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四章 婚約式
5.お茶会の席で
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翌日にはハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日のお茶会が開かれた。
エクムント様はわたくしをエスコートするために部屋まで来てくれていた。エクムント様の白い手袋を付けた手に手を重ねて、階段を降りて、長い廊下を歩いてお茶会の会場の大広間まで歩いていく。
ふーちゃんは部屋でヘルマンさんとお留守番で、クリスタちゃんはお目目を煌めかせながらわたくしとエクムント様の後ろをついて来ていた。
大広間の扉が開けられて、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下がわたくしとエクムント様に挨拶をしてくれる。
「エリザベート嬢、エクムント殿、ご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます。ハインリヒ殿下とノルベルト殿下もお誕生日おめでとうございます」
「もう婚約されてしまうなんて驚きですが、エリザベート嬢はどこか大人っぽいところがありますからね」
「大人っぽいなんてそんなことありませんわ」
ハインリヒ殿下とノルベルト殿下と話していると、カサンドラ様が身振り手振りを咥えて少し大げさに話しているのが見える。
「エリザベート嬢のおかげで壊血病の予防法が見付かりました。我が領地は海軍もあり、海での漁や交易が盛んに行われています。壊血病には本当に悩まされていたので、エリザベート嬢の知恵に感謝するしかないですよ」
「壊血病はどのようにしたら治ると分かったのですか?」
「エリザベート嬢が漁師と話をして気付いたらしいのです。野菜好きの漁師がいて、寄港するたびに船を抜け出して野菜を食べていたと。その漁師は壊血病にならなかったのだと」
「船に野菜を持ち込んでも日持ちしないのではないですか?」
「そこがエリザベート嬢のすごいところなのです。日持ちのするザワークラウトを持ち込んではどうかと提案されました」
大きな声でカサンドラ様が発言しているので、それは自然と周囲に聞こえてしまう。わたくしは前世の記憶に頼っただけなのに、恥ずかしいような誇らしいような複雑な気持ちになってしまった。
「エリザベート嬢をエクムントの婚約者にしようと決めたきっかけはそれでした。エリザベート嬢は我が領地に利益をもたらしてくれる」
カサンドラ様の言葉を周囲の貴族たちが目を丸くして聞いているのが分かる。わたくしは頬を押さえてじっとしていると、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下が黒と菫色の目を見開いていた。
「そのようなことがあったのですね」
「さすがはエリザベート嬢です」
「エリザベート嬢のおかげで辺境伯領の多くのひとが救われました。エリザベート嬢は辺境伯家の婚約者として相応しい方だと思います」
エクムント様の口からそのような言葉が出てわたくしは驚いていた。
エクムント様はわたくしを認めてくださっている。
「エクムント様に相応しい婚約者になれるように努力いたしますわ」
「私の方こそ、エリザベート嬢に相応しい男になれるように努力せねば」
エクムント様と言い合って、わたくしはエクムント様の金色の目を見て笑ってしまった。真面目な顔をしていたエクムント様も頬を緩ませている。
「仲睦まじい婚約者同士でよかったです」
「心よりエリザベート嬢とエクムント殿の幸せを願っています」
二年前のお誕生日の席では、わたくしに贈った髪飾りが自分の目の色だということを明かし、自分が選んだことも明かして、わたくしに庭で摘んだ花束を渡そうとしたノルベルト殿下。
その後に婚約の話が舞い込んできたのもわたくしの記憶にははっきりと残っている。
婚約の話はなかったことにしてもらったけれど、ノルベルト殿下はそれを乗り越えて自分の立場というものをしっかりと把握されているようだった。
ノルベルト殿下に祝福されて、わたくしはノルベルト殿下に深く頭を下げて感謝の意を示した。
「お姉様、エクムント様とお茶をしてきてください。わたくしはハインリヒ殿下とお茶をします」
「クリスタ、一緒でなくていいのですか?」
