末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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最終章 王子と令嬢の結婚

19.ヘンリッキのペット

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 ヘンリッキが新しくペットを飼うことになった。
 そのことに対して、ヘンリッキはどうでもいいようだった。

「両親が欲しがってたペットで、やっと育成環境が整ったんだよ。草食で大人しいって聞いてる」
「草食? それじゃ、猫じゃないな。俺の家は猫を飼ってるけど」
「アルマスのは猫じゃなくて、リンクスだろ」
「猫も飼ってるよ!」

 言い争いになりそうなヘンリッキとアルマスの間に僕が入る。

「ヘンリッキは何を飼うの?」
「イグアナっていう、トカゲの一種らしいです」
「イグアナか」

 イグアナと言われて僕が一番に思いだしたのは、先代宰相家の領地にある魔窟のことである。ミエト家がもらった領地の魔窟にいる管理人はリザードマンだった。

「ミエト家の領地に新しい魔窟は、管理人がリザードマンなんだけど、夫婦の見分けがつかないんだ」
「多分、私も雄と雌を飼う予定なのですが、見分けがつかないでしょう」
「そういうときってどうするの?」
「両親は色の違う腕輪をつけると言っています」
「リザードマンも僕たちが見分けがつかないから、ネックレスとブレスレットで見分けがつくようにしてくれるって言ってくれたよ」

 やはりそうなのか。
 見分けがつかない場合には腕輪をつける。それが普通なのかもしれない。
 僕はヘンリッキの家に飼われるイグアナに興味津々だった。

「イグアナってどんな生き物なのか見てみたいな。ヘンリッキ、見に行ってもいい?」
「いいですよ。アルマスも来たらいいよ」
「俺もいいのか? やったー! アクセリとアンニーナもいいか? お土産は何がいい?」
「アクセリ殿とアンニーナ嬢もいいよ。草食で野菜を食べるらしいから、マンドラゴラの葉っぱをもらえるか?」
「いいよ! 持って行こう」

 ヘンリッキの家に遊びに行く日を決めて、僕は高等学校からミエト家に帰った。
 ミエト家に帰るとロヴィーサ嬢にヘンリッキの家に行くことを伝える。

「ヘンリッキがイグアナを飼うんです。見に行きたくて日程を決めて来ました。ロヴィーサ嬢も来てくれますか?」
「その日なら空いていますね。ご一緒しますよ」

 ロヴィーサ嬢も来てくれるということで、僕は喜んでいた。
 イグアナの大きさや種類などは分からないが、リザードマンよりは小さいだろう。
 約束の日、僕とロヴィーサ嬢は魔窟に出かけるときのような動きやすい格好でハーヤネン家に行った。イグアナがどれくらいの大きさのものか分からないが、服を汚されたり、破られたりするのは、こちらの準備不足に違いないだろうと思ったのだ。
 汚されても破られても構わない格好で行くと、ヘンリッキは庭の温室に招いてくれた。
 広いガラス張りの温室の中に入ると、中が湿度が高くて暑いのが分かる。
 観葉植物を置いてある温室の中で、手の平くらいの大きさの二匹のトカゲのような生き物が気にへばりついていた。爪は鋭く、皮膚は緑色で木登りが得意そうだ。

「グリーンイグアナっていうんだ。雄がイグで、雌がアナって名前を付けたよ」
「思ったより小さいな」
「可愛いですね。マンドラゴラの葉っぱを上げてもいいですか?」
「わたくしもマンドラゴラの葉っぱをあげたいです」

 説明するヘンリッキにアルマスがじっとグリーンイグアナを見詰めて、アクセリとアンニーナ嬢は興味津々でマンドラゴラの葉っぱを取り出している。

「マンドラゴラの葉っぱは喜ぶと思うよ。ありがとう」

 ヘンリッキに許可を取ってアクセリとアンニーナ嬢がグリーンイグアナのイグとアナにマンドラゴラの葉っぱを上げている。近寄ってきて大きな口を開けて一生懸命に食べている姿が可愛い。

「温度管理が大事で、常に暖かくしておかなければいけないので、この温室を作るまでに時間がかかったんです。両親は私が結婚した後は、私に公爵位を譲って、イグとアナを可愛がりながら離れの棟で隠居しようと考えているようです」
「隠居するヘンリッキのお父上とお母上のために飼ったんだね」
「そうですね。可愛がるものが欲しかったんだと思います」

