エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

文字の大きさ
366 / 528
十一章 ネイルアートとフィンガーブレスレット

20.言われたい言葉

しおりを挟む
 レーニちゃんとわたくしとクリスタちゃんは同室だった。
 同じ部屋で顔を見合わせてわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんは身を寄せ合う。昼食が終わって部屋で一息ついているときだった。

「エリザベートお姉様は、最近のお茶会には髪を上げて来られますね」
「そうなのです。わたくしも十五歳になったので、髪を上げるようにしようと思ったのです」
「とてもお似合いですわ。あの結い方はどうやっているのですか?」
「三つ編みにしてから後頭部で巻いてピンで留めているような感じですわ」

 実際にレーニちゃんのさらさらのストロベリーブロンドの髪を結い上げて見せると、鏡を見てレーニちゃんが喜んでいる。

「この髪型、気に入りました。わたくしもしてもいいですか?」
「いいですよ」
「クリスタちゃんも一緒にしてお揃いにしましょう」
「お姉様とレーニちゃんとお揃い! 嬉しいですわ」

 お互いに髪を編み合って、わたくしたちはお茶会に出た。お茶会にはオリヴァー殿も招かれていた。
 正式なお茶会ではないので、わたくしもクリスタちゃんもレーニちゃんもまーちゃんも母もサマードレスで、ふーちゃんと父とデニスくんとゲオルグくんとお父様はシャツとスラックス姿だった。
 エクムント様もシャツとスラックス姿で、オリヴァー殿もシャツとスラックス姿でリラックスしている。

 オリヴァー殿はまーちゃんと同じくらいの女の子を連れていた。褐色の肌に黒い髪濃い緑色の目の女の子だ。

「本日はお招きいただきありがとうございます。こちらは妹のナターリエです」
「初めまして、ナターリエ・シュタールです」

 まーちゃんと同じ年くらいだが、まーちゃんと同じくしっかりとした話し方をしている。それだけ教育が行き届いているのだろう。

「ナターリエ嬢初めまして。わたくしは、オリヴァー殿の婚約者のマリアと申します」
「マリア様、シュタール家のために兄と婚約してくださったこと、兄から聞いております。本当にありがとうございます」
「シュタール家はわたくしの姉のエリザベートが嫁ぐ辺境伯家の支えとなる大事な家。放ってはおけなかったのです」

 小さなまーちゃんとナターリエ嬢が話し合っているのを見るのも心が和む。まーちゃんはナターリエ嬢とも仲良くなりたい様子だった。

「ナターリエ嬢はいつ頃のお生まれですか?」
「わたくしは夏の生まれで、先日六つになったばかりです」
「それでしたら、わたくしの方が生まれは早いですわね。わたくしとナターリエ嬢、学園に入学するころには学友になれるかもしれません」
「それはとても光栄なことです」

 まーちゃんが学園に入学するまでにはまだ六年の年月が必要だが、まーちゃんとナターリエ嬢が学友になって、ユリアーナ殿下も一緒に過ごしているところを考えると、わたくしは胸がいっぱいになる。

「エリザベート様、兄がお世話になっております」
「ナターリエ嬢、そんなに緊張しないで寛いでくださいませ」
「エリザベート様もマリア様も、紫色の光沢の黒髪に銀色の光沢の黒い目。肖像画で見たことのある初代国王陛下と同じです。こんな方が辺境伯領に嫁いできてくださるのですね」

 濃い緑色の目を輝かせているナターリエ嬢に、わたくしは面はゆいような、照れるような気分になってしまう。
 髪の色も目の色も生まれたときからのもので、偶然そうなっただけでわたくしの手柄でもなんでもない。それでも、初代国王陛下と同じ色彩ということで中央の象徴のようなわたくしが辺境伯領に嫁いでくることは辺境伯領の貴族からすればものすごいことなのだろう。

「それに、エリザベート様は壊血病の予防法を思い付いたと聞いています。コスチュームジュエリーの名前を考えたのもエリザベート様。最近ではネイルアートやフィンガーブレスレットを辺境伯領にもたらして、女性の社会進出を助けていると聞いています」
「それもわたくしが最初に思い付いただけで、実行されたのはエクムント様です」
「謙遜なさっているのですね。わたくし、エリザベート様を尊敬しているのです」