「お姉様は念願のエクムント様の婚約者になれたのです。今日はわたくしが我慢するのです」
わたくしも八歳になっているし、立食式のお茶会なのだから立って食べられなければいけない。エクムント様と会場を回って取り皿に軽食とケーキを取って、エクムント様と一緒に立って食べる。
白い手袋を外したエクムント様の大きな手に胸が高鳴ってしまう。
紅茶を頼んでしまうと両手が塞がって軽食やケーキが食べられないわたくしに、エクムント様はさりげなくお皿を持ってくれて食べられるようにしてくださる。
世間一般では淑女は公の場では小鳥のように少食に見せておくのがいいのかもしれないが、国一番のフェアレディと呼ばれた母が「取り分けたものを残す方が無作法です」と言っていたので、わたくしも心置きなくケーキや軽食を食べた。
「エクムント様、ありがとうございます」
「困っている婚約者を助けるのは当然のことです。そちらのケーキはどうでしたか?」
「とても美味しかったです」
「それでは私もいただきましょう」
自然な動作でケーキを取りに行ったエクムント様が、わたくしの食べ終わったお皿を片付けてくださっているのを見て、その優しさに胸がキュンとする。
小さな頃から優しい方だとは思っていたが、改めて親切にされてわたくしはエクムント様に心奪われていた。
「お姉様、いい感じでしたわ」
「クリスタ、見ていたのですか!?」
「エクムント様はお姉様を預けるに足る方だと確信いたしました。このクリスタ、お姉様とエクムント様の仲を応援します」
ハインリヒ殿下とお茶をしていたとばかり思っていたクリスタちゃんは、物陰からわたくしとエクムント様を見ていた。ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とレーニ嬢も付き合わされている。
「エクムント殿からエリザベート嬢をお借りするのは申し訳ないですが、このままではクリスタ嬢は座りません。同席していただけませんか?」
「よろしいですか、エクムント様」
「構いませんとも」
ハインリヒ殿下にお願いされてわたくしはエクムント様に一言断ってテーブルの方に行く。
エクムント様との甘い時間を過ごしていたかったが、クリスタちゃんがわたくしに気を取られて座れないのでは仕方がない。
わたくしが椅子に座るとクリスタちゃんが右隣りに、レーニ嬢が左隣りに座って、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下は正面に座る。
取り分けてきたケーキや軽食をそれぞれ持っているが、わたくしはもう食べたのでお茶だけにしておいた。
「エリザベート嬢は中央と辺境を結ぶために辺境伯に嫁ぐことに決められたのですね」
「わたくしの存在が辺境伯領とディッペル家の利益となるのでしたら」
ノルベルト殿下の問いかけにそう答えてはいるものの、わたくしはそれだけの気持ちではなかった。
赤ん坊のころからわたくしのことを可愛がってくださっているエクムント様を好きになって、追い駆け続けていた日々はまだまだ続く。エクムント様はわたくしに好意を抱いてくださっているが、それはどこまでも妹のような感情であって恋愛感情ではない。
前世のアラサーのわたくしが脳内で囁きかける。
あの年齢で八歳のわたくしに恋愛感情を持つ方が異常であると。
婚約はしたけれどわたくしとエクムント様の関係は進むことはない。
「お姉様が羨ましいですわ。わたくしも好きな方と婚約がしたい」
「クリスタ様はそんな方が……言うだけ野暮でしたね」
クリスタちゃんの視線の向こうにはハインリヒ殿下がいる。ハインリヒ殿下とクリスタちゃんは両想いに違いなかった。
「お誕生日にいただいたブローチ、とても綺麗で、もったいなくて使えません」
「あれくらいならまた作って来ます。気軽に使ってください」
「ハインリヒ殿下が自ら作られたブローチなんて、わたくし、嬉しくて」
頬を染めるクリスタちゃんの動作にハインリヒ殿下も嬉しそうにしている。
「わたくしと一歳しか年の変わらないエリザベート様が婚約だなんて、うちの母も焦りそうですわ」
「わたくしの場合は辺境伯家とディッペル家を結ぶための特例のようなものですから」
レーニ嬢の言葉にわたくしは安心させるように微笑む。
本来ならば婚約は学園に入学してからの年齢が相応しいのだろうが、この国で唯一の公爵家と辺境伯家を結ぶとなると早い婚約も必要となってくるのだろう。
