エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

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九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学

47.リリエンタール侯爵家の陞爵

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 国王陛下の生誕の式典は朝食後から一日がかりで行われる。
 昼食会から参加する貴族もいるのだが、ディッペル家はこの国唯一の公爵家であったし、クリスタちゃんが皇太子殿下であるハインリヒ殿下の婚約者なので、主催側としても参加しなければいけなかった。
 父は国王陛下の学生時代からの学友で親友なので、特に国王陛下は頼りにしているようだ。王妃殿下も両親が国王陛下と親しいので、両親に親しみを持ってくれている様子である。

 エクムント様も朝食後から参加する貴族の一人だった。
 他にはわたくしが親しい貴族では、リリエンタール侯爵が朝から参加していた。

「リリエンタール侯爵は、遂に隣国へと繋がる鉄道事業を成し遂げたそうですよ」
「本日はその報告をなさるとか」
「リリエンタール侯爵家が公爵家に陞爵されるのでしょうか」

 その他にもリリエンタール侯爵家が新型の列車の開発に成功したという話も流れて来てリリエンタール侯爵家が公爵家に陞爵するという噂も信憑性を帯びて来た気がする。

 バルコニーに国王陛下とハインリヒ殿下とノルベルト殿下と王妃殿下が出て、手を振っている間、わたくしたち貴族はバルコニーのある部屋で待機していた。
 民衆に手を振り終わると国王陛下とハインリヒ殿下とノルベルト殿下と王妃殿下が部屋に戻ってリリエンタール侯爵を呼ぶ。

「リリエンタール侯爵、前に」
「はい、国王陛下」

 呼ばれてシンプルにも見えるモダン風のドレスにコスチュームジュエリーを身に着けたリリエンタール侯爵が前に出た。

「リリエンタール侯爵家は長くこの国の鉄道事業に携わってくれていた。この度は報告があると聞いている」
「オルヒデー帝国の鉄道を隣国の鉄道と繋げる事業、完成いたしました。それに伴い、新型の列車の開発も行っておりましたが、新型の列車も無事試運転に成功し、来年春から走らせる準備が整っております」

 リリエンタール侯爵の声が響くと、国王陛下がリリエンタール侯爵の前に出る。リリエンタール侯爵は膝を突いて深く頭を下げている。

「隣国の鉄道と我が国の鉄道を繋げる事業の成功、よく成し遂げた。新型の列車の開発でこの国の輸送経路はますます潤滑になることであろう」
「ありがとうございます、国王陛下」
「我が国には皆も知っての通り、バーデン家が降格になってから、公爵家が一つしか存在しない。王家を支えるには一つの公爵家ではバランスがよくないと常に感じておった」

 参列しているこの国の主な貴族たちを前に国王陛下が宣言する。

「この度の功績を以て、リリエンタール家を公爵家に陞爵しようと思う。意義のあるものはいないな?」

 問いかけに声を上げるものは当然いない。
 それだけこの国と隣国との鉄道を繋げる事業の大きさを知っているし、新型の列車の開発の功績も大きいと誰もが思っていた。

「リリエンタール家は今日より、公爵家となる。バーデン家が手放した土地の一部をリリエンタール家に譲ろう。そこは鉄鉱石の採掘所がある土地だ」

 製鉄業を生業としているリリエンタール家にとっては、その土地をもらうのは事業にも非常に助かるだろう。

「我がリリエンタール家、今まで以上にオルヒデー帝国のために努力いたします」

 深く頭を下げたままのリリエンタール公爵が誇らしげにしているのは間違いない。
 リリエンタール家は公爵家になったのだ。

「二つ目の公爵家としてこの国を支えて行って欲しい」
「はい、努力いたします」

 わたくしはリリエンタール家が目の前で公爵家に陞爵するのを見られて本当によかったと感じていた。

 昼食会までの間に、少し時間があったので部屋に戻って身だしなみを整えていると、クリスタちゃんが髪を編み直しながら嬉しそうに呟く。

「レーニちゃんとふーちゃんの婚約も、これであり得ない話ではなくなりましたね」
「むしろ、公爵家同士が強く結ばれる大事な事業になるはずです」
「ふーちゃんに早くこのことを知らせたいですわ」

