エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

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八章 エリザベートの学園入学

26.お揃いのスーツとドレス

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 両親の誕生日、わたくしたちはお揃いの紫色の布のドレスとスーツで出席した。
 来てくださったエクムント様が気付いて一番に声をかけてくださる。

「私が贈った布を使ってくださっているのですね。それだけではなく、ディッペル公爵のスーツや侯爵夫人のドレスまで!」
「エリザベートの嫁ぐ土地の特産品をアピールしなければいけませんからね」
「何より、この布はとても美しくて、魅力的でしたから」
「本当にありがとうございます」

 答える両親にエクムント様はお礼を言っていた。

 ふーちゃんもまーちゃんも胸を張ってエクムント様に自分のスーツとドレスを見せている。

「わたしのスーツ、へんきょうはくりょうのぬのでつくってもらいました」
「わたくちのドレス、すてきでちょ?」
「とてもよくお似合いです。フランツ殿は格好よくて、マリア嬢は可愛らしいです」

 褒められてふーちゃんもまーちゃんも鼻高々だった。
 紫色の布のドレスを着ていたのはわたくしとクリスタちゃんとまーちゃんと母だけではなかった。レーニちゃんも紫色の布でドレスを誂えていたのだ。

「この布がこれから流行ると聞いて、母に取り寄せてもらったのです」
「レーニ嬢とても素敵です」
「レーニじょう、おきれいです」

 わたくしが褒めると、ふーちゃんがうっとりとしてレーニちゃんを見ている。
 それだけではなくて、会場にはちらほらと紫色の布のドレスを着ている女性がいた。
 それはラウラ嬢もだった。ラウラ嬢は恥ずかし気にしながらわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんに近付いてきた。

「主賓とドレスの色が同じなんて礼儀知らずかもしれないと思ったのですが、どうしてもこのドレスを着たくて」

 辺境伯領で抑圧されてドレスを選ぶことができなかったラウラ嬢は、自由にドレスを選べるようになったことを謳歌しているように見えた。

「失礼なんてとんでもないですわ。辺境伯領の布が流行れば、わたくしも嬉しいです」
「そう言っていただけると辺境伯領出身のものとして、嬉しい限りです」

 母に言われてラウラ嬢は深く頭を下げていた。

 両親のお誕生日には国王陛下と王妃殿下もいらっしゃる。国王陛下と父は学生時代の学友で、同じ年で同じ学年だったのだ。

「ユストゥス、お誕生日おめでとう。公爵夫人と今年も一緒に祝うのだな」
「冬には国王陛下の生誕の式典もありますから、あまり忙しすぎないようにしなくてはいけませんからね」

 父と母は同じ冬生まれで、誕生日は違う月なのだが間を取った時期に合同でお誕生日のパーティーをすることにしていた。それが小さい頃からの習慣だったので、わたくしは普通の家庭では両親のお誕生日は別々に祝うなんてことは頭になかった。

「私の誕生日に配慮してくれているのだな。さすがユストゥスだ。学生時代から私の一番の友人」
「国王陛下にそう言っていただけると幸いです」

 胸に手を当てて一礼する父に、王妃殿下がじっと父と母を見ている。

「ディッペル公爵と公爵夫人、それにお子様方はお揃いの布を使っているのですか?」
「これは辺境伯領の特産品の布なのです。とても美しいので家族でスーツとドレスを誂えました」
「素敵な布ですね。国王陛下、わたくしもあの布のドレスが一着欲しいですわ」
「辺境伯のエクムント・ヒンケルに頼んでおこう」

 王妃殿下までこの布に興味を持ってドレスを一着誂えるようだ。わたくしたちの宣伝効果は上々だった。
 王妃殿下がドレスを誂えて公の場で着るとなると、辺境伯領の布の名前も一層広がるだろう。

 話を聞いていたヒューゲル伯爵のラウラ嬢が両手で口元を押さえて感激している。

「わたくしが着ているのと同じ布で、王妃殿下もドレスを誂えるなんて、わたくしも流行の最先端にいるのではないでしょうか?」
「その通りだと思いますよ。ラウラ嬢もそのドレスを着てたくさんのパーティーに出席なさったらいいと思います」
「わたくし、辺境伯領に帰ったら自慢しますわ。この布は中央でとても流行っているのだと。王妃殿下も欲しがるようなものなのだと」

 辺境伯領の中でも布の需要が高まれば、ますます特産品の布は流行っていくだろう。それはエクムント様の利益にもなることだった。

「クリスタ嬢、エリザベート嬢、お茶をしませんか?」
「フランツ殿もマリア嬢もご一緒に」
「わたし、レーニじょうとおちゃをしたいのですが、レーニじょうもごいっしょでいいですか?」
「もちろんですよ、フランツ殿」
「わたくち、おてあらいにいってからでいいでつか?」
「行ってらっしゃいませ、マリア嬢」