特に辺境伯家は独立をするのではないかと危ぶまれていたし、カサンドラ様は早急に自分の身の振り方を国王陛下に示さねばならなかった。
「わたくしの母が再婚するかもしれないのです。今度の父はいい方だといいのですが」
レーニ嬢の悩みを聞きながら、わたくしはミルクティーを飲んでいた。
エクムント様はわたくしをエスコートするために部屋まで来てくれていた。エクムント様の白い手袋を付けた手に手を重ねて、階段を降りて、長い廊下を歩いてお茶会の会場の大広間まで歩いていく。
ふーちゃんは部屋でヘルマンさんとお留守番で、クリスタちゃんはお目目を煌めかせながらわたくしとエクムント様の後ろをついて来ていた。
大広間の扉が開けられて、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下がわたくしとエクムント様に挨拶をしてくれる。
「エリザベート嬢、エクムント殿、ご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます。ハインリヒ殿下とノルベルト殿下もお誕生日おめでとうございます」
「もう婚約されてしまうなんて驚きですが、エリザベート嬢はどこか大人っぽいところがありますからね」
「大人っぽいなんてそんなことありませんわ」
ハインリヒ殿下とノルベルト殿下と話していると、カサンドラ様が身振り手振りを咥えて少し大げさに話しているのが見える。
「エリザベート嬢のおかげで壊血病の予防法が見付かりました。我が領地は海軍もあり、海での漁や交易が盛んに行われています。壊血病には本当に悩まされていたので、エリザベート嬢の知恵に感謝するしかないですよ」
「壊血病はどのようにしたら治ると分かったのですか?」
「エリザベート嬢が漁師と話をして気付いたらしいのです。野菜好きの漁師がいて、寄港するたびに船を抜け出して野菜を食べていたと。その漁師は壊血病にならなかったのだと」
「船に野菜を持ち込んでも日持ちしないのではないですか?」
「そこがエリザベート嬢のすごいところなのです。日持ちのするザワークラウトを持ち込んではどうかと提案されました」
大きな声でカサンドラ様が発言しているので、それは自然と周囲に聞こえてしまう。わたくしは前世の記憶に頼っただけなのに、恥ずかしいような誇らしいような複雑な気持ちになってしまった。
「エリザベート嬢をエクムントの婚約者にしようと決めたきっかけはそれでした。エリザベート嬢は我が領地に利益をもたらしてくれる」
カサンドラ様の言葉を周囲の貴族たちが目を丸くして聞いているのが分かる。わたくしは頬を押さえてじっとしていると、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下が黒と菫色の目を見開いていた。
「そのようなことがあったのですね」
「さすがはエリザベート嬢です」
「エリザベート嬢のおかげで辺境伯領の多くのひとが救われました。エリザベート嬢は辺境伯家の婚約者として相応しい方だと思います」
エクムント様の口からそのような言葉が出てわたくしは驚いていた。
エクムント様はわたくしを認めてくださっている。
「エクムント様に相応しい婚約者になれるように努力いたしますわ」
「私の方こそ、エリザベート嬢に相応しい男になれるように努力せねば」
エクムント様と言い合って、わたくしはエクムント様の金色の目を見て笑ってしまった。真面目な顔をしていたエクムント様も頬を緩ませている。
「仲睦まじい婚約者同士でよかったです」
「心よりエリザベート嬢とエクムント殿の幸せを願っています」
二年前のお誕生日の席では、わたくしに贈った髪飾りが自分の目の色だということを明かし、自分が選んだことも明かして、わたくしに庭で摘んだ花束を渡そうとしたノルベルト殿下。
その後に婚約の話が舞い込んできたのもわたくしの記憶にははっきりと残っている。
婚約の話はなかったことにしてもらったけれど、ノルベルト殿下はそれを乗り越えて自分の立場というものをしっかりと把握されているようだった。
ノルベルト殿下に祝福されて、わたくしはノルベルト殿下に深く頭を下げて感謝の意を示した。
「お姉様、エクムント様とお茶をしてきてください。わたくしはハインリヒ殿下とお茶をします」
「クリスタ、一緒でなくていいのですか?」
「お姉様は念願のエクムント様の婚約者になれたのです。今日はわたくしが我慢するのです」
わたくしも八歳になっているし、立食式のお茶会なのだから立って食べられなければいけない。エクムント様と会場を回って取り皿に軽食とケーキを取って、エクムント様と一緒に立って食べる。
