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八章 エリザベートの学園入学
28.冬の湖畔のピクニック
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冬休みに辺境伯領へ行く。
これはエクムント様からわたくしへのデートのお誘いだった。
わたくしだけ誘われているわけではなくて、ふーちゃんもまーちゃんもクリスタちゃんも両親も一緒にと誘われていたが、それでも特別なお出かけには違いない。
列車がトンネルを抜けて辺境伯領に入ると、雪は全く積もっていなかった。寒さはないわけではないが、コートとマフラーと手袋を身に着けるまででもない。
冬の辺境伯領に来るのは初めてで、わたくしはわくわくしていた。
辺境伯領は冬でもディッペル公爵領の秋くらいの寒さしかないようだ。
「エリザベート嬢、よく来られました。ディッペル公爵夫妻、クリスタ嬢、フランツ殿、マリア嬢、いらっしゃいませ」
迎えてくれるエクムント様にわたくしは駆け寄る。そのまま飛びつきたい思いもあったけれど、はしたないので我慢する。
「独立派を一掃したのでその報告も兼ねてお招きしました。国王陛下にもこのことはお伝えしています」
「独立派は一掃されたのですね!」
「独立派で集会を開いているときに踏み入って、全員を捕らえました。今、取り調べを進めています」
独立派は全員捕らえられた。今後は辺境伯領でも辺境伯に逆らうものがいなくなって政治がしやすくなるだろう。
「独立派の貴族を捕らえたと言っても、民衆の中にまだ独立派が残っていることは確かです。その者たちにも心を変えてもらわねばなりません」
「できそうですか?」
「エリザベート嬢が辺境伯領の特産品の宣伝を手伝ってくれているので、辺境伯領は豊かになってきています。辺境伯領が富めば、独立派も私の政治について来てくれることと思います」
「成功することを願っています」
エクムント様から独立派貴族が一掃された知らせを聞いて、わたくしはとても安心していた。それは両親も同じだった。
「辺境伯領が今後落ち着くとなると心配が一つ減りましたね」
「エクムント殿、辺境伯領を豊かな土地にしていってください」
「はい、ディッペル公爵夫妻」
両親に言われてエクムント様が背筋を伸ばしている。
「ピクニックの準備をしてあります。明日は湖畔にピクニックに行きましょう」
「こはん? こはんって、なぁに?」
「ぴくいっく、なぁに?」
「湖畔とは湖のほとりのことですよ。ピクニックとはお弁当を持ってお出かけをすることです」
「こはん、わたし、いきたい!」
「おべんと! わたくち、たべたい!」
興味津々のふーちゃんもまーちゃんも話を聞いて行きたくなったようだ。
二人きりでのデートも期待していたが、家族と一緒のデートでも仕方がない。辺境伯領にせっかく来たのにクリスタちゃんともふーちゃんともまーちゃんとも別行動というのは寂しかった。
「一緒に行きましょう、フランツ、マリア」
「エリザベートおねえさま、ピクニック! ピクニック!」
「わたくちのおべんともある?」
「ありますよ、マリア」
家族でピクニックに行くことになったが、そう言えばわたくしが小さい頃に牧場に行った以外で家族でお出かけというものはしていない気がする。市に買い物に行ったことはあるが、あれは買い物がメインだったし、市から一般の客を全部出してしまうような買い物だった。
ふーちゃんもまーちゃんも一緒の家族でのお出かけは初めてではないだろうか。
「マリア、たのしみだね」
「おにいたま、わたくち、おべんとたべるのよ」
「マリアはくいしんぼうだね。おべんとうのことばかり」
笑い合って話しているふーちゃんとまーちゃんの姿に、一緒に行けることが嬉しく感じる。それも辺境伯領が平和になったおかげだ。
翌日は馬車に乗って湖に行った。
湖の近くに馬車を停めて、護衛に守られながらエクムント様とわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと両親で湖に近付いていく。
周囲の木々と山が水に映って鏡に見えるような美しい湖だった。
湖の水はエメラルド色に輝いていて、かなりの深さまで見えている透明度だ。
美しい湖に見惚れていると、ふーちゃんとまーちゃんが木々の生い茂った林の方を指差した。
「おかあさま、おとうさま、いま、なにかいた!」