 二人きりの部屋でクリスタちゃんと身だしなみを整えて、昼食会の会場に行く。
 クリスタちゃんは王家のテーブルに着いて、わたくしはエクムント様の隣りに座った。

 エクムント様がわたくしの方を見てから席から立ち上がるので、わたくしも合わせて立ち上がる。

「国王陛下の三十四回目の生誕の式典を祝い、辺境伯である私、エクムント・ヒンケルよりお祝いの言葉を述べさせていただきます。国王陛下は学園を卒業されてからすぐに王位に就かれ、今年で十六年目となられます。国王陛下の健康が今後も保たれますよう祈りを込めて、乾杯の音頭とさせていただきます。乾杯!」

 エクムント様に合わせてわたくしもグラスを持ち上げる。わたくしのグラスに入っているのは葡萄ジュースでエクムント様のグラスに入っているのは葡萄酒で、全然違うのだが色は似ているしグラスが同じなので雰囲気は同じだった。
 グラスを持ち上げてエクムント様のグラスと打ち合わせるようにすると、他の貴族たちも一斉にグラスを持ち上げる。

「エクムント、ありがとう。ハインリヒが成人するまではしっかりと王位を守りたいと思う」
「国王陛下、そんなことを仰らないで、ユリアーナの成人まで頑張ってくださいませ」
「そうだな。ユリアーナの成人までは王位を守るか」

 王妃殿下と和やかに話している国王陛下に一礼して、わたくしとエクムント様は席に着いた。
 大したことはしていないはずなのに、胸がドキドキして、座ったときには手が震えていた。

「エリザベート嬢が隣りにいてくれたので、心強かったです」
「エクムント様のご挨拶は立派でしたわ」

 二人で話しながら食べる昼食も楽しい。
 食べている途中で挨拶に行く順番が来てしまって、わたくしは両親と挨拶に行くのかと思ったが、両親は立ち上がるときにわたくしに声をかけて行った。

「エクムント殿と一緒に挨拶に行ってきなさい」
「エクムント殿、エリザベートをよろしくお願いします」

 わたくしはディッペル家の娘ではなく、辺境伯家の婚約者として今日の式典に出席しているようだった。
 ディッペル家の挨拶が終わると、辺境伯家の挨拶の番になる。
 エクムント様と一緒に立ち上がって、王家のテーブルに移動する。

「エクムント、先ほどはありがとう」
「いいえ、国王陛下から乾杯の音頭を任されて光栄でした」
「辺境伯領はオルヒデー帝国にとってなくてはならない土地になっている。これからも辺境伯領をしっかりと治めて欲しい」
「心得ております」

 エクムント様と国王陛下の話を聞いているだけかと思ったら、王妃殿下がわたくしに話しかけて来る。

「エリザベート嬢が名付けたコスチュームジュエリー、本当に素晴らしいものです。わたくし、正直貴金属のジュエリーは重苦しくて、手入れも大変で困っていたのです。ガラスのジュエリーは軽くて、身に着けやすくて、手入れも簡単でとても気に入っております」
「王妃殿下、とてもお似合いです」
「ありがとうございます。国王陛下にお願いして誂えてもらって本当によかったです」

 王妃殿下の首には縞のあるブルーのカットガラスのネックレスが着けられていて、イヤリングも同じ縞のあるブルーのカットガラス、ブレスレットも同じ縞のあるブルーのカットガラスだった。

「このガラスはタイガーブルーと言って、辺境伯領でしか製造されていないものだそうです。わたくしの目の色に合わせて国王陛下が選んでくださいました」
「王妃殿下に満足していただけるものが辺境伯領で製造できてよかったです」

 わたくしは辺境伯家の婚約者なのだから辺境伯家側の返事をしなければいけない。
 こうして辺境伯家の婚約者として式典に出ていると、わたくしはエクムント様と結婚した後のことを夢想しそうになってしまう。
 今は夢心地でいたい。

 これから、ピアノと歌を披露するお茶会が始まるのだということは、緊張してしまうので、今は考えたくなかった。
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