 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下からお誘いを受けて、わたくしとクリスタちゃんだけでなく、ふーちゃんとまーちゃんとレーニちゃんも一緒にお茶をすることになる。まーちゃんは急いでお手洗いに行って来ていた。

「エクムント様も、ラウラ嬢もご一緒でいいでしょう?」
「もちろんです」
「喜んで」

 わたくしが確認すると、ハインリヒ殿下もノルベルト殿下も快く返事をしてくれた。
 ふーちゃんとまーちゃんのためにテーブルに着くと、素早くヘルマンさんとレギーナがふーちゃんとまーちゃん用の子ども用の椅子を持って来てくれる。子ども用の椅子に座ったふーちゃんとまーちゃんに、ヘルマンさんとレギーナが軽食とケーキを取り分けて、ミルクティーも給仕にお願いする。
 わたくしも軽食とケーキを取り分けて椅子に座り、クリスタちゃんとレーニちゃんとラウラ嬢とエクムント様とハインリヒ殿下とノルベルト殿下も椅子に座った。

「フランツ殿とマリア嬢はこんな年からお茶会に出られていいですね。私もユリアーナと一緒にお茶会に出たいのです」
「ハインリヒは覚えていないかな? クリスタ嬢が初めてお茶会に出たのは、フランツ殿と同じ年の頃じゃなかったかな?」
「そうだったのですか!? 私も小さかったからよく年齢まで把握していませんでした」

 驚いているハインリヒ殿下にわたくしは頷く。

「クリスタが初めてお茶会に来たのは四歳のときでしたね。ノルベルト殿下はよく覚えておいででしたね」
「ハインリヒがクリスタ嬢のことをとても気にしていたのでよく覚えています。可愛らしいと言っていました」
「ノルベルト兄上、恥ずかしいです」

 可愛らしいと思っていたのかもしれないが、ハインリヒ殿下がしたことはクリスタちゃんの髪飾りを取り上げてしまうことだった。まだ小さな男の子だったので好意を上手く表せなかったのかもしれないが、あれはかなり後の方までクリスタちゃんは嫌な思いを抱えていた。
 行為を抱いて欲しかったならば、もっと優しいアプローチをしなければいけなかったのだ。

「わたくし、お姉様と会う前のことは小さくてあまり覚えていないのです。ディッペル家に引き取られた後のことしか記憶にありません」
「ノメンゼン子爵家でのことは忘れてしまって構いません。クリスタはディッペル家でのことだけ覚えていればいいのです」

 ノメンゼン子爵家でクリスタちゃんが虐待されていたことなど、忘れているのならば口に出さなくていい。わたくしが告げると、ふーちゃんとまーちゃんが目を丸くしている。

「ひきとられたって、クリスタおねえさまは、ディッペルけでうまれたんじゃないの?」
「くーおねえたま、わたくちのおねえたま、ちやうの?」

 不安になってしまっているふーちゃんとまーちゃんにわたくしはしっかりと答える。

「クリスタはフランツとマリアのお姉様ですよ。間違いありません。過去は色々ありましたが、クリスタがディッペル家の娘だということは確かですよ」
「クリスタおねえさま、わたしのおねえさま!」
「くーおねえたま、おねえたまだった!」

 力強くわたくしが言ったことによって、ふーちゃんもまーちゃんも不安が吹っ飛んだようだった。

「クリスタ嬢は……いえ、なんでもないです。クリスタ嬢はフランツ殿とマリア嬢のよき姉のようですね」
「過去はどうあれ、フランツもマリアも生まれたときからわたくしがディッペル家にいましたからね」

 クリスタちゃんが元ノメンゼン家にいたことを口にしようとしたのだろうがハインリヒ殿下は、ふーちゃんとまーちゃんが聞いていることに配慮してそれ以上言わないでいてくれた。クリスタちゃんも過去のことは忘れているし、すっかりとディッペル家の娘になっている。

「ディッペル家の方々は、同じ布のドレスとスーツで合わせてくるくらい仲がいいのですね。とても素敵だと思います」
「レーニ嬢もラウラ嬢もお揃いではないですか」
「わたくしは流行りのドレスを着たかっただけです」
「わたくしもです」

 ディッペル家の仲のよさを褒めてくれるレーニ嬢だが、レーニ嬢も同じ布で作られたドレスを着ているし、ラウラ嬢も同じ布で作られたドレスを着ている。
 辺境伯領の布は順調に流行っている。これはわたくしとエクムント様の企み通りだった。
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