白い手袋を外したエクムント様の大きな手に胸が高鳴ってしまう。
紅茶を頼んでしまうと両手が塞がって軽食やケーキが食べられないわたくしに、エクムント様はさりげなくお皿を持ってくれて食べられるようにしてくださる。
世間一般では淑女は公の場では小鳥のように少食に見せておくのがいいのかもしれないが、国一番のフェアレディと呼ばれた母が「取り分けたものを残す方が無作法です」と言っていたので、わたくしも心置きなくケーキや軽食を食べた。
「エクムント様、ありがとうございます」
「困っている婚約者を助けるのは当然のことです。そちらのケーキはどうでしたか?」
「とても美味しかったです」
「それでは私もいただきましょう」
自然な動作でケーキを取りに行ったエクムント様が、わたくしの食べ終わったお皿を片付けてくださっているのを見て、その優しさに胸がキュンとする。
小さな頃から優しい方だとは思っていたが、改めて親切にされてわたくしはエクムント様に心奪われていた。
「お姉様、いい感じでしたわ」
「クリスタ、見ていたのですか!?」
「エクムント様はお姉様を預けるに足る方だと確信いたしました。このクリスタ、お姉様とエクムント様の仲を応援します」
ハインリヒ殿下とお茶をしていたとばかり思っていたクリスタちゃんは、物陰からわたくしとエクムント様を見ていた。ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とレーニ嬢も付き合わされている。
「エクムント殿からエリザベート嬢をお借りするのは申し訳ないですが、このままではクリスタ嬢は座りません。同席していただけませんか?」
「よろしいですか、エクムント様」
「構いませんとも」
ハインリヒ殿下にお願いされてわたくしはエクムント様に一言断ってテーブルの方に行く。
エクムント様との甘い時間を過ごしていたかったが、クリスタちゃんがわたくしに気を取られて座れないのでは仕方がない。
わたくしが椅子に座るとクリスタちゃんが右隣りに、レーニ嬢が左隣りに座って、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下は正面に座る。
取り分けてきたケーキや軽食をそれぞれ持っているが、わたくしはもう食べたのでお茶だけにしておいた。
「エリザベート嬢は中央と辺境を結ぶために辺境伯に嫁ぐことに決められたのですね」
「わたくしの存在が辺境伯領とディッペル家の利益となるのでしたら」
ノルベルト殿下の問いかけにそう答えてはいるものの、わたくしはそれだけの気持ちではなかった。
赤ん坊のころからわたくしのことを可愛がってくださっているエクムント様を好きになって、追い駆け続けていた日々はまだまだ続く。エクムント様はわたくしに好意を抱いてくださっているが、それはどこまでも妹のような感情であって恋愛感情ではない。
前世のアラサーのわたくしが脳内で囁きかける。
あの年齢で八歳のわたくしに恋愛感情を持つ方が異常であると。
婚約はしたけれどわたくしとエクムント様の関係は進むことはない。
「お姉様が羨ましいですわ。わたくしも好きな方と婚約がしたい」
「クリスタ様はそんな方が……言うだけ野暮でしたね」
クリスタちゃんの視線の向こうにはハインリヒ殿下がいる。ハインリヒ殿下とクリスタちゃんは両想いに違いなかった。
「お誕生日にいただいたブローチ、とても綺麗で、もったいなくて使えません」
「あれくらいならまた作って来ます。気軽に使ってください」
「ハインリヒ殿下が自ら作られたブローチなんて、わたくし、嬉しくて」
頬を染めるクリスタちゃんの動作にハインリヒ殿下も嬉しそうにしている。
「わたくしと一歳しか年の変わらないエリザベート様が婚約だなんて、うちの母も焦りそうですわ」
「わたくしの場合は辺境伯家とディッペル家を結ぶための特例のようなものですから」
レーニ嬢の言葉にわたくしは安心させるように微笑む。
本来ならば婚約は学園に入学してからの年齢が相応しいのだろうが、この国で唯一の公爵家と辺境伯家を結ぶとなると早い婚約も必要となってくるのだろう。
特に辺境伯家は独立をするのではないかと危ぶまれていたし、カサンドラ様は早急に自分の身の振り方を国王陛下に示さねばならなかった。
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