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九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
45.赤い薔薇のコスチュームジュエリー
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波乱の両親のお誕生日会も無事に終わって、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと両親は庭の門の前に出て、お客様のお見送りをしていた。
疲れたのかふーちゃんとまーちゃんは少し眠そうだったが、頑張ってコートを着てマフラーを巻いて外に出て来ていた。
「国王陛下、王妃殿下、本日は本当にありがとうございました」
「ユストゥス、今はそう呼ばせてもらおう。そなたは、私の学友にして親友。生涯このような交流を持ちたいものだと思っておる」
「ありがたきお言葉です」
「ディッペル公爵夫妻、次は王都でお会いしましょう」
「クリスタとエリザベートの演奏も楽しみにしておる」
国王陛下と王妃殿下を見送ると、続いてハインリヒ殿下とノルベルト殿下の馬車がやってくる。
「ハインリヒ殿下、本日はとても楽しかったです」
「クリスタ嬢、帰り際になってしまって申し訳ないのですが、これを受け取ってくれますか?」
ハインリヒ殿下がクリスタちゃんに渡したのはジュエリーの入っている箱だった。
「開けてもよろしいですか?」
「見てください」
「まぁ! 素敵な薔薇のコスチュームジュエリー!」
箱の中には淡く色付いた薔薇の花びらを散らし、中央には薔薇の飾りのついているネックレスと、薔薇のイヤリング、薔薇のブレスレットが置かれていた。
クリスタちゃんの目が輝く。
「本来ならばクリスタ嬢のお誕生日に差し上げるべきなのでしょうが、父上の生誕の式典でクリスタ嬢だけコスチュームジュエリーを身に着けていないとなると、私が嫌だったのです」
「お気遣いいただきとても嬉しいです。ありがとうございます」
このままではクリスタちゃんはわたくしやノエル殿下や王妃殿下がコスチュームジュエリーを着けている中で、一人だけコスチュームジュエリーを身に着けていないということになってしまいかねなかったが、それをハインリヒ殿下は気にして先にプレゼントしてくれた。クリスタちゃんは本当に嬉しかったのだろう、頬を薔薇色に染めて、ハインリヒ殿下の顔を見上げている。
「わたくしもコスチュームジュエリーを身に着けることができます。嬉しいです」
「そんなに喜んでいただけたなら、私も嬉しいです。エクムント殿に製作を急いでもらった甲斐がありました」
「大事に着けさせていただきます」
箱を抱いてクリスタちゃんは煌めく目でハインリヒ殿下を見上げていた。
ハインリヒ殿下とノルベルト殿下が馬車に乗って帰り出すと、次の馬車が来る。次の馬車はノエル殿下を送る馬車だ。
「ノエル殿下、本日は素敵な詩を披露してくださってありがとうございました」
「国王陛下の生誕の式典でも楽しみにしています」
両親も困惑しながらもそう言うしかない。ノエル殿下の詩は国王陛下も王妃殿下も認めた詩であるから理解できなくても、理解できているふりをするのが上流階級の嗜みになりそうだ。
国王陛下と王妃殿下はノエル殿下の詩を印刷して学園で配ろうとまでしていた。こうなるとノエル殿下は国に認められた詩人ということになってしまう。
ノエル殿下が認めるクリスタちゃんとふーちゃんの詩も高く評価されるだろう。
価値観とはこうやって作られるのだとわたくしは見せつけられた気分だった。
ノエル殿下の馬車が動き出すと、次はエクムント様の馬車がやってくる。辺境伯領まで帰るのでエクムント様は前日から泊って来ることも多かったが、今回は当日の参加だった。
「エリザベート嬢のおかげでコスチュームジュエリーが流行って、辺境伯領は忙しくなりそうです。嬉しい忙しさですがね」