 六歳の純粋な目で見つめられると何となく身の置き場がなくなってしまう気がする。
 壊血病の予防法も、コスチュームジュエリーの名前も、ネイルアートの知識も、フィンガーブレスレットのデザインも、全て前世の知識があってのことだった。それを口に出せないのでわたくしは自分の手柄のように言われてしまうのが申し訳なくなってしまう。

「エリザベート嬢は辺境伯領になくてはならない存在になっているのですよ」

 エクムント様に肩を抱かれてわたくしは耳まで熱くなってしまう。ダンスのときにエクムント様に腰を抱かれ、エクムント様の肩に手を置くことはあるのだが、それとは違って今はダンスをしているわけではない。
 エクムント様の声が耳を擽るように聞こえてくる。

「エリザベート嬢という稀有な人材を辺境伯領が手に入れることができて本当に幸運だと思っています。私はエリザベート嬢と結婚できて本当に幸せ者ですね」
「本当に、そう思ってくださいますか?」
「勿論ですよ」

 わたくしと結婚できるのは幸せだといってくださるエクムント様にわたくしは思わず聞き返してしまった。エクムント様がわたくしに恋愛感情を向けてくださっているのかが気になってしまうのだ。

「エクムント様は、わたくしのこと、どう思っていますか?」
「素晴らしい方だと思っています」
「そういう意味じゃなくて……その、す、す、す……」

 駄目だ。
 ストレートに「好きですか?」なんて聞けるはずがない。耳まで真っ赤になっているわたくしにクリスタちゃんが気付いてエクムント様に問いかけた。

「エクムント様はお姉様のことを愛しているのですか?」

 ストレートすぎる!
 その返事が「はい」だったら、わたくしはエクムント様の腕から駆け出して恥ずかしくて逃げてしまいそうな気がする。

「その答えはエリザベート嬢がもう少し大人になってから、エリザベート嬢と二人きりのときにお答えします」
「そうやって答えを有耶無耶になさるのですね。ハインリヒ殿下もわたくしに、『愛している』とは言ってくださらないし」
「『愛している』と真摯に告げるのには勇気がいるのですよ。クリスタ嬢、どうかハインリヒ殿下が言えるようになるまで待って差し上げてください」

 クリスタちゃんもハインリヒ殿下に『愛している』と言われたい様子だった。
 ハインリヒ殿下も十六歳になったばかりなので、真摯に愛を囁くなどまだ難しいのかもしれない。
 そして、わたくしはまだ十五歳だからエクムント様に愛を囁かれるのは難しいのかもしれない。
 一言「好き」と言って欲しいだけなのに、もっと大袈裟なことになってしまってわたくしは「好き」の言葉はもらえないのだとがっかりしてしまった。

 二人きりになって、もう少し大人にならないとエクムント様はわたくしの欲しい言葉を下さらない。エクムント様に愛されたい、好きと言われたい気持ちは、わたくしだけが強くなっているのだろうか。

「わたくしはエクムント様が好きなのに……」

 小さく呟いた言葉がエクムント様に聞こえなかったはずはない。しかしエクムント様は小さく微笑んでそれに答えては下さらなかった。
 十五歳という年齢が恨めしい。
 社交界デビューで来たときには、十五歳という年齢がとても大人に感じられたのに、エクムント様の隣りではまだまだ子どもだと思い知らされる。

「オリヴァー殿はわたくしが好きですか?」
「とても可愛いと思っていますよ」
「好きですか?」
「大事に思っています」

 とてもストレートに聞いているまーちゃんに、オリヴァー殿も返事を有耶無耶にしている。十歳の年の差があるとそうなるのかもしれない。
 まして、わたくしとエクムント様の年の差は十一歳だ。
 いつかエクムント様はわたくしに言ってくださるだろうか。

――愛しています
――エリザベート嬢が好きです

 それがいつになるのか、わたくしは待つことしかできなかった。
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

処理中です...