「ちょろちょろちてた!」
「リスではないですかね」
「フクロウもいるかもしれないね」
「もっとちかくでみたい!」
「みちゃいのー!」
ふーちゃんとまーちゃんの要望により、林の中を歩くことになった。落ちた葉っぱの上を踏んで歩いていると、靴の下に当たるものがある。しゃがみ込んで靴の下を見ると、木の実が落ちていた。
「フランツ、マリア、木の実が落ちています。リスはこれを食べに来ていたのかもしれません」
「きのみ、もってたら、リスがくるかな?」
「フランツが持っていたら警戒して来ないと思いますよ」
「リス、みたかったな」
「フクロウ、みちゃかった」
わたくしとふーちゃんとまーちゃんが話しているときに、頭上を影が通り過ぎた。上を見れば音もなくフクロウが飛んでいる。
「フランツ、マリア!」
「フクロウ!」
「おおちい!」
羽根を広げて悠々と飛んでいくフクロウをわたくしたちは見送った。
リスは近くでは見られなかったが、フクロウを見られたのでふーちゃんもまーちゃんも満足していた。
湖のほとりに敷物を敷いてお弁当を広げる。お弁当を楽しみにしていたまーちゃんはお弁当箱を広げると「わぁ!」と言って手を伸ばしていた。その手は母によって素早く拭かれていた。
ふーちゃんは自分で手を拭いてお弁当を開けてサンドイッチを食べる。
わたくしもクリスタちゃんも両親もエクムント様もサンドイッチを一緒に食べた。
「辺境伯領にはこんな美しいところがたくさんあるのです。エリザベート嬢にも辺境伯領を愛して欲しいと思っています」
「わたくし、辺境伯領が大好きですわ」
「もっともっと辺境伯領のことを知って欲しいと思っています」
「たくさん教えてください。わたくし、辺境伯領のことを知りたいですわ」
辺境伯領に嫁ぐ身としては、辺境伯領を知り、辺境伯領を愛さねばならない。素晴らしい土地だということは分かっているが、実際にどんなところがあるのかは連れて行ってもらわねば分からなかった。
「来年もエリザベート嬢をお誘いします」
「わたしも?」
「わたくちも?」
「フランツ殿とマリア嬢もお誘いしましょうね。今日は楽しかったですか?」
「とってもたのしかったです! ありがとうございます、エクムントさま」
「たのちかったの。おべんと、おいちかった!」
話に割り込まれてしまったが、ふーちゃんもまーちゃんも小さいので仕方がない。笑って許していると、ふーちゃんがエクムント様にお礼を言っていて、まーちゃんも嬉しそうに身振り手振りを交えてお話ししていた。
辺境伯領から帰る馬車に乗るときに、エクムント様がクリスタちゃんに声をかけていた。
「ハインリヒ殿下との婚約式も近付いていますね。準備はできていますか?」
「はい。お父様とお母様が準備をしてくださっています」
「おめでたい日をお祝いできるのを楽しみにしています」
「ありがとうございます、エクムント様」
わたくしの妹であるクリスタちゃんのこともエクムント様は気遣ってくれている。その気持ちが嬉しくてわたくしもエクムント様にお礼を言う。
「エクムント様、ありがとうございます」
「エリザベート嬢は辺境伯領の都合で準備期間も何もなく幼い時期に婚約式をしてしまいました。クリスタ嬢は準備をしっかりとできているようで安心しました」
「あのときは辺境伯領に必要なことだったと理解していますわ」
「エリザベート嬢は幼かったのに心を決めて、ディッペル家の後継をフランツ殿に譲って辺境伯になる私と婚約することを決めてくれた。あのときのことを覚えていますか?」
「辺境伯領が独立しないためには中央との強い繋がりが必要だというのを理解していました。わたくしがそうなれればいいと思って婚約をお受けしました」
それだけでなく、わたくしはずっとエクムント様が大好きだったのだけれど、その話をするとややこしくなってしまうので胸にしまっておく。
「おかげで私はエリザベート嬢という素晴らしい婚約者を得ました。聡明で可愛らしい……いえ、美しいと言わなければいけませんね」
「エクムント様にとって、わたくしはまだ可愛いままですか?」
「エリザベート嬢は日々成長しています。それに驚かされることもあります。でも、私は小さな頃のエリザベート嬢の可愛さが忘れられないのです」
わたくしの年齢ではエクムント様の恋愛対象になるわけがないのだが、赤ん坊のわたくしを今のわたくしの中に見ていると言われるとショックではないわけではなかった。
