えて、天むすも作ろうかと思っています」
「魔窟でマグロを狩って来られたのですか?」
「そうです。捌き方を教えますので、ユリウス殿下、やってみてください」
「力が要りそうですね。こう見えて私は力持ちなのですよ」
今回の料理はカレーパンとネギトロ鉄火と天むすのようだ。
セシーリア嬢がカレーパンを担当して、ユリウス義兄上がロヴィーサ嬢に習ってマグロを解体して、僕が天むすを作っていく。
とはいえ、僕は揚げ物は得意ではないので、ご飯を炊いて海苔を用意するのが主な仕事だ。
捌けたマグロの中トロの部分をネギと混ぜて刻んで、ユリウス義兄上が海苔で巻いて行く。
ロヴィーサ嬢は天ぷらを揚げて、それを僕がおにぎりにしていった。
出来上がった料理に僕のお腹がきゅるきゅると鳴る。
「一個だけですよ。味見です」
ロヴィーサ嬢がくれた一切れのネギトロ鉄火は、舌の上で蕩ける美味しさだった。
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