「エクムント様のお役に立てたなら嬉しいです」
「エリザベート嬢が私の婚約者で本当によかったといつも思っています」
こんな甘いことを言ってくれるのに、エクムント様はわたくしに好意はあるけれど、それは恋愛感情ではなくて妹に対するようなものだという悲しみがある。
エクムント様と同等になれるにはまだまだわたくしには時間が必要だった。
エクムント様の馬車が行ってしまうと、リリエンタール侯爵家の馬車が門の前に付けられた。
リリエンタール侯爵とレーニちゃんが馬車に乗り込む前に、両親が声をかけている。
「鉄道事業の成功を祈っています」
「リリエンタール家が公爵家になる日も近いのではないでしょうか?」
「そうだといいのですが」
「本日はお招きいただきありがとうございました」
丁寧にお礼を言うレーニちゃんに、ふーちゃんが駆け寄る。
「レーニじょう、またきてください。おまちしています」
「フランツ様もリリエンタール侯爵領においでください。デニスとゲオルグも喜ぶと思いますわ」
「はい! ありがとうございます」
名残惜しそうにしているふーちゃんと握手をして、レーニちゃんは馬車に乗り込んでいった。
ふーちゃんはいつまでもレーニちゃんの馬車に大きく手を振っていた。
お客様たちが帰ると、ふーちゃんもまーちゃんも疲れた様子で子ども部屋のソファに座っていた。遊ぶ気力はないようなので、着替えたわたくしがそばに座って絵本を読む。
絵本を聞きながらうつらうつらと眠っていたふーちゃんとまーちゃんだったが、夕食の時間にはきっちりと起きて来た。
夕食を食べると、また眠そうにしているので、両親がヘルマンさんとレギーナに声をかける。
「今日はフランツとマリアは早く休ませてやってくれ」
「お休みなさい、フランツ、マリア」
「はい、おとうさま、おかあさま」
「おやすみなさい」
目を擦りながらふーちゃんとまーちゃんはヘルマンさんとレギーナに連れて行かれた。これからお風呂に入れられて、歯磨きをして寝かされるのだろう。もう相当疲れていたようなので、二人ともすぐに眠ってしまうに違いなかった。
わたくしとクリスタちゃんはお風呂の順番もあるので、少し食堂に残って、ソファに移動して紅茶とチョコレートを楽しんでいた。
両親は辺境伯領の葡萄酒とチョコレートを楽しんでいる。
「お父様、お母様、見てください。ハインリヒ殿下がわたくしが国王陛下の生誕の式典に出るのに合わせて誂えてくださったコスチュームジュエリーです」
クリスタちゃんはその話がしたかったのだろう、箱を持って来ていた。箱を開けて両親に見せると、両親はその美しさに目を奪われている。
「ガラスでできているのだね」
「とても美しいです。クリスタによく似合うことでしょう」
「わたくし、ハインリヒ殿下のお心遣いが嬉しかったのです。わたくしだけがコスチュームジュエリーがないというようなことが起きないようにしてくださったのです」
「ハインリヒ殿下は本当にクリスタのことを考えてくださっている」
「クリスタは幸せですね」
しみじみと言われてクリスタちゃんの胸にも幸福感が広がってきたようだ。胸を押さえてうっとりとしている。
それにしても、最近気付いたことがある。
クリスタちゃんとわたくしの胸の大きさが変わらないような気がするのだ。レーニちゃんはお誕生日のときにドレスを借りられたことから、わたくしとサイズがほとんど変わらないことも分かっている。
わたくしはもしかして胸が小さいのではないだろうか。
母を見て見ると胸が大きい方ではない。
クリスタちゃんのお母様のマリア叔母様はどうだったのだろう。気になってしまうのはどうしようもない。
自分の胸とクリスタちゃんの胸と母の胸を見比べているわたくしに、母が不思議そうに首を傾げている。
「わたくしもコスチュームジュエリーを注文した方がいいと思いますか、エリザベート?」
「お母様にも似合うコスチュームジュエリーがあると思いますわ」
「どうしましょう。お父様、よろしいですか?」