 何を可愛がるかはひとによってそれぞれだ。
 アルマスの家ではマンドラゴラとリンクスとメインクーンが飼われているし、ヘンリッキの家ではマンドラゴラ兵団がいて、イグアナも飼うことになった。

「この広い温室が全部イグアナのためって言うのは贅沢だな」

 温室を見渡しながらアルマスが言う。温室は確かに一軒家くらいの大きさはあった。

「グリーンイグアナは大人になると体長が私たちくらいに育つんだ。広い場所じゃないと育成できない」
「え!? そんなに大きくなるのか!?」
「そうだよ。爬虫類は生きてる限り体が大きくなり続けるからね」
「それは、子どもには危険じゃないのか?」
「だから、温室を作ったんだ。私とアルマスが養子をとったときに、子どもに危険が及ばないようにね」

 ハーヤネン家のヘンリッキの両親はヘンリッキとアルマスが結婚して養子をもらった後のことまで考えていた。
 そんなにグリーンイグアナが大きくなると、不意の動作で小さな子どもは傷付けられてしまうこともあるだろう。そういうことがないように、きっちりと場所を分けて、大人がいないとグリーンイグアナとは接せられないようにしているのだ。

「ヘンリッキのご両親は孫のことも考えているんだね」
「あり難いことにそのようです」

 僕が言えばヘンリッキは照れたように答えていた。
 両親に愛されていることが嬉しく照れ臭いのだろう。

「兄がいた頃は両親はずっと神経を尖らせていました。兄は私の乳母を殺しかけたり、平民を襲ったり、やりたい放題だったのです。それでも嫡男だったためにどうしようもなく、両親はずっと兄を監視して、悪いことをしないように必死に止めていた」

 その甲斐もなく、ヘンリッキの兄のハンヌはヘンリッキを唆してミエト家に忍び込ませて、指輪を盗ませた。結果として、ヘンリッキの兄のハンヌは廃嫡となり、修道院に入れられて、ヘンリッキがハーヤネン家の嫡男になった。

「私が嫡男になってから、両親も穏やかになりました。私に公爵位を譲って、二人で隠居して静かに暮らす日を楽しみにしているのです。私は結婚したらアルマスと一緒に公爵になります。どうか、先輩としてロヴィーサ様、よろしくお願いします」
「ヘンリッキ様は本当に変わられました。とても良い方向に。わたくしはヘンリッキ様とアルマス様ならハーヤネン家を盛り立てていけると信じております。分からないことは何でも聞いてください」
「ありがとうございます、ロヴィーサ様」

 ヘンリッキの決意も聞けて、僕はこの国の未来は明るいのではないかと思っていた。
 グリーンイグアナのイグもアナも、しゃくしゃくとマンドラゴラの葉っぱを食べて満足そうに木の上で寛いでいる。マンドラゴラの葉っぱのせいか、イグとアナの色艶がよくなった気がする。

「両親が爬虫類を好きだったなんて知りませんでした。世話をしてみると意外と可愛いものです。魔窟の管理人のリザードマンからしてみれば、グリーンイグアナを飼う人間とはどのように映るのでしょうね」
「仲間を捕らえられている気分になるのでしょうか?」
「分からないですね」

 ヘンリッキはリザードマンの管理人にも興味を持っているようだ。
 一度会わせてもいいのではないだろうか。

「ロヴィーサ嬢、ヘンリッキをリザードマンの管理人に会わせるのはどうでしょう?」
「グリーンイグアナのことを知っているかもしれませんね。ヘンリッキ様は会いたいですか?」
「会ってみたいです!」

 元気よく返事をするヘンリッキに、アルマスとアクセリとアンニーナ嬢も僕の方を見ている。

「俺もリザードマンを見たい!」
「私も見たいです」
「わたくしも!」

 僕はロヴィーサ嬢の顔を見た。

「みんなで一度、リザードマンを見に行きましょうか。ひとではない種族との交流も、これから大事になって来ます」

 この国の魔窟のずべ手に管理人が置かれることになると、人間ではない種族との交流も盛んになってくるだろう。ヘンリッキもアルマスもアクセリもアンニーナ嬢も、リザードマンと交流しておいて悪いことはない。
 ヘンリッキの家のグリーンイグアナの見学の次は、リザードマンに会いに行くことになりそうだった。
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