「いつか、エクムント様が夢中になる大人の女性になってみせます。それまで待っていてください」
エクムント様に宣言すると、エクムント様は「お待ちしています」と穏やかに答えた。
これはエクムント様からわたくしへのデートのお誘いだった。
わたくしだけ誘われているわけではなくて、ふーちゃんもまーちゃんもクリスタちゃんも両親も一緒にと誘われていたが、それでも特別なお出かけには違いない。
列車がトンネルを抜けて辺境伯領に入ると、雪は全く積もっていなかった。寒さはないわけではないが、コートとマフラーと手袋を身に着けるまででもない。
冬の辺境伯領に来るのは初めてで、わたくしはわくわくしていた。
辺境伯領は冬でもディッペル公爵領の秋くらいの寒さしかないようだ。
「エリザベート嬢、よく来られました。ディッペル公爵夫妻、クリスタ嬢、フランツ殿、マリア嬢、いらっしゃいませ」
迎えてくれるエクムント様にわたくしは駆け寄る。そのまま飛びつきたい思いもあったけれど、はしたないので我慢する。
「独立派を一掃したのでその報告も兼ねてお招きしました。国王陛下にもこのことはお伝えしています」
「独立派は一掃されたのですね!」
「独立派で集会を開いているときに踏み入って、全員を捕らえました。今、取り調べを進めています」
独立派は全員捕らえられた。今後は辺境伯領でも辺境伯に逆らうものがいなくなって政治がしやすくなるだろう。
「独立派の貴族を捕らえたと言っても、民衆の中にまだ独立派が残っていることは確かです。その者たちにも心を変えてもらわねばなりません」
「できそうですか?」
「エリザベート嬢が辺境伯領の特産品の宣伝を手伝ってくれているので、辺境伯領は豊かになってきています。辺境伯領が富めば、独立派も私の政治について来てくれることと思います」
「成功することを願っています」
エクムント様から独立派貴族が一掃された知らせを聞いて、わたくしはとても安心していた。それは両親も同じだった。
「辺境伯領が今後落ち着くとなると心配が一つ減りましたね」
「エクムント殿、辺境伯領を豊かな土地にしていってください」
「はい、ディッペル公爵夫妻」
両親に言われてエクムント様が背筋を伸ばしている。
「ピクニックの準備をしてあります。明日は湖畔にピクニックに行きましょう」
「こはん? こはんって、なぁに?」
「ぴくいっく、なぁに?」
「湖畔とは湖のほとりのことですよ。ピクニックとはお弁当を持ってお出かけをすることです」
「こはん、わたし、いきたい!」
「おべんと! わたくち、たべたい!」
興味津々のふーちゃんもまーちゃんも話を聞いて行きたくなったようだ。
二人きりでのデートも期待していたが、家族と一緒のデートでも仕方がない。辺境伯領にせっかく来たのにクリスタちゃんともふーちゃんともまーちゃんとも別行動というのは寂しかった。
「一緒に行きましょう、フランツ、マリア」
「エリザベートおねえさま、ピクニック! ピクニック!」
「わたくちのおべんともある?」
「ありますよ、マリア」
家族でピクニックに行くことになったが、そう言えばわたくしが小さい頃に牧場に行った以外で家族でお出かけというものはしていない気がする。市に買い物に行ったことはあるが、あれは買い物がメインだったし、市から一般の客を全部出してしまうような買い物だった。
ふーちゃんもまーちゃんも一緒の家族でのお出かけは初めてではないだろうか。
「マリア、たのしみだね」
「おにいたま、わたくち、おべんとたべるのよ」
「マリアはくいしんぼうだね。おべんとうのことばかり」
笑い合って話しているふーちゃんとまーちゃんの姿に、一緒に行けることが嬉しく感じる。それも辺境伯領が平和になったおかげだ。
翌日は馬車に乗って湖に行った。
湖の近くに馬車を停めて、護衛に守られながらエクムント様とわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと両親で湖に近付いていく。
周囲の木々と山が水に映って鏡に見えるような美しい湖だった。
湖の水はエメラルド色に輝いていて、かなりの深さまで見えている透明度だ。
美しい湖に見惚れていると、ふーちゃんとまーちゃんが木々の生い茂った林の方を指差した。
「おかあさま、おとうさま、いま、なにかいた!」
「ちょろちょろちてた!」
「リスではないですかね」
「フクロウもいるかもしれないね」
「もっとちかくでみたい!」
「みちゃいのー!」