「テレーゼもコスチュームジュエリーを身に着けるのがいいと思うよ。エクムント殿に注文しよう」
胸を見ていたのが母にはコスチュームジュエリーのことを考えているように見えたようだ。
わたくしの悩みは置いておいて、コスチュームジュエリーは名称と共に流行りつつあった。
疲れたのかふーちゃんとまーちゃんは少し眠そうだったが、頑張ってコートを着てマフラーを巻いて外に出て来ていた。
「国王陛下、王妃殿下、本日は本当にありがとうございました」
「ユストゥス、今はそう呼ばせてもらおう。そなたは、私の学友にして親友。生涯このような交流を持ちたいものだと思っておる」
「ありがたきお言葉です」
「ディッペル公爵夫妻、次は王都でお会いしましょう」
「クリスタとエリザベートの演奏も楽しみにしておる」
国王陛下と王妃殿下を見送ると、続いてハインリヒ殿下とノルベルト殿下の馬車がやってくる。
「ハインリヒ殿下、本日はとても楽しかったです」
「クリスタ嬢、帰り際になってしまって申し訳ないのですが、これを受け取ってくれますか?」
ハインリヒ殿下がクリスタちゃんに渡したのはジュエリーの入っている箱だった。
「開けてもよろしいですか?」
「見てください」
「まぁ! 素敵な薔薇のコスチュームジュエリー!」
箱の中には淡く色付いた薔薇の花びらを散らし、中央には薔薇の飾りのついているネックレスと、薔薇のイヤリング、薔薇のブレスレットが置かれていた。
クリスタちゃんの目が輝く。
「本来ならばクリスタ嬢のお誕生日に差し上げるべきなのでしょうが、父上の生誕の式典でクリスタ嬢だけコスチュームジュエリーを身に着けていないとなると、私が嫌だったのです」
「お気遣いいただきとても嬉しいです。ありがとうございます」
このままではクリスタちゃんはわたくしやノエル殿下や王妃殿下がコスチュームジュエリーを着けている中で、一人だけコスチュームジュエリーを身に着けていないということになってしまいかねなかったが、それをハインリヒ殿下は気にして先にプレゼントしてくれた。クリスタちゃんは本当に嬉しかったのだろう、頬を薔薇色に染めて、ハインリヒ殿下の顔を見上げている。
「わたくしもコスチュームジュエリーを身に着けることができます。嬉しいです」
「そんなに喜んでいただけたなら、私も嬉しいです。エクムント殿に製作を急いでもらった甲斐がありました」
「大事に着けさせていただきます」
箱を抱いてクリスタちゃんは煌めく目でハインリヒ殿下を見上げていた。
ハインリヒ殿下とノルベルト殿下が馬車に乗って帰り出すと、次の馬車が来る。次の馬車はノエル殿下を送る馬車だ。
「ノエル殿下、本日は素敵な詩を披露してくださってありがとうございました」
「国王陛下の生誕の式典でも楽しみにしています」
両親も困惑しながらもそう言うしかない。ノエル殿下の詩は国王陛下も王妃殿下も認めた詩であるから理解できなくても、理解できているふりをするのが上流階級の嗜みになりそうだ。
国王陛下と王妃殿下はノエル殿下の詩を印刷して学園で配ろうとまでしていた。こうなるとノエル殿下は国に認められた詩人ということになってしまう。
ノエル殿下が認めるクリスタちゃんとふーちゃんの詩も高く評価されるだろう。
価値観とはこうやって作られるのだとわたくしは見せつけられた気分だった。
ノエル殿下の馬車が動き出すと、次はエクムント様の馬車がやってくる。辺境伯領まで帰るのでエクムント様は前日から泊って来ることも多かったが、今回は当日の参加だった。
「エリザベート嬢のおかげでコスチュームジュエリーが流行って、辺境伯領は忙しくなりそうです。嬉しい忙しさですがね」
「エクムント様のお役に立てたなら嬉しいです」
「エリザベート嬢が私の婚約者で本当によかったといつも思っています」
こんな甘いことを言ってくれるのに、エクムント様はわたくしに好意はあるけれど、それは恋愛感情ではなくて妹に対するようなものだという悲しみがある。
エクムント様と同等になれるにはまだまだわたくしには時間が必要だった。
