エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

文字の大きさ
330 / 528
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約

37.ディッペル家の血

しおりを挟む
 オリヴァー殿が会場に入ってくると、ユリアーナ殿下とまーちゃんが挨拶をしていた。

「オリヴァーどの、わたくしのおたんじょうびにいらしてくださってありがとうございます」
「お招きいただきありがとうございます」
「へんきょうはくりょうではたいへんだったとききました。マリアじょうとのこんやくで、それもおさまるといいのですが」
「マリア様のおかげでシュタール家も落ち着いております。マリア様は妹と年も変わらないのにしっかりしていて、感心してしまいます」

 話題に上げてもらってまーちゃんが誇らしげに胸を張る。

「わたくしには見習うべきお姉様たちがいます。お姉様たちのように立派な淑女になりたいと努力していたら、こうなりました。今日のドレスもエリザベートお姉様が小さな頃に着ていたものです。お姉様たちのように幸福になりたくてお譲りを着ております」
「とてもよくお似合いです。マリア様のために誂えたようですよ」
「エリザベートお姉様の小さい頃にわたくしは似ていると両親に言われました」
「そうなのですね。エリザベート様もマリア様のような小さな頃があったのですね」

 自然とオリヴァー殿がまーちゃんに手を差し伸べる。喜んでまーちゃんはその手に自分の小さな手を重ねていた。

「わたくしが物心ついたときにはエリザベートお姉様は婚約していて、クリスタお姉様もわたくしが小さな頃に婚約していて、お兄様まで初夏に婚約しました。わたくしだけが取り残されたようで寂しかったのです。わたくし、オリヴァー殿と婚約できることになって幸せです」

 うっとりとしているまーちゃんにわたくしは可愛い妹が幸せそうで、わたくしまで胸がいっぱいになってしまう。
 好きで幼く生まれたのではない。オリヴァー殿と同じ年に生まれたかったと泣いたまーちゃんの涙は、わたくしの胸に深く刺さっていた。
 わたくしもまーちゃんと同じことを思っていたのだ。

 エクムント様と好きで年が離れているわけではない。生まれたときにはエクムント様はずっと年上だったのだ。
 自分で決められないことで恋心を壊されてしまうのは、わたくしもつらい経験をしていた。

「エリザベート嬢、今日も爪を塗っていらっしゃるのですね。とても美しいです」
「エクムント様、御機嫌よう。いらしていたのですね」
「辺境伯領から来たので、少し遅れましたが、今到着しました。ユリアーナ殿下がオリヴァー殿とマリア嬢と話しているので、ご挨拶に伺う機会を待っているところです」
「一緒に参りますか?」
「それではご一緒しましょう」

 エクムント様の手に手を重ねて、わたくしはユリアーナ殿下の前に出る。
 まーちゃんとオリヴァー殿と話していたユリアーナ殿下は、すぐにエクムント様の存在に気付いた。エクムント様は背がとても高いので、貴族たちの中でも目立つのだ。

「エクムントどの、わたくしのおたんじょうびにきてくださってありがとうございます」
「お誕生日おめでとうございます、ユリアーナ殿下。ユリアーナ殿下にプレゼントをさせてください」
「わたくしにプレゼントがあるのですか!?」

 差し出された箱を開けてユリアーナ殿下は目を輝かせている。
 箱の中には美しいビーズで作られたブレスレットが入っていた。

「これはコスチュームジュエリーですね! へんきょうはくりょうでつくられて、エリザベートじょうがなまえをつけたといううわさの。わたくし、まだちいさいのでジュエリーはもっておりませんの。とてもきれいでうれしいです」

 箱の中からブレスレットを取り出して、ユリアーナ殿下が自分でつけようとしているが、なかなか金具が留まらない。膝を屈めて、わたくしはユリアーナ殿下に手を差し出した。

「失礼して、わたくしが留めさせていただきますね」
「ありがとうございます、エリザベートじょう」

 金具を留めるとユリアーナ殿下の左手首に美しい青色のビーズのブレスレットが輝く。
 ブレスレットを身に着けたユリアーナ殿下は、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下にブレスレットを見せに行っていた。