ふーちゃんとまーちゃんの要望により、林の中を歩くことになった。落ちた葉っぱの上を踏んで歩いていると、靴の下に当たるものがある。しゃがみ込んで靴の下を見ると、木の実が落ちていた。
「フランツ、マリア、木の実が落ちています。リスはこれを食べに来ていたのかもしれません」
「きのみ、もってたら、リスがくるかな?」
「フランツが持っていたら警戒して来ないと思いますよ」
「リス、みたかったな」
「フクロウ、みちゃかった」
わたくしとふーちゃんとまーちゃんが話しているときに、頭上を影が通り過ぎた。上を見れば音もなくフクロウが飛んでいる。
「フランツ、マリア!」
「フクロウ!」
「おおちい!」
羽根を広げて悠々と飛んでいくフクロウをわたくしたちは見送った。
リスは近くでは見られなかったが、フクロウを見られたのでふーちゃんもまーちゃんも満足していた。
湖のほとりに敷物を敷いてお弁当を広げる。お弁当を楽しみにしていたまーちゃんはお弁当箱を広げると「わぁ!」と言って手を伸ばしていた。その手は母によって素早く拭かれていた。
ふーちゃんは自分で手を拭いてお弁当を開けてサンドイッチを食べる。
わたくしもクリスタちゃんも両親もエクムント様もサンドイッチを一緒に食べた。
「辺境伯領にはこんな美しいところがたくさんあるのです。エリザベート嬢にも辺境伯領を愛して欲しいと思っています」
「わたくし、辺境伯領が大好きですわ」
「もっともっと辺境伯領のことを知って欲しいと思っています」
「たくさん教えてください。わたくし、辺境伯領のことを知りたいですわ」
辺境伯領に嫁ぐ身としては、辺境伯領を知り、辺境伯領を愛さねばならない。素晴らしい土地だということは分かっているが、実際にどんなところがあるのかは連れて行ってもらわねば分からなかった。
「来年もエリザベート嬢をお誘いします」
「わたしも?」
「わたくちも?」
「フランツ殿とマリア嬢もお誘いしましょうね。今日は楽しかったですか?」
「とってもたのしかったです! ありがとうございます、エクムントさま」
「たのちかったの。おべんと、おいちかった!」
話に割り込まれてしまったが、ふーちゃんもまーちゃんも小さいので仕方がない。笑って許していると、ふーちゃんがエクムント様にお礼を言っていて、まーちゃんも嬉しそうに身振り手振りを交えてお話ししていた。
辺境伯領から帰る馬車に乗るときに、エクムント様がクリスタちゃんに声をかけていた。
「ハインリヒ殿下との婚約式も近付いていますね。準備はできていますか?」
「はい。お父様とお母様が準備をしてくださっています」
「おめでたい日をお祝いできるのを楽しみにしています」
「ありがとうございます、エクムント様」
わたくしの妹であるクリスタちゃんのこともエクムント様は気遣ってくれている。その気持ちが嬉しくてわたくしもエクムント様にお礼を言う。
「エクムント様、ありがとうございます」
「エリザベート嬢は辺境伯領の都合で準備期間も何もなく幼い時期に婚約式をしてしまいました。クリスタ嬢は準備をしっかりとできているようで安心しました」
「あのときは辺境伯領に必要なことだったと理解していますわ」
「エリザベート嬢は幼かったのに心を決めて、ディッペル家の後継をフランツ殿に譲って辺境伯になる私と婚約することを決めてくれた。あのときのことを覚えていますか?」
「辺境伯領が独立しないためには中央との強い繋がりが必要だというのを理解していました。わたくしがそうなれればいいと思って婚約をお受けしました」
それだけでなく、わたくしはずっとエクムント様が大好きだったのだけれど、その話をするとややこしくなってしまうので胸にしまっておく。
「おかげで私はエリザベート嬢という素晴らしい婚約者を得ました。聡明で可愛らしい……いえ、美しいと言わなければいけませんね」
「エクムント様にとって、わたくしはまだ可愛いままですか?」
「エリザベート嬢は日々成長しています。それに驚かされることもあります。でも、私は小さな頃のエリザベート嬢の可愛さが忘れられないのです」
わたくしの年齢ではエクムント様の恋愛対象になるわけがないのだが、赤ん坊のわたくしを今のわたくしの中に見ていると言われるとショックではないわけではなかった。
「いつか、エクムント様が夢中になる大人の女性になってみせます。それまで待っていてください」
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