エクムント様の馬車が行ってしまうと、リリエンタール侯爵家の馬車が門の前に付けられた。
リリエンタール侯爵とレーニちゃんが馬車に乗り込む前に、両親が声をかけている。
「鉄道事業の成功を祈っています」
「リリエンタール家が公爵家になる日も近いのではないでしょうか?」
「そうだといいのですが」
「本日はお招きいただきありがとうございました」
丁寧にお礼を言うレーニちゃんに、ふーちゃんが駆け寄る。
「レーニじょう、またきてください。おまちしています」
「フランツ様もリリエンタール侯爵領においでください。デニスとゲオルグも喜ぶと思いますわ」
「はい! ありがとうございます」
名残惜しそうにしているふーちゃんと握手をして、レーニちゃんは馬車に乗り込んでいった。
ふーちゃんはいつまでもレーニちゃんの馬車に大きく手を振っていた。
お客様たちが帰ると、ふーちゃんもまーちゃんも疲れた様子で子ども部屋のソファに座っていた。遊ぶ気力はないようなので、着替えたわたくしがそばに座って絵本を読む。
絵本を聞きながらうつらうつらと眠っていたふーちゃんとまーちゃんだったが、夕食の時間にはきっちりと起きて来た。
夕食を食べると、また眠そうにしているので、両親がヘルマンさんとレギーナに声をかける。
「今日はフランツとマリアは早く休ませてやってくれ」
「お休みなさい、フランツ、マリア」
「はい、おとうさま、おかあさま」
「おやすみなさい」
目を擦りながらふーちゃんとまーちゃんはヘルマンさんとレギーナに連れて行かれた。これからお風呂に入れられて、歯磨きをして寝かされるのだろう。もう相当疲れていたようなので、二人ともすぐに眠ってしまうに違いなかった。
わたくしとクリスタちゃんはお風呂の順番もあるので、少し食堂に残って、ソファに移動して紅茶とチョコレートを楽しんでいた。
両親は辺境伯領の葡萄酒とチョコレートを楽しんでいる。
「お父様、お母様、見てください。ハインリヒ殿下がわたくしが国王陛下の生誕の式典に出るのに合わせて誂えてくださったコスチュームジュエリーです」
クリスタちゃんはその話がしたかったのだろう、箱を持って来ていた。箱を開けて両親に見せると、両親はその美しさに目を奪われている。
「ガラスでできているのだね」
「とても美しいです。クリスタによく似合うことでしょう」
「わたくし、ハインリヒ殿下のお心遣いが嬉しかったのです。わたくしだけがコスチュームジュエリーがないというようなことが起きないようにしてくださったのです」
「ハインリヒ殿下は本当にクリスタのことを考えてくださっている」
「クリスタは幸せですね」
しみじみと言われてクリスタちゃんの胸にも幸福感が広がってきたようだ。胸を押さえてうっとりとしている。
それにしても、最近気付いたことがある。
クリスタちゃんとわたくしの胸の大きさが変わらないような気がするのだ。レーニちゃんはお誕生日のときにドレスを借りられたことから、わたくしとサイズがほとんど変わらないことも分かっている。
わたくしはもしかして胸が小さいのではないだろうか。
母を見て見ると胸が大きい方ではない。
クリスタちゃんのお母様のマリア叔母様はどうだったのだろう。気になってしまうのはどうしようもない。
自分の胸とクリスタちゃんの胸と母の胸を見比べているわたくしに、母が不思議そうに首を傾げている。
「わたくしもコスチュームジュエリーを注文した方がいいと思いますか、エリザベート?」
「お母様にも似合うコスチュームジュエリーがあると思いますわ」
「どうしましょう。お父様、よろしいですか?」
「テレーゼもコスチュームジュエリーを身に着けるのがいいと思うよ。エクムント殿に注文しよう」
胸を見ていたのが母にはコスチュームジュエリーのことを考えているように見えたようだ。
わたくしの悩みは置いておいて、コスチュームジュエリーは名称と共に流行りつつあった。
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