「ハインリヒおにいさま、ノルベルトおにいさま、みてください。エクムントどのがおたんじょうびプレゼントにくださったのです」
「今日の青いドレスによく似合っているね」
「ユリアーナの目の色と同じだね」
「わたくし、はじめてジュエリーをもらいました! おとうさまとおかあさまにも、みせてきます」

 大喜びで国王陛下と王妃殿下のところに小走りで駆けていくユリアーナ殿下は年相応でとても可愛かった。
 そんなユリアーナ殿下の様子をじっと見つめているまーちゃんの姿がある。エクムント様が声をかける前に、オリヴァー殿がまーちゃんに声をかけた。

「マリア様もコスチュームジュエリーに興味がおありですか?」
「わたくし、まだジュエリーを持つには早いと思っておりました」
「マリア様にはネックレスや指輪は早いかもしれませんが、ユリアーナ殿下のようにブレスレットならばいいのではないですか?」
「わたくし、ブレスレットを欲しいと言っていいのでしょうか?」
「私でよければ、婚約者として贈らせてください」
「いいのですか!?」

 オリヴァー殿が声をかけていなければ、よく気が付いてくれるエクムント様がまーちゃんにブレスレットを贈ってくださっていただろう。先にオリヴァー殿が気付いてくださってよかったとわたくしは思っていた。
 まーちゃんもコスチュームジュエリーの生産地である辺境伯領の領主とはいえ、姉の婚約者からもらうのと、婚約する予定のオリヴァー殿からもらうのとは全く意味が違っただろう。

 嬉しくてスキップしそうになっているまーちゃんに、オリヴァー殿がサンドイッチとスコーンとケーキを取り分けてくださっている。普段ならばまーちゃんはテーブルに届かないので、乳母のヘルマンさんかレギーナが取り分けてテーブルまで運んでくれるのだが、今日はオリヴァー殿にしてもらってものすごくご満悦の顔をしている。

 椅子に座ってお茶をするまーちゃんとオリヴァー殿にユリアーナ殿下が話しかけている。

「わたくしもおちゃをごいっしょしてもいいですか?」
「喜んで、ユリアーナ殿下」
「ご一緒致しましょう」

 ユリアーナ殿下はノルベルト殿下にサンドイッチとスコーンとケーキを取り分けてもらって、ハインリヒ殿下にミルクポッドを取ってもらって紅茶に牛乳をたっぷりと入れている。

「わたくしも、こんやくするひがくるのでしょうか」
「ユリアーナ殿下にも素敵な方が現れると思います」
「わたくしのこんやくしゃは、おとうさまとおかあさまがきめるのだとおもいます」
「ノエル殿下は父上と王妃殿下が決めた婚約者ですが、僕にとってはかけがえのない方になりました。ユリアーナもそんな方に巡り合えると思います」
「ノルベルトおにいさま……。そうだったらいいですわ」

 同じ年のまーちゃんが婚約するということでユリアーナ殿下も自分の婚約について考えているようだ。ノルベルト殿下が明るく励ましているが、ユリアーナ殿下が婚約ということに実感がわかなくても、まだ五歳になったばかりなので仕方がない。

 ふーちゃんやまーちゃんのように、幼い時期から婚約を意識している方が稀なのだ。

 そういえばわたくしもエクムント様と婚約したくて必死だった日々を思い出して、血は争えないものだと思っていた。

 クリスタちゃんは今はディッペル家の娘になっているが、実のところは養子でわたくしの従妹である。
 それを考えると、ディッペル家の実子のわたくしとふーちゃんとまーちゃんは、揃って幼いときに恋をして、その恋を叶えようとしているのだと考えると、ディッペル家の血はものすごいと思わずにはいられない。

 わたくしが八歳、ふーちゃんが六歳、そして、まーちゃんは五歳で婚約する。
 まーちゃんの幸せをわたくしは願っていた。
